サークルインタビュー FrontView

伊藤正臣 プラテート

『サパロット』
A5/60P/500円/青年
生年月日…1979年9月11日
職業…漫画家
趣味…植物栽培
コミティア歴…コミティア112から
http://ameblo.jp/ito-omi/
行き場を失った初恋と自分の住む世界の運命を変えるためタイムリープを繰り返す女の子のラブコメ『片隅乙女ワンスモア』(幻冬舎コミックス)や、浦島太郎を探して竜宮城から地上へとやって来た乙姫の冒険と恋を描いた同人誌『竜宮の夏』など、暑さ真っ盛りの夏に海辺の町で若者たちが繰り広げる青春ドラマを、ファンタジーを絡めて細やかな筆致で描き続けている伊藤正臣さん。今年でプロ10年目を迎えるが、これまでの漫画家人生は決して平坦ではなかった。
大学在学中に漫画家を志し、持込を経て『週刊少年チャンピオン』でデビューするが、初の連載は不完全燃焼のまま終了。その後、アシスタントをしながら原稿やネームを描くもボツ一色の苦悶の時期を約3年間経験。そんな時、市川春子氏の『25時のバカンス』(講談社)と出会い、際立った個性や漫画のレベルの高さに衝撃を受けたという。「今も多大な影響を受けています。好きな漫画との出会いが、自分の作風を確立するきっかけになりました」。その後、友人で尊敬する漫画家・石黒正数氏をイメージして描いた読切「ナムプラーの台所」を、関西コミティアの出張編集部で『コミックバーズ』に持込んだことが、商業活動再開へとつながった。
伊藤さんにとって思い入れ深い「ナムプラーの台所」と、描き下ろし続編を収録し、コミティア119で発表された『サパロット』は、タイ人の留学生・プックと、不登校のクラスメイト・南が、タイ料理を通じて親交を深めるひと夏の物語。ひねくれた面もありつつ、フレンドリーで純情なプックの愛らしさや、様々な食材を活かしたタイ料理の紹介、タイ語風のフォントを用いた表紙など、タイ尽くしの一冊だ。「タイは料理が好きですし、個人的に縁を感じる国です。顔が濃いので、旅行の時に現地の人に間違われました(笑)」。ちなみに、サークル名の「プラテート」はタイ語で国、「サパロット」はパイナップルのこと。作中で描かれるサパロットのダイナミックな調理法は必見だ。
6月からは、WEB漫画誌『月刊ジヘン』にて、離島に移住したタイ語の翻訳家と、人懐っこい島娘が不思議な体験をする新連載「マグネット島通信」が始まった。伊藤さんの好きなエッセンスを凝縮しつつ、新たな面も見せてくれそうな作品だ。「時間はかかりましたが、ようやく漫画家として勝負できる時期が来ました。今後も自分の好きなもの、面白いと思えるものをしっかり描き続けたいです」。伊藤さんの〝プラテート〟が感情豊かな物語を育み続ける未来が楽しみだ。

TEXT /KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン121に収録

宇月まいと MARBLE DOG

『けもいも3』
A5/32P/400円/少年
生年月日…9月生まれ
職業…フリーター
趣味…ゲーム、ランニング
コミティア歴…名古屋コミティア29から
http://zenmai.kemono.cc/
キリンがエレベーターガール服を着こなし、モフモフのアルパカがヘアスタイリストを務める。宇月まいとさんは人間の特徴を持った動物を描く「ケモノ」ジャンルで、モチーフとなる動物の魅力を大事にした作品をストイックかつ情熱的に描き続けている。
子供の頃から絵を描くこととマンガが好きで、特に『ドラえもん』はどの巻にどの話があるか覚えるほど読み込んだ。現在の絵柄の原点は中学生の頃に観た、童話や動物の可愛いキャラが活躍するテレビアニメ『アリス探偵局』。「ケモノ」という言葉を知ったのは後だったが、気がつけば動物キャラを好んで描くようになっていたそうだ。
プロのマンガ家を目指して専門学校に進学。卒業後は投稿作の受賞を機に上京し、商業誌向けの制作を始める。しかし、「綺麗にまとめようと考えすぎ、面白味のない作品しか描けなかった」時期が続き、ついには3年ほどマンガそのものが描けなくなってしまう。歯がゆさを抱える中、復帰のきっかけとなったのは「商業誌にこだわらず、自分のやりたいことだけで、不真面目を突き詰めて面白くすることに専念しよう」という発想の転換だ。それからは同人活動を通じてマンガを描ける自分を取り戻していった。
自身も「アホ」と語る代表作が、野生動物が織りなすコメディ『マーブルアニマルズ』シリーズだ。「好きな動物の良さを分かってもらうための舞台や設定やセリフを考える」と彼らの生態的な特徴を生かした物語を描く。宇月さんの手にかかればキリンの首は地上と樹上をつなぐエレベーターになり、果ては軌道エレベーターのように宇宙まで伸びていく。自由奔放な発想によるキャラ作りが彼の実践するキャラクター愛であり、本シリーズで確立した創作スタイルだ。
獣人学園ラブコメの連作『マーブルパッシオネ』では、動物的な風貌や野性味あふれた言動など、人ならざるケモノキャラならではの醍醐味を突き詰める。例えばアルパカであれば体毛の麗しさに注目し、自他の毛並みの美しさを追求するスタイリストとして描く。「自分好みのものを他の人は描いてくれない。だから自分で描く」と自給自足の極地にあるからこそ目指す水準は高い。
「新作を発表するたびに、次はさらに面白いマンガを描ける、と感じる」と飽くなき向上心を見せる。目指すのは『ドラえもん』のような「年月が経っても、何回読んでも面白いマンガ」だという。読者を惹きつける動物を描く手は、幼い日に触れた憧れの世界を自ら作り出さんと今日も動く。

TEXT /TAKASHI MENJO ティアズマガジン121に収録

マイカタ マイカタ工業

『ぽっちゃりなカノジョ』
B5/44P/600円/少年
生年月日…1月6日
職業…まんが描き
趣味…美味しいものを食べること
コミティア歴…コミティア84から
https://twitter.com/maik_ata
マイカタさんの初商業作品『かたくり』は、IT企業で働くWEBクリエイターの日常を描いたショートコミック。WEBマガジン『モアイ』(講談社)での連載の後、3冊同時にフルカラーでコミックス化(一迅社)されました。主人公が働く拠点の縮小と閉鎖を経て独立し、状況に翻弄されつつも懸命に自分の生きる道を探る同作は、重くなりがちな展開ながら、WEBで読みやすい1P読切の軽い読み口に仕上げられ、ショートが得意なマイカタさんらしい作品となりました。
連載当時は実際にWEBデザインの仕事をしていたマイカタさん。その時の経験から、ターゲットがハッキリしているほど、その対象外の人にも届く、という感覚を持ったそうです。たとえば化粧品のサイトを作る時、「20代後半対象の化粧品」だときちんと伝われば、ハタチ前後の子がオトナっぽいメイクをしたり、40代の人に若めのメイクへ挑戦してもらえる。これはもしかしたらまんがも同じじゃないか。読んで欲しい人に向けて描くことで、本人も自覚していないような欲求にも刺さるのでは? そう考えて描いたのが、ケモ女子中学生3人組の放課後トークを描いた『ケモ女子ひみつ会議』です。「『ケモ好き』ってニッチな性癖と捉えられてるけど、認識がないだけで、人類みんなケモ好きなんです」。ケモ好きじゃない人にも好きになってもらえるように、ケモ好きのまんがを描く。逆説的ながら、こうすることでより多くの人に興味を持ってもらいたいそうです。
その活動の原点は中学生時代の漫研。中高一貫だった学校の先輩方と一緒に描いて見せ合うのが楽しかったとのこと。「漫研での体験が凄く残っていて、コミティアに参加するのも部活に遊びに来ている感覚。そうやってみんなと交流するのが、まんがを描く大きな目標、目的ですね」と語ります。ふくよかな女性がテーマの季刊誌『ぽちゃいち』シリーズや、総勢60名を集めた合同誌『体がエロいモブ顔女子ってなんかむちゃくちゃエロいよね』など、コミティアでも企画本を多数主催し、全力で同人活動を楽しんでいます。
「描きたいものがある、というより、目的に合わせて作品を作る方が私は作りやすいし、自信がある。作家よりも制作者、芸術家よりデザイナー、なんだと思います」というマイカタさん。ブランディングを意識した編集姿勢など、これまでの仕事のキャリアが生きています。「マイカタ工業」というサークル名は、小さい頃からお店や会社をやりたかったというご本人の、形を変えた「ファクトリー(工房)」の名前なのかもしれません。

TEXT /TAKEMASA AOKI ティアズマガジン121に収録

川崎昌平 polocco

『本のない島』
A5/48P/500円/青年
生年月日…1981年9月28日
職業…作家・編集者
趣味…読書
コミティア歴…コミティア104から
https://twitter.com/shouheikawasaki
「本なんて売れるわけないだろ」小さな出版社で働く編集者の日常を描いた『重版未定』(河出書房新社)が「リアル過ぎて泣ける」と出版関係者の間で話題になっている。業界のシビアさを描く一方で、脱力系のシンプルなキャラクターと画面構成の巧さ、切れ味の良いセリフ回し、といった斬新な表現力も見逃せないポイントだ。
著者は本業が書籍編集者という川崎昌平さん。人気マンガ『重版出来!』(小学館)を読んで感銘を受けながらも、作中の大手マンガ雑誌の編集者達と自らの仕事スタイルの違いに驚き、あえて自身のこれまでの編集経験を元にマンガを描いて同人誌にしてみた。それがひょんなことからWEB連載となり、商業出版に結びつく。しかも見事「重版出来」されるという出来過ぎた逸話もある。
「出版社は日本全国で約4千社あるけれど、その内の9割以上は弱小と呼ばれる規模。しかし本を作って未来に残すため、出版文化には彼らが必要不可欠な存在であることを伝えたい」そこには出版不況が叫ばれる現代にも、「本」という表現の形を愛し、編集の仕事を愛する川崎さんの、形を変えた熱い思いが詰まっている。
コミティア参加のきっかけは売り子の手伝い。「ただ行くのもつまらないから、自分もマンガを描いて同人誌を出してみようと思った」とのこと。編集者とは別に作家としての顔も持つ川崎さんだが、会場で実際に読者が目の前にいる新鮮な感動や、出版社相手の仕事とは違う、作品作りのための自問自答など、いざ始めてみると同人誌の自由さと楽しさにやみつきになった。
「現代では編集者の役割も、場所そのものに委託できると思うんです。例えばWEBメディアはそれ自体がスクリーニング(淘汰)をしてくれる。そこから育つ作家も多い。僕はコミティア自体も一種の編集行為だと思う。参加者という何千人の読者と何千人の作者を結びつける場が編集の役割を果たしている」
現在は、編集者として働きながら「本のことを学ぶ日々」と言う。そのインプットした成果を著者としてアウトプットしながら上手にバランスを取る。「今はみんなが読者になれて、作り手になれる時代」と語る川崎さんは、自作中に登場する架空の出版社「漂流社」を一人版元として立ち上げ、Amazonから電子書籍で『労働者のための同人活動入門(仮)』を出すという。その同人誌版は8月のコミティアで。激動の出版改革の時代に生きる新世代のトップランナー・川崎昌平のこれからにますます目が離せない。

TEXT /HARUKA MATSUKI・KIMIHIKO NAKAMURA ティアズマガジン121に収録

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