サークルインタビュー FrontView

妹尾あつし 九匹燕

『今夜ふたりで天国へ。』
B5/20P/300円/JUNE
生年月日…10月31日
職業…会社員
趣味…BBQ、アウトドア
コミティア歴…多分コミティア98が初参加です
http://seoatsushi.tumblr.com/
 読むたびいつも「引き込まれる漫画描く人だなあ」とウキウキするのが妹尾さんの本だ。展開の先を求めてページをめくってしまうネームだし、キャラが生き生きと動いているのを感じる。連作が多いのも、一作では収まらなかったキャラの事情がそうさせているのだろう。そして読後感がハートフルで後に残る。ジャンルに限定されない幅広い読者に読ませたくなる。
そもそもはBLの人。「初めて漫画を描いたのが二次創作の男の子同士のエッチなやつですし、基本的にドBL畑の人間です。でも読む分には何でも読んでいましたし、一次創作をするようになって主人公以外のキャラを考えるうちに性別や年齢関係なく話を作りたくなりました」某ロボット作品の二次BLを振り出しに、様々なジャンルを経て創作BLへ。そして今回のコミティアでは青年ジャンルで参加している。
読み返すと登場人物が秘密や悩みを抱えている場合が多い。京都人に一目惚れした大阪出身の主人公が「大阪人とお好み焼きが嫌い」と拒む想い人にめげず、「お好み焼き食べなきゃ俺とチュー」と迫る。そんなバカバカしいけど切実な恋の苦境に向かうキャラクターに引き込まれる。「頑張った人がその人なりに前を向けるラストが好きで、きれいごとが通る話を心がけています。因果応報がきちんとあるというか。優しい話が描きたいです」
一方で主従関係BLを描けば、世間的にはイイヒト、自分の前では隠れドSの想い人に振り回され、挙句に主人公は相手の恋を応援する形になってしまう。しかしそんな関係も受け入れるハッピーエンドにちょっとほんわか。「いい人が損をしないように、ひどい当て馬は作らないようには、話作りで気を付けているかもしれません」ということで、これも幸せの形の変化球なのだろう。こんな人情味も妹尾さんの持ち味だ。
さて今後は、というと、しばらく新刊もご無沙汰だったのが、今年は同人も商業もたくさん読んでもらえるように頑張るとの嬉しい言葉。「今すぐ取りかかるなら女の子と女の子の話が描きたい。BLもGLも男女も年寄りの話も、作りたいモチーフや関係性は山のようにあります」と頼もしい。3月からは『CIEL』(KADOKAWA)で京都の餅屋さんを舞台にした連載「よろしゅうおあがり」も始まる。縦横無尽に羽根を広げて羽ばたいてほしい人だ。

TEXT / RYOKO SUGAYA ティアズマガジン112に収録

深山おから kirazu

『センパイ、おかしなこと言わないで!』
B5/28P/400円/少年
生年月日…6月23日
職業…漫画家
趣味…昼寝
コミティア歴…コミティア92から
http://kirazu.moo.jp
 それまで自分が好きなものがよく分からず、最後まで描き切れなかったり、作風もふわふわしていた、という深山おからさん。初めてオリジナルで完結した作品、同人誌版「俺のぱんつが狙われていた。」を描いて、「こういう漫画を描きたかったんだ」と感じたそうだ。結果的にそれがコミティア100で編集者の目に止まり商業誌デビュー。現在は同作のリメイク版が『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)で好評連載中となっている。
「俺のぱんつが狙われていた。」は好きになった男の子のぱんつが欲しくなってしまう女の子の話。あるいは、おっぱいが好きすぎる男の子が好きになったのはニセチチの女の子だったという「ぎにゅうのあの子はちっぱいがーる」など、深山さんの作品は、好きが高じてちょっとだけ普通じゃない行動を取ってしまうキャラクターが真剣に恋に悩むテーマが多い。少年向けラブコメと少女漫画の恋模様のいいとこ取りとも言えるだろう。
女性ながら「男性向け作品の方が読むのも描くのも好き」という深山さん。中学生の頃に読んだ池山田剛「GET LOVE!!」(小学館)に影響を受け、ドタバタラブコメが好きになる。しかし「男子の心が完璧に分かるぜ!というわけにはいかないので、『男子も読める少女漫画』くらいの意識で描いてます」とのこと。
最近「右も左も女の子な百合って最強なのでは…!?」と気付いて描き始めたのが百合もの。最新作「センパイ、おかしなこと言わないで!」は、食感が乳首に似ているとツイッターで話題になったグミがきっかけとなった作品。主人公のひまりが放課後に勉強を教わっている憧れのセンパイが突然、乳首を舐めさせて欲しいと迫ってくる。そのセンパイも、実は自分の気持ちに気がついていない、恋に不器用な女子だったという展開。百合を描く魅力は「恋する女の子はもちろん可愛いし、細くて柔らかい指同士が絡まるだけでもう可愛い。どのページも女の子!女の子!なので描いていて最高に楽しい」と分かりやすい。
商業誌と同人活動を両立する現在、「同人誌は自分で全部考えて描かなきゃいけないけど、そのかわりに好きに描けるのが楽しい。商業誌は編集さんたちと納得行くまで話し合って作るので、勉強になっています。どちらもやっぱり楽しいです!」と頼もしい。楽しんで描いている作品が楽しくないはずがないだろう。少年向けと少女向けの両方の面白さがぎゅっと詰まってる深山ワールド、一度読んだら、きっと虜になりますよ。

TEXT / TAKEMASA AOKI ティアズマガジン112に収録

みそくろ 金はないが愛はある

『こころ』
B5/52P/600円/青年
生年月日…6月30日
趣味…漫画・絵を描く・テレビ
コミティア歴…2年くらい
http://kanenaiaiaru.xxxxxxxx.jp/
 秀才で真面目気質、ちょっと冷めた物の見方をする中学生の主人公が、補習をきっかけに友人と将来の夢を語り合う『ロマンチック☆理科』。三者三様、口々に発せられるまさに中学生らしい会話がリアルで微笑ましく、共感を誘う。また、当の子供達が自身の境遇に悩みもがく一方で、温かい視線で見守る「大人」がいる優しい世界がなんとも愛おしい物語だ。
そんな「大人・子供」両方の視点を使い分け、人情味溢れる作品を数多く発表し続けてきたみそくろさんは、この春大学を卒業したばかりだと言うから驚きだ。小・中学生を多く題材に扱うのは「自分がまだ20代前半なのでそれ以上が描きにくいのと、齢が近いと自分がまだ問題を消化しきれていない事もあって。あと、あの時思ってたモヤモヤを、今なら皆に『あの感覚わかるわ』って伝える事ができるから」と語る。それには、歳の離れた小学生の妹がいる事も大きいのかも知れない。自分では過ぎた道だがまだ近い所にいる、その距離感が大切なのだろう。自身の子供時代は「褒められたいとか大人っぽいとかは意識してて、色んな見方をしてその中から最善の策を取りたがる、ふてぶてしい奴でした」とのこと。ちょっとおませで、ともすると大人びた発言をする主人公が多いのも頷ける。
漫画を描く際は、身の回りの人物をモデルにするという。『チヅコとハナ』はガチガチの男手ばかりの工場を舞台に、これまた漢気溢れるチヅコと新入社員・ハナを中心に描いた物語。てきぱきと働き鬼教官と言われるチヅコは、以前バイトをしていた風呂屋の人がモデルだそう。「主人公が決まったらその人が置かれている状況や舞台を考えます。この場合は男の中に紅一点でいるパターンで。そこから周りにはどんな人かなど、中心から蜘蛛の巣を張る感じで考えます」
ティアズマガジン110の見本誌読書会漫画を依頼した時には、どっしりとしたカメラを持参し、熱心に会場を撮っていたのが印象的だった氏。資料集めについては「私の漫画は背景がリアル過ぎても簡素なのも違うと思い、試行錯誤している段階です。デジタルも効率は良いと思うんですけど、そういう事にこだわりを持てるのも同人のいいところですよね」と楽しそうに話す。
漫画を描く上での目標は「ちょっと元気がない人に元気になってもらうこと。そういう人ってたぶん普通の人だからその人達にどれだけ響くかを突き詰めたい」だそうだ。これからも悩める主人公達のひたむきな背中を、読者に届けていって欲しい。

TEXT / JUNKI TERAMOTO ティアズマガジン112に収録

今野隼史 辺境紳士社交場

『tabemonopool lunch』
B5/24P/500円/イラスト
生年月日…1981年5月5日
職業…イラストレーター
趣味…同人誌作り
コミティア歴…88から参加(6年)
http://frontierpub.jp/
 一枚の絵に世界を描き込もうとする多彩な色使いと塗り込み。プロとして小説の挿絵やゲームイラスト、漫画で活躍する今野隼史さんの絵は、思わず目を惹かれるような情報量の密度が魅力の一つだ。同人では小説、デザイン等も器用にこなす。最近では全て一人でデザインしたカードゲーム『王たちの同人誌』で注目を集めた、オールラウンドな才能だ。
子供の頃から絵を好んで描き、TRPGをやり始めたことから小説や漫画など創作活動を始め、中学の頃には雑誌投稿も開始する。主な投稿先はライトノベルとTRPGをメインに扱った富士見書房の雑誌『ドラゴンマガジン』。「RPGとそれを取り巻く世界が好きで、田中久仁彦さん、草河遊也さんのような世界観の描き込みが凄い人に憧れてました」
そんな中、友人のゲーム小説に挿絵を描いた時に、「0から何か生み出すより与えられたお題を絵にするのが向いている」と感じイラストレーターを志す。そして大学在学中にカードゲームのイラストレーターのオーディションで見事入賞、プロデビューを果たした。その後、挿絵やゲームのイラストなどで活動の場を広げていく。
2006年には、挿絵を担当したライトノベル『七人の武器屋』(大楽絢太著/富士見書房)のコミカライズで漫画家としてもデビューする。だが、週刊更新でWeb漫画を描いた時に『絵が見づらい』と指摘を受け、作品を見直して絵が粗くなっていることに気が付いた。絵を描くことが好きで仕事にしたのに仕上げることだけを気にしていた。「もっと絵を描くことと、なりたい姿を模索したい」と思った彼は、漫画以外の活動にも取り組みだす。TRPGリプレイ、小説、CGメイキング、カードゲーム等々…。2013年には個展を開催。原画を見せることに拘り、自分の絵が売れるかどうかの実験として原画の展示・販売を行った。
「作品のアイデアは楽しかったものからの影響や、既存のものへの反発、憧れているものへのオマージュだったり。理想に近づくため、挑戦していくことが限界を広げることに繋がります」。『憧れ』に正直に向き合うことこそが彼の原動力なのかもしれない。
彼の中の『できてないことリスト』はまだまだ満たされている。ゲーム作成もその一つ。「憧れはスヌーピーの作者でチャールズ・シュルツのように、生涯創作を続ける姿」という彼にとって『できてないことリスト』が空にならないほうが幸せなのだろう。彼の次なる挑戦が楽しみだ!

TEXT / SEIJI OCHIAI ティアズマガジン112に収録

フィービー 歌う骨

『祝福の鎖 祈りの糸』
B5/76P/700円/ファンタジー
生年月日…7月16日
趣味…映画鑑賞(韓国・香港映画が好き)
コミティア歴…コミティア96から
http://utauhone.web.fc2.com/
 「歌う骨」といえば、『白塵の王』(コミティア104発行)との鮮烈な出会いを思い出す。ウェブでの発表を経て制作された冊子版は厚さ約30ミリ、本文400ページを優に超える力作だった。そして、中央アジア風の独自の世界観、強烈な個性を持つ登場人物、そして若き英雄の人物像を浮き彫りにした壮大なストーリーに即、引き込まれた。
以降、フィービーさんは精力的に、『LostChild』と題した作品群の発表を続けている。「キャラクターや物語に追い立てられるように執筆をしていますが、以前は口下手だったのに、物語を描くたび、考えを言葉にできるようになってきた気がします。私にとって、漫画は自己分析の手段なのかもしれません」
独特な響きを持つペンネームは、『ライ麦畑でつかまえて』(サリンジャー著)の登場人物から。サークル名は『グリム童話』の「歌う骨」が由来という。05年にイラストや漫画の公開を目的にウェブサイトを開設し、12年からは前述の『白塵の王』を含む、『LostChild』シリーズの連載をスタート。同人では読切の個人誌を6冊発表しているが、それらに共通するのは、登場人物たちが思うままにならない境遇や厳しい試練にもがき、苦しみながらも、心の欲するままに生きようとする姿を追った芳醇な物語という点だ。
最新作『祝福の鎖 祈りの糸』は、砂の都・ケルヒムを縄張りとする侠閥(ヤクザ)の世界を描いた作品である。卓越した能力で侠閥の一地域を治める幹部・ハジと、若かりし日にその舎弟となり、右腕として組織を支えるドルナエを軸に物語が紡がれていく。
侠気に富む反面、裏切者に容赦のない制裁を下すハジを時に諫めつつ、揺るぎない忠誠を誓うドルナエだが、彼の舎弟のポン引きが侠閥の娼婦に手を出したことで事態は急変。人情家のドルナエは、ハジの目を盗み、舎弟らを密かに足抜けさせようと試みるが……。
「人間の欲が大好きですし、何かを渇望している人間を描くのは楽しいです」とフィービーさんは笑う。組織の掟を絶対的な標とし、流血を厭わず、自らの欲望に忠実な侠閥の男たち。その眼差しは冷酷で、時に狂気を孕みながらも、その実、至って「純粋」なのが印象深い。業深き男たちが繰り広げる濃厚な人間ドラマを、ぜひご堪能いただきたく思う。
今後もコミティア等への参加、そして、『白塵の王』を越える大長編の構想が心にあるというフィービーさん。「自分の中に『漫画を描きたい!』という強い欲があることが嬉しいんです」その瞳には、漫画に懸ける無尽の熱情が宿っているように思えた。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン112に収録

関谷あさみ 不可不可

『in the milk 4』
B5/40P/500円/アダルト
職業…ほぼ成人向漫画家
趣味…ゲーム、フィギュアショップ巡り、他色々
コミティア歴…初参加は確かコミティア89
http://saikidou55.blog.fc2.com/
 「13、14才のセーラー服の女の子が好き」と語る通り、主にローティーンの可憐な少女をモチーフに成人向けで活躍する関谷あさみさん。今年2月には7年ぶりとなる成人向け単行本「僕らの境界」(茜新社)が発売され、読者の心を抉る丁寧な心理描写と濃厚なエロさが改めて評価されている。近年は『コミックハイ!』(双葉社)で初の一般向け連載作「千と万」をスタート、注目を集める作家の1人だ。
同人活動の初期は二次創作のBLを描いていたが、「どうしても男キャラがうまく描けなくて…」と悩んでいたという。そんな時、新たにハマった少女マンガジャンルで「女の子なら描ける」ことに気が付き、今の作風にシフトしていく。「その少女マンガは最初からヒロインと男の子が両思い状態で、同人誌でやるなら」と、成人向けも描き始めた。
プロにはなろうともなれるとも思っていなかったが、ある日、成人向けを描かないかと編集者から声がかかった。活動していた二次創作と勝手の違う商業誌で何を描けば良いか最初は戸惑ったものの「編集さんに『16ページなら4ページのマンガを4本でもいい』と言われて目から鱗で。とにかくエロシーンがあればSFでもホラーでも、どんな話でも描ける。凄く面白い」と気が付く。そんな楽しみを知った氏は同人でもオリジナル作品を発表するようになっていった。
最新作の「in the milk」シリーズは「『母性ロリ』と『中身が子供の大人』の対比」をテーマに、ジュニアアイドルの少女と、カメラマンアシスタントの青年との関係を描いた。同作に限らず氏の作品には、青年と少女の年の差カップルものが多い。「年齢も価値観も違う男女が出会って、互いの価値観が変わったり、すれ違うシチュエーションに萌えます」と言う氏の紡ぐ物語は破局を漂わせるような切ないラストも多い。
「暗い話を描くことは意識していないんです。ただ、子供と大人だとうまくいかないことが多いと思うし、このキャラならこうなるって話を考えると結果的に…」
「描きたいマンガで毎日ご飯が食べられれば、実は同人も商業も一般も成人向けも拘りはないです」とマイペースな氏の創作活動の楽しみの1つは、描けなかったものを描けるようにすること。「最初は兄妹ものを描くのが苦手だったんです。でも自分なりに試行錯誤していたら楽しくなってきて。そういう風に自分の世界を広げていくのが楽しい」 そんな氏の広げた世界が生み出す新しい物語を心待ちにしよう。

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン112に収録

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