サークルインタビュー FrontView

時計 妄想をトランクに詰めて

『彼女はもう死んでいるのに!(上)』
B5/52P/600円/青年
生年月日…3月9日
趣味…演劇鑑賞
コミティア歴…1年
http://mousouwotorankunitumete.tumblr.com/
『AV女優と男優が同居する話。』は、表題の2人が偶然シェアメイトとなる事からスタートする。同業故に相手への偏見はなく、生活を続ける内にお互い男女として惹かれ合うが、中盤以降大きな落とし穴が待ち受ける…。相手が気になりながらも距離感を探る2人の可愛らしさや、喜びや悲しみ、アンニュイな感情など変化に富んだ女の子の表情が魅力的だ。
「私、基本働きたくないんです。やりたいことしかやりたくなくて」そんな衝撃的な言葉が取材冒頭から飛び出す。時計さんは、現在コミティアをメインに活動中。朝起きて夜寝て通勤するという「普通の仕事」が出来ないのをコンプレックスに感じた時期もあったと語る。「でも、何の根拠もなくイラストで食べていこうって気持ちはありました。死ぬことに比べたら仕事の決断は好きに思い切っても怖くないなと」専門学校卒業後、就活中に嵌った乙女ゲー製作会社にアプローチして就職。その後二次創作、男性向け携帯コミックや、ティーンズラブの仕事を経て現在に到る。「本来作品に口を出されるのが苦手な性格でしたが、メーカー側の経験をしてよかった。同人は好き勝手に、でも仕事では何が必要か。昔より理解できたと思う」
コミティアへの参加は、友人が参加していた事がきっかけとなった。「同人誌=二次創作のイメージが強く、誰得な自分の妄想を形にしようとは思わなかった。でもオリジナルもありだと知り、挑戦のつもりで描きました」その後同人書店や、携帯コミック配信の売れ行きが好調で、専業への道が開けた。
コミティア109発行の短篇集『一日一回、あなたを好きだと思わせて。』は相手への関心が薄れつつある夫や、すれ違うカップル等を描いた、氏曰く最も自分の感性に近い作品集。登場人物のもどかしい相手を思う感情が切なく、読者の共感を呼ぶ。「『時計さんの描く漫画は、基本全員諦めているよね』と言われた事があります。「好き」に違和感が生じた時、それでも一緒にいたいと思う気持ちがある。でも無理かなあ…の繰り返しは私含め皆あると思う。大なり小なり矛盾を抱えて生きている、その葛藤を描き続けたいです」 また、どの本も共通して入る泣き顔の描写については、「泣き顔のない漫画は描けないです。悲しい時もほっとした時も諦めた時は泣いてしまうし、言葉に出来ない感情も涙で表せる事もあるので。」ゲーム制作やドラマCDなど、まだまだやりたい事で溢れているという時計さん。持ち前のバイタリティと全力疾走で創作人生を駆け抜けてくれるだろう。

TEXT / JUNKI TERAMOTO ティアズマガジン111に収録

伊藤ハチ はちしろ

『春に降る雪』
B5/56P/600円/百合
生年月日…7月14日
職業…自由業
趣味…犬の散歩
コミティア歴…106から
http://hatishiro.xii.jp/
 近代日本の情緒を漂わせたとある國では、人に良く似た、頭に獣の耳を持つ種族の人々が暮らし、同性婚が法で認められているという。そのような独自の世界を舞台に、想いを重ね合う女性同士の恋物語を描き、百合漫画に新しい風を吹き込もうとしているサークル、それが「はちしろ」だ。
作者の伊藤ハチさんは、大学で日本画を専攻したのち、アニメ制作会社に就職。背景部門で働く傍ら、個人でもイラストや漫画の仕事をこなしていたという。同人では、任天堂のゲームや『ムーミン』の二次創作で活動。一昨年からは創作百合漫画の執筆を始めたが、その契機は、TVアニメ『アンパンマン』に登場する「パンナ姉妹」との出会いだった。「訳あってふたりは離ればなれで生きているのですが、それでもどこか心で繋がっている、という姉妹愛に感動して百合に目覚めました」と笑う伊藤さん。「姉妹や恋人、夫婦といった、人と人との関係性に感じる〝萌え〟が漫画を描く原動力です」
13年末にpixivで公開し、以降は同人誌で続編を発表中の『合法百合夫婦本』シリーズは、ある女性夫婦の新婚生活を描いた物語だ。結婚話どころか、恋愛経験もないまま二十代半ばに差し掛かったハルは、縁談で紹介された年上の見目麗しい男装の女性、通称「先生」との見合い婚を承諾する。新郎は小説家ながら収入が不安定。新婚生活も不慣れな出来事の連続だが、ふたりが夫婦として、少しずつ心を通わせ合う姿が描かれていく。
伊藤さんの百合作品で特徴的なのは、夫婦や主従、年の差ペアなど、作中に登場する女性たちのユニークな関係性だ。「人と人とが繋がりを持つのは、とても不思議なことだと思います。特に夫婦は、『他人同士が契約で家族になる』という独特な面白さがあって、描いていて楽しいです」と語る。また、同性婚を「合法」とする世界設定にも、伊藤さんの百合観が色濃く反映されているようで興味深い。「他人の目を気にする必要のない世界で、好きな女性同士が結婚して幸せになって欲しい」そんな切なる願いが込められているのだそうだ。「全く異なる価値観を持って結婚した二人は、最初は上手くいかないかも知れませんが、徐々に本当の家族になっていく過程を描き続けていきたいです」
近く、『月刊コミックフラッパー』(KADOKAWA)で連載中の姉妹百合漫画「小百合さんの妹は天使」の単行本発売も控えている。同人に、商業に更なる広がりを見せている伊藤ハチさんの百合ワールドから、益々、目が離せない日々が続きそうだ。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン111に収録

楽時たらひ 衛星ベジータG

『グッドナイト、モーニング』
B5/24P/300円/青年
生年月日…12月4日
職業…まんが家
趣味…ペットショップめぐり
コミティア歴…2009年5月から
http://www.pixiv.net/member.php?id=9736167
 想い人が同じ女性だったとしたら。友達だと思っていた子に恋心が芽生えたら。同性ならばこその悩みと戸惑いを描いた百合まんがで人気なのが、楽時たらひさんだ。
百合まんがの一番の魅力は、「葛藤と決意を描けるところ」という楽時さん。同性で恋をするという基本的な葛藤、告白をするかどうかという葛藤。どんな困難でもふたりで乗り越えようという決意と、逆に想いを伝えることをあきらめる決意。そんな女の子の表情を描きたい。まんがという形で綺麗なまま保存してあげたい。そんな気持ちで作品を作り上げているという。
楽時さんのデビューは専門学校時代。課題で描いた作品が編集さんの目にとまり、卒業後すぐに描いた剣道まんがでデビュー。まんが家として順調な滑り出しだったが、壁に当たったのはその連載が終わったときのこと。「トントン拍子で連載が始まって、それまでアシスタントとかもやっていなかったので、自分のまんがの作り方がわからないままだった」。そんな折、同じように悩んでいた友人と一緒に参加したのがコミティアだった。商業では出来ない、ただひたすらに「子供がかわいい」という気持ちだけを詰めた合同誌で初出展。読者さんからの感想を直接もらうようになり、その読者さん達のことを知りたいと思って定期的にサークル参加するようになった。新刊を出していくうちに、自分なりの描き方と描きたいものが見えてきたという。
そんな中でたどり着いた作品のひとつが、総集編が出たばかりの「魔法少女あんとるめ」。魔法少女オタクの「あん」と露出趣味の「るめ」による4コマまんが。敵は出ない、ライバルもいない中でも魔法少女モノとしての展開を望むあんに対し、マスコットキャラ「マール」が冷静に突っ込むという日常話。百合とは正反対の、読んでいて楽しいコメディ路線だ。
今後について聞くと、「カワイイ女の子だけではなく、カッコイイ男の子を描いてみたい」。たとえば主人公が仲間達と成長していくような少年まんが的な話であったり、閉じた世界で二人だけの愛を育んで行くような青年まんが的な話、どちらも描いてみたいという。さっそく冬コミで発表された作品が「グッドナイト、モーニング」。以前に少年誌で描いた作品の後日談で、殺し屋の少年と元ターゲットの少女が同居してから一ヶ月の話。初めての恋にとまどう彼と、ストレートに甘える彼女の、読んでいてくすぐったくなるような物語だ。これからもこんな、こそばゆい物語をつむいでいってもらいたい。

TEXT / TAKEMASA AOKI ティアズマガジン111に収録

ヤマーダ 山田養蜂場

『十三世紀くらいのハローワーク』
B5/16P/500円/評論
生年月日…2月16日
職業…プログラマー
趣味…中世・甲冑
コミティア歴…5年
 免罪符売り、鯨骨職人、傘貸し屋に水売り…これらの職業が実在したことをご存知だろうか。『十三世紀のハローワーク』シリーズは十三世紀欧州を中心に、そんな職業をゲーム攻略本風にイラスト満載・フルカラーで解説した作品だ。第1作を2011年に発表して以来、年1作(25職業)ペースで発表。昨年秋には最終巻および総集編が発行され、全100職の紹介という大作が見事完結した。同作について「自分が好きなものを再現した」と作者のヤマーダさんは語る。彼は仮装OKだった前回のコミティアX4ではマイ甲冑を装備して参加、自他ともに認める中世・甲冑好きだ。
元々同人に対する興味は薄かったが、「通っていたWebサイト経由で、コミティアなる概念は昔から心のなかにあった」という。その後、上京したのを契機に即売会の世界に足を踏み入れ、その熱気に魅せられて自ら描くことを決意する。そうして1年かけて作った本が『十三世紀のハローワーク(芋)』だった。
初めての本でフルカラー・68ページ、部数も読めず赤字覚悟の発行だったが、「委託とかで予想以上に売れて黒字になってしまった」。 嬉しいことだったがプレッシャーもかかった。「出来の甘さについては赤字を言い訳にする予定だったが、その手が使えなくなった。こりゃあ真面目に資料読まんと申し訳がたたんなと」。そうしてあたった文献は書籍だけでも200冊以上にのぼる。「一番最初は1冊・25職で終わらせる予定でしたが、資料を集めているうちに語りたい職業が増え、それを消化するために続刊を描いているうちにまたネタが増え、4冊目まで延びてしまった。ただ100職でキリも良いし、この辺で一旦終わりにしようかと」
1職の紹介は基本2ページ、各職への興味のフックになるのは「武力・技術・知力・魅力・財力・忍耐」を10段階で評価したグラフだ。「人物の解説をウィキペディアで長々と読んでもピンと来ないことは多いが、例えば『武力10』『知力1』『特技:大酒』と言えばそれだけである程度キャラが伝わる。パラメータ形式の本当の利点は、情報の圧縮力」。そうやって圧縮されたパラメータを眺めつつ、気になった職業から読める仕掛けも良い。
「趣味絵描き」と称し、「面白いかどうかで絵を描く」という彼が目指す究極は「くだらないものを全力で描く」こと。「何がしたいんだお前、と言われそうな絵が好き。描いてるうちに自分でも何がしたかったのかわからなくなる事もあるが、それもまた良し。絵を見た後の皆の呆れた顔が見たい」

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン111に収録

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