COMITIA90 ごあいさつ

同人誌即売会の魅力は宝探し。それは自分が一番欲しいものを探す楽しみなのです。

本日はてんやわんやの東京ビッグサイト西棟へようこそ。
コミティアは西1ホールでの開催ですが、西2ホールではスタジオYOUの歴史系オンリーイベントが、そしてアトリウムではpixivマーケットという展示と即売を合わせたイベントがあります。こちらはイラストコミュニケーションサイト「pixiv」主催の初の試みです(詳細235P)。入口では3つのイベントの参加者が行き交いますので、どうぞ混乱されないように、スタッフの誘導に従って行動してください。なお、コミティアとpixivマーケットは、今回イベント協力により、入口でそれぞれの入場証代わりのパンフレットを見せれば、どちらにも入場可能です。ぜひ、両方のイベントをお楽しみください。
ふと気がつくと、今回のCOMITIA90でコミティアは発足25周年でした。記念すべき第1回は記憶の彼方ですが、まさか25年続くとは夢にも思わなかったのだけは確かです。時を経た、もう一つの感慨は、こんなにも同人誌と商業誌の垣根が低くなるとは思いませんでした。外的な要因の一つはWEBの普及でしょう。ここ10数年で浸透したWEB上での自己表現欲求は、既存の商業メディアを大いに圧倒しました。「描きたい」「見て欲しい」という人がWEBで自己発信をはじめ、広がった広大な裾野からは多様多彩な才能が生まれました。何より商業流通のルートに乗らないでも世界に向けて作品を発表できる影響は計り知れません。幸いにしてWEBと同人誌メディアは親和性が高かったようですが、新人の投稿・持込が激減した出版社などは、自分でWEBサイトをリサーチして依頼メールを送ったり、作者本人と直接出会えるであろう即売会に足を運ばねばならなくなりました。
コミティアの出発点から「創作にプロもアマもない」というポリシーはありましたが、会場に本当にたくさんの職業編集の人が出入りしたり、スカウトされてデビューする作家も増えました。このティアズマガジンにも、最近とみに新創刊誌の広告が増え、コミティアのおなじみの作家の名前がラインナップに並んでいます。ぜひ、みんな活躍してほしいと思います。
一つだけ、余計なお節介でこれからプロになろうとする作家に伝えたいのは、編集者の意見を鵜呑みにはしないこと。「仕事」ですから、色々付加条件があるのは仕方ないですが、きちんと内容を斟酌しましょう。編集者も十人十色。人によって言うことは違うもの。「自分の言うことだけを聞け」と縛りつけるのは論外としても、それが「正しい」「正しくない」ではなく、その一編集者一雑誌の立場からのあなたの評価に過ぎないのです。「プロの絶対的な評価」として受け止めると、自らの可能性を狭めかねません。
プロになってもっとも怖いのは、版元のその場その場の注文に応える内に「自分が何を描きたいのか」を見失うこと。もし迷ったり、混乱したら、出発点であった同人誌の自由さを思い出してください。自由であるから、自身の個性を磨いたり、新しい挑戦も自己判断で出来たはず。マンガ家は元より組織に帰属するサラリーマンではありません。保障はないが自由がある。契約書はないが選択肢がある。そういう職業です。発表の場が商業誌でも同人誌でも、自由にのびのびと描かれたマンガを、読者は求めていることを忘れないでください。

話題を変えて、ここで一つ報告があります。左ページで告知している「米沢嘉博記念図書館」が遂にオープンしました。3年前に志半ばで急逝した前コミックマーケット準備会代表の故・米沢嘉博氏の蔵書を収蔵した記念図書館です。あまり知られていないことですが、米沢さんはコミケット準備会代表/マンガ評論家としての顔だけでなく、サブカルチャー系の評論活動や資料収集に関しても名高い人でした。こうした雑駁な知識や情報を飲み込む貪欲な精神の胃袋が、今のコミケットの清濁併せ呑む巨大なスケールを許容したのでしょう。オープン前に準備中の館内を見学する機会を得ましたが、そのあまりの膨大さゆえに(総計14万冊以上)、開館までには整理が間に合わず、全貌が明らかになるにはまだまだ時間がかかるようです。純粋なマンガ好きにはもちろん、研究や資料の探求にも貴重な存在となることでしょう。運営母体は明治大学。14年までにはもっと構想の大きな「東京国際マンガ図書館」を設立する計画とのこと。実はコミティアも今回はそちらに「協力」という形で名前を連ねさせてもらいました。今後、関係施設で「見本誌読書会」を行ったり、企画展などで協力することになりそうです。まだ、オープン前であまり具体的なお話は出来ていませんが、内容が決まり次第、順次お知らせします。いま暫くお待ち下さい。
もう一つ、そのめくった次ページの広告「マンガの創り方」(双葉社)は昨年の11月のティアズマガジンvol.86の「ごあいさつ」で紹介した本です。この中の著者・山本おさむさんと担当編集氏の文章はこのティアズマガジンの広告用に書き下ろされたもの。「ごあいさつ」への返信として、参加作家へのメッセージとして、噛み締めるように読ませていただきました。この名著が多くの人の眼に触れることを願っています。

最後になりましたが、本日のコミティアには2003のサークル・個人の描き手が参加しています。今回も500を超えるサークルが落選の憂き身にあっていて、本当に申し訳なく思います。どうか、またあらためてご参加ください。
来場者の中には今日初めて同人誌即売会に来た人も多いことでしょう。よく言われることですが、即売会の魅力は宝探し。それは誰もが羨むお宝ではなく、自分が一番欲しいものを探す楽しみです。絵本「ぼくを探しに」(シルヴァスタイン)ではありませんが、自分の欠けた部分にピタリとはまるピースを探す旅のようなものかもしれません。今日という日に、忘れられない出会いがあることを祈っています。

2009年11月15日 コミティア実行委員会代表 中村公彦