COMITIA109 ごあいさつ

時間を超えて作品と人生と向き合うということ。

5月に刊行されたコミティア30周年記念作品集『コミティア30thクロニクル』第1集は、おかげ様で各方面から好評をいただき、売行きも好調で重版もかかりました。購入してくださった方には心より御礼申し上げます。
1集を作っている時は何もかもが初めての体験で、嵐のように過ぎ去りました。いま2集の編集作業をしていて、もう少し冷静な気持ちで作業に向き合えている気がします。
あらためて掲載作を読み返し、初めて同人誌でその作品を読んだ時のことを思い出すとまた違う感慨が沸いてきます。いや、感慨というより畏れに近い感覚かもしれません。
作者がどんな「思い」を込めてこの一作を描いたのか、責任編集という立場で自分はきちんとその「思い」と向き合えているのか。否応無くそんな責任を突きつけられます。
有難いことに1集を読んだ方からたくさんの感想をいただきました。その中で少し予想外で、そしてとても嬉しかったのが、巻末に掲載した南研一氏の「SUMMER SONG」が好評だったことです。
20年近く前に発表された作品であり、また時代の空気のようなものを色濃くまとっている面もあります。氏のサークル活動の集大成として描かれた本作が、その経緯を抜きに一本の作品としてどう読まれるか。私自身の思い入れも強いが故に不安な部分もありました。だからこそこの作品がそうした普遍性を持ちえたことが余計に嬉しいのです。
かつて太陽圏外を目指して打ち上げられた宇宙船に積まれた記録版のように、まだ見ぬ誰かに向けて描かれた「作品」が、長い時間を経ていまの読者に届いたことが、何より尊いことのように思います。
もう一つここで大きな意味を持つのは、作品の巻末コメントにあるように南氏がいまはもうマンガを描いていないことです。氏は自らの判断でそれを選びました。同人誌とは、アマチュアでマンガを描くとは、そういう自由を持つことで、それはけして悲しいことではないのだと思います。
30年という長い時間にたくさんの描き手と出会ってきました。描き続ける人、違う媒体に進む人、描くのを止める人。いつかまた…と軽々しくは言えません。「止める」という決断は誰よりも本人にとって重いことです。
ただ、それでもいつかまた描きたくなった時に戻って来れる場として、コミティアはもちろんこの30周年を超えても続いてゆきます。
話題を変えましょう。
今年はまさにWEBコミック元年なのかもしれません。それはかなりネガティブな意味で…ですが。『IKKI』(小学館)、『エロティクスF』(太田出版)といった、「マイナー誌界のカリスマ雑誌」が相次いで休刊し、マンガ雑誌の減少には歯止めがかかりません。
同時に進みつつあるのは、紙媒体からWEB媒体への大移動です。紙の雑誌の赤字が常態化し、より負担の少ないWEBへ移行するであろうことは、かねてより予想されていました。今年はその転換点として記憶されることでしょう。
これから何が起こるのか、その大きな波は、紙の本の最後の牙城かも知れない?コミティアにも無縁ではないようです。商業誌はますます新人確保に血眼になるでしょうし、誰でも配信できる電子書籍の普及も進むでしょう。それは今回の会場内企画にも象徴的に現れているようです。
まず昨年好評を博した「モーニング・ツー×ITAN即日新人賞」が再登場します。会場にて公開で審査し、その場で大賞や掲載を決定して、授賞式まで行ってしまうライブ企画。前回は見事に大賞受賞者が出て、両誌の誌面・WEBで活躍中です。
もう一つは「電子書籍プラットフォームを語るトークライブ」。普及し始めた個人発信による電子書籍について、今回はそのプラットフォームを実際に利用する作家&プロデューサーと、その仕組みを作るエンジニアのトークライブを3部構成で行います。
こうした流れがコミティアにどう影響するのかは判りません。ただ変化には敏感でありたい。コミティアは常により良い作品発表の場を模索し続けたいと思っています。
最後になりましたが本日は3379のサークル・個人の方が参加しています。30年という長い時間にコミティアは当り前のようにそこにある存在になったかもしれません。それでもその1回1回が一期一会であることは変わりません。どうぞ今日という日の一期一会の出会いを大切にしてください。いつかそれを思い出す日がきっと来ると思うのです。

2014年8月31日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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