COMITIA115 ごあいさつ

マンガ雑誌の時代の終わりと、その進化に向けて

ここ数年でマンガは大きく変わろうとしています。
勿論、その原因はWEBという新しいプラットホームの登場によるものですが、何より大きいのはそれによって、これまでのマンガメディアの根幹を支えていた、「雑誌」というシステムが終わりつつあるからです。具体的にはここ20年ほどの、雑誌の赤字をコミックスの黒字で支えるというビジネスモデルが破綻しかけています。
よく言われることですが、日本のマンガが独自に発展した理由は、雑誌によって全国津々浦々に届けることが出来たことと、その雑誌の編集部という単位での、マンガ家と編集者の育成システムがあったからです。
このシステムが崩れることは、根本的な商業出版のマンガの作り方を変えることになり、さらには出版されるマンガ自体の「質」の変化も促すでしょう。
現在の編集者は、雑誌編集部という集団に帰属して、その編集方針を踏まえてヒットを出すべく、マンガ家と二人三脚で作品を作ります。そうした基盤や指針を失った時、何かを一から立ち上げて、売れるものを作るのは並大抵のことではありません。
「巧遅は拙速に如かず」という言葉もあるように、WEBは何よりスピード重視で、マンガ家と編集者が時間をかけて作品を練り込むよりも、早く読者に公開して反応を見た方が、結果としてリターンは大きい、というWEBならではの方法論が優先されるかもしれません。
性急に「編集者不要論」とまでは言わなくても、これからの商業誌の編集者にはWEB展開を前提としたエージェントやマネージメントなどの新たな能力が求められてゆくでしょう。
その一方で、ほとんどが「フリー(無料)」で読まれるWEBの中で、どうやって収益を上げるのか。出版産業全体でこれまでとは根本的に違う発想を迫られていますが、なかなか打開策は見つからないようです。
思い起こすのは、約60年前に週刊の少年マンガ雑誌が登場し、それに場所を譲るように退場した貸本マンガというメディアです。
貸本マンガ出身という作家は多く、水木しげる、横山光輝、さいとう・たかを、ちばてつやなど、数多くの才能を輩出しました。しかし、その彼らが新しい週刊誌メディアに活躍の場を移すことで、雑誌は活況し、貸本は衰退しました。
これまでもマンガは様々な意味で拡張し、それによってメディアの変化を求め続けてきたのです。
この辺りの経緯は今号に掲載したちばてつや氏のインタビューをお読みください。自身も貸本マンガ出身で、60年に及ぶその足跡はまさに戦後マンガ史の生き証人と言えるでしょう。激動の時代をどう生き抜いたのか、大いに参考になるものと思います。
そんな訳で、長々と直接関係のない商業誌のマンガの話をしてきましたが、では同人誌という、同じ紙での表現にこだわる、同人誌即売会のコミティアの今後はどうなるでしょう。
正直、10年も前にWEBが普及し始めた頃は、「即売会不要論」もありましたが、とりあえずその心配は外れたようです。
オンラインのコミュニケーションの隙間を埋めるように、オフラインのリアルな出会いを求め、より多くの人が会場まで足を運んでくれるようになりました。描いた作家から、直接本を買い、直接感想を言える、という対面のイベントならではの利点は、思った以上に魅力的だったようです。
そして、流通メディアとしても、多品種小ロットで、数量が限定された商品を高価格(商業誌よりも割高という意味で)で販売する、さらに生産者と直接コミュニケーションできる付加価値もある、コミティアという「マーケット」の特殊性は、むしろ一般的な大量流通システムよりも一歩先にいるのかもしれません。
あえて判りやすく「マーケット」という言葉を使いましたが、紙という媒体がもし衰退して行くのなら、それは少しでも生き残れる場所を探すはず。コミティアという相対的に小さなミニメディアは、その行き着く場所として意外としぶとく生き残るのではないかと思っています。
これからマンガがどう進化し、メディアがどう変わってゆくか、それは誰にもわかりません。ただ、コミティアは描き手と読み手が出会える場所という、同人誌即売会の原点を何より大切に、いつまでもここにあり続けたいと思います。
さて今回の会場内企画を紹介します。
昨年より地方コミティアを一巡した[コミティア30thクロニクル]刊行記念連続トークショーの最後に、東京会場でのトークショーを行います。
ゲストは現在、マンガ家として活躍する内藤泰弘氏(第1集掲載)とアニメ監督の宮尾佳和氏。二人はかつてコミティアで、参加サークル(内藤)とスタッフ(宮尾)として出会いました。その後それぞれの道を目指し、20数年後の昨年、内藤氏の「血界戦線」のアニメ化に、宮尾氏が絵コンテで参加。久々の再会となりました。そんな縁から、二人の思い出話と今のことをじっくり聞きたいと思います。
もう一つは、文星芸術大学卒業制作展特別企画として行われる同大学のちばてつや教授の「マンガの授業」。卒業制作のマンガをちば教授が公開講評するもので、教え子たちに向けたアドバイスは、他の描く者にとっても大いに参考になるはずです。
最後になりましたが本日は3424のサークル・個人の方が参加しています。進化が、実は一つ一つの個の変化の膨大な積み重ねであるように、今日ここにある新しいたくさんの作品を読むことは、まさにその進化に立ち会うことに他なりません。どうか、より面白いマンガの未来と出会えますように。

2016年1月31日 コミティア実行委員会代表 中村公彦