「人は探究をやめない。そして探究の果てに元の場所に戻り、初めてその地を理解する」(T・S・エリオット『四つの四重奏』より)
20周年を迎えて、さまざまな記念企画の準備のために、古いティアズマガジンを読み返していた私の心境はまさにこれでした。
往時を振り返れば、必死だったとしか言いようが無いし、今も必死でやっているのは少しも変わりありません。
成長があるのか無いのか、やっている方にも良く分からなかったりして、この20年の間に変わったこと、変わらないことをぼんやり考えています。
振り返ってみると10回ぐらいまでのコミティアは激しい迷いと戸惑いの中にいました。主催の私自身が「読者である」という自意識が強く、「描き手のメンタリティ」の部分をうまく理解し切れなかったり、反発したりで、無用な軋轢を生んでいるケースもありました。
性急に理想を追い求めるあまり、苦労して描いている描き手の気持ちや作品に込める愛情を、思い測る余裕もありませんでした。
また、コミティアというイベントのスタイルも、新しいことを取り入れようと試行錯誤し、結果として戸惑った参加者から「何がやりたいのか分からない」という反応も多々ありました。
今更ながら申し訳なく思うのですが、主催側も「やってみなけりゃわからなかった」というのが本音なのです。
思い出されるのは、「コミティアは、コミケットという巨大なケーキの一切れではなく、小さくとも美味しい一個のケーキになりたい。」という私の発言に対し、「私たちはいつから高級小麦粉や卵になったのだ」とサークルカットに描いて、それきり参加しなくなったサークルさんがいたこと。
今にして思えば、イベント主催と参加サークルの認識のズレが見事にそこに象徴されていました。主催側の勝手な思惑が、参加者の気持ちを害する場合があることを、私はこの時初めて認識した気がします。
ただ、そうした大小のトラブル(?)を乗り越えつつ、肝が据わったのも確かで、第7回にして「コミティアはずっと続きます。」と宣言しました。
今すぐ結果は求めない。けれど「作品発表の場」は今後も保証するから、いつか「これが自信作です。」と言える作品を持ってきて欲しい。そういう気持ちを込めた言葉でした。
その時からすでにざっと17年。コミティアはまだ続いています。少しは大人になったのでしょうか。昨今は大きなトラブルも無く、本当に少しづつですが規模も大きくなってきています。
参加サークルが増え、一般参加者が増え、企画が増え、…。あの時はぼんやりしたあやふやな理想でしかなく、うまく説明出来ずにイラついていたものが、20年の歳月を経てやっと形になりつつあるようです。
何より「ああ、この作品・作家と出会えたなら、コミティアをやっていて良かった。」と思えることが多くなりました。少なくとも信じていたものは間違ってはいなかったのでしょう。
それでもまだまだ目標の形が見えてきただけで、さらに大きく育てるのはこれからのこと。
20年という歴史の蓄積の上に、さらなる未来を見透して歩みを進めるために、私たちはまだ道半ばで落ち着く訳には行かないのです。
――と、青臭いところは相変らずと笑われそうですが、この20年間続けてこれたのは、もちろん多くの参加者のみなさんに支持してもらえたからに他なりません。
今回の20周年記念企画でたくさんのお祝いメッセージハガキをいただきました。そこに書かれた一つ一つの言葉に励まされ、何よりこのハガキを描いて、投函しようと思ってくれたことが嬉しくて、いくら言葉を尽くしても感謝の気持ちに足りません。心から有難うございます。
中に何通か、「20年前の第1回から参加しています。」というコメントがあったことも嬉しい驚きでした。こんな風に息長く付き合ってくれる人たちがいることがコミティアのもっとも大切な財産だと思います。
そして、同じくコミティアをずっと支え続けてくれるスタッフたちにも、心からの感謝を。
一つだけ残念なのは、この記念すべき日を一緒に祝いたかった岩田次夫さんが今年の3月に亡くなったことです。彼は創生期のコミティアスタッフの一人でもあり、幾晩も眠らずにマンガと同人誌の未来について語り明かした仲間でした。そのメモリアルの気持ちも込めて、「岩田読書会メモリアル」を本日この会場にて行います。岩田さんが願っていたことが少しでも実現するといいなと思います。
今回は表紙を描いてくれた小田扉さんのグッズも作りました。他では出来ないことをやるのがコミティアのポリシーではありますが、それにしても担当デザイナーの頑張りですごい企画になってしまいました。当日の出来上がりが楽しみです。
パーソナルコミックス新刊は松本藍さん(サンタロー/今回のスペースNo.K32b)「セルフポートレート」。まさに俊英です。毎回コミティアの度に申し訳程度の冊数のコピー本を出しているのみで、すぐ無くなってしまい、ほとんど見本誌読書会でしか読めない幻の作家?になっていました。今回の本でコミティアで発表した作品はほぼ全て収録しました。また、ちょっと大胆な試みですが、次回のCOMITIA71のチラシもお願いして、その絵柄とパーソナルコミックスの表紙の絵柄が連動する形になっています。その画の力、描き手としての視線は実にストレート。若い才能にぜひご注目ください。
定番企画になった「出張マンガ編集部」はスクウェア・エニックス編。昨今のマンガ界的にはもっとも注目される出版社ではないかと思います。チャレンジャーをお待ちしています。「鋼の錬金術師」ファンには嬉しい、巨大アルフォンスも会場にお目見えします。
20周年記念企画ゾーンは資料的な部分もあり、お楽しみの部分もあり、じっくり味わってもらえたら嬉しいです。それから特別飲食ブースの出店も味は保証付ですので、どうぞお楽しみに。閉会後は樽酒の鏡開きもあります。サークル・一般問わず、ぜひお終いまでお付き合いください。
最後になりましたが本日は直接1615/委託157のサークル・個人の方が参加されています。
なんだかんだ言いつつ、5年前の50回記念の時もそうでしたが、こうした区切りの回は、いつも記念企画などを慌しく準備しているうちに当日を迎えるのが常で、あまり感慨を味わう余裕はありません。20年前から参加している人も、今回はじめて参加した人も、今日という限られた一日を充分に楽しんでいってもらえたら嬉しいです。
約束です。コミティアはいつも、これまでも、これからもここにいます。
この記念すべき日に、あなたがここに来てくれたことを心から感謝します。
2004年11月21日 コミティア実行委員会代表 中村公彦