サークルインタビュー FrontView

9℃ low*temp

シュジュウノジジョウ
B5/34P/500円
職業…漫画家
趣味…漫画を買う、読む、描く
コミティア歴…コミティア111から
https://twitter.com/kudo_9c
群像劇のようなキャラ同士の掛け合いと関係性を描く9℃(くど)さんにとって、キャラとは「単なる役者さんじゃなくて、そのままキャラでいる」存在だ。キャラに演技をさせるのではなく、作品世界の中で生きる人間としての人生を切り取って描く。そのスタンスには、マンガの手段を超えた、キャラにかけるまっすぐな信念と情熱がある。
幼い頃からお話を考えることが好きだった9℃さん。「人形を両手に持ちながらじっと黙って、頭の中で二人のお話を作って遊んでいました」。小学校では作文力を鍛えられ、読書感想文で表彰されたり、児童会長としてスピーチをしたりと優等生だった。中学校では友達同士で流行ったリレー小説にも熱中し、文章力と創作力をさらに磨く。絵を描くことも好きだったが「その頃はまだマンガを描くガッツはなかったので、好きだったマンガを真似して描いたキャラの隣に設定とあらすじを書いて、それで満足していました」
マンガを描き始めたのは高校生の頃。漫研に入り、積極的に創作活動する周囲に刺激を受けた。初めての同人活動は大学時代の14年。読者の反応が目の前で見られる即売会の楽しさに目覚め、15年にはコミティアに初参加。さらに同人活動がきっかけで在学中に商業デビューも果たす。しかし、マンガはあくまで趣味や副業、本業にしようとは夢にも思わなかった。その考えが変わった作品が、16年の社会人一年目にコミティアで発表した『目黒さんは初めてじゃない』だ。ティアズマガジンで紹介され、出版社10社ほどからオファーが。その手応えで「これなら専業としてチャレンジできると思って退職したんです」。挑戦は成功し、現在では3本の商業連載を持ち、多忙なプロ生活を送っている。
会話劇の中で「自分の人生や相手との関係が少しずつ変わっていく過程を描く」ラブコメが9℃さんのスタンダードだ。「良い違和感」と表現するその変化の始まりは「ピュアで何気ない、だからこそ心に響く言葉」によって生み出される。例えば『目黒さんは初めてじゃない』では、クールな目黒さんがウブだけど情熱的な古賀くんの言葉に心ゆるみ、次第に笑顔を見せていく。「私のキャラはこれまでにリアルで出会ってきた全ての人がごちゃまぜになって生まれています。人と会って自分が変わる経験をしてきたから、私だからこそ描ける出会いと変化のお話を描きたい」
「思いついたお話は他の人と一緒に楽しみたい」と、商業連載のかたわらで同人活動も続け、即売会参加のたびに新作を発表。この2年間に出した本は16冊におよぶ。BLやパロディまで幅広いジャンルで活動するが、どの作品にも共通するのは、キャラの人格をありのままに受け止めて肯定する存在を描く人間愛だ。目指すのはキャラ全員が最後には幸せになれる世界。「どんなキャラも自身の人生の主役。悪い人や負けた人は作りたくない。辛い出来事も、生きていく上で意味のあることなんだ、とポジティブに思える描き方をしたいです」

TEXT /TAKASHI MENJO ティアズマガジン125に収録

肋骨凹介 肋屋

柔い境い
A5/38P/400円
職業…会社員
趣味…まんが
コミティア歴…名古屋コミティア43から
http://hekosuke.blog.shinobi.jp/
「死にビールとなんか違うの?」「生ビールってそういう概念じゃなくてね」
そんなとぼけたやり取りが、不思議な違和感のまま延々続いてゆく。普通の生活をしているのに、肝心なところだけスポッと抜けた人物を描いた1コママンガ「知らないタイプの人」。日常の疑問を直接ぶつけてくる、有りそうなのに実際には無いという絶妙なあるある(?)ネタの連作です。
中盤、彼女の生い立ちと「知らない理由」が明らかになる展開に驚かされ、ラストは想像を超えたハッピーエンドを迎える。トゥギャッターにまとめられ、話題となったこの作品を描いたのが肋骨凹介さん。WEBを中心に、1コママンガやショートコミックを描く作家さんです。
元々ツイッターで発表していた作品だけに読者の反応もダイレクト。「この人はどんな悲しい境遇なんだろう」「事故で記憶を失ったのか」「組織に囚われて何も知らずに育ったのか」といった様々な感想を見かけ、それと被らない展開に頭を捻って、納得のいくエンディングが生まれたそうです。
子供の頃は自由帳にマンガを描いて仲間内で見せ合っていたという肋骨さん。本格的に作品を描き始めたのは、PCとペンタブを手に入れた大学生の頃。ホームページに作品を載せ、ランキングサイトなどへ登録する傍ら、辿り着いたのが「週刊少年ワロス」という投稿型サイト。2ちゃんねる発祥のサイトで、コメントが多いのが特徴でした。読者の反応に曝されながら、さらに予想し得ない展開にしようという作家の性分はそこで培われたそうです。在学中だけで1000ページ以上も発表し、友人に誘われて同人誌を作って、コミティアにも参加するようになりました。
1コママンガの他に、肋骨さんが得意なのはショートコミック。『柔い境い』収録の「待たせた」は、10Pの中に幼なじみとの恋愛と再会、そこにSFと宇宙人を混ぜた(!?)ラブコメ。この他にも、宇宙船に轢かれた新婚さんの話や、自己犠牲が過剰な恩返しの話、尋常でなく運が悪いカップルの話など、独自のアイデアが光る作品を数多く発表してきました。
同じ内容であれば、読むにも描くにも短い方がいいという方針の肋骨さん。とにかくアイデアをどう活かすかが最優先です。1コマに収まるなら1コマで。1コマでは情報量が多すぎたら2コマ、ダメなら1ページ、2ページと見積もっていきます。見せたいアイデアを絞り込んで、コンパクトに引き立たせる作り方だからこそ、スッキリした読後感が生まれるのでしょう。
今後の同人活動については「つい短編集になりがちだけど、たまには読切サイズのものもやりたい」と、緩いようでありながら、しっかりとしたビジョンを語ってくれました。今は主にツイッターでまず発表することが多いとのこと、これからもチェックを続けていく必要がありそうです。

TEXT /TAKEMASA AOKI ティアズマガジン125に収録

381 数字屋

テレビの出来方
A5/36P/400円
職業…会社員
趣味…マンガ読み
コミティア歴…コミティア114から
https://twitter.com/381
痔・事故物件・整形・離婚・アル中…381さんは自分自身や身近な人の、一見するとショッキングで重めのテーマを、軽妙な実録マンガに仕上げる名手だ。「自虐自慢はしたくないんですよね。自分を美化したくは無いけど、悪くはもっと描きたくない。でも、とにかく良い人には見られたい!」
東京都町田市の団地群で生まれ、幼い頃から両親の影響で様々なジャンルのマンガを読みながら育つ。『4年2組アル中先生!』で描かれた通り、小4の時にはなりゆきで学級委員に。「アル中の担任を抱えたクラスを回すのが大変で」反動からか5年生からグレ始め、中学の頃は渋谷でチーマーの喧嘩を眺めていた。「うちの団地に初めてルーズソックスを持ち込んだのは私だと思います」。周囲にオタクな友達はおらず、マンガや映画の嗜好はサブカル寄り。『やっぱり猫が好き』を観ながら、バブル当時のボディコン女性の絵を描いたり、楠本まきの模写をしていたという。
高3の1月、心に秘めていたデザイナーになる夢を捨てられず、親に泣きついて美大を目指し浪人の末に入学。「CGと写真を学んで、モンティ・パイソンみたいなのを作ってました。今の仕事でも同じような事をしてます」。バイト先だったテレビ番組制作会社にそのまま就職。ハードスケジュールの中、発注される多種多様なデザイン業務を片っ端からこなしていく内に、勤続年数は20年を越えた。
「コミケに行ってみたくて」mixiで書き溜めていた痔の手術体験記を元に、同僚と初めて同人誌を作りサークル参加したのが7年前の35歳の時。ちゃんとマンガを描き始めたのは、二冊目の同人誌『事故物件買ったったったった』からだというから驚きだ。「大人になったからマンガに描けるようになりました。若い頃だったら処理できなかったような事も、今ならネタにしてやろうと思える(笑)」
コミティアには友達の勧めで参加する事に。「プライドがぶつかり合う音がするような場の雰囲気にのまれた」ので一度きりで止めるつもりが、『事故物件』がP&Rで紹介されたため再び出展。以降、継続して参加している。「読まれている実感があるのが面白い。テレビの世界と違って、即売会は目の前に買った人が『いる!』っていうのが楽しいですね。出してもらったお金の分の価値が、自分の本にあるのかなって事ばかり考えてます」
マンガを描く事は、普段の生活では交わる事が無いような、不特定多数の『まともな人々』とコミュニケーションを取る手段だという。「私は主役ではない。独身だし子もないし、世間の大多数には属していない。だから、面白がってくれるんじゃないかなって。『自分にもこんな人生があったかもしれない』って思って欲しくて、マンガにして届けてるんです」
381さんが生きている限り、描くネタはまだまだありそうだ。「ネタの種みたいなものは周りにフワついてるので、これが発展すれば…今酷い目に遭いつつある事とか、まだ面白い話になるかわかりませんけど。みんな本当に人の不幸話が好きですから、アハハ!」

TEXT /AI AKITA ティアズマガジン125に収録

吉田誠治 TNK

BOOKTALES
A4変形/20P/500円
職業…背景グラフィッカー、イラストレーター
趣味…料理、映画鑑賞、読書、旅行
コミティア歴…コミティア47から
http://yoshidaseiji.jp/
背景グラフィッカー兼イラストレーターとして活動しながら、現在は美術系大学の講師として後進の指導にも当たっている吉田誠治さん。その手が生み出す細密な風景画は世界そのものの脈動を感じさせる奥深さとリアリティを持ち、多彩な「空想世界」を私たちに見せてくれる。
吉田さんのクリエイター人生の原点は幼少期に遡る。両親が共に図書館司書、親類の大半は学校の先生というアカデミックな家系に生まれ、家にある膨大な量の蔵書を貪欲に読んで育った。お気に入りはミヒャエル・エンデの児童文学、グラフィックデザイナー・堀内誠一の絵本、そして2人の漫画家の作品。「父がコレクションしていたつげ義春や大友克洋に影響されて、リアルな背景を描くようになった気がします」。ゲーム業界への就職を目指して美大に進学し、在学中からPCゲームメーカーに勤務。その後、背景外注の仕事をメインにこなし、フリーの背景グラフィッカーとして業界内での評価を確立した。
クリエイターとしての知名度を向上させたのは、3年前に始めた「ワンドロ」、SNSで流行していた1時間ドローイングへの挑戦だった。「当時は背景ワンドロの人口が少なかったので、これはチャンスだぞと思いました。『1時間でもこれだけ描ける』というお手本を見せれば、皆に興味を持ってもらえるだろうし、他の背景描きをビビらせてやれるって思って(笑)」。約2年の間にツイッターに投稿された130点のイラスト群は話題を呼び、ワンドロ開始以前は400人程度だったフォロワーが、現在は13万人超にまで増加。公開したイラストとメイキング、作品の詳しい解説を収録した同人誌『60╳60』シリーズも好評を博した。
背景イラストとは別に、吉田さんがライフワークに位置付けているのは絵本の制作だ。同人ではこれまでに、ペット用の小型ドラゴンを飼育する方法を解説した『竜のそだてかた』や、暗闇の世界で少女が不思議な体験をする『くらやみ守』などを発表している。「絵本の良さは、誰が読んでも安心して楽しめること。作者の思想を作中にさり気なく紛れ込ませて、子供の情操教育に影響を与えられることだと思います」と語る。
絵本の最新作『BOOKTALES』では、本が好きな少年と少女が、読んでいる物語の世界を旅する姿が描かれる。人々を困らせる王様や人懐っこいドラゴン、空を飛ぶベッドなど、ファンタジー世界の住人たちと、少年少女が繰り広げるドラマのワンシーンが描かれ、キャラクターの目線で驚きを体験したり、場面の前後を想像する楽しみを味わえる。
絵本作家としての挑戦はまだ道の途中だが、吉田さんは今後の大きな目標を掲げている。「1冊でも良いので、世界中の人に見てもらえる絵本を描くのが夢です。それを読んで人生が変わるような子供が生まれてくれたら嬉しいですね」。多くの人々に愛される渾身の1冊の誕生を心待ちにしたい。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン125に収録

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