COMITIA94 ごあいさつ

こんにちは、もしくは、はじめまして。今年2回目のコミティア拡大Specialへようこそ。

という訳で、このところの参加申込数の急増に応えて、この11月もついに2ホール拡大開催となりました。実際、今回も例年の5月と同じくらいのサークル数が集まっており、むしろ毎回3000サークル越えが、いまのコミティアの標準ラインなのかもしれません。そうなると「年4回2ホール開催にするべき?」という案も出ましたが、今度は都合の良い日程でなかなかホールの空きがないという新たな壁にぶつかっています。果たして来年のスケジュールはどうなるのか? 冒頭から頭の痛い話題で申し訳ありませんが、できる限りの努力をして交渉中ですので、いま暫く報告をお待ちください。

さて、今回のコミティア94の会場で注目してもらいたいのはアトリウムです。西1・2ホールという変形の会場の中庭のような位置にあるアトリウムは、二つのホールをつなぐ役割を果たしています。今回はそこに展示サークルと見本誌コーナー、そして会場内企画として「マンガ専攻大学・専門学校オープンカレッジ企画」をレイアウトしました。とくに展示サークルはコミティアの華といっても良いもの。ぜひここで足を止めて、じっくりその精魂込めた大作や工夫を凝らしたディスプレイを観てもらいたいと思います。
そしてアトリウムでもう一つの注目は新登場の「オープンカレッジ企画」。いま全国各地で続々と開校されているマンガ専攻大学・専門学校から13ブースが出展します。それらは単に学校数が増えているだけでなく、ユニークな作家が教授になったり、独自の雑誌の出版やWEBコミックを発信したり、それぞれに工夫を凝らして自校の存在をアピールしています。「マンガ表現の研究」という意味でも学会や図書館施設の母体となっていたり、これからは産学共同の動きもますます増えてゆくでしょう。意外にこの分野からマンガの新しい波が起こるのではないか?とちょっと期待しています。
私自身もこれまで、いくつかの大学に招かれて、マンガを学ぶ学生たちの前でお話しする機会がありましたが、まずその充実した環境に驚かされました。最新の設備などは勿論のこと、尊敬する先生がごく普通にキャンパスを歩いていて、当たり前のように学生が話しかけたり、マンガの相談が出来るのです。先生と生徒ですから当然ではありますが、それでも「なんて恵まれた環境なんだ!」とちょっと羨ましくなったりしました。もっとも現役の彼らには、慣れてしまってその有難みがあまりピンと来ないのかもしれませんね。
学校でマンガを教えるというエピソードで、思い出されるのは、鈴木みそさんが「オールナイトライブ」(コミックビーム掲載)で描いたワンシーンです。同誌の名物編集長・奥村氏と思しき人物が、高校に新設されたマンガ家養成コースで教鞭を取り、最初に生徒に教える一番大切なことは、黒板に書いた「生きる」の三文字。生徒には個別にペーパーが配られ「ヒマラヤで幻の豹・ウンピョウを捕まえる」「南米チリのビルカバンバで道案内人」「アフリカ東海岸でゴンベッサ釣り」「南極で皇帝ペンギンと…」などと無茶振りの課題が書かれている。そこに奥村編集長の決めの台詞「半年後帰ってきたらネームを切れ。絶対面白えもんが描ける。半分近くをプロにするにはこれしかねえ。」 うーん、的確すぎる指摘に痺れます。
果たして、いまのマンガを教える学校でこんなハードな授業が行われているかは存知ませんが、身も蓋もなくリアルなことを言うならば、卒業までにデビューに漕ぎ着けるのは、その半分どころか、ほんの一握りの筈。プロになれないまま否応無しに卒業していく彼らのマンガ人生のその後はどうなるのか。そこまでは学校の責任ではないかもしれないけれど、せめて卒業後も好きなマンガを描き続け、発表できる場所として、コミティアの存在に気付いて欲しいと思います。お節介かもしれないけれど、マンガを描くことは、若い時期のホンの数年の思い出で終わらせてしまうにはあまりにも勿体無いことなのですから(この辺りの話はP68「外から観たコミティア」の記事も参照してください)。
ちょっと話が脱線気味ですが、元に戻して、この「オープンカレッジ企画」で何より実現したかったのが各校の教授・講師による模擬授業と模擬実習です。詳細はP311をご覧ください。実際に行われている授業・実習を再現してもらうものですが、その先生方のラインナップやテーマからもかなり贅沢な内容になると思います。貴重な機会ですので、ぜひ参加してみてくださいね。

最後になりましたが、本日は直接3144のサークル・個人の描き手が参加しています。今回は落選無しでほっとしました。
この会場で出展する机の内側に座れば、それがマンガを学ぶ学生でもバリバリのプロ作家でも、年齢が10代でも60代でも、立ち位置は全て同じ「表現者」です。誰に頼まれた訳でもなく、自分が描きたいことを、自分自身が納得いくまで、精一杯心を込めて描くのが同人誌・自主制作・インディーズの心意気。完成度云々よりも目の前の白い紙に向う決意と情熱だけで眩しくなるような作品と出会えることを心から願っています。

2010年11月14日 コミティア実行委員会代表 中村公彦