COMITIA120 ごあいさつ

「才能とは何か?」

「才能とは何か?」およそ、この問いほど、コミティアに参加する多くの作家たちの心を翻弄し、頭を悩ませる問題はないでしょう。職業作家ではないアマチュアの場合は、判断基準が自分の中にしかないので尚更です。たいがいの作家は、自分が今描いている作品は本当に面白いのか、読者に受け入れられるのか、不安のままに描き続けています。
「才能とは夢を見続ける力のこと」という言葉があります。これもまた一つの真理でしょう。もし「才能=霊感」のようなものだとしたら、それは目には見えず、捕まえることも出来ず、どこからか降りてくるのを待つばかり。そんな当てにならない幻を求めて彷徨うより、作品を作り続けることで自分の技量を磨き、より高いレベルを目指す方が遥かに現実的に思います。
それでも、もし生まれついての「才能」というものが本当に存在するなら…?
なぜこんな気が重くなる話題を始めたかというと、柳本光晴さんの「響〜小説家になる方法〜」(小学館/『ビッグコミックスペリオール』連載中)を読んだからです。
今年「マンガ大賞2017」を受賞した同作は、響という15歳の天才文学少女の物語です。彼女が書いた一篇の新人賞の応募小説は、紆余曲折を経て雑誌に掲載され、多くの読者や同業者を圧倒し、若き天才の出現に文学界は騒然となります。
一方、普通の高校に通い、文芸部に入った響はマイペースで、周囲の騒動を意に介しません。賞をもらっても素性は明かさず、下手にちょっかいを出そうものなら、邪魔をする相手を本気で蹴り飛ばします。
結局、才能とは世間の常識をひっくり返すものなのか。響の破天荒な行動に、周囲は最初は戸惑いながらも、その魅力にだんだんと惹き込まれてゆくのです。
目が離せないのは、文芸部の部長であり、一学年上の友人・凛夏との関係。人気作家の娘である凛夏は、同時期にサラブレッドの女子高生作家として華々しくデビューしますが、自分の実力と響の才能の圧倒的な差に気づいています。身近に天才がいて、ことあるごとにそのレベルの違いを突きつけられる残酷さ。才能とは人を不幸にする側面もあります。
傑作とは、読んだ人間の心を動かし、その人の運命をも変えるのかもしれません。その影響は徐々に広がり、もしかすると世界をすら変えてゆくのかもしれません。いま作中で傑作が生まれようとしていて、その作品もまた今回の受賞をきっかけに、広く世間に知られようとしています。この「圧倒的な才能」の物語を、ぜひ物を作る人に読んで欲しいと思います。
ということで今号のティアズマガジンでは、マンガ大賞受賞記念に柳本さんのインタビューを掲載します。ご本人による「響」の創作の秘密はぜひそちらをお読みください。
そしてまた今回のコミティア会場内企画で、今年で10回目を迎える同賞の「マンガ大賞10周年記念展」も開催します。過去10年間の受賞作家による記念イラストの展示と、これまでの記録を振り返る記念冊子が刊行されます。これまでの受賞作から数々のヒットを生んだ同賞の歴史にぜひ触れてみてください。
「才能があろうがなかろうが、俺たち・私たちは描きたいから描くんだ!」というのが、同人誌です。誰に頼まれたのでもなく、自分の中の描きたいものを探し、それを形にするために描く。そんな創作に向かう孤独の中で、完成度云々ではなく、目の前の白い紙に向かう決意と情熱こそが人を惹きつけるのです。その物を作る姿勢には、天才も普通の人もけして変わりはないと信じます。

最後になりましたが、本日は5367のサークル・個人の方が参加しています。今日のこの机の上に並ぶのは、各々の描き手が、自分の力量やらインスピレーションやら愛情やら、持てるものを全て注ぎ込み、日常生活の隙間に、むりやり描く時間を見つけ、何とか自分で決めた〆切までに描き上げた、かけがえのない作品たちです。どうぞゆっくりとあなたにぴったり合う才能を探してください。

2017年5月6日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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