COMITIA66 ごあいさつ

こんにちは、もしくは、はじめまして。自主製作漫画の展示即売会コミティアへようこそ。

今回は会場内での企画が盛り沢山で、その企画に興味を持って初めてコミティアに来られた方も多いと思います。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい。

さて、今回のもっとも大きな企画は、『ネムキ』(朝日ソノラマ)など商業誌で活躍中の今市子さんの原画展。その静謐なカラーの美しさは漫画界でもトップクラス。実は今さんはかつてコミティアに常連参加していた同人作家でした。商業誌の仕事が忙しくなるに連れ、同人誌活動は休止せざるをえませんでしたが、今回こうしてもう一度、今さんの作品をコミティアで紹介できることを嬉しく思います。生の原画の持つ力というものをどうぞ堪能して下さい。
もう一つは出張マンガ編集部持込窓口。今回は三大メジャー出版社の一つ、小学館がほぼ全社を上げて参加しています。少女誌、少年誌、ヤング誌、青年誌と、コミティアに参加する作家の全年齢層を網羅するラインナップになりました。多くの方のチャレンジをお待ちします。
この企画については、もちろん商業誌には興味が無いというスタンスの作家もいるでしょう。商業誌に載って、手応えが無いまま読み捨てられるより、即売会の会場で手渡しで読者に本を届ける方が、はるかに作品を発表する張り合いがある、という人もいます。一方でマンガだけ描いて暮らしていけたら最高だし、何より少しでも多くの読者に読んでもらいたい。そのための苦労は惜しまないという人もいます。もちろんその両立を目指す人だっているでしょう。
コミティアでは、商業誌も同人誌もどちらも発表媒体の選択肢の一つだと考えています。
とはいえ、「プロの水」というのも味わってみなければ判らないもの。案ずるより産むが易し、チャレンジしてはじめて判ることも多いでしょう。とりあえず、出張編集部はその窓口として、まずは腕試ししてみてはどうでしょうか。この企画は今後も続けます。

ところで、ここでちょっと個人的な話を。先日いきなり『ヤングサンデー』(小学館)の誌面に私が登場していてビックリしました。
山田玲司氏の「絶望に効くクスリ―ONE ON ONE」という、山田氏が各界で活躍するいろいろな人に会うというレポート漫画の連載第1回。彼がデビュー当時、売れずに苦しんだ時代のこと。彼は連載を打ち切られた原稿料をすべてつぎ込んで同人誌を作り、たまたまその本を見かけた私が「コミティアに出ないか?」と誘ったのです。
その時のティアズマガジンで彼の本を紹介して私はこう書いています。
「創り手は世界と闘うのだと言う。それはずいぶんと苦しい戦いで、だから彼も苦しんでいると思う。そんな彼に一言伝えることが出来るなら、勝ち目のない戦いに正攻法で挑むのはバカだ。もっとしたたかに、ベットで背中からグサリと刺した方がいい。」
結局、彼の参加はその一回きりで、以来14年間会うチャンスも無かったのですが、この漫画の中で、私の言葉が転機になり、出世作「Bバージン」(ヤングサンデー)の連載を始めたと描かれていて驚きました。
我ながら面映いエピソードで恐縮なのですが、何より、誰かの言葉がこのように誰かの人生を変えるかもしれないこと。そして、その答えがこんなにも長い時間を経て返ってくることがあることを伝えたくて、書かせてもらった次第です。
そしてそれは、私も山田さんもマンガの世界で懸命に生き抜いてきたからこそ届いた言葉だと思います。山田さん、私はとても嬉しかった。どうもありがとう。

さて、ここでいくつかご報告。
まず、売り切れていた山名沢湖のパーソナルコミックス『ミズタマ』を再版しました。最近いろいろな雑誌で活躍し、人気急上昇中の山名さんの初期傑作集。彼女の作家としての「核」がこの本には詰まっていると思います。未見の方はぜひ手にとってみてください。
また、前回の「創作する言葉」で紹介した芳崎せいむさんの「金魚屋古書店出納帳」の原画展を来年5月のコミティア68で開催します。彼女もついこの間までコミティアの常連作家の一人でした。このような形でもう一度出会うことが出来て、とても嬉しいです。

いまコミティアは、プロとかアマとかの垣根の無い、本当に純粋に漫画の好きな人間が集まる場所として機能しはじめた気がします。
実は商業誌が流通の問題も含めて組織疲労を起こし始めている時、コミティアは人が集まるリアルなイベントとして、もっといろいろな可能性があるのではないかと感じています。
本年のマンガ界の最大の収穫と評価の高いこうの史代さん(の乃野屋/今回のスペース…O14B)の「夕凪の街」は、『週刊アクション』(双葉社)に掲載されましたが、最初に発表されたのはコミティア65の見本誌でした。その後、こうのさんとお話した時に、被爆を扱った難しいテーマだけに商業誌で発表できない可能性もあったけれど、その時はコミティアで出せば良いや、という安心感があったと話してくれました。
私は「夕凪の街」を読んで泣き、その言葉を聞いてもう一度泣きました。
私たちの好きな漫画はとても豊かな財産を持っています。すばらしい描き手とすばらしい作品を。それをもっと大きく、もっと豊かなものに育てるのは、いまそこに生きている私たちの役目だと思うのです。

最後になりましたが、本日は直接1614/委託96のサークル・個人の描き手が参加しています。過去最大の参加サークル数をまた少しだけ更新しました。
いろいろな企画が目白押しですが、何より主役はそこで発表されている作品です。どうぞじっくりとお気に入りを探していってください。

2003年11月16日 コミティア実行委員会代表 中村公彦

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