COMITIA116 ごあいさつ

「マンガが好きで、ここまで来てしまいました…」(アズ漫画研究会)

同人誌即売会の歴史をコミックマーケットの第1回('75年)を起点とするなら、現在は41年目に入ったところ。しかしマンガ同人誌そのものには更に前史があります。石ノ森章太郎らトキワ荘世代は'50年代から肉筆回覧誌を作っていたし、手塚治虫が創刊したマンガ雑誌『COM』('67年~'73年)が呼びかけて、全国でもたくさんのプロを目指す同人グループが生まれました。その後『COM』休刊の混乱の中でコミックマーケットが誕生し、同人誌の位置付けもプロを目指す研鑽の場から、自主出版のムーブメントへと変わってゆきます。
その前史の時代から続く数少ない同人グループの一つが北九州を拠点とする「アズ漫画研究会」。通算のメンバーはのべ300人を超え、現在は約70名が参加。文月今日子や陸奥A子などプロデビューした作家も多く、コミックマーケット準備会2代目代表の故米沢嘉博氏が参加していたことでも知られています。
そのアズが何と設立50周年を迎えたとのことで、北九州漫画ミュージアムで「アズ50年展-マンガ同人の半世紀-」という記念イベントが開催され、私もそのトーク企画に招かれて3月19~20日に参加してきました。
館に入って、まず驚くのはその展示の充実ぶり。50年前の肉筆回覧誌や、その後の様々な刊行物がしっかり保存され、展示されています。中学で「壁新聞」を作った仲間という始まりから、時代順に並べられた発行物は、「肉筆回覧誌」「青焼き」「ガリ版」「オフセット印刷」「コピー」「プリンター出力」と、そのまま同人誌の印刷の歴史を辿るようです。最後のメインゾーンでは、現在活動する若いメンバーの作品展示がずらり。今もけして「伝説」とはならず、立派に「現役」であることが見て取れます。
アズと同世代の同人グループの多くは、同人誌即売会が生まれるとそちらに軸足を移し、次第にグループとしては解体し自然消滅してゆきました。アズがそうならなかったのは、東京との距離もあってか地元密着型の姿勢を守ってきたから。「アズ展」という原画展を開催し続けたり、地域のお祭りで毎年似顔絵描きを行うなど、独自のマイペースな活動を維持し、「場」としての楽しさを忘れなかったからでしょう。
だからこそ、初期メンバーは生活の中でマンガを描き続けられたし、子育てや仕事が一段落した大人が戻ってきたり、子供たちの世代が親たちと一緒に活動に参加できたのでしょう。これはとても稀有な例だと思います。
3月19日の夜は50周年記念パーティが行われました。いまは故郷を離れ、全国に散らばるメンバーも里帰りし、立ち上げメンバーはすでに60代。そこに現在の主力である第二世代はもちろん、おそらく第三世代となるであろう小さな子供たちもコスプレ姿で会場を盛り上げていました。何と幸せな光景でしょう。
パーティの冒頭、長年アズの運営を取りまとめてきた初期メンバーで、今回の50年展の実質責任者である方が挨拶に立ち、「マンガが好きで、ここまで来てしまいました…」と言いかけて、しばし天を仰いで絶句。その目には光るものが見えました。
私はその光景に純粋に感動していました。50代半ばの自分より10歳も年上の同人たちが、当たり前のようにマンガを読み描き愛し、堂々と語ること。その思いが次世代に脈々と受け継がれていること。何とすごい、何と素晴らしいことでしょう。
描き続けること、記憶に刻むこと。それはコミティアの目的の一つでもありますが、その一つの理想の形を見せてもらいました。振り返るとコミティアはやっと30周年を過ぎたばかりの半人前、先輩方に負けずにまだまだ続けてゆきたいと思います。
なお、北九州での「アズ50年展」は終了しましたが、東京の米沢嘉博記念図書館での巡回展が6月10日~10月5日(日程延長になりました)に開催されます。興味のある方はぜひご覧ください。
さて、今回の会場内企画を紹介します(東4・5ホールの間)。まず、諸星大二郎「マッドメンの世界」原画展。私自身が中学生の頃に『少年ジャンプ』で作品を読んで以来、魅了され続けてきた作家です。あまりにも個性的な作風ゆえに誰も追随できず、そして古びることもなかった。孤高の天才とも言えるでしょう。あれから40年以上が経ち、こうしてご縁をいただき、コミティア会場で原画展を開催できるのが感慨深いです。
今回の原画展の作品「マッドメン」シリーズはパプアニューギニアの秘境を舞台にした伝奇ロマンミステリー。40年越しに実現した現地取材の写真も含め、その濃密にして魅惑的な「異界」をぜひ生原稿から体感して欲しいと思います。
もう一つは、BELNEマンガ家40周年展。本誌では「コミックワークショップ」の連載でおなじみのBELNEさんですが、私の前職のマンガ情報誌『ぱふ』で「マンガの描き方」を連載をしてもらった頃から、もう30年以上のお付き合いとなります。
マンガ家生活40年の思い出については、今号の連載で書いてもらいました。BELNEさんを文章記事でご存知の方も多いと思いますが、今回はその本業であるマンガ作品をじっくり見てもらいたいと思います。
さて、もう一つイベント外の報告があります。かつてコミティア104のごあいさつで紹介した、マンガ編集者が主人公のマンガ「重版出来!」(松田奈緒子/月刊スピリッツ連載中)が原作のTVドラマが、4月よりTBS系で放映されます。しかも作中の出張編集部のシーンでコミティアの会場を再現することになりました。この回の放映は5月3日。今号のティアズマガジンを事前購入された方は、どうぞご覧になってみてください。一般視聴者の目にどのようにコミティアが映るのか、ドキドキではあるのですが(笑)。
最後になりましたが、本日は5456のサークル・個人の方が参加しています。今回のごあいさつで書いたことは何気に「続けること」が重なりました。往々にして本人たちは「続ける秘訣などなく、ただ好きで夢中でやってきたら、いつの間にか年月が経っていた」と言います。本当にそういうものかもしれません。大切なのはそんな夢中になれる何かを見つけられるかどうか。今日という日にそんな素敵な出会いがあることを、心から願っています。

2016年1月31日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

戻る
PC版表示