サークルインタビュー FrontView

野干ツヅラ 午後五時四十六分

『愛哭する獣』
A5/50P/500円/青年
生年月日…4月13日
趣味…怪談、猫に遊んでもらう
コミティア歴…コミティア101から
コミティア歴…コミティア107から
http://www.pixiv.net/member.php?id=993240
 人と似通った部分を持ちながらも決して人ではない、「人外」と呼ばれる異形たち。彼らと人間との異種間交流を描いた物語は、実は千年以上の歴史があるという。そして今、コミティアで独自の人外ものを発表し続けているのが、「午後五時四十六分」の野干ツヅラさんだ。
子供の頃に『ゲゲゲの鬼太郎』で妖怪や怪談の面白さに取り憑かれ、pixivで人外系の作品を閲覧しているうちに「人外×女子高生」のカップリングに覚醒。そして、中山敦支さん作の漫画『ねじまきカギュー』との出会いが、漫画へと挑戦する契機になったそうだ。ではなぜ「人外×女子高生」なのか? 「女子高生は私にとって心の大地であり、日常の象徴そのもの。それに、人外という非日常が絡むギャップが魅力的なんです」
野干さんの代表作『飼い主獣人とペット女子高生』シリーズは、獣の世界に迷い込んだ女子高生が、犬人にペットとして飼われる顛末を描いたラブコメディだ。両者には言葉の壁があり、コミュニケーションは不完全だが、つれなかったり、寄り添ったりする気紛れな関係性が面白い。「人外側の視点で女子高生を見ていたいんです」という野干さんの想いが作中から透けて見える。同作はpixiv、次いでコミティアで発表後、昨年秋から『ジーンピクシブ』(KADOKAWA)で連載化され、漫画家デビューを果たすきっかけになった。
一方、同人の最新作『愛哭する獣』は、これまでとは少々趣が異なり、ファンタジー世界で「魔物×少女」をテーマに描く実験的な短編だ。万能薬を求めて旅する魔術師の少女・リトヤは、魔の棲まう森で伝説の魔物・ケラヴと出会う。殺される寸前に魅了の呪文を使い、辛くもピンチを乗り切ったリトヤだったが、ケラヴから嫁と認定され、付きまとわれることに……。「頭部が異形の人外には特にこだわりがあります」と語るように、山羊のような立派な角に異様な鎧、そして巨躯で人間を圧倒するケラヴの造形と、そこからは全く想像し得ないような、リトヤへの愛に目覚めた〝デレ姿〟は、本作注目の萌えポイントと言えるだろう。
「『愛哭する獣』を描いて、改めて自分は人外と女子高生が描きたいんだな、と気付きました」と振り返った野干さん。作品を描く裏には、ただただ「人外×女子高生」を布教したい思いがあるという。「作品を読んで共感してもらえたら、好きなものの世界って広がっていくんだろうと思います」。伝道師としての活動はまだ始まったばかり。あなたもその声に耳を傾けてみてはいかがだろうか?

TEXT /KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン114に収録

とうめいしつ

『おんなのこライフ
A5/24P/500円/イラスト
生年月日…10月18日
職業…漫画家・イラストレーター
趣味…絵を描くこと・映画鑑賞
コミティア歴…2010年から
http://plasm.web.fc2.com/
 フルカラーの漫画短編集『さよなら、またね。』水彩タッチで描く、ちょっと切ない話たち。短編ながら読み応えがあるのは、どの話も背景・人物はもちろん、枠線・擬音・画面効果に至るまで着色され、ストーリーを引き立てているから。特に山場では心情が込もった表情と色使いに魅せられる。
絵柄の印象からペンネームの意味は「優しさ」かと思われがちだが、実は通知表の「優・良・可」から取った。サークル名は、細胞の核を包む液状の「透明質」から。
「小さい頃からノートに何か描いては母に見せていました」という優さん。趣味そのままに美術大学へ進学。専攻した芸術文化学科では制作だけでなく討論の場が多く、思考を鍛えられた。この頃、ホームページでの漫画公開やコミティア出張編集部への持込みなど、積極的に活動を始める。
しかしプロにはなれないまま就職し、一時は漫画からも離れた。けれどゲーム会社でデザイナーとして働く傍ら、絵をWebで発表することだけは止めなかった。ここで季刊『GELATIN』(ワニマガジン社)の編集者から声を掛けられ、再び漫画の道に戻る。同誌にてオールカラー漫画が数本掲載され、それらを同人誌『さよなら、またね。』『なつのいと』にまとめた。
本格的に漫画家として舵を切ることになったきっかけは、映画「おおかみこどもの雨と雪」のコミカライズ(KADOKAWA)を担当した時。執筆作家を決めるコンペ参加の誘いがあった際は尻込みし一度は辞退したが、細田守監督作品が大好きで、「他の人に描かれるよりは」と思い直した。「この時に絶対やるぞという覚悟が生まれたことで、会社を辞めて漫画家になる道を選べた」。
現在『ヤングエース』にて連載中の「五時間目の戦争」では、それまでの優しい作風から一転して重いテーマに挑み、架空の未来の日本で戦争に巻き込まれる離島の中学生たちを描いている。本土へ出征してゆく者と銃後を守る者。実際の戦闘シーンよりも遺された者たちの葛藤を中心に据えたのは、自身の強みである心理描写を活かすため。得意不得意を見定め、「自分にしか描けないもの」を模索する姿にプロとしての自覚を感じる。
商業で多忙な中だが「手渡しで自分の作品を届けられるのはここしかない」と同人への意欲を残す。柔らかな色彩溢れる彼女のイラストや漫画に魅せられた者として、次回作を楽しみに待ちたい。

TEXT / TOMOMI KAWABATA ティアズマガジン114に収録

土岐つばめ はいあかむらさき

『My Girl』
B5/24P/300円/青年
生年月日…1月13日
職業…会社員
趣味…アイドル
コミティア歴…コミティア96から
http://d.hatena.ne.jp/tubame-toki/
 アイドルという生き方の中で、人生の選択を迫られる女性たちの姿を描いた「My Girl」。友人との思い出を1ページマンガの形で描く「緑ちゃんのこと」。愛を求めて人を喰らい続ける蛇の化身を描いた「蛇」。土岐つばめさんの作品群は、毎回多彩なテーマで描かれる。幅広いアイデアのみならず、どの作品においても、好意と嫉妬、愛しさと憎しみといった、相反する感情がクールかつ丁寧に描かれているのが魅力だ。
小学生の頃から絵を描くことが好きだったが、同人活動を始めたのは短大2年の時。読者からその場で本の感想を貰えたことが、続けるモチベーションになったという。以来、ゲームの二次創作を皮切りに様々なジャンルで活動してきたが、「次第にマンガを描くことが苦しくなって止めてしまったり、一方で描いていないことに焦ったり」という葛藤もあったそうだ。そうした中、改めてマンガを描いてみようという意欲が芽生えたのがコミティア。「自由に描けそう」との思いから初参加して以来、オリジナルの作品を発表し続けている。
アイドル、学生、SF…作品ごとに様々なテーマやモチーフが描かれているが、その人間模様は読む側の感情を静かに揺さぶる力を持っている。2人のアイドルの去就を描いた「My Girl」では、仕事や大切な仲間への、そして自分自身の夢への想いが、16ページという短い中に濃密に詰め込まれている。また「蛇」では伝奇物という世界観の中で、人を喰らう蛇女の姿が描かれる。ストーリー中に仕掛けられた意外な設定、予想外のラストに驚かされることは勿論のこと、人間というものに執着する蛇の姿はどこか悲しく、強く引き込まれるものがある。
「誰かを好きになるのはプラスの感情だけでなく、その思いを持った自分の中にある気持ちの悪い部分が出てきたりもするじゃないですか。どうしても出てきちゃう執着や、人と相対している時に生まれる色んな感情に興味があります」と語る土岐さん。喜怒哀楽という言葉に収まらない感情がキャラクターから伝わってくる背景には、強い感情と、それを冷静に見る感覚が同居している。
インタビュー中、アイドルやSFといった作品のモチーフとなった趣味や、マンガを描くことについて熱く語る姿が印象的だった。キャラクターたちが抱える想いは、土岐さん自身が持つこだわりと繋がっているとも感じた。これから描かれる新たな物語では、どんな形の「想い」が見られるのか、とても楽しみだ。

TEXT / KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン114に収録

唯根 ZMH

『ぼくのヤギさん5』
A5/44P/500円/JUNE
生年月日…11月28日
職業…フリーランス
趣味…モンハンと虫写真集あさり
コミティア歴…コミティア105から
 漫画家になりたい。ひっそりと心に秘め続けていた夢は、高校生になって一気に弾けた。「入学当初は手堅い就職希望で、成績も学年10番以内に入っていたんですけど、友達と漫画を描き始めたらすごく楽しくて、順位を200番くらい落としたんですよ」と笑って話す唯根さん。そこから二次創作で同人誌を出し始め、オリジナルを描きだしたのはここ最近とのこと。
もともと虫や動物が好きな唯根さん。オリジナル最初の個人誌「ぼくのヤギさん」は羊の兄弟→ヤギさん→飼育員・スガノの三角関係を描いた擬人化BLマンガ。ほのぼのとした動物園の日常の陰で、ヤギさんを巡って激しく争う羊兄弟。しかし親代わりでもあるヤギさんは二人をかわいい子どもにしか見られず、想いは一方通行。そのヤギさんのスガノへの想いも、飼育員と動物という関係性の中でスガノに正しく届かないもどかしさがあり、どのような決着がつくのか最終巻が待たれる。一方で次に出したのは、編み物が好きな青年が、しゃべる蚕2匹と共に蚕を卵から育てる40日間の育成記「蚕三文記」。こちらはデフォルメされた蚕と一緒に蚕の成長、歴史も学べる一冊である。
「調べ物が好きなんです」 どちらも描いたきっかけは知人に誘われたアンソロ、合同誌への寄稿から。そのために調べ物をして、溜めこまれた情報が寄稿のページ数では収めきれず、改めて思う存分に描いたものがこの二作品だとか。自分の中に溜めた知識をアウトプットする手段として、漫画はぴったりなのだそうだ。
目指すところは〝読者と知識欲を一緒に満たせる、ちょっと勉強になるくらいの漫画〟。加えて唯根さんがこだわるのは、知識としてきれいな所だけでなく、しんどい所も描いていくこと。だからヤギさんの動物園では博物館から死後の保管展示についての話が出るし、成長した蚕たちは羽化して間もなく死んでいく。そこをごまかさずに、自然の流れとして描きたい。そんな真摯な思いが、唯根さんが漫画を描く一つの指針でもあるようだ。
現在はデザイナー稼業のかたわら、『となりのヤングジャンプ』において先述の「蚕三文記」で商業へのデビューを果たす。同作品の連載後、続編を「おかいこぐるみ!」と改題し、連載中。単行本も9月に発売となった。ヤギ、蚕と、動物を主体とした作品が続いているが、人間が主人公の作品への意欲もあるそうだ。この先もジャンルの垣根に縛られず、知識欲のおもむくままに新しい物語を生み出していってもらいたい。

TEXT / YUKA FUNAMI ティアズマガジン114に収録

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