サークルインタビュー FrontView

zinbei 瀝青の海

れきいし街歩き
-東京 浅草七福神編-
A5/54P/500円
職業…漫画家
趣味…旅行・温泉、民俗学、映画
コミティア歴…コミティア92より
https://lit.link/zinbei
実際に見たことはないけど、どこにでもありそうな景色。そこに佇む、時に笑顔を浮かべ、時に沈んだ表情の女の子。そんな日常的なワンシーンを、zinbeiさんは柔和な線と色彩で優しく切り取る。イラストのみならずマンガでも活躍する氏の作品を読むと、身近な題材や登場人物の行動に、デジャブにも似た共感を覚えてやまない。
出身は山形県酒田市。雄大な自然に囲まれて育った。「娯楽が少ない土地だったので、『週刊少年ジャンプ』や『ちゃお』といった雑誌を家の中で回し読みするのが楽しみでした」。幼い頃からいろんなジャンルのマンガに触れてきたという。絵を描くのが好きだった家族から受けた影響は大きく、「小学校中学年くらいの時、兄からペンタブを五千円で譲ってもらったんですね。『パソコンでも絵が描けるんだ、すごい』って驚いて、絵を仕事にしたい、とはっきり思うきっかけになりました」と振り返る。デジタルでの作画に親しむまま、中高時代にはイラスト投稿SNS『drawr』に参加するようになったのは自然な流れだった。
初めて同人誌に寄稿したのは高校生の時。「『drawr』で知り合った作家さんの縁で、コミティア92に出す合同誌に参加したんです。東京に行くのも初めてで、こんな大規模なイベントがあるんだと圧倒されました」。描き上げたのは、本格的なコマ割りを駆使した十数ページのSFマンガ。腰を据えてマンガに取り組んだのはこの時が初めてというから驚きだ。「自分の好きな絵を細かく沢山描けるのが、イラストとは一味違って楽しかったですね」
その後は個人でもサークルを立ち上げ、現在に至るまでコミティアに参加している。特徴的なのは、発表する作品のスタイルが毎回多様なことだ。その内容はイラスト集やラフスケッチ、短編マンガなど多岐に渡る。一見捉えどころがないようにも思えるが、その真意は「その時描きたいものを描くことを大事にしている」からだという。たとえば22年発表のフルカラー画集『Hydrosphere』収録の一部作品や今年5月の「ティアズマガジン144」表紙では、背景に想い出深い山形の風景をさりげなく盛り込んだ。「創作する上での大きなテーマが、『自分が何が好きか』を発信し続けることなんです」。その姿勢は編集者の目にも止まり、現在は「GetNavi web」で『ほろ酔い道草学概論』を、「やわらかスピリッツ」で『酒と鬼は二合まで』(原作:羽柴実里さん)を連載中だ。「大好きなお酒をテーマに商業マンガを描けているので、今までの活動がひとつ結実した思いです」
商業連載で多忙な日々を送りながらも、今後も興味の赴くままに同人活動を続けていく。「読者の方が感想を返してくれると、その反響で自分の中の『好き』の形がより明確になり、再発見したりもします」。作品を通じてzinbeiさんと気持ちが共鳴し合い、ともすればそれがまだ見ぬ作品の源となる…。読み手としてこれ以上に楽しみなことはない。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン146に収録

ぽろ山 平行線の夢

柔らかな十字架
A5/92P/700円
職業…漫画家
趣味…インターネット
コミティア歴…6年
https://twitter.com/porosanba
子どもを持つことが免許制となったディストピア社会を舞台に、子どもを望む夫妻と彼らの適性を見定める子ども役の「扶養審査官」による家族の物語。ぽろ山さんの初商業連載「星屑家族」(幌山あき名義/コミックビーム/23年刊)で描かれる、感情を揺さぶられるドラマチックな展開、そして儚くも優しさに溢れた世界観は、彼女の描く作品全体に通底している。
幼少の頃からマンガが大好きで、実家にあった雑誌はいつも隅から隅まで読みこんだ。小学校の友だちと一緒に描き始め、ホッチキス留めの回覧誌を作って、隔週連載までしていたそうだ。進学と共に周りは抜けていっても、彼女だけは描き続けた。高校時代にはイラスト投稿雑誌『スモールエス』の投稿者対象の合宿でコミティアを知り参加を始める。大学卒業の頃、マンガで食べていこうと決意。海外の留学生活でストレスが溜り、熱意を注げる場所を求めていた。コミティアでは描いたマンガをいつも複数の出張編集部へ持ち込んだ。「とにかくマンガが上手くなりたくて。自分の強みは何か、どこが面白いかを探して、千本ノックを受けているつもりでした」
ほどなくして新人賞を受賞し、商業誌デビューを飾るが、雑誌のニーズと描きたい物が合わずに不遇の日々が続く。そんな中、コミティアで本を買ってくれる人の顔を思い浮かべ「まず自分のマンガを面白いと言ってくれる人に向けて描こう」と気持ちを切り替えた。立ち直りのきっかけは20年にSNSで発表した「マーブルビターチョコレート」。自由奔放に生きるパパ活少女と彼女をルポライトする売れない女性小説家の二人が主人公の百合物語で、読者の反響も大きく、自信の回復にもつながった。同作はKADOKAWAから単行本化され、初めての連載仕事に結びつく。
今年に入って久々にコミティアに参加。『そして二人でエチュードを』『柔らかな十字架』を続けて発表した。どちらも自分に惹かれて同じ舞台に立った天性の才能を持つライバルが、主人公を挫折から救おうとするストーリー。けれど結末が大きく異なるこの二作は、それぞれ商業誌向き、同人誌向きを意識したような印象がある。「同人誌の読者は、気に入ったお店のまかない飯のように、多少の粗さがあっても美味しいところを見つけて楽しんでくれる。商業誌はフルコース料理のように全体をバランス良く整えて、読者に満足感を与えないといけない」という言葉は、長いことその狭間で苦しんできたからこその境地だろう。
「あなたにとってマンガとは?」という問いに、「世界から許容されたい気持ちが常にあるんです。だから描いたマンガを読んでもらうことが赦しになる」と彼女は言う。描くことが己の存在証明であり、世界=読者に許容されたい気持ちが創作の原動力だ。「早く読者から認められる作家になりたい。そうすれば…もっと自由にマンガを創れる」と語る彼女の瞳は、さらに面白いマンガを描く未来をしっかりと見つめ、輝いていた。

TEXT / HIROYA IWASAKI ティアズマガジン146に収録

イマイマキ あのこが好きだった本

イマイマキ短編集「忘れる」
A5/108P/1000円
職業…アルバイト
趣味…散歩と読書
コミティア歴…コミティア128から
https://twitter.com/koguma_kanoko
描線は簡略化され、時には顔の輪郭さえ消え失せるほど。今にも空気に溶けてしまいそうな登場人物たちが平熱感覚の言葉で語り合う、短くも印象的な作品を数多く発表してきたイマイマキさん。
「幼少期から漫画を描くことだけが楽しみ」だったが、本格的に漫画家を志したのは6年ほど前。職場環境が変化し「漫画で生活できたらいいな」と思ったことがきっかけだった。手当たり次第に投稿を始めると、早い段階で担当編集者は付いたものの、現在の作風を掴むまでは相当苦労したという。「描き込めば描き込むほど絵が不自然になり、自分でも頑張りが裏目に出ているのがわかりました」。ネームもなかなか採用されず、いつからか漫画に疲弊していたが、当時愛読していた川崎昌平さんの『労働者のための漫画の描き方教室』に影響を受け、「普段の落書きのような絵で、ストーリーには自分の正直な部分を出した『同人誌』を描いてみよう」と思い立つ。
そうして完成した短編集『わかりあえないわたしたち』は、ティアズマガジン129で紹介され話題に。19年10月には収録作「あのこが好きだった本」を原案としてウェブメディア『DOTPLACE』にて連載を開始。念願の商業デビューを果たす。絵柄については様々な編集者から「顔の輪郭がなく、万人向けではない」と指摘されたというが「今の方が楽しいですし、線を引いていて気持ちいいんです。私の漫画を見て『こんな描き方もアリだな』と思ってもらえたら本望です」と語る。
作品形式は短編がほとんど。これは「アイデアをすぐ形にしたい」という思いと、「短編にこそ作家性が表れる」という持論から。描くテーマは「他者との関係性」が多い。例えば、コミティア144発表の『イマイマキ短編集「忘れる」』に収録された「しい」は、ある事情からドアを開けたまま暮らす男と侵入を繰りかえす女の話だ。突拍子もない設定だが、不穏な状況下においても男女は過度に感情的になることはない。「怒鳴って主張するようなことが苦手で。ちゃんと話し合って解決していきたいんです」。イマイさんが求める世界観に、共感する読者も多いだろう。
20年には『月刊コミックビーム』で短編を発表し、『CHANTO WEB』で一年間連載、22年からは『COMIC熱帯』でデビュー作を引き継いだ連載が始まった。SNSの脱力系イラストも人気で、ヴィレッジヴァンガードでのコラボグッズ発売、一般書籍の装画といったイラストレーターとしての露出も増えている。
同人活動は今後も継続したいと意欲的だ。「煮詰まったらいつでもリスタートしていいと思うんです。コミティアならどんなチャレンジも受け止めてくれるはず」と変化を恐れる様子はない。最近では青年期の友情や恋愛といった比較的身近なテーマだけでなく、COVID-19、戦争・難民問題など社会的な題材も扱うようになり、作家として新たな一面を見せつつある。淡々と、そして誠実に、わかりあえることの喜びや願いが込められたイマイさんの「現在」を存分に味わってほしい。

TEXT / JUNYA AIDA ティアズマガジン146に収録