COMITIA67 ごあいさつ

同人誌即売会とは「コール&レスポンス」のライブメディア

「すべての芸術は音楽に嫉妬する」という言葉があります。とても大雑把に解釈すれば、音楽はそれだけストレートに人の心に響くという意味合いでしょう。
「ロックはコール&レスポンス」と映画『アイデン&ティティ』(P50参照)を撮った田口トモロヲは言いました。彼自身、役者として評価される以前はインディーズのミュージシャンでした。
アーティスト(演者)が「コール」を投げかけ、オーディエンス(観客)が「レスポンス」を返す。
壁に向って一人でボールを投げるのではなく、誰かが受けとめて、返してくれるボールがある。そんな一方通行ではない、コミュニケートの在り方こそがエンターティメントの真実なのかもしれません。
それはそのままどんな表現にも当てはまるでしょう。漫画なら、その本が売れた・売れないも一つの評価だろうけれど、もっと突っ込んだ感想が聞きたい。どこが気に入ったのか、どのキャラが好きか、どのシーンでウケたか、伏線には気付いたか、先の展開を読まれていないか…。気になることは山ほどあるでしょう。
こんな場合、先の音楽に例えるなら、作品を発表する本(同人誌)はアルバムだろうし、同人誌即売会はライブなんじゃないか?と思うのです。
だってみんな即売会で本を買う時、中をパラパラ確かめてから買いますよね。その時、会話も生まれるかもしれない。
もしあなたが読み手(一般参加者)なら、たとえば…。
「見本誌コーナーで見つけたんです。面白そうだから買って読もうと思って。」
「気に入りました。これ買います。次の本も楽しみにしています。」
「新刊出ましたね。待ってました。前の作品も面白かったですよ。」
もしあなたが描き手(サークル参加者)なら、たとえば…。
「お買い上げありがとうございます。よかったら一緒にペーパーもどうぞ。」
「いつもありがとう。前の作品は気に入ってもらえましたか?」
「もし聞いてよければ、どこが気に入ってくれたか教えてもらえませんか?」
そんなちょっとした問い掛けから会話が弾むかもしれない。もっと踏み込んだ生の感想や作品評が聞けるかもしれないし、あらためて感想の手紙やメールを書こうという気持ちになるかもしれない。大切なのは「コール&レスポンス」。

考えてみれば、同人誌即売会というメディアはまさにその「コール&レスポンス」で成り立っています。
商業誌で作品を発表するプロ作家の多くは意外にその張り合いの無さに驚くといいます。読者からのストレートなリアクションは思ったよりずっと少ないのです。よくアンケートの順位がどうのと言いますが、編集者はあまりその結果を教えてくれなかったりします。まあ、作家が数字に振り回され過ぎるのも良くないとか、あまり手の内を明かしたくないとか、いろいろ理由はあるようですが…。
その一方で、同人誌即売会は作者と読者が間に出版社や流通を介さず、直接向き合うメディアです。たとえばTVドラマや映画で活躍する役者が、生の観客を前にする芝居の舞台をとても大切にするように、そこにあるライブな刺激は何物にも替え難い魅力があります。
これが即売会なら、目の前で自分の本が売れたり、逆に誰も立ち止まってくれなかったり、隣のサークルがガンガン売れていたり…。描き手は激しく緊張するでしょう。拍手を貰えるか、白けた欠伸が返ってくるか。そこでは読み手はただのお客さんではなく、「舞台」の重要な構成要員です。厳しいけれど、だからこそ評価されたら一層嬉しい。あなたのその大事な役割を忘れないで欲しいのです。
あらためて気になっています。創作がメインのコミティアは、回りからはどうも落ち着いた大人しいイベントと見られがちではないか。でも、ほんとうは描き手も読み手も、それぞれもう一歩踏み出して良いはずだと思います。
もっとどんどん描こう。もっとどんどん読もう。読んだら感想を伝えよう。なるべくなら手紙やメールで。ティアズマガジンに投稿するのもいい。それが無理ならせめて即売会で一言伝えよう。黙って本とお金を遣り取りするだけじゃなく。
そんな描き手と読み手の充実した関係が、きっと新たな創作への刺激とエネルギーになることを信じています。
それがコミティアの考える幸せな「コール&レスポンス」です。

さて、今年はついにコミティア20周年YEARです。そして企画目白押しの1年でもあります。この2月は「出張マンガ編集部~講談社編~」。5月は芳崎せいむ「金魚屋古書店出納帳」原画展。8月は羽海野チカ原画展。11月は20周年記念イベント(詳細未定)、と続きます。ハッキリ言って勝負の年だと思っています。
繰り返しになりますが、こうした原画展は参加サークルへの刺激である共に、そのイベントを目当てにやってきた新しいお客さんにコミティアに出ているサークルの本を読ませたいという目論みがあります。彼らをリピーターにするのはそこにある作品に他なりません。描き手の皆さんの奮闘に大いに期待しています。
最後になりましたが、本日は直接1532/委託100のサークル・個人の描き手が参加しています。2月のコミティアとしては好調な数字となりました。
ここに参加している描き手はみな精一杯の「コール」を投げかけています。そして読み手のあなたの「レスポンス」を信じています。どうぞ熱い「コール&レスポンス」を見せてください。

2004年2月22日 コミティア実行委員会代表 中村公彦