サークルインタビュー FrontView

西塚em ピンキナ

多肉アクアリウム図鑑
B5変型/20P/600円
職業…水彩画家
趣味…多肉植物の飼育
コミティア歴…2010年から
https://twitter.com/doxxxem
美しい草花に囲まれた可憐な少女、目を凝らすとそこには巨大なイモムシ。透明水彩で描かれた奇妙な組み合わせは、見る者の視線を惹き付けてやまない。水彩画家として個展を定期的に開催し、小説の挿画やマンガ家としても活躍する西塚emさんはその世界を「ソフトアングラ」という造語で称する。「アングラの『エログロ』『陰鬱』『痛み』のようなイメージをすごく希釈して口当たりを良くしたもの。異界への架け橋となり、ここから慣れていってもらうためのものです」。寄生虫、軟体生物、食虫植物、脳漿…通常はグロテスクと敬遠されがちなモチーフたちを「上品で華やかになるように色を選び」、美しく仕上げる作風にはファンも多い。
複雑な家庭環境の中、多感な思春期を過ごした西塚さん。『悪魔城ドラキュラ』シリーズに浸り、耽美・サブカル文化に傾倒していくうち、級友達から自分が浮いていることに気が付き始める。だが、そこで迎合することなく「好きなことを好きにやってやろう!と制服を改造していたら珍獣扱いされました(笑)」。そうしていくうちに他人とのコミュニケーションに壁を感じるようになった。意識が変わったのは高校時代、地元の同人誌即売会に参加したのがきっかけ。「そこで出していた本を購入してくれた美術部の後輩がいたんですが、後日『あのとき目がやばかった』と言われたんです」。せっかく作品を気に入って購入してくれたのに気分を害するような態度は良くないと、自分を見直した。
成人後は画家として各地で開催される個展やグループ展、同人誌即売会などに参加しつつ、地道に仕事を得ていった。東京のコミティアへの参加は10年。金銭面の苦労もあり、絵を描くことを諦めかけた時期もあったが、その活動の中で得られた受け手の反応や先輩達の言葉に勇気づけられた。
16年には、それまでの多くを語らないイラストの作風から一転、ホラーマンガ『悪夢録』を同人誌で発行。マンガ家としての道を切り開く契機にもなった同作は、激しい感情や憎悪をむき出しにする登場人物達が描かれた衝撃作だ。「実在する人が辛い目にあってるのは見たくないですが、非実在だと苦しんでる姿を見たい人は…意外と多いのでは」という言葉にはどこか説得力を感じる。18年にはそのキャラクターが一部登場する『蟲籠奇譚』(全3巻)を『コミックDAYS』で連載。転校生の夢飼ねねが、虫愛づる生物部の部長に取り込まれていく様を描いた。とことん蟲への愛を突き詰め、コミカルなやりとりを交えつつも、ひとりの人間の心の奥底をえぐり出すような描写は、氏の新境地とも言える。
多方面での仕事を引き受け、活躍するための秘訣は「〆切を守ることが一番ですね…」と謙虚だが、その創作活動は常にパワフルだ。最後はそれを裏付ける印象的な言葉で締めよう。「まだ世の中に存在してないものを作る快感、脳汁、宣教、自分のカワイイを誰にも邪魔されずに描けるのさいこう!」

TEXT /JUNKI TERAMOTO ティアズマガジン129に収録

2C=がろあ ホンノキモチヤ

ふくざつな
わたしたちのおはなし
B5/36P/700円
職業…イラストレーター兼漫画家
趣味…旅行
コミティア歴…コミティア100から
https://honkimo.com/
心に傷や痛みを抱えていても、微笑みを浮かべて前に進み続ける。2C=がろあさんが描く女性たちは、紛れもなく「大人」だ。同じように大人になってしまった読者にとって、その姿は眩しくも胸に沁み入る。
「ホンノキモチヤ」は、実は2Cさんがストーリーとネームを、がろあさんが作画を担当する2人サークル。2000年代初頭にゲーム制作会社で出会って以来、様々なジャンルで創作をしてきた。その特徴は、本を作るために手を動かすのみならず、体当たりの挑戦を厭わないことだ。「コミティア初参加の時期はビールにハマっていて、お酒の紹介に飽き足らず発泡酒を自作する本を作りました。位置情報ゲーム『Ingress』に夢中だった時は海外の様々な国に出かけてはレポートを描きました。今はとにかく百合を描くのが楽しいです」
二次創作ジャンルでは少女同士の百合を描いていたが、一次創作では自身が年齢を重ねて得た経験や思いを大人百合に反映できると考えた。同人誌で初めて描いたオリジナル百合作品『鼻に抜ける恋』は、会社の喫煙室から始まる、恋の痛みと勇気に満ちた作品だ。雰囲気や感情に流されず、葛藤を乗り越えて迎えるラストシーンは、溢れる苦味がたまらない。「社会人としての立場と恋愛感情との板挟みやギャップ、そこから生まれる感情のせめぎ合いなど、大人同士の恋愛だからこそ描ける世界があると思います。失恋の話でも前向きな締め方にしたのは、自分も大人になったためかも知れません(笑)」
以来、この1年で描いた百合作品はなんと10冊近くにも上る。二人体制で執筆していることも速さの一因だが、イベントには必ず本を出したいという意志が強い。「地方イベントでは、開催される場所に因んだテーマでマンガを描くことが楽しいです。現地では初めて自サークルの本を手に取る方も多く、新鮮な反応を貰えることが嬉しいです」。直近の目標は全ての地方コミティアへの参加というから頼もしい。
これまでも折々の好きなジャンルには全力で取り組んできたが、百合作品はこれまで以上に描き続ける予感があるという。それは恋愛の先にあるものを描きたいという思いにも現れている。「大人になってから親の苦労が分かるように、一緒に暮らしていても理解に時間がかかることに目を向けるようになりました。キャラクター同士の出会いや恋愛の先、暮らしの中で様々な差やギャップの変化を描いてみたいです。時間はかかるでしょうけど、チャレンジしたいテーマです」
大人を描くからこそ、かつて全力を傾けた「お酒」や「旅行」といった要素が作品に活かされていると笑う表情には、作家として力量が増した実感も伺える。気力も経験も充実している今だから描ける作品。その熟成した味わいに酔わされる瞬間が、今からもう待ちきれない。

TEXT /KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン129に収録

smison

will
A5/22P/400円
趣味…絵を描くこと
コミティア歴…5年
https://smison.net/
丸みを帯びた可愛らしい画風。絵柄の柔らかさとは裏腹に、作者であるsmisonさんの姿はストイックそのものだ。「本当に描くのが好きなだけなんです」と、自由にできる時間はひたすら描き続ける。「好きなものを好きなように描けるのが、何よりの幸せです」と、同人という形で創作を追求する。「何かのために絵を描くのではなく、絵を描くために他のすべてをしているところがあります」
絵を描き始めたきっかけは、ゲーム雑誌の読者ページのイラスト。素敵なイラストに心奪われ、「思い通りに絵が描けたら楽しいだろうな」と思い、練習し始めたという。その後インターネットにイラストを上げ始めてからは、創作が人生の中心となった。デジタル・アナログを問わず様々な技法を試し、静物・石膏デッサンに力を入れたこともある。「あまり活かせているかはわかりませんが、今も描き込む時は、当時のデッサンの勉強を思い出します」と語る。
ずっと好きだった漫画を初めて形にしたのは、11年のとき。最初の同人誌はコピー本だった。以後色々なイベントで作品を発表し続け、14年にコミティアに初参加する。そこで感じた居心地の良さが、参加を続けるきっかけになった。
「今よりもっと素敵な漫画を描きたい」という最初の同人誌発表から変わらぬ思いで、四コマから十数ページの中編まで、ほぼ毎回新刊を出し続ける。幅広い発想から生み出される作品は、SFとも日常とも取れる、少し不思議なショートショートが中心。とにかく楽しく読んでもらえる漫画が毎回の目標と語る。「斜め上の発想や新しい視点を常に取り入れて、読者を驚かせたいですね」
継続した活動の根底にあるのは「毎日イラストをネットに上げる」という習慣付けに加え、確実に作品を描き上げる徹底したスケジュール管理だ。一冊の構成を決めてから執筆予定を組むが、その日程は必ず丸一日の「ネタ出し」から始まる。アイディアは、割と必死の思いで出してます」との通り、ひたすら手を動かし、思い付くことを描き出す。その後は完成まで毎日、時間の取れる限り机に向かう。「たくさん描くためであれば何でもしたい」と、最近では端々にCGの技術を取り入れる。「同人誌を出し続けるのは、入稿という絶対の〆切が欲しいからです」
「ネタ出しの時、たまに自分の思いそのものを描きたくなる」と言う。最新作『will』は、先に道が無いことを知りながら前へと歩く白服の少女と、それを口酸っぱく突っつく黒服の少女の話。ひたむきに前進する白少女の姿は、描きたいものだけを追い求める生き様と重なる。作品は、白少女に根負けした黒少女が「好きにするがいいさ」という言葉と共に消えるシーンで終わる。自分を突き放したようなその台詞を、諦めに似た微笑で言わせる潔さこそ「創作者・smison」の底知れぬ魅力の原点なのだろう。

TEXT /HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン129に収録

またよし システムキッチンぱんつ

シュレディンガーの螺子
B5/24P/600円
職業…イラストレーター
趣味…散歩
コミティア歴…コミティア87から
https://twitter.com/matayosi
一本一本重ねられたハッチングの線は静かに対象を形どり、色彩は温かなグレートーンに包まれている。白い背景から浮かびあがるのは、無垢で儚げな制服の少女や童話に出てくるような鷲鼻の老婆たち。密度のある点と抜けのある面の調和が心地よく美しい。またよしさんはイラストレーターとして、青少年向け小説の装画や挿絵で活躍中だ。
幼い頃から絵を見せると「よく描けたね」と母親が喜んでくれたので、得意に思えるようになった。中学高校では美術部に所属し油絵で美大を志願するも、多浪の末に進学を断念してしまう。「美大予備校で絵に対する自信をバキバキに折られましたね。周囲の技術に敵わず自分を見失うことが多くて、描くことに向き合えなくなっていきました」
事務のアルバイトを始め、絵から少し距離を置くようになっていたが、パソコンで『お絵かきチャット』に参加するようになったことが大きな転機となった。「純粋に絵を描くことが好きな人たちが集まっていて、レベルも高く切磋琢磨できる場所でした。『自分が本当に描きたいものは何か』を考えるきっかけになりました」。オンライン上の合作や交流は心のエネルギーになっていった。
3年程お絵かきチャットに通いつめ、絵への情熱を取り戻したまたよしさんは、プロのイラストレーターになることを志すようになる。持ち込み営業に苦戦しつつも、オリジナルのイラスト集を携えて08年にコミックマーケット、09年にはコミティアへ参加を始めたことが実を結び、次第に依頼が増えていった。今年は大丸・松坂屋のお中元ギフトカタログのキービジュアルを手がけ、「これまで応援し続けてくれた母親を安心させられたことが一番嬉しかったですね」と話す。
多忙な仕事の合間にも同人誌の制作は続けている。「趣味の絵は私だけのものなので、自身が満足できるかにこだわっています。思い切り好きに描くことが、仕事の絵にも良い影響を与えています」。イラストレーターの夜汽車さんとの2冊目の合同誌となる『シュレディンガーの螺子』(19年)では、表紙は合作で、交互に描き進めたところ互いの個性が混ざり合い自分の絵の新たな一面を発見した。また、相方の菅野裕司さん原作の絵本『かみながのリコ』(09年)や漫画『芽ばえコンチェルト』(18年)などストーリーやキャラクターの心情を表現することにも挑戦している。
またよしさんにとって絵を描くとは、「どんな感情の時でも気持ちを落ち着かせられる、自分と向き合うこと」という。納得いくまで線を引き続け、画面が心地よくなる一瞬を待つ。「上手い人がいっぱいいて、自分が描く意味を見失いそうになった時は、予備校の先生に言われた『お前が描けばお前の絵になるんだよ』という言葉を思い返します」。年々絵を描く楽しさが増していると微笑む。「楽しいと思えることを続けるのが一番大事です。やめてしまいそうな時もあったけど、続けて来て今は本当に良かったなぁと思います。描きたい想いがある限り、描いていたいです」

TEXT /HARUKA MATSUKI ティアズマガジン129に収録

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