今回のティアズマガジンのFRONTVIEWの取材でいまはCG作家の青木俊直さんとゆっくり話せたのはうれしいことでした。
彼と初めて会ったのはまだ互いに20代前半。創作同人誌即売会の草分けであるMGMに全国から才能のある作家が集い、もっとも華やかな時代でした。個性的な作品が百花繚乱で、ここからマンガの未来が始まると半ば信じていました。自分にとっては同人誌即売会メディアへの思い入れを深く刻み込んだ時期だったと思います。
中でも青木俊直さんはスター。斬新で何が出てくるかわからないこの新しい才能を、読者の私は夢中になって追いかけました。ご自身も認めるようにまだ若かったこともあり、作品も発行ペースも疾走感に溢れ、前夜合宿で全国から集まった仲間とリレーマンガを描き、翌日のMGMでコピー本にして売っていたこともありました。
それでも時間は否応なく過ぎ、多くの若い作家たちも就職などの人生の節目に作品ペースが落ち、あるいはプロとなって同人誌から卒業してゆきました。MGM自体も会場問題でペースダウンしたのが惜しまれるところです。前後してコミティアが生まれ、流れを引き継ぐ形になりました。
その青木さんが10年の時間を置いて同人誌に復帰した経緯はティアズマガジンの記事をお読みいただくとして、そこに発表された新作は年齢を重ねただけの深みを味わわせるものでした。
かつての溢れ出るパッションをそのまま筆に疾走らせたような激しさはないけれど、TVなどのメディアで経験を重ねたせいか、着想を上手に膨らませ、読者に伝わるように丁寧に磨き上げた美しさがそこにありました。読んだ時、マンガとはこのように描き手の来し方を映すものかと、25年越しの読者として震えるような感動を覚えました。
その青木さんをもう一度本気にさせたのがコミティアだとしたら、それは自分にとって何よりの喜びです。あの時代のMGMにそれぞれが体験した面白さと同じものを、いまの青木さんがコミティアに感じてくれたなら、これまでの積み重ねは間違っていなかったと信じたい。何よりコミティアはこの20余年、描き手同士が刺激し、刺激され、描き手を本気にさせる場であることに存在意義を見出してきたのですから。
さて、ここのところコミティアに関係のある出版物がいくつか出ているので紹介させて下さい。
まずサークル「ジャポニカ自由帳」(コサカトシフミ+こてはし直樹)の商業コミックス「ふたりごと自由帳」(芳文社刊)の発売。お二人が4コマ誌の人気マンガ家であることは、前号のFVで紹介したとおりですが、仕事では描きづらいものを同人誌出すというスタンスが、そのクオリティを評価され、そのままコミックス化されたのも嬉しいニュースです。つくづく面白さに同人誌も商業誌も関係無いと思うのです。
よしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」4巻(新書館)にはコミティア名物の「出張マンガ編集部」のエピソードが登場しました。ご本人がわざわざ会場に取材に来られたのは昨年の5月。きちんと取材して描かれたこのエピソードには、よしながさんのプロ作家としてのスタンスがさり気なく織り込まれています。新人の持込みに対する編集者のやり取りの機微など、なかなか泣かせる展開。プロが甘い物でないのは、単に利潤追求のみならず、多くの読者を相手にするがゆえに作品に真摯に向き合わねばならないから。プロアマを問わずこの真剣さでは負けないでいたいものです。
(コミティアのエピソードは置いておいてもこの作品は傑作です。ぜひご一読下さい。)
こうの史代「夕凪の街 桜の国」(双葉社)の原画展をコミティアで行なったのはもう2年前になります。その映画化がやっと実現し、全国上映中。TVCMやポスター、様々なメディアでこのタイトルを見る度、本当によかったと感じます。初めてコミティアの見本誌で「夕凪の街」を読んだ時、できるだけ多くの人に読んで欲しいと心から思いました。その願いがいま少しだけ叶おうとしています。
初期のコミティアを支えた人気作家だった内藤泰弘氏の「トライガンマキシマム」(少年画報社)もなんと足掛け12年の連載を完結。インタビューで「この連載を終えて、やっと自分はマンガ家として一人前になったと自然に言えるようになった」という台詞は重いです。内藤氏に心からお疲れ様と伝えたいと思います。
コミティアはこんな風に多くの作家と作品と少なからずかかわってきました。イベントはとても無力なものですが、そこで才能と才能が出会う場所になれば、きっとまた次の世代の作家・作品を産むきっかけになると信じていたいと思うのです。
最後になりましたが、本日は直接1787/委託110のサークル・個人の描き手が参加しています。
ドトウの5月2ホール開催が終わり、ホッと息をついたつもりでしたが、今回も予想以上に参加申込数が伸び、ビッグサイトでもついに直接参加で落選が出る事態になってしまいました。今回参加が適わなかったサークルの方々には誠に申し訳なく思います。また、参加されるサークルの方々もかなり窮屈な思いをされることでしょう。今後の開催スケジュールもいまの申込状況を考慮しながら検討していかねばならないようです。
とあれこの夏の終わりの一日。世間はまだまだ喧しい昨今ですが、平和にマンガを楽しめる日であるように心から願っています。
2007年8月26日 コミティア実行委員会代表 中村公彦