サークルインタビュー FrontView

ミツナナエ群青の街

『久世さんちのお嫁さん 総集編〜上〜』
A5/254P/1000円/少女まんが
生年月日…3月27日
趣味…BONSAI
コミティア歴…コミティア81から
http://mitsunanae.tumblr.com/
 大学で民俗学を教える准教授・久世七史と、その遠縁にあたる18歳の紅緒は、一回り歳の離れた仲良しご夫婦。しかし、二人が暮らす家には「持ち主に懐く」謎の“祟り”があり、紅緒が家から外へ出ると必ず災難に遭ってしまうのだった。七史は妻を救う手掛かりを求め、遥々、遠野へと赴くが…。
ワケあり夫婦の、多難ながらも幸福な生活を描いた連作『久世さんちのお嫁さん』(以下『久世嫁』)が、コミティア112で完結を迎えた。和服や古民家、民俗学など、和のエッセンスを散りばめつつ、夫婦の愛と絆を丁寧に描いた、読み応えある長編だ。「眼鏡男子と男女のイチャイチャが生きるモチベーションです(笑)」と公言するミツナナエさんが、本編400ページを越える『久世嫁』を世に送り出した動機とは何だったのだろうか?
ミツさんは漫画家を志し、マンガ学部のある京都の大学へ進学。「学校の課題でアシスタント研修があって、プロの現場でキャラクターを描く大切さや、作品を描き上げる根性を学びました」と語る。'07年に、自主的に漫画を描く機会を増やすため、友人らと合同サークル「monoclover」を結成し、同人活動を開始。その直後「コミックZERO-SUM」(一迅社)でプロデビューを果たす。商業で読切やコミカライズ作品などを発表後、一昨年、自分が好きなものを詰め込んだ『久世嫁』を描こうと考えたのだそうだ。「男女がくっついてから関係が成熟していく過程が好きです。主人公たちが夫婦なら、イチャイチャが存分に描けるだろうと思いました」
シリーズ序盤では、先々の展開を殆ど決めていなかった。しかし、コミティア会場でのある一言が、ミツさんの背中を強く押す力になった。「読者さんに『これ、ちゃんと終わりますか?』と言われて、『絶対最後まで描こう!』と決意しました。私はすごい負けず嫌いなので、意地で毎回続きを出そうと。そして、作者として、キャラクターたちに良い形で区切りを付けてあげたい、と感じました」と振り返る。コミティア104で1巻を発行してから最終の9巻まで、コミティアで毎回新刊を出し続けた情熱の裏側には、作品に対する強い責任感と愛着心があった。そして、それらが、人には言えないある秘密を抱える夫婦を描いた、「プリンセスGOLD」(秋田書店)での新連載「日比野夫妻の暦帳」を産み出すきっかけにもなった。
「相手に合わせるのが苦じゃない、と思える夫婦関係って良いな、と思います」とミツさん。ワケありだった久世夫妻が“普通”の夫婦になるまでの愛の物語、ぜひご一読あれ。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン113に収録

山本中学難病中学生

『言わないから、僕らは』
A5/34P/300円/青年
生年月日…2月2日
職業…いまのところマンガ家
コミティア歴…2007年から
https://twitter.com/yamamotochugaku
 「難病中学生」というヘンなサークル名の由来を尋ねると「中学生は自分の方向性が固まる前のすごくごちゃごちゃした時期、でもだから面白い。『中学生って難病だな』と思ってつけました」と作者の山本中学さんは教えてくれた。
その名前通りこれまでの山本さんの作品は10代の若者のたぎるエネルギーと生々しい鬱屈が暴発するような話が多かった。絵柄も不器用で、勢いのまま線を重ねているように見える。
それが昨夏発表した「言わないから、僕らは」では一転して30代の大人の失恋話を描いた。短編の中に切れ味よく男女のドラマをまとめ、後味もいい。この新しい作風は評判もよく、ティアズマガジンのP&Rでも紹介された。
さらに同作はコミティア会場で行われた「モーツー×ITAN 即日新人賞」でモーニング編集部賞に入賞。新作のWEB掲載を経て、今年3月から「繋がる個体」を本誌連載、7月には単行本2冊同時発売という、トントン拍子の人気振りである。
さて、あらためて話を聞いて驚いたのは、これまでの同人誌作品は全て投稿作だったこと。プロを意識せず、自由気侭に描きたいタイプと思ったのだが、勘違いだったようだ。主人公の生硬な衝動のリアルさに引き込まれ、読む側をその気にさせてしまうのも作品の力だろう。
20歳の頃からマンガ家を目指し、バイトをしつつ投稿を続けた山本さんだが結果はなかなか出なかった。そのうち、ぽかんとマンガがよくわからなくなってしまった時期があり、ともかく描いた投稿作を同人誌にして、コミティアに参加してみたという。本にすることで、自分の作品を客観的に見てみたかったのだ。自分の持ち味が何か、探す時間がその時必要だったのだろう。
そうして描き続ける内に興味がだんだん中学生から大人に移ってきた。ニュースを見たり、SNSでこじれた発言をする大人たちを観察するのが面白く、「いまは大人の方が難病感がある」と感じるようになる。そこで大人のキャラで思春期っぽいエピソードを描いてみたら、思いのほかハマったようだ。年を経て、本人の資質と描きたいものがやっと合致したのかもしれない。
ご本人は「いま週刊連載しても取り戻せないくらいサボっていた時期が長いので、それを取り戻したい」とさらりと言う。いやいや、このこじらせた才能?が真価を見せるのはこれからなのだ。

TEXT / KIMIHIKO NAKAMURA ティアズマガジン113に収録

縞野やえしましまの

『癖』
B5/48P/600円/青年
生年月日…3月22日
職業…漫画家
趣味…ランニング
コミティア歴…コミティア88から
http://stripe.skr.jp/
 現在デビュー7年目のマンガ家・縞野やえさん。「小学生の頃からマンガを描いていました」という彼女だが、その道を志したのは意外にも遅い。夢は夢として実際に仕事にして良いのか、ずっと悩みはあったのだろう。投稿はもちろん、同人活動もしてこなかったという。その決断は美大卒業後、バイト生活を送る中でようやく下される。「このままじゃダメだ。1年やってみてデビュー出来なければ諦めよう」と覚悟を決めた。複数の雑誌に持込・投稿する中、デビューのきっかけになったのはコミティアの出張編集部。そこでチャンスを掴み、『kiss+』(講談社)で見事デビュー。半年という早さで目標を達成した。
コミティアへのサークル初参加はその翌年の2009年。デビューしたものの求められる作品が描けない状態で「読んだ人の反応が分かる場で、描きたいマンガを模索したかった」という。「コミティアは私の『面白い』を探し続ける場所、という感覚があります。いろんな作品を買って読むだけでも刺激的」。発表した同人誌から新たな仕事に繋がることもあり、青年マンガから百合、コミカライズまで様々な作品に挑戦していった。
そんな順調な様子とは逆に、実際は「ずっと混乱しながら描いてます」と弱気だ。「皆の求めるものと、自分のやりたいことのバランスが難しくて。プロでやる内に何が『面白い』かぼやけてしまった」と言う。「大抵のものが好きで、描きたくないものがない」ことも原因の1つなのかもしれない。
一方で、少しずつ前に進めている実感もある。昨年のコミティア110で発表した『potentiality』は苦手意識のあった恋愛ものだったが、その回のハガキアンケートで一位を獲得。最新作の「服を着るならこんなふうに」(KADOKAWA『WebNewtype』連載)は、有名ファッションバイヤーの企画協力の元、「ファッション入門」という変わったテーマで話題を集めている。「私はファッションセンスが全然ないので心配だったんですけど、思った以上に注目していただけて嬉しいです」と手応え十分だ。
今後の目標として「自分がやりたいことの明確化」を掲げる。「好き」が多いからこそ琴線に触れる「すごく好き」が大事だと気が付いたという。その1つに挙げるのが「ネームを描きたい」という欲求だ。「滅多にないんですけど、ネームが上手く描けた時の感動を味わいたくて、とにかく描き続けてます」。そんな迷い多き彼女をこれからも応援していきたい!

TEXT / SATOSHI OKAMOTO ティアズマガジン113に収録

栗菜めだかめだかんぱにー

『昨日、聖女が死んだ』
A5/78P/500円/青年
生年月日…8月19日
職業…システムエンジニア
コミティア歴…2008年から
http://medacampany.net/
 一見可愛いほわほわっとした絵柄のマンガを描く栗菜めだかさん。だが、読み進めると重いテーマを秘める内容のギャップにガツンと心つかまれる。それが恐ろしくも心地良くてたまらない。
小学五年生の頃より自分のウェブサイトにてイラストやマンガを描き始め、購読していた同人系情報誌がきっかけで同人誌を作り、イベントに参加するようになった。
同人誌として発表し、昨年の「モーツー×ITAN 即日新人賞」にも投稿した「昨日、聖女が死んだ」は、いじめを受けて自殺しようとしていた少年が同級生の女の子に助けられるも、その少女をいじめっ子に売り渡すようなことをしてしまい、結果彼女が自殺してしまう…という重く悲しいストーリーの作品だ。「編集者の講評が貰えるから」という軽い気持ちで応募したというが、結果は見事大賞を受賞。天性のマンガ構成力とストーリーテラーの才能を見抜かれたということだろう。
同人活動初期は、もっと軽い感じのマンガを描いていた。現在のシリアスな作風に転換したきっかけは、情報系の学校を卒業しIT系企業に就職したことだと語る。「一人で考える時間が増えたことと、仕事がかなり大変で嫌なこと考えたり暗い気持ちになってる時にマンガのネタが浮かぶのです。仮に嫌なことがあっても、これでネタ出来たよ、と気持ちを切り替えられたり。そういう意味ではマンガに救われているところはありますね」
コミティア104の見本誌読書会投票TOPを取った「どーじん的七つの大罪」は、ブラックジョーク的な面白さとある種のおぞましさを感じさせられるマンガ。ネットや同人の世界での「あるある」ネタを、キリスト教の「七つの大罪」になぞらえてシニカルに描いた痛快作。これも自身の同人活動の中で見聞きしたことが一部元ネタとなっているそうだ。
ラストがモノローグのみのページで終わる作品が多いのも彼女の作品の特徴。結末をはっきりと描かずに含みを持たせる終り方が、読者の想像力を掻き立てる。話を聞くと、まずモノローグの部分が思い浮かび、それを描くためにどのようなエピソードがあればいいかなと考え、物語を膨らませているとのこと。「マンガ自体が、最後のモノローグを書くための前振りみたいなものですね。描きたいことはモノローグに。マンガとしては邪道なのかなと思いますけど」
本業の傍らでこれからもマンガを描き続けていきたいと話す栗菜めだかさん。彼女の内に秘めたる闇と光が紡ぎ出す物語は、きっと我々の心をも浄化させるに違いない。

TEXT / KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン113に収録

シアン・かつゆーCircles' Square

『CIRCLES' vol.3』
B5/フルカラー42P/500円/情報
<シアン>
生年月日…1986年
職業…会社員
趣味…同人誌づくり、ガジェットいじり、食べ歩き
コミティア歴…コミティア90から
<かつゆー>
生年月日…1987年
職業…学生
趣味…写真、お酒、マイナーなガジェット類
コミティア歴…コミティア80くらいから
http://csqr.org/
『はじめての同人誌』はその名のとおり「同人誌っていったいなんなの?」という疑問に答えてくれる同人ガイドだ。同人誌とはどんな物なのか、どこで手に入るのか、どうやって作るのか、などのイロハを楽しく学べる一冊となっている。こうした様々な切り口で情報誌形式の同人誌を発行し、同人活動全体にアプローチするのがサークル「Circles' Square」だ。
メンバーは編集・デザイン担当のシアンさんと、インタビュー・渉外担当のかつゆーさんの二人。ネット上で知り合い、意気投合した彼らは、秋葉原で一晩飲み明かしながら作りたい同人誌について語り合い、サークルを立ち上げることにした。
「同人は誰もが楽しめる可能性を秘めていると思います。まずは先入観なく手に取ってほしい。そして、世の中は楽しいものであふれていることに気付いてほしい」と語るかつゆーさん。その活動理念は「『同人の楽しさ』を老若男女に伝えること」。メイン誌にあたる『CIRCLES'』シリーズでは一作ごとに企画を立て、サークル、即売会、同人ショップ、ニュースサイト、読者など、同人の様々な要素を支える人たちに取材して、その思いを熱く伝えている。
一方「サークルの素顔を見られる同人誌ってあまり無い。無いなら作るしかない」という発想から生まれた特集本シリーズも刊行中。前述の『はじめての同人誌』を始め、例えば『修羅場より愛を込めて』では、108(煩悩の数?)ものサークルにWEBアンケートを行い、修羅場にまつわる赤裸々な声を集めてその実態に迫る。その結果としてサークル活動への親しみにつながるのも思惑のうちだろうか。尋ねると「私たちの本を読んで同人活動をはじめました、という声が一番うれしい」という。
「同人を民俗学的な観点で後世に残したい」とシアンさんは語る。サークルの生の声を積極的に集めるのは、「10年後、20年後、100年後の人たちが『この時代の人たちはこういうことを考えていたのか』と分かるような資料を残したい」からだ。遠い未来、お二人の本が重要な研究資料として扱われる日が来るかもしれない。
「Circles' Square」の本を読むと、「同人が好き!」というメンバー二人の想いが清々しいほどストレートに伝わってくる。その気持ちを「本という形」にして、より多くの人に届けるべく、彼らはこれからも「同人誌の情報誌」を作り続けるだろう。その後には、きっと彼らに続く人のための道が出来ているはずだ。

TEXT / KOUTA NAKAI ティアズマガジン113に収録