サークルインタビュー FrontView

スガワラエスコ 犬飯

『S先生の付箋ノート』
A5/28P/300円/その他
生年月日…2月6日
趣味…断捨離
コミティア歴…コミティア104から
http://oinari.uunyan.com/index.html
爬虫類にしか興奮できない特殊な性癖のアラサー青年と、小6とは思えない色香を持った小悪魔系美少女のラブコメディ『マドンナはガラスケースの中』をコミティアで発表後、同作品のリメイク版でプロデビュー。現在、新鋭として注目を集めているスガワラエスコさん。元々はイラストレーターが目標で、漫画家志望ではなかったが、二次創作活動を経てオリジナルを描き始める契機になったのは、ある作品との出会いだった。「『アナーキー・イン・ザ・JK』(集英社)を読んで衝撃を受けて、位置原光Z先生の本を買う目的も兼ねてコミティアに参加するようになりました。私の活動動機はいつもミーハーなんです。いつか、憧れの漫画家さんにも自分の作品を読んでもらえるといいな、って妄想してます」
スガワラさんの作品は、性癖や環境などのコンプレックスに悩む青年と、人を魅了する色気や〝目力〟を持つ女性とが出会い、惹かれたり衝突したりを繰り返しながら、お互いに認め合える関係を築くまでが描かれることが多い。「男の子は物腰が柔らかくて一途。女の子は気が強かったり、計算高かったり、立場的に上だったり。そんなカップリングが気に入ってます。そのせいか、男性主導だった立場や関係が崩れた時の、人がみっともなくなる瞬間が好きなんです」。個性的な人物たちの人間味溢れるドラマ、特にキャラクターたちの関係の変化に注目しながら読んでみて欲しい。
最新作『S先生の付箋ノート』では、コミティアで新刊を出そうと思いながら、漫画を描けなくなってしまった男性漫画家・S先生の苦闘が描かれている。「自己否定に陥ってネタが浮かばない時に、『いっそのこと恥を売り物にしてしまえ!』と思い切ってエッセイ風に描きました」そう語るように、スガワラさん個人の体験や漫画観を窺い知ることができる興味深い内容だ。女性編集者にネタを情け容赦なくボツにされながらも、決してめげることなく、二人三脚で精一杯、読者に面白い漫画を届けようと努力し続けるS先生。その飽くなき探求心と、ひたむきさに心を打たれること請け合いだ。
プロの漫画家として歩き始めたスガワラさんの今の目標は、「ドキドキきゅんとするような健全お色気漫画を描くこと」だそう。「少しアンバランスな体形を描くのが好きなので、そこにフェチズムを感じてもらえたら嬉しいです」。これからどんな素敵な物語を見せてくれるのか、期待を膨らませながら待ちたいものだ。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン117に収録

なつみん なつみんのさーくる

『おつかれ背景さん2』
B5/28P/500円/少年
生年月日…8月28日
職業…まんが家
趣味…プリキュア
コミティア歴…コミティア72から
http://natsuminnomanga.blog.shinobi.jp
アニメの背景美術の仕事の世界を描いた「おつかれ背景さん」は1ページ読切で描かれたWebマンガ。主人公・背景さんが本物の雲に対してダメ出しをしたり、救急車で運ばれても資料写真を撮ったり…、労働条件の厳しい業界の中でも楽しく仕事する様子を描いた作品です。コミティアの出張編集部に同人誌版を持ち込み、現在はWebコミック誌『ピクシブエッセイ』で連載中。来月には単行本がKADOKAWAから発売されます。
作者のなつみんさんがコミティアに参加したのは大学生時代の05年のこと。ギャグを中心に作品を発表し続け、力と自信をつけたことで、自然と就職ではなく子供の頃の夢だった漫画家への道を選びました。活動4年目の08年には『週刊少年サンデー』で読切デビュー、翌年には同誌で擬人化オムニバスギャグ「やおよろっ!」で連載を開始します。
スケジュールの過酷な週刊連載で身についたのは、とにかく早く沢山のネタを出す習慣。連載準備の半年間で30本のネームがストックされていました。「インスピレーションのまま。長く考えても最初の発想には勝てないんです。じゃあそういう漫画家になろう」と考えたそうです。この頃に身につけたネタ出しの早さは、2年間の連載終了後もプロとして仕事を続ける上で大きな武器になりました。
現在ツイッターやpixivで毎週のように作品を発表しているのは、その感覚を忘れないためもありますが、SNSでは一ヶ月見ないと「居ない作家」と思われるため。たとえ1ページでも作品を発表し続けることが何よりも重要だそうです。その取り組みの中から生まれたのが「おつかれ背景さん」でした。今では「1ページ1ネタで頻繁に更新するスタイルは自分にとって1つの定石」となりました。
今年で漫画家デビュー9年目、出版不況やWebコミックへの過渡期の真っ只中、辛いことの方が多かったと言います。それでも続けていく理由は「漫画家は編集部や出版社に振り回されるのが人生だけれど、子供の頃からの夢だったし、反響の楽しさや褒められた時の嬉しさがある」から。今後漫画家として何か考えていることを聞くと、「ないです(笑)。拘りなく何でも描きますけど、自分が描けないと思った物は描かないと思います。むしろ自分の得意なところを可能な限り尖らせるのが大事」とプロの顔を垣間見せつつ語ってくれました。今後一体どんな作品で読者の心を刺してくれるのでしょうか。楽しみにしたいと思います。

TEXT / TAKEMASA AOKI ティアズマガジン117に収録

武田春人 安パン

『お座席あたためました』
A5/20P/150円/百合
趣味…地方名菓食べ比べ
コミティア歴…11年
http://safetypandamachine.blog60.fc2.com/
武田春人は「息を吐くようにマンガを描く人」だと思う。一見して拙くラフなタッチで、思いついたネタを勢いのままに描き飛ばす。それは女学生たちの交換マンガにも似て、ちょっとした笑いと照れを織り交ぜながら、ふとしたモノローグに本音が覗く。
本人は「マンガは自分のコミュニケーションツール」だと言う。同じ志向の友人たちや、まだ見ぬ読者に向けて、自分の面白いと感じたものを形にする。コピーの手作り製本が多いのも、プライベートな手紙を受け取ったような近しさを感じさせる。
武田春人はまた一貫して百合マンガを描き続ける人である。彼女の描く物語に「事件」は起こらない。二人の少女(もしくは女性)が出会い、互いを意識し始め、ぎこちなく気持ちを確かめて告白し、両想いとなる。そんな初々しい恋愛のステップを一歩ずつ描く。読者は主人公たちの日記を覗き読むように、清しい恋が育まれるのを見守る立場なのだ。
実は百合マンガに多い会話劇は、画面の演出が難しい。台詞が多くて顔のアップも増え、コマ割りも単調になって飽きられやすい。ところが彼女の作品にはそれが無い。まず会話のリズムが自然で澱みがない。そして何よりコマ割りが巧みだ。例えば、横長のコマが多い場面では、縦長のコマを上下に二つ並べ、その間を台詞のふき出しでつないで、縦方向に読ませる。それによって視線移動のリズムを変える上手いテクニックだ。
マンガを描くのも読むのも好きと言う彼女は、この手法を尊敬する林家志弦さんの作品から学んだという。こうした研究熱心さも作家としての強みだろう。「派手できれいな絵を描こうと頑張っても、自分の描きたい話には似合わない。それよりキャラの会話が自然体で読みやすいと褒められることが多いので、それを自分の味にしようと思ったんです」
そんな彼女が『楽園』(白泉社)でプロデビューして早6年。描く作品は驚くほど同人誌と変わらない。その連載をまとめた初単行本がついに出ることになった。本人も「…マジか!?」と驚く。興味深いのは同誌の人気作家17人が、編集側の企画とはいえ、ただのお祝いコメントではなく、作中キャラの二次創作?マンガを寄稿していること。彼女の作品が多くの作家から愛されている証しだろう。その理由はぜひ本を読んで実感して欲しい。
それにしてもなぜ百合マンガ一筋なのか?「百合はまだジャンルの幅が狭い。『百合は百と一の間を描く』というつもりで、もっとこの世界を開拓したいんです」と開拓者・武田春人は力強く語ってくれた。

TEXT / KIMIHIKO NAKAMURA ティアズマガジン117に収録

りかや まのすた

『女子小学生日記10』
B5/32P/300円/青年
生年月日…昭和48年8月14日
職業…自営業
趣味…アイドルコンサート&酒
コミティア歴…コミティア106から
http://tsugunagakun.com/
40歳の無職独身ロリコン男が急死、そして記憶を持ったまま転生してしまう。『女子小学生日記』は、中身はおっさんの小学5年生・芹沢さくらが平凡な家族と学友に囲まれながら、様々なロリコン達と交流する日常を描いた、痛快お下品コメディだ。
「単純に主人公は僕です。外見は全く違うけど、さくらの言動は自分そのまんま」と、りかやさんは愉快そうに笑った。「性転換願望というか、今とは逆のものになりたいって気持ちがあって。女児になってもただの子供だから出来る事も限られてるんだろうな、と想像したり。肉体だけでなく脳も女性になったらどうなるのか…昔から興味があります」とも語る。
高校生の頃から、少年漫画をネタにしたパロディ同人誌を作ってコミケットに参加。『女子小学生日記』にはロリコンを始めとするマニアックな性のうん蓄が多く登場するが、展開自体は主人公が大活躍する王道の少年漫画だ。生き辛い性癖を抱える人々を優しい視点で描く一面もあるのが、男女問わず読者を選ばない作風の所以かもしれない。「『こち亀』っぽい、って言われたりします。読みやすさは重視してますね。下ネタはこれでも滅茶苦茶セーブしてる」。かなり危うい題材でも噛み砕いてギャグにしてしまう匙加減が絶妙である。
同人歴は三十年近くに及ぶが、二年間ほど離れた時期もあった。ハロプロにドはまりし、コンサート通いやクラブイベントの主催に熱中。「遊びまくって借金も作って、女に振られてからようやく『俺、オタクだったわ。オタクなら同人誌描かなきゃ』と思い直して、好きなアイドルの漫画でも描こう、と」ブログで約800本もの4コマ漫画を連載し、現在もハロプロ合同誌を主催。同ジャンルで知り合ったサークル『はいあかむらさき』の土岐さんからコミティアに誘われ、初めて描いた完全オリジナル作品が『女子小学生日記』だった。「『いきなりP&Rで紹介されたのはちょっとムカついた』と彼女に言われました(笑)」
今年の5月にはシリーズ10冊目が発行された。「伏線は色々用意してるし、ネタはいくらでもあるからずっと描けます。嫌いな登場人物はいません。『人間』が好きなんで」。豊富な人生経験と出会った人々が、りかやさんの作品の糧となっているのかもしれない。新作を出し続けるモチベーションは?と問うと「世界観を作るのが好き。漫画を描くのが大好きってわけじゃないけど、自分の作った箱庭の中のキャラが、『描いて』ってせがむので仕方なく応えてる感じ」と、少し照れながら答えてくれた。

TEXT / AI AKITA ティアズマガジン117に収録

松田重工 松田重工

『軍艦武蔵の最期』
B5/48P/500円/歴史
生年月日…3月28日
職業…マンガアシスタント
趣味…自転車
コミティア歴…コミティア106から
http://www.pixiv.net/member.php?id=4864062
松田重工さんの作品には「敗れ去るものへの哀切」が溢れている。太平洋戦争で奮戦しつつも敗れた日本軍。そんな彼らと共にあった戦闘機や戦艦。仲間のために戦い抜きボロボロになった姿と、その向うに見える微かな希望…。そんな骨太な作風が特徴だ。
幼少期からゼロ戦のプラモデルを作り、少年誌の戦記マンガに親しんでいた松田さん。「娯楽が少なく、好きとか嫌いとかなく生活の一部」であり、物心ついたころから戦闘機や戦艦の絵を描いていた。マンガ家を目指し出版社に作品を持ち込んだが、戦記物というジャンルの難しさ故か、雑誌での掲載には至らなかった。賞を受賞するも誌面に載らない日々は10年にも及んだ。その間、アシスタントとして様々な作家の仕事場を経験したが、現在もアシを勤める野上武志氏の下で同人誌即売会の存在を知る。コミティアへの初参加は2013年。これまで描いた投稿作を同人誌にリメイクしたところ、折からの『艦これ』ブームもあってか、予想外の好評を得る。「駆逐艦のマンガなんて誰が買うんだろう」と思っていたが、新作を出すごとに順調に読者を増やしている。物語に読者を引き込む力があるからこそ、広がる人気であろう。
朽ち果てた兵器の壊れ方一つにも、こだわりを持って描く。プロペラの素材やエンジンが止まるタイミングなど、丁寧な描写に気を配る一方、物語は専門的になり過ぎないよう注意を払っている。「笑いと泣かせのバランスは、幼少期にTVで観ていたドリフのお笑い番組が土台にあるかも知れない」と語る。一癖ありながらも真摯に生きる男たちの描写は、これまで戦記物を読む機会がなかったような若い世代をも引き込んでいる。また、松田さんが描く作品の特徴は、戦争から長い年月を経た現代のシーンが挿入されること。かつて作品を持ち込んだ先で受けたアドバイス「悲惨さしか残らない、現代との接点が無い物語は、読者にはファンタジーで終わってしまう」との言葉を忠実に守っているのだ。そこにはマンガで戦争を描くことへの強い矜持を感じさせる。
戦闘を描く以外にも、戦争をモチーフに様々な作品を描いてみたいと語る。多岐に渡るアイデアを語る熱い口調には、これからの執筆への強いモチベーションが感じられた。「好きなものを描いて発表できる場があることは素晴らしい」と、作品への生の反応が見られる同人誌即売会に、強い魅力と愛着を感じている松田さん。今後の精力的な活動と共に、より多くの読者に彼の作品が読まれることを期待したい。

TEXT / KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン117に収録

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