COMITIA102 ごあいさつ

コミティアは「マンガの自由な実験場」でありたい

最近、新しいコミティアのイメージについてぼんやりと考えています。
100回を越えて、これまでのフォーマットから、古くなっている部分、はみ出してきている部分が気になるようになりました。変わらない部分、変えてはいけない部分も勿論あります。けれど新しい参加者が増えて、「これまで通りに」では通じないケースも多くなりました。何かをガラッと変えることはないけれど、マイナーチェンジを繰り返して、少しづつ進化してゆく。コミティアの28年間の過程もまたそうした繰り返しの歴史だったように思います。
それにしても、そんなことを考えれば考える程、コミックマーケットが生みだした「同人誌展示即売会の基本フレーム」はシンプルにして強固に出来ているなあとつくづく感心します。会議机とパイプイスを並べただけの、これ以上無いほど簡素な会場作りは、どこの誰でも真似が出来ます。だからこそ全国的に普及したとも言えるでしょう。
シンプルイズベストのそのブースを盛り上げるのは、そこに出展する参加者自身。作品を並べ、机上をディスプレイし、サイトなどで告知して一般参加者を呼び込む広報役も果たします。一般参加者は、期待に胸を膨らませて会場に集い、本を買い、時には感想を伝えて、描き手のモチベーションを支える。イベントスタッフはそのための場をセッティングし、スムーズな運営を心がける仲介役です。
そうした意味ではその3者が融合し、「共犯者的信頼関係」を結んでいないとイベントが上手く成立するのは難しいでしょう。かつての戦国武将の言葉に「人は石垣、人は城」とありますが、実は同人誌即売会とはそこに集う人の集合体そのものだと思うのです。
さて、幸いにしてコミティアはそうした関係性を保ったまま、そこそこ大きなイベントに育ちました。一方で昨今の商業出版のマンガの落ち込みもあってか、コミティアに集まる「目に見えるマンガファン」が注目されるようになりました。
確かにイベントを一から起こすより、コミティアの参加者を基礎数に、そこで新しい企画をぶつけてより大きなアピール効果を狙うのはよりBetterなアイデアと言えるでしょう。
今回のアトリウムで行われる「海外マンガフェスタ」は、ティアズマガジンP56のインタビューにあるように、バンド・デシネを紹介する雑誌『ユーロマンガ』の発行者で、フランス大使館員でもあるF・トゥルモンド氏から「ぜひコミティアで開催したい」と提案されたものです。一方コミティアにとっては、マンガ界を代表する大友克洋、浦沢直樹の両氏と海外から来日するゲスト作家とのトークライブなど、彼らの人脈がなければ為しえないことでした。こうしたお互いに意義のある企画をこれからは増やしてゆきたいと思います。
次回2月は、講談社の『ITAN』『モーニングTWO』2誌合同で、公開新人賞審査会が行われます(ティアズマガジンP266参照)。当日までに持込まれた応募作の審査会をコミティア会場内で公開で行うというこの企画。勢いに乗る2誌ならではの大胆なアイデアですし、描き手にも読者にも興味深い内容になりそうです。プロ志望者向けの企画になりますが、注目してもらいたいと思います。
そして、来年の5月は今年と同様にビッグサイト3ホール開催。これに合わせて大きな企画も準備中です。まだ詳細が未定で公開できませんが、どうぞご期待ください。
「同人誌展示即売会」という軸足は変えず、創作者の刺激になるような新しいコラボレーションは積極的に取り入れてゆく。コミティアは「マンガの自由な実験場」として、そんな先取りの気風や冒険心を忘れずにいたいのです。冒頭の「新しいコミティアのイメージ」とはその先にあるのだろうと思います。

最近とても印象的だったのが、棋聖・羽生善治氏の「私は才能は一瞬のきらめきだと思っていた。しかし今は、10年とか20年、30年を同じ姿勢で、同じ情熱を傾けられることが才能だと思っている」という言葉でした。
コミティアをこれまでやってきて、多くの描き手が大体3年くらいで自分の中のものを出し尽くして、止めてゆくのを見てきました。勿論、同人誌ですからそれでよいのです。けれど25年くらい前、「コミティアはずっとやります」と宣言したのは、若い描き手たちが今は拙くとも、描き続けることでいつか大きく成長するのを夢見たからです。「そこまで付き合うぞ」という決意表明ではありましたが、それはけして後の姿を予想した訳ではなく、「そうあって欲しい」という願いのようなものでした。
そうして今日、コミティアで発表される10年、20年描き続けた作家たちの作品を見て、羽生氏の言葉はより深く心に響きます。年を経たからこそ描ける物語やドラマがある。それを実感させる作品がたくさん生まれました。同時にそんな彼らと伴走できたから、コミティアもまたここまで成長してこれたのだと思います。そして、これから先にどんな世界や作品が待っているのかが、楽しみでなりません。

最後になりましたが、本日は直接3310のサークル・個人の方が参加しています。あなたにとって長く付き合える作家・作品との出会いがありますように、心より祈っています。

2012年11月18日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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