コミティアが東京・中野で開催している「コミティア漫研コミュ」(に、過日ゲストがやってきました。
その人は週刊少年マンガ誌で活躍するバリバリ現役のプロマンガ家。ご本人に迷惑がかからないようお名前は伏せますが、コミュの部員の一人に氏の大ファンがいて、ゲスト依頼の手紙を送ったら、何と個人の立場でそれに応えて、わざわざ来てくれたのです。お話を聞きながら、第一線で活躍するプロとはこういうものかと、その読者に向かう姿勢、作品に対する自信、そして何より本人から発せられる熱量に圧倒されました。
氏がコミュの部員たちに最初に示した言葉はこれです。
「マンガを描いて、人に読まれて喜ばれたい、ことを認めちゃおう。好きで描いてるんだから、読まれなくていい、評価されなくてもいい、なんてことはない。何故みんなはマンガを描くか、昔好きなマンガを夢中になって読んだり、元気づけられたりしたことを、今度は自分が再現したいからでしょ。そしたら読者は必要だよね。自分のマンガを夢中で読んで欲しいよね。自分のためだけ考えていたら本当に面白いマンガは描けないよ。それを認めないと一歩前に進めません。」
この後、氏は部員たちのマンガのネームを読んで、数時間かけて一人づつ丁寧にアドバイスしてくれ、疲れも見せずにまた颯爽と帰ってゆきました。何という格好よさ! つくづく長年、週刊連載で人気を保ち続けるTOP作家の気概と魅力を見せつけられました。
「マンガは自己表現」を標榜するコミティアとしてはカウンターパンチを喰らった気分ですが、これが矛盾したことだとは思いません。何故ならコミティアは、作家が読者と出会い、その作品を手渡すために生まれた場だからです。作家が読者を求める気持ちがなければ、コミティアは存在しないのです。
実は似たニュアンスの言葉をもう一つ、同じ頃に聞きました。それはNHKの朝ドラ「あまちゃん」の脚本で大ブレイクした宮藤官九郎氏のとあるインタビューでの発言。それまで劇団「大人計画」所属の役者兼脚本家として、マニアックなノリと世界観で熱狂的なファンをつかんでいた彼が、真逆とも言える朝ドラにチャレンジした理由を問われた時の答えでした。
「『判るヤツだけ判ればいい!』という枠内でばっかりやってたらダメだと思ったんです。『判らない人のところにいってみよう、知らない人んちに行ってみよう』っていう気持ちがあって、『その時、俺どうなっちゃうんだろうな』っていう興味があったんですよ」(KAMINOGE vol.20より)
それぞれの表現者の言葉は共に、読者(受け手)のことを意識しています。自分の表現で読者を楽しませること。新たな読者に向き合うこと。それによって表現者自身もまた成長すること。こうした相互作用こそが表現におけるコミュニケーションというものなのでしょう。それはプロもアマチュアも関係なく、意識してゆくべきことと思います。
週刊マンガ雑誌でバリバリ描きたいのか、朝ドラで日本中にブームを巻き起こしたいのか、小劇場で熱狂的に愛されたいのか、自主出版で自分が納得いくまで作品を描きたいのか、それを選ぶのは自分がいま眼の前のテーマをどう描き、どう読者に伝えたいかの問題で、そこに本質的な表現の優劣はないのです。
その時、コミティアという場を選ぶか、あるいは別のメディアを選ぶか、それは描き手が自由に選択することで、その作品と読者との出会いが幸せになればいいのだと思います。コミティアにあるのは「顔の見える読者」というただ一点です。でもそれはとても稀有で魅力的な舞台だと私は信じています。
今回のコミティア106は前回8月からの期間が中2ヶ月という強行スケジュール。運営するスタッフにとっても、新刊を作るサークルさんにとっても厳しい日程になりました。サークルの申込状況を見ていても、どちらか片方の回に出るという傾向が顕著に現れました。こればかりは会場の都合でどうしようもなく、お詫びするばかりです。7年後の東京オリンピックも悩みの種ですが、そのことはまたいずれ。
会場内企画は1年ぶりの「海外マンガフェスタ2013」。前回の大好評を受けての再登場です。トークライブも豪華版ですし、個人出展の「アーティストアレイ」ブースが大幅に増えました。より多様な世界のマンガと出会えると思いますので、ぜひ覗いてみてください。
また、同じゾーンでは「相馬野馬追武者絵展」も行われます。これは福島県の相馬市で行われる伝統行事「馬追」の応援活動として、50人のマンガ家・イラストレーターが「武者絵」を描いたもの。図録の売上は復興支援として使われるとのことで、どうぞご注目ください。
最後になりましたが、本日は直接3566のサークル・個人の方が参加しています。今日という日に、たくさんの作家と読者の素敵な出会いがあることを、そしてその出会いがさらに素敵な作品を生むことを、心から願っています。
2013年10月20日 コミティア実行委員会代表 中村公彦