サークルインタビュー FrontView

チョモラン 夢のチョモラン王国

『病は何処にも在りはしない』
B5/52P/500円/青年
生年月日…1988年6月11日
職業…絵描き!
趣味…電源非電源ゲー!
コミティア歴…91から
http://huusenuri.tumblr.com/
 “ワンダー”の予感漂うイラストだ。研究室らしき部屋で、ガラス瓶を手に微笑む白衣の女性。その中には一体、何が入っているのか? 題名の意味は? 『病は何処にも在りはしない』の表紙には、読者の興味を惹き付ける作画の”妙“が凝縮されている。
作者のチョモラン氏は、テーブルトークRPGなどの非電源ゲームの世界に憧れ、中学生の頃はイラストレーターを志望していたという。しかし、高校卒業後、同人ゲーム『東方Project』の奥深い世界観に触発され、本を創るべく漫画への挑戦を決意、同人活動を開始する。二次創作での活動と並行して、狩人の通過儀礼を描いたファンタジー『山とヨーフ』を初参加のコミティア91で発表。「作中の概念や世界観の魅力、出来事の面白さを伝えるという点では、自分にとって、オリジナルも二次創作も本質はほぼ変わらないです」と語る。魔法と科学が共存する世界観や、ファンタジー世界の物理的原理や職業事情といったテーマ、そして意外性を秘めたストーリー。これらは、「夢のチョモラン王国」作品群の魅力と言えるだろう。
最新作『病は何処にも在りはしない』は、近代の米国風世界を舞台に描かれたサスペンスドラマだ。とある街の工場で、奇妙な集団死亡事件が発生する。市警と銀行が共同管轄する「研究室」の住人こと「先生」は、捜査を担当する「刑事」と「金貸し」に、謎の生命体「外側の産物」が事件の原因であり、過去の「疫病」と呼ばれる人為的事件との関連性を指摘。果たして、犯人の狙いとは──。
「未知の存在が出てくる話は、驚きの瞬間があって楽しいです!!」と語るチョモラン氏。事件の象徴である「外側の産物」のグロテスクさや、「先生」らが科学的に、事件の意外な真相に迫る物語の面白さが光る作品だ。
また、既発表作『魔法使いは火を吹かぬ』『その日、オーロッホは死んだ』にも見られる、題名へのこだわりも興味深い。「タイトルは、語呂が良くて声に出した時に気分が高揚したり、読後に最初に思ったイメージと違うニュアンスを植え付けるものにしたいと思っています」。『病は何処にも在りはしない』を読めば、その題名と表紙の”仕掛け“にきっとニヤリとしていただけるだろう。
今月発売の『月刊アフタヌーン10月号』(講談社)で、プロ漫画家としてデビューするチョモラン氏。「漫画の制作はたいへんです」と笑うが、充実感もあるそうだ。「最近ようやく、描きたいと思うものに腕が追い付いてきた気がします。形にしたい話は沢山あるのに、時間が足りないのが今の悩みです」

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン109に収録

ノブヨシ侍 コーポ侍203

『とりきっさ にねんめ2』
B5/24P/400円/ギャグ
生年月日…1981年11月9日
職業…4コマ漫画家
趣味…喫茶店巡り
コミティア歴…3年
http://www17.plala.or.jp/catworld/
「近所の手羽先屋さんのチラシ描いたんですよ。お店の人に『兄ちゃん何やってる人なの?』『マンガ家です!』って流れで頼まれて…」そんな話を嬉しそうに語るノブヨシ侍さんは、デビューして9年目のマンガ家だ。しかし大学生になるまでマンガもイラストも描いたことがなく、コミュニケーションが苦手だったというから驚く。
出身は新潟の佐渡島。豊かな自然に囲まれて育ち、大学入学を機に上京。東京に来たばかりで暇な時間があった彼は、急にマンガを描くことを思い立った。「今となっては考えが浅いと分かるんですけど、卒業までの4年間描き続けたら、プロになれるかも」と、昔から好きだったゲーム4コマに投稿を始める。続けること半年で編集者から連絡が来て喜んだのも束の間、話は「A4用紙じゃなくてB4原稿用紙に、1本じゃなくて2本ずつ描くといいよ」というアドバイスだった…。結局なんの成果も出ないまま、気がつけば卒業。成果もないままやめたくない…、必死に両親を説得して2年間の猶予を貰い、プロのアシスタントにも修業で入る。それでも思うようにいかずに焦る中、ブレイクスルーはふいに訪れた。「アシスタント先での出来事を4頭身くらいの絵で4コマにして描いてみたら、凄いウケたんです」。それまで等身の高い絵を描いていた彼は、その画風に光明を見いだす。そして1年9ヶ月目、小さな仕事ではあったが期限ギリギリでデビューを果たした。
コミティアで本格的に活動しているのはこの2年。代表作は、可愛いトリビトの姉妹が営む喫茶店を舞台にしたハートフルギャグ「とりきっさ」シリーズだ。元は商業web4コマとして数本描いたものだったが、話を描き足りずに同人誌で出したところ、それまでになく好評で続きを描くことを決めた。彼にとって読者の反応はかけがえのないものだ。「感想を貰えない時期が長かったので貰えると凄い喜んじゃいます。感想を貰えるのって作家には栄養だなって」。マンガを描き始めるまでは引っ込み思案だったが、自分のマンガで笑ってくれる人の存在が嬉しくて、気がつけば「もっと読んで!」と社交的になっていたという。
今春開催された『COMICリュウ』の新人賞「登龍門」では「とりきっさ」が見事1位を獲得。長らくの目標であった「プロとしてオリジナル作品で連載を持つ」夢を見事叶えた。次なる目標は愛する地元に貢献すること。「マンガで人と人を繋げるようなことがしたいんです。地元のパンフレットとか、宣伝マンガとか描きたいですね」

TEXT / MAYO NAGAMINE ティアズマガジン109に収録

ひるのつき子 よあけのピアノ

『わたしのなかの小さな翼』
B5/36P/400円/百合
生年月日…4月11日
趣味…ピアノ演奏
コミティア歴…コミティア92から
http://aoionpu.kirara.st/rubato/
 意志を持つ違法ロボット・ロビィと彼女のマスター・ロイをめぐる『電気猫は夢を見ない』は、リリカルな絵柄だが、読み込んでいく毎に”人間の存在・定義“等について深く考えさせられる、心に響く作品。元々アンドロイド、ロボット、遺伝子操作等のSF的要素が好きで、その後映画「ブレードランナー」「ガタカ」「攻殻機動隊」等の影響を受けこのシリーズを発表。ここで描かれる人間の在り様、ロボットと人間の違いはひるのさんにとって永遠のテーマだという。
最近は百合にも注力。「百合を描く時は美しいものを出したい。それもただきれいではなくて、残酷さの中にある美しさというか、毒があるものが好き」という。現在刊行中の『寄宿舎シリーズ』は孤児の為の寄宿舎が舞台で、ある種閉じた環境故の同性への過剰な想いと外の世界との係わりが相まって、少女達の想いが揺らいでいく過程を精緻に描いている。今回のコミティアで完結巻が発行予定との事で、無邪気で儚くて痛々しい物語がどういう結末を迎えるのか楽しみだ。
元々作家志望で、小学校時代から継続して小説を書いていた。内容は漫画の美しくも切ない、造られた世界とは真逆で、自分の内面をえぐり出す様なドロドロしたものだという。今は漫画で忙しいので中断しているが、いつか彼女の小説が発行される時には、また新たな発見があるだろう。
様々なジャンルで作品を発表しているひるのさんだが、HPのアドレスに音楽用語“rubato”(イタリア語:自由なテンポで演奏するの意)が入っているのが鍵だ。「描きたいものはいっぱいあるので、自由に創作活動をしよう」との決意表明なのだなあと実感する。サークル名でもある趣味のピアノは、3歳から現在に至るまで継続中で「ピアノを弾くのは本当に好きです。鍵盤を叩く時は無心になれるし、自分の為に弾く時の充実感がいいです。今でも新しい楽譜が出ると買いますね」。理知的でかつ情感のある物語を紡ぎ出す、彼女の豊かな感性の原点を垣間見た気がした。
また、同人以外にも商業誌での活動も積極的だ。現在『ねこぱんち』に不定期掲載の他、様々な雑誌に持込中。ただ、今後プロとして本格的に活動する事になっても、同人誌が好きなので、コミティアには継続参加していきたいとの事。ひるのさんが奏でる多彩な旋律の世界は、これからも広がっていくに違いない。

TEXT / KIMIO ABE ティアズマガジン109に収録

のばら 鬱鬱

『焚書』
A5/180P/1000円青年・
SF・ファンタジー
趣味…人間観察のち妄想・映画を見ること・古い建物を見ること
コミティア歴…95からとびとび参加
http://shimi.tsuchigumo.com/
 あえて薄暗がりの、人が不安や不気味だと思う領域への好奇心を誘う。薔薇模様の変わった痣(あざ)のある謎の青年・花森の登場する『奇怪百景』シリーズがまず印象に残った。ゴシップ紙記者イオキベが、助手(?)の花森に煽られながら不可思議な事件に遭遇する物語。フツウ、謎の美青年キャラの顔に痣をつけたりしないだろう。それを薔薇の花模様で描き、タブー的な要素をチャーミングに調合して、まぶしてくる。そんなイビツなユートピアが好みで、ニマニマしてしまう。
「小学生の頃から漫画が好きでむさぼるように読んだものの、少女漫画・少年漫画の決まった展開パターンに反抗心を抱き(今でもそうですが…)、中学生の頃になると映画の方に傾倒しました。映画、特に邦画だと定番感のない名作が多かったので。そんな中、衝撃を受けたのは萩尾望都先生の『ポーの一族』と『トーマの心臓』です。特に『ポー』は話の進行と時間軸がバラバラで、こういうことができるんだなと。」
「それと元々江戸時代の浮世絵が好きで、そこから江戸~昭和にかけての歴史が好きになり、その頃を舞台にした作品に目が向きました。特に文明開化の和洋が混ざった雰囲気が好きです。横溝正史の金田一とか梨木香歩の『家守綺譚』、大塚英志・森美夏の『木島日記』とか。」
そんなのばらさんの漫画描きの道は好きなものを追求しては周りから浮く、または自分が違和感を感じる、の繰り返しとなる。
「しばらくBLを描いていたんですが、イベントに参加したときに周りの漫画との差に『なんか違う…』と悩み、描きたいのはこれじゃない!となって今に至ります。」
世の中が好むキャッチーでわかりやすいものが描けないなら、自分の色はなんだろう。自問自答して出てきたキーワードは『殺伐』という言葉だ。「描いている話も登場人物の言動もブラックで、『なんか殺伐としているなぁ』と自分で思ったので。」
グロ、猟奇の露悪趣味よりもユーモアのある、お化け屋敷に迷い込んだようなイメージ。「少しブラックに、刺された人が次のシーンで普通に血を流しながら動いているとかにテンション上がります。結末も解釈の選択肢を残すので読者をモヤモヤさせるかも。」異端上等+テーマパーク感。歪んだものや忌避するものを混ぜ込んだ変化球の取捨選択が、のばらさん色を作り出す。
今後も関西とHPを中心に活動とのこと。この殺伐感、ぜひ楽しんでみてほしい。

TEXT / RYOKO SUGAYA ティアズマガジン109に収録

ノザキ・時田 0丁目

『数学』
A5/52P/600円/青年
<ノザキ>
生年月日…8月18日
職業…自営業 ●趣味…好きな仕事
コミティア歴…個人サークルで8年ぐらい前から
http://nozaki.main.jp/
<時田>
生年月日…8月26日
職業…0丁目
趣味…笑う
コミティア歴…「0丁目」として2年前から
http://www.pixiv.net/member.php?id=336637
「0丁目」はノザキさんと時田さんの二人サークル。これまで彼女たちは、毎回一人のゲストを交え、一つのテーマを決めた作品集を定期的に発行してきた。
ノザキさんが昨年のモーニング・ちばてつや賞で入選した「画家が死んだ」(『ノザキ最初期マンガ集2010〜2012』収録)では、自ら死を選んだ画家とその絵のモデルとの出会いを、画家の部屋の壁に残された日記を遡る形で露わにしていく構成の上手さに舌を巻く。
時田さんの「何卒お付き合いの程」(『ピカレスク』収録)では、ご近所の住人達の日常を盗撮することを趣味とする主婦とその住人達の悪癖の酷さに胸焼けを起こしつつ、テーマに十分に見合う悪人たちの所業を一気に読ませる。
彼女たちの出会いはボーカロイドの同人CDのジャケットやPVを描いていた時田さんにノザキさんがアプローチしたことから。そして、知合いのグループ誌に二人揃って描き始めた。その後、ノザキさんの「サークル主に俺はなる」(時田談)の決意の元、「0丁目」を立ち上げ、コミティアに参加し始める。
二人に共通するのは、デフォルメが効いた可愛らしいキャラクターと難解で意味深なストーリー展開。そのギャップを楽しみにしている人も多いのではないだろうか?
「直接的な表現での説明に照れがあり、親切な判らなさを目指しているけど、中々難しい」と時田さん。確かに一度読み終わった後、何度か読み直して断片的に置かれた伏線を見つけだして読み解きたくなる中毒性が彼女の作品にはある 。
一方でノザキさんは「狙ってやっている時とそうで無い時があるけど、いつも難しいと言われてしまう」と笑う。持込んだ編集者には、マンガを雑誌で読むようにアドバイスされた。コミックス派の自分がいざ雑誌を読んでみると、読みづらい作品をつい飛ばしてしまう。そういう普通の読者の視点が新鮮だった。最近は商業誌を意識してテンポよく話を進めることを心がけている。「無駄を省いて、話の最適化を探るのが楽しくなってきた」と語る彼女の進化が楽しみだ。
話を聞いていると、仲間内で飲みながらテーマを決めてネームを描き、その後、酔っぱらって批評大会するなど、描き手ならではの遊び方もユニーク。「描くこと」にどっぷり浸かっているのが伝わってくる。
サークル結成からまだ二年。その成長のスピードを知るだけに、彼女たちならきっと目標とする所まで行けると信じている。

TEXT / TATSUYA TOGAMI ティアズマガジン109に収録

溝口 臨界

『memorabilia』
A5/164P/1000円/青年
生年月日…6月29日
趣味…サッカー観戦、自転車、映画・音楽鑑賞
コミティア歴…コミティア89から
http://1000000.xxxxxxxx.jp/
「memorabiliaとは、『記念の品』や『思い出の品』という意味です。」2月に発行された作品集『memorabilia』には、作者の溝口さんが同人活動を始めた2009年以降に発表した漫画の大半が収録されている。この作品集には、自主制作映画のような初々しさと不安定さが漂う。短編オムニバス映画を見ているようだ。これまでの作品は作者の体験や感情がベースになっているものが多いという。どの物語も、一般論では片づけられない生々しさやゆらぎが印象的。このやるせなさ、心が落ち着かない感じ、一筋縄ではいかないもどかしさは、青春そのものだ。
小学生の頃から『なかよし』を読み、ふろくで少女漫画の練習をしていたというが、中高校生の時に福山庸治などのサブカル系漫画や青年漫画と出会い転機となった。
『memorabilia』収録作品である「深淵」の、どこかうす暗く、でも身に覚えのあるヒヤリとする危うさは、なるほど青年漫画的だ。同じく収録されている「蚊」は、同棲カップルの不和を蚊をキーワードに暴いていく物語。ストーリー自体は、青年漫画に出会った時期に制作したものだが、その頃は絵柄が少女漫画をひきずっていてストーリーとなじまず、苦労したという。
「物語を作るのは好きだけど絵は苦手意識があって、特に 一つの作品の中でキャラクターの顔を同じように描くのが難しい。同一人物なのにちょっと違う感じになってしまう。」と言うが、その不安定さも作風とマッチしている。
多趣味で映画もそのうちの一つ。また、大学時代は映像の勉強をしたので、自身の今の作風にはその影響があるかもしれない、とも。
「ひっかけっぽい展開があったり、ラストシーンとエンドロールへの入り方が印象に残る映画が好き」とのこと。その影響か、作者の漫画も最後までひっぱって、なるほどと唸らせる作品や、含みのある展開で余韻を残すものも多い。
これまでで一番反響が大きく、自身にとってもお気に入りの作品であるという「TEENAGE RIOT」は、音楽の趣味が同じであることをきっかけに、これまで交流のなかった高校生の男女二人が夏フェスに潜り込む計画をたてながら距離を縮めていく話。これもいいところで切り上げている。読者に物語の続きを想像させるようなラストだ。青春は終わらないほうがいい。
様々な短編を作ってきたが、今後はこれまで描けなかったジャンルの漫画を制作したいと語る。ジャンルを超えて、読者の心の琴線に触れるような漫画が、きっとそこにはあるはずだ。

TEXT / AKIYO NISHIDA ティアズマガジン109に収録

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