COMITIA65 ごあいさつ

こんにちは、もしくは、はじめまして。夏のコミティアへようこそ。

8月31日、夏休み最後の一日のつもりでちょっと童心に帰って、漫画に浸ってみませんか?

実はかくいう私も、いま何故かティアズマガジンの編集作業中に、20数年前にタイムスリップしたような気分でいます。きっかけは本業のコミティアとは別に、みなもと太郎氏と夏目房之介氏の対談トークショーを実現できたことでしょう(ティアズマガジンvol.65参照)。
思えば10代の頃に夢中で読んだ作家と今にして出会い、その人のために何かしらでも役に立つ仕事が出来たのは無上の喜びでした。それは、あの頃にもらった「大切な何か」へ少しだけ恩返しが出来たような、そんな気分なのです。
そういえば、私が連載している「創作する言葉」も、実はみなもと先生が『マンガ少年』(朝日ソノラマ/休刊)で当時連載していた「漫画の名セリフ――お楽しみはこれもなのじゃ」(河出文庫)をパクッた?物でした。
漫画の中の名セリフを抜き書きしながら、その作品の魅力について、ひいては漫画そのものの面白さについて、縦横無尽に語るこの文章を読みながら、私は「漫画について語ること」という新しい漫画の楽しみ方を教えてもらった気がします。
それから紆余曲折を経て、今こうした仕事につき、あらためてみなもと先生と出会う機会をえたのですから、運命とはつくづく不思議なものです。

さて今回、その「創作する言葉」で紹介したのが吉崎せいむさんの「金魚屋古書店出納帳」(少年画報社)。これが漫画ファンなら思わず涙がこぼれるに違いない傑作でした。何より作品を読んでみて欲しいのですが、読みながら私はあまりにもピュアに漫画を読めた時代に引き戻されるようでした。
作中で取り上げられるのが、ある意味で漫画の黄金期の作品であり、自分にとって精神の成長期の血肉になった作品だからという理由もあるでしょう。けれど何より、作品が、そして作者が、「漫画が好きだ!」と高らかに宣言しているのが嬉しいのです。
あの頃よりちょっとだけ漫画に元気のない時代に、こうして奮闘する芳崎せいむさんに心からの敬意と感謝を込めて、一漫画好きよりのエールを送ります。

さて、もう一人懐かしかったのは今回のFRONT VIEWで紹介した、実はまともに会うのは10年ぶりぐらいのDr.モロー氏。その頃は「東京エロエロ団」というふざけた名前の仲間でくだらない遊びを沢山しました。それにしても「東京エロエロ団」とは、団員同士の足の引っ張り合いしかしない変な仲間でしたよ(笑)。
ふと思うと、モローと真面目に漫画の話をしたのは今回がはじめてだったかもしれません。その彼の語る漫画論は作風とは打って変わって(失礼!)含蓄の深いもの。今回は少ししか載せられませんでしたが、機会を見てたっぷり誌面を割けたらと思います。
それにしてもギャグ漫画家という人種は、なぜこうも漫画そのものが好きなのでしょう。そして描くことに対し真摯なのでしょう。前出のみなもと太郎氏しかり、吾妻ひでおしかり、桜玉吉しかり、とり・みきしかり。これもまた宿命なのでしょうか?

そしてこの時期、偶然のように古い作品の復刻本がいくつか発売され、初読、あるいは再読しました。
永島慎二の「漫画家残酷物語」(ふゅーじょんぷろだくと)、岡田史子の「ODESSEY1966~2003 岡田史子作品集 ガラス玉」(飛鳥新社)、水野英子の「ハニー・ハニ―の素敵な冒険」(双葉文庫/これのみ02年刊)など。どれもいまから30~40年前に描かれた作品になります。
時代の空気の違いはどうしようもなくありますが、ある意味で素朴でストレートな漫画らしさの魅力にあふれています。
それが悲劇であれ、喜劇であれ、前衛であれ、漫画の持つ力を信じて、渾身の思いを込めて描いているのが伝わります。私達はこうした先人の培った歴史の上に生きていることを忘れないでいたいのです。
やっぱり私は漫画が大好きです。

最後になりましたが、本日は直接1061/委託128のサークル・個人の描き手が参加しています。
そういう訳で「漫画が大好きな人」が「漫画が大好きな人」に向けてコミティアを開催します。描く人も読む人も、「大好きな漫画」をたっぷり楽しんでいって下さい。

2003年8月31日(夏休み最後の一日に…?) コミティア実行委員会代表 中村公彦