コミティア30周年記念YEARの最初のコミティアにようこそ。
30年という時間は永遠のように長くも感じられたし、ほんの一瞬だったようにも思えます。多分それは出発点からずっと変わらない「マンガが好きだ」という気持ちのまま続けているからでしょう。
同時にその30年はコミティアがマンガの周縁にたちずさんで、変化を見つめ続けてきた時間でもありました。それは勿論、激動の時代でした。
30年前、私は20代前半で、『ぱふ』というまんが情報誌で働いていました。当時からマンガ同人誌が大好きで、「同人誌紹介コーナー」の担当者でした。そこからC翼の二次創作ブームがあり、即売会にさまざまなインフラが整い、同人誌のマーケットは劇的に拡大してゆきました。前後して「人気同人作家」と呼ばれる人たちが一斉に商業誌に進出し、ニッチな読者を狙う雑誌も登場しました。
一方で商業誌全体としては90年代半ばに発行部数のピークを迎え、その後、現在まで長く下降線を辿ります。そこにはいろいろな理由が語られます。ブックオフなどの新古書店の台頭。WEBが普及して多様な娯楽があふれ、その多くが「無料」になったこと。同時に商業誌に載らなくてもマンガやその他の自分の描きたいものを自由に発表できるようになったこと。まさに膨大な「自己表現」があふれ、その大波の中でプロとアマチュアの差異も見えづらくなりました。
コミティアの出張マンガ編集部を始めたのは2003年。当初はこれほどの人気企画になるとは予想もしませんでした。それは商業誌でプロを目指す描き手が減ってゆくのと、ちょうど呼応していたのでしょう。それまでは商業誌は種を蒔いて収穫すればよかったものが、自ら獲物を狩りに行かねばならない時代になりました。農耕型から狩猟型に、編集者もスタイルチェンジを迫られているようです。
さらに進んで昨今は、ブログやツイッターなどの身近なツールにより、マンガ家自身がWEB上で直接発信する機会が劇的に増えました。それはかつて出版社が引き受けていた宣伝・営業の部分が、刊行点数が増え過ぎて対応しきれないのも一因でしょう。現実問題としてマーケットは縮小しつつあり、作者自身の危機感も当然あると思います。
また最近目立つのは、作者自らが電子書籍を制作してオンライン販売したり、自前で展示会を開いたり、さらにはクラウドファンディングと呼ばれる、WEB経由で作者が描きたい作品を提案し、ファンに製作資金の投資を募るシステムも増えています。この動きがどこまで拡大するか判りませんが、どちらかと言えばアピールが不得手な作家たちが、自身の負担は覚悟の上でも、痺れを切らして動き始めたのは確かなようです。まさに大きな地殻変動が起ころうとしています。
コミティアもまた30年掛けて、作家が自主制作する作品発表の場を、作家と共に作り上げてきた自負があります。毎回2~3万人のマンガファン、創作ファンが集まるこの場所を、ぜひ遠慮なくそして大いに利用してもらいたいと思います。作家が自らが発信する時代に、コミティアもその一つの有用なプラットフォームでありたいのです。
ここで一つ報告があります。12月に発表された第17回文化庁メディア芸術祭で、私・中村公彦が功労賞をいただきました。
個人の名前で貰った賞ではありますが、コミティアの運営自体が 「みんなで作るコミティア」を掲げてきたのですから、この賞も参加者みんなで受賞したのだと思います。どうぞみんなで受賞を祝いましょう。
そしてあらためてこの地殻変動の時代に、初めて同人誌の世界の人間が受賞するのも、何かを象徴するようです。それは同人誌という日本独自のメディアが認められた証しでしょうし、その役割がますます問われるのだ、とも思います。肝に銘じて、先人に恥じぬよう頑張ります。
なお、2月2日当日は、出口横で受賞記念展示コーナーもありますので、どうぞご覧ください。そして、2月9日には同芸術祭の受賞者シンポジウムが東京ミッドタウンにて開催されます。私・中村とコミティア初期からの仲間であるBELNE、山川直人の2人の作家が登壇しますので、ぜひ聴きに来てください(事前登録制で参加無料です)。
さて今回の会場内企画は、スピリッツ×IKKI presents 漫画家VS編集者ガチ会議「コンビの秘密教えます」と、マンガ専攻大学で教授を務めるマンガ家ちばてつや・しりあがり寿・BELNEの3人によるトークライブ「マンガ家がマンガを教えるということ。」の豪華2本立てです。こちらはぜひライブでご覧ください。
30周年記念企画については一年分のスケジュールをこちらにて紹介しています。まだ準備中で未公開の企画もあり、盛り沢山な一年となりますのでどうぞお楽しみに。5月には30周年記念出版「コミティア30thクロニクル」と題して、過去にコミティアで発表された作品から集めた作品集が一般書店でも発売が決定しました。こちらは鋭意編集中なので、詳細はいま暫くお待ちください。
最後になりましたが、本日は直接3656サークル・個人の方が参加しています。年の最初のコミティアですが、この特別な一年を通して見届けてもらいたいと思います。どうぞよろしくお付き合いください。
2014年2月2日 コミティア実行委員会代表 中村公彦