コミティアではオルタナティブ(alternative)という言葉をたまに使っています。
「もう一つの選択肢」あるいは「代案」という意味が一般的ですが、もう少し拡大解釈するなら「既存のものと取ってかわる新しいもの」というニュアンスもあります。音楽ではオルタナ系といったジャンルがすでにありますし、旧ガロ系の青林工藝舎などもオルタナティブコミックという呼び方をしています。
コミティアがオルタナティブという時は、むしろ既存の商業誌メディアがあることを前提に、それに対する「もう一つの選択肢」という意味合いで使っています。
商業誌のニーズにどうしても合致しない作家・作品があるならば、もう一つの作品発表の場として自主出版の展示即売会がありますよ、ということです。ここでは、マンガを描いたり、本を作ったり、売ったりを全て作家が自己責任でやらなければならない代わりに、その成果もストレートに自分に返ってきます。プロ作家がコミティアに参加するのも、ファンの反応を生で見たくてというケースが多いようです。
参加1700サークル前後、総来場者1万人弱という規模で年4回コンスタントに開催されるコミティアは、それなりに安定した作品発表の場として、多くの作家や読者から評価してもらえるようになりました。
けれど実際は来場者1万人とは、どう見積もってもそこで本は1万冊以上売れない訳で、この数字は大手出版社のコミックスの最低ノルマをやっとクリアできたかどうかのレベル。この部数のコミックスを年2冊以上出せないと生活が立ち行かないのがリアルなプロの世界でしょう。こうした数字の単純な比較には意味がないとしても、少なくともマーケットとしてかなり小さな存在なのは確かです。
それはコミティアが、オリジナルオンリーとか、ボランタリベースとか、いやそれ以前に一日のみのイベントという今の限定的なスタイルを維持する以上、宿命的にかかえてゆく量的限界であり、その制約の中でリアルなメディアとして何ができるかを模索し続けることがコミティアを進化させてきたとも言えるでしょう。
一方、昨今名物企画として好評いただいている「出張編集部持込受付」は、参加する作家に対して「もう一つの選択肢」を提示するコンセプトです。
ここ数年、コミティアに参加する内に商業デビューし、広く活躍するようになった作家が多数出ています。彼ら彼女らはそうした新しいフィールドに積極的にチャレンジしていったからこそ作家として大きく成長し、花開きました。特に成長期の作家にとって目の前に広いフィールドがあることは大切で、コミティアはそれを心から応援しています。それが商業誌でも自主出版でも、それぞれの特性とキャパシティがあり、そうした選択肢がたくさんあるのが何より作家にとって重要だと思うからです。
それにしても、いざ商業誌の仕事を始めてみると思ったより忙しくなって、しばらく同人誌を作ったり、コミティアに参加したりできそうにないという方もいます。そんな時、わざわざ申し訳なさそうに報告してくれたりして、こちらも恐縮するのですが、必ずこうお返事しています。
「あなたの作品が読めるのが同人誌であっても、商業誌であっても構いません。あなたがそこで面白いマンガを描いてくれれば、読者としてそれで充分です。いつかコミティアが必要になったら戻ってくればいいし、コミティアはいつもここにあります。」
「オルタナティブ」という言葉の裏側には「あまり一つの価値観に囚われず、別の考え方もあるんじゃないか?」という柔らかいメッセージを含んでいます。結局のところ、どんなメディアだろうと、そこに面白いマンガがあれば、それ以上の何が必要でしょう。もし、コミティアがそのための少しでも役に立てたなら、それは望外の喜びなのです。
(…と、こんなことを書きながら今回は出張編集部はお休みです。会場面積に余裕がないこともあるのですが、あまり毎回あってもマンネリ化する恐れがあり、今後はペースを絞りつつ、回毎の特色を出すことを考えてゆきたいと思います。)
最後になりましたが今回は直接1690/委託110のサークル・個人の描き手が参加しています。なにげに今年5月の参加数を抜いてまたも過去最大規模になってしまいました。何だか毎回のようにこんなことを書いている気がしますが、どうやらコミティアは成長期に入ったようです。
とりあえず今回は原画展や出張編集部などの会場内企画もなく、まったくのすっぴんのコミティア。ビッグサイトの広い会場をきっちり埋めたサークルをぜひ一通り回ってみてください。きっとあなたの心に響く作品があるはずです。それこそがコミティアの本当の意味での存在意義なのです。
2005年11月6日 コミティア実行委員会代表 中村公彦