時代はつねに変わります。「歌は世につれ」と言いますが、時代と共にメディアも表現もまた変わります。
マンガの起源を、鳥羽僧正の「鳥獣戯画」に求めるとするなら、その前史は12~13世紀の絵巻物の時代に生まれ、絵草紙、絵物語、紙芝居といった、連綿と続く紙媒体の歴史の中で、その時々のメディアの形態・様式に合わせてスタイルを変化させ、21世紀の私たちが慣れ親しむコマを割ったマンガの形に辿り着きました。
今日の日本では、その進化系とも言えるアニメやゲームなどの他メディアの表現も混在し、それらが共振し合って、マンガ文化が形成されています(この辺りは、今回「外から観たコミティア」に登場された出口弘先生の「4上流+1」論に詳しい)。
そしていま、まさに「産業としてのマンガ」は大きな曲がり角にさしかかっています。ここ10年程でWEBが普及したことで、紙媒体がだんだんと先細りし、基盤であった出版流通のシステムがぐらつき始めました。
一方、WEBでは携帯コミックが先行し、PCで読むWEBコミック雑誌は出遅れていましたが、今回「編集王に訊く」でインタビューした『ガンガンONLINE』はやっと成功例と言える段階に来たようです。今後は本格的な紙とWEBの生存競争が始まるでしょう。
何にせよ、技術革新によるメディアの変化には抗いようもありません。消費者はより便利な方を選ぶし、生産者はよりローコストな方を求めます。WEBの世界とて、イラストSNS「pixiv」や世界的ブームの「twitter」が登場すると、既存のサイトはあっさり乗り換えられ、ガラリと様変わりしました。マンガもまたこれまでの歴史と同じように、時代やメディアの要請に合わせて千変万化とそのスタイルを変えてゆくのかもしれません。あたかもその「遺伝子」を残すように。
こうした時代の変化の荒波の中で「多品種小ロットで生産性はよくないが、創り手が自ら制作し販売するマーケット」という、コミティアのようなインディーズスタイルが注目されるのもまた面白いことです。それは「産業」としてより、「表現欲求」が先走ったバランスの悪いメディアかもしれません。けれどここでは、産直販売所の泥つき野菜のような、生産者(作者)と直のやりとりをしながら、新鮮な作物(作品)を品定めする楽しみがあります。創り手側も消費者(読者)の生の声を聞いて、作品の出来不出来を確かめられます。これらは流通を通さないからこそ生まれた新しいコミュニケーションです。
例えば今回登場した「まんが屋部」という部活動は、マンガ家が自らのコミックスを自主的に販売しようというもの。もちろん、コミティアではこれまでも行われてきたことですが、それを組織的にアピールしようという試みです。こうした動きもまた時代の変化に触発された化学反応と言えるでしょう。ダーウィンの言葉とされる「最も強いものや、最も賢いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残る。」という一節を思い出します。コミティアはこの新しいチャレンジを応援しようと思います。
今回の会場内企画では「伝説のマンガ雑誌『COM』を語る座談会」を開催します。「現代マンガの青春期を語る」と題したこの座談会は、39年前の「私たち=マンガファン」が、その時に何を目指し、何を行い、そして何に挫折したのかを検証するものです。往時の彼らの蹉跌の上に、いまの私たちとマンガの関係があり、いまの私たちが進む先に、遥かなマンガの未来形があります。39年の時を経て、マンガは「青春期」からどこへ向かい、どこまで行けたのか。あるいは立ち竦んでいるのか。それをいまの私たちが確認したいと思っています。未来への礎とするために。
さて、ここで少し脱線。冒頭の惹句は「~世は歌につれ」と続きます。この3月、東京都青少年健全育成条例の改正案に出てきた「非実在青少年」という単語に、多くの表現者が敏感に反応し、抗議しました。こんなものを規制されてはたまらんと。私たちのマンガが「歌」として「世」をどれほど動かしうるか。それを問われているのかもしれません。動かそうじゃないですか、未来の私たちのために。「否!」と。
尚、当日は「マンガ論争」取材チームが会場に出展し、「マンガ論争勃発2・5」を配布予定です。こちらも注目してください。
最後になりましたが、本日は1年ぶりの拡大Special。コミティア過去最大の3312サークル/個人の描き手が参加しています。ここから新しい「何か」が生まれてくることを、心密かに願っています。マンガの未来に資する「何か」が。そして参加者のあなたに、ぜひそれを発見してもらいたいと思います。
2010年5月4日 コミティア実行委員会代表 中村公彦