サークルインタビュー FrontView

ONE超合金黒光

『超合金黒光5』
B5/50P/500円/青年
生年月日…1986年10月29日
職業…漫画を描いてます
趣味……植物に水をやる
コミティア歴…3年くらい
http://galaxyheavyblow.web.fc2.com/
今日本で最もスカっとするマンガ「ワンパンマン」。ワンパンチでどんな敵でも倒してしまうヒーロー・サイタマを描く本作は、累計約2800万PVを誇るウェブマンガだ。「アイシールド21」村田雄介さんの作画でリメイクされ、「となりのヤングジャンプ」で大ヒット連載中。その作品の核は「カタルシス」だと作者のONEさんは語る。
「実はサイタマがワンパンチで敵を倒すこと自体はカタルシスではないんです。サイタマのパンチで、それまでの状況が真反対の状況になること、それがカタルシス」。極限まで追い詰められた状況が一変する瞬間、それをもたらした主人公は最高に輝きを放つ。「その世界の問題を解決できるのは主人公だけ。真似できるかっこよさだったら極論、かっこよくない。誰にも真似できないかっこよさ、それさえあれば、他のかっこよさはいらない」。
そんなウェブマンガの旗手・ONEさんにとってコミティアに参加とはひとつの願望が叶う瞬間だった。「ウェブでアクセスが増えても読者が実在するって実感がなくて、それでコミティア参加を決めたんです。本当に僕たちのことを知っている人にしか届かないように、わざと表紙やサークルカットはかっこ悪くしました(笑)」。小学生のころからマンガを描き続けていたが、実は一度も直接人に読ませたことがなかった。対面なしで読者を得られるウェブで、作品を発表できることを知り「これしかない」と思った。長年ため込んでいた「読んでもらいたい」という欲求が爆発し、作品を量産した。気がつけばサイトに一日7万人が訪れるようになり、やっと読者と対面する勇気が持てるようになる。それだけ生の読者は緊張する存在だった。
一方で個人サイト、ウェブコミック誌、紙の雑誌、と様々な媒体で発表しているからこその実感もある。「昔は雑誌に載ることに憧れてたんですけど、今はウェブの読者と雑誌の読者は一緒だと思います。出版社に認められなくても自分が面白いって思ったら、どんどんウェブで公開すればいい。それで読者がつくなら面白かったんだし、つかなかったらやっぱり面白くないんだと思います」。ONEさんはぶれない。
「読者が面白いって思う話は、僕が描いてて面白い話と同じだなってことが多くて、そのライブ感が楽しい」。無名のころから読者とともに作者として育ってきた自信、次はどんな作品が生まれるのか。「映画のように終わりが決まっていて、全シーン見せ場となるような比較的短い話が描きたい」。作品の続きが気になって、ONEさんのサイトを訪れる回数が増すぎないか今から心配だ。

TEXT / YASUO SUGIYAMA ティアズマガジン106に収録

サナメメチダイヤモンド

『トリコトナリテ 六』
B5/54P/500円/SF
生年月日…10月11日
職業…まんが家
趣味…絵を描く
コミティア歴……コミティア71から
http://kirisana.memechi.net/
あったかい気分になるばかりか、体がホカホカしてくるファンタジーいちゃラブ時代劇『トリコトナリテ』。このシリーズも6冊目に突入した。
時に男性読者好みのお色気シーンも惜しみなく繰り出されるが、作者のサナさんは女性。少年誌や青年誌を読んで育ったそうで、たとえば„男性がハーレム状態“ のようなイチャイチャ話が肌には合うそうだ。「この話は、ニヤニヤしてもらう癒し系の漫画なんです。『時代劇』『年の差」『ちょっとエロ』と、好きなものを全部詰め込んだらこうなりました。作品中は動物が人の姿をした世界ですが、動物も好きなので、大好きなウサギと、対極でこれも好きなオオカミを組み合わせて夫婦にしたんです。」さらに「嫁の六花ちゃんが描きたくて描く漫画です!」と断言。六花ちゃんは言わば、作者の理想の妄想嫁を形にしたもの。「私が嫁が欲しくて描いたんです。健気で一途、かわいい、ムチムチ。そしておバカさんで頑張り屋さんです。」一方で旦那さんが女性読者に人気。咽喉の傷で口が利けない設定なのだが、作家の意図としてはその方が、嫁のかわいさに没入できるという理由だった。「そうしてみたら、『黙らせる』ことによってワンテンポ遅れるけど、筆記でやり取りしたりして、旦那さんとのラブラブ時間がより伝わるみたいです。先日読んでる人に言われて、そうか、と納得(笑)。」タイトル通り互いに「虜となりて」の蜜月の二匹。「元々ラブコメは好きだったんです。くっつくかどうかヤキモキする話が多いけど、じゃあその先は?って。夫婦だったら何してもいいじゃないかと……。」確かに嫁の尻をモミまくりとか、風呂場でお背中流し中に揺れる微乳とか、リミッターなしで喜ばしい。「読んでる人がニヤニヤするようなものを、と狙っています。たまに自分でもニヤニヤしてますけど。」
ポツポツと商業誌でも活躍中のサナさん。担当とのやり取りが勉強になったそうだ。「反応のコマを大きく、大切に」「おいしいシーンは次のページで見せるようにして焦らそうよ」「大事なシーンはBGMが変わったみたいに、イメージを変えて」等々。結果、よりホットに読者のツボを突いてくる、けしからんほどにチャーミングな娯楽作品が結実しつつある。
今後もシリーズを続けつつ「次は、前から温めているホラー作品を出します。」さらに雑談で時代劇萌えの話を聞いた流れで「虚無僧も気になる」と返ってきた。虚無僧!?
謎だけど楽しそう。

TEXT / RYOKO SUGAYA ティアズマガジン106に収録

乙女サバ2娘

『花と砂糖と君が好き6』
B5/62P/600円/少女
生年月日…1月12日
趣味…海外の科学捜査や警察ものドラマの視聴
コミティア歴…初参加は別サークル名でコミティア85から
http://niconet.web.fc2.com/
甘い香りに包まれる洋菓子店の雰囲気̶これが『花と砂糖と君が好き』シリーズを初めて手にした時の感覚だった。表紙の飾り切りや遊び紙の模様など目を引く装丁が印象的。だが、「こだわりは特になく、これやったら面白そうという本能のまま」とのこと。なんたる本能。
甘い見た目に反し、中身は苦味が効いている。理想と現実の狭間で揺れる心。進路に迷う焦燥感。羨望や自己嫌悪̶どこかで誰かが抱える心の闇を、高校を舞台に登場人物が代弁する。痛みを呼び起こすような苦悩の描写は見所の一つで、「そのキャラのいる意味」を支えるよう話が展開するためブレも少ない。
本シリーズは、共通の設定の元、「好きなように手にとって欲しい」との配慮から一話完結。毎回中心人物が変わるため単独でも読み応えがあるし、一つの物語として各話の繋がりを楽しめる構成になっている。P&R掲載を機に「チャンスを逃したらだめだ」と参加の度に新刊を発表、二月に最終話を迎えた。一巻刊行時「みんなにスルーされるはずと確信していた」ことを全く想像させない意欲だ。
カットで紹介している緑山さんは、友達の陰口がきっかけで他人との距離を置くようになった少女。心のどこかにある、普通の女の子みたいな友達付き合いをしたいという願い。それを妨げるようにふと蘇る当時の記憶は、無関係な周囲の声を自分に対する悪意に変換し、聞こえるはずの無い嘲笑を耳元に運ぶ。「みんな私のこと変だと思ってる」と耳を塞いでしまうほど彼女を追い込む。ここからカット紹介部分への軌跡は、ぜひ本編で確認を。心理描写が丁寧な分、報われる瞬間の解放感も大きい。読後、ホッと一息みたいな暖かさが胸に残ることだろう。抱える全てを知れずとも、溢れ出る痛みに気付くことは出来る、徐々に変わっていけると思わせる作品だった。
心情を描くとなると、乙女サバさんはさぞかし感情移入をするのだろうと予想したが、むしろ逆。こだわりすぎると身動きが取れなくなるそう。距離感の取り方は、物語の構成にも反映されている。彼女曰く、街中を傍観して「もしも○○だったら」をいつも想像しているとのこと。この「もしも」を編みこんで話が形作られる。映画から刺激を受けることも多く「カメラのアングルはコマ割に近い」そうで、なるほど場面を切り取る感覚が似ている。少し離れたところから眺める感じが、世界を構築するのに寄与しているのだろう。
次作は「妖怪と妖怪が見える女の子の話」を準備中とのこと。次の「もしも」は、どんな世界を見せてくれるのだろうか。

TEXT /AIRIN GOTO ティアズマガジン106に収録

TEXT / AIRIN GOTO ティアズマガジン106に収録

随時魚群

『若しあの黄色の星が』
B5/24P/100円/SF
生年月日…1980年代生れ
職業……ドーナツ穴空け職人
趣味…写真
コミティア歴…コミティア92から
http://zuizi.web.fc2.com/
淡々とした簡素な画からは想像も出来ない、どこかせつなくて、時に敬虔な気持ちにさせられる物語。マンガの2大要素が「絵」と「物語」とすると、随時さんの作品の比重は大きく「物語」側に偏っている。好き嫌いは別れるだろう。あまりにアンバランスでピーキーなのだ。良いマンガとは何か。彼のマンガを前には考えずにはいられない。減点式では辿りつけない良さ。この作風は一体どう生まれたものなのか−。「子供の頃は漫画家になりたかったんです。ただある日、友達と絵の勝負をして負けて…この程度じゃ漫画家は見込みなさそうだし、なら小説家になろうと。それから大学の頃まで賞を取る気で小説を書いてました。でもどうしても1日1時間で集中力が切れて、何も出来なくなってしまって。これは向いてないなと諦めました」
小説を書かなくなってしばらくして、ふと「マンガを描いてみようか」という考えがよぎったという。絵が下手で諦めたことを始めるのには迷いもあった。「そんな中、俺と海さん(※)、ねこぢるさん、押切蓮介さんの作品に出会って、マンガは面白ければ良いんだと。まさにコペルニクス的転回でしたね」3人それぞれのセンスや面白さが第一に楽しめて、人気があるマンガは天啓のようだった。
いざ描いてみると作画、シナリオなどやることが多いマンガは1つの作業に集中し続ける必要がなく、思った以上に小説よりも相性が良かった。以降、水を得た魚のようにハイペースで作品を大量に発表し続けている。「(量産できるのは)この作画ですからね(笑)。自分としては物語をメインにしたいので、簡単な線で数を出せた方が良いんです」聞けば8月下旬の本インタビュー時点で、既に今回の新刊の原稿が終わっていたというから驚く。
そんな彼の創作の原動力とはなんなのだろうか。「退屈を紛らわせる1番の方法は妄想だと思うんです。マンガを描くというのはその延長線上にあって、これ以上ない娯楽ですね。私の漫画を『やるせない感じ』と表現してくれた方がいたんですが、マイナスだけどそうじゃない感情を喚起したいと…最近『ねじ式』の帯に『心地よい無力感』という惹句を見つけてこれだと思ったのですが、私もその無力感を描きたいのかもしれないです」
今年でサークルを立ち上げて5年。マンガにも慣れた今、次を見据え始めている。「そろそろ何かしないと作家として打ち止めだなと感じてます。自分自身の底上げを図るか、どこかに持込するか。課題は作画ですね。どう誤魔化すか…(笑)」
(※サークル「ウモ屋」/パロディ系中心に活動)

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン106に収録

がぁさんがぁ書房

『ゾンビのシェリー』
B5/64P/500円/ファンタジー
生年月日…7月2日
職業…漫画家
趣味…ねこ
コミティア歴…コミティア102から
http://home.att.ne.jp/sigma/gaasan/
デビューから20年以上、成人誌・青年誌を中心にキャリアを重ねてきたがぁさん。しばらくの休業期間を経て、コミティアに参加し始めたのは約1年前のこと。商業誌復帰を見定めつつ、商業誌では出来ない自分なりの実験を同人誌で試みている。
例えば『ヒラメ・乙姫・姫初め』は、少年少女が大人と呼べる年齢まで初体験を持ち越した思いを丁寧に描く。「デビュー当時の成人誌では、短いページにエッチシーンもストーリーも両方盛り込まねばならず、中途半端になることが多かったんです」そういう当時のフラストレーション発散と合わせ、„ページ制限無しに、成人向けの物語を書くとどうなるか“ という挑戦だという。『ぐるぐるれっく』では、Point of View と呼ばれる手法で、酔って醜態を晒すヒロインをハンディカメラの映像を通してドキュメンタリータッチに描く。ヒロインの一人称の会話だけで進行するストーリー、CGのフィルタ加工による手ぶれの表現など、まさに実験映画のような凝った演出が冴える。
さて、同人誌で実験的な手法を試すとはいえ、成人向けである必要はない。それでもこだわる理由は?「やっぱり、そこからデビューしたせいですかね。描いちゃいけないと言われるとやりたくなるあまのじゃくな性格で…」また、デビュー当時の成人向けは何でもあり。エロシーンさえあればOKで、SFからファンタジーまで何でも試させてもらった。いまは同人誌も成人誌も同じように全編エロシーンばかりで、エロ描写についてはやり尽くされたと感じている。けれど一方で、漫画としての面白さが置き去りにされた気もしていると言う。こうした物語性へのこだわりこそが、がぁさんの真骨頂だろう。
自身の話作りの姿勢について彼はこう語る。「結局お話は面白くなるように書かないと絶対面白くならないんですよ。それは自分の中でどれだけ面白いパターンを蓄えられるか。若い頃から何を見ても、何故面白いのか/何故つまらないのか分析していたので、その経験が役に立っていると思います」
コミティアに参加して、「読者一人一人に本を手渡しさせていただいて、初心に戻れたというか、やらなきゃなぁと。ものすごいパワーをもらいました」と同人活動の楽しさにも目覚めたようだ。休業中も復帰を諦めるつもりはなかったが、「想像欲がみるみる蘇ってきた」と言ってくれたのはうれしい。これからも同人商業それぞれで、がぁさんの紡ぎ出す「物語」は、ますます私たちを楽しませてくれるはずだ。

TEXT / HIDEO SATO ティアズマガジン106に収録