サークルインタビュー FrontView

大塚志郎うみはん

『びわっこ自転車旅行記 次女高校編』
B5/28P/600円/旅行記
生年月日…1982年11月10日
職業…漫画家
趣味…弓道・自転車旅行・同人誌制作
コミティア歴…コミティア105から
http://ameblo.jp/otsukashiro/
 漫画制作の舞台裏にスポットを当てた「漫画アシスタントの日常」。フリーの漫画アシスタントの主人公を通して漫画に懸ける熱い思いと現場の過酷さが伝わってくる。アシスタント経験が豊富な大塚さんだからこそ描ける作品だ。
大塚さんは高校卒業後、プロを目指して投稿を重ね、賞への入選を期に、東京に上京。最初に行った週刊連載のアシスタント現場でプロの仕事を目の当たりにし、現在の漫画作りの基礎を学んだという。その後ヘルプで色々な現場を経験したが、雇い主によって仕事の進め方や賃金は様々。そうした現場により「常識」が異なることの苦労や葛藤を反映させながら、作中で主人公が「原稿を落とさせない」という信念を貫き、突き進んでいく姿は実にカッコいい。
コミティアに参加するようになったのは3年ほど前。それまで意識して同人とは距離を置いていた。先輩作家からのアドバイスもあったが、プロとしての漫画の作り方が身に付かない内に、同人誌で描くとその自由さに流されてしまう怖さがある。自分なりに自信が付き、さらに活動の幅を広げたいと考えるようになって、初めて同人活動を始めた。
同人誌で描く時に重視するのは「実体験」。自転車旅行や弓道といった自身の経験をベースに作品を作る。商業誌に「エンターテイメントの方程式」のようなものがあるとしたら、同人誌で出せるのは「実体験のリアリティ」だと言う。「びわっこ自転車旅行記」で描かれる満身創痍の体で峠を登る辛さや、坂を下る時の爽快感はまさに実感がこもる。このリアリティが武器であり、魅力だろう。
そのスタンスから自身の経験を元に「漫画制作のディープな現場を描いたら面白いのでは?」というアイデアが生まれ、「漫画アシスタントの日常」を描き出したのも自然な流れ。狙いは見事に当たり、同人誌版の人気から、そのまま商業連載となった。読者のニーズを的確に分析できるのも、プロのキャリアのなせる技だろう。
「ネットで漫画を読む人は無料なら読むという層が多い。コミティアには漫画にお金を出してもいいという層が来てくれる。そういう人を大事にしたい」と大塚さんは語る。商業誌と同人誌、ネットと紙の本。様々な現場を見てきた人の言葉だけに説得力がある。
「今度は同人誌で『売れない漫画家の日常』を描こうかな」と笑う。実体験?のリアリティと、それでも夢を追う主人公に、大塚さん自身が重なって見えそうだ。

TEXT / KOUTA NAKAI ティアズマガジン116に収録

D・K大声

『新明解騎士逸話集 羊』
A5/84P/400円/ファンタジー
生年月日…7月21日(D)、12月1日(K)
趣味…ゲーム、旅行
コミティア歴…「大声」名義では85から
http://o-goe.hippy.jp/
「売上ゼロをこれまで6回体験しました」と衝撃の過去を告白したのは、2人サークル「大声」の作画担当のDさん。これは別のサークル名で、今から10年以上前のコミティアに参加していた頃の話だそう。結局、当時出した作品は1部も売れずじまいだったが、苦い経験が、以降の活動の方向性を決める基盤になった。「『売れないのに何故描くの?』と自問したとき、純粋に『自分たちが読んで楽しみたいから』って結論に辿り着きました。売上ゼロでも必ず読者がいるという意味で、2人サークルなのは活動を続ける上で大きな励みです」(Dさん)
メンバーであるDさんとKさんは、中学の同級生で、当時から共に創作活動を続ける仲間だ。役割分担は流動的な部分もあるが、作画とサイト運営はDさんが、デザインやサークル運営はKさんが担当。ストーリーは、2人で案を出し合い、身近で体験した面白い出来事をアレンジしながら、コメディ風に描くよう心がけているとのこと。
現在、6冊まで刊行されている『新明解騎士逸話集』シリーズは、魔法の発達によって戦場で働き場所を失いながらも、誇りある騎士として生きる若者たちの職業事情にスポットライトを当てたオムニバス作品だ。騎士団に所属する面々は多士済々で、カードゲームの達人や名探偵、衣装や料理の名人といった、一芸に秀でた者もいれば、底抜けに親切だったり、友情に篤いなど、人間的な魅力に溢れた者もいる。戦場の華だった本来の騎士のイメージとは程遠いが、彼らが日常の中で様々な困難に直面し、時に身体を張り、時に知恵を絞りながら、懸命に職務を果たそうと奮闘するドラマには、独自の〝お仕事漫画〟としての面白さがある。「作中の騎士は、公務員でサラリーマンなんです。『戦わない軍人』をリアルに感じて楽しんでもらえたら嬉しいですね」(Dさん)
また、ストーリー中の「謎」の存在もぜひ気に留めて欲しい。「2人ともミステリーが大好きなので、お話の中には必ず謎を入れて、それをどう描くかを大事にしています」(Kさん)。一見、不可解に思える人間の行動や事件の裏には、「なるほど!」と納得させられる真実が隠されている。ファンタジーとしてのみならず、ミステリーとしても、同シリーズは貴方の知的好奇心を存分に満たしてくれるだろう。
サークル名は「遠くまで届くように大きい声を出していこう」との気持ちに由来。それに倣い、声を大にして伝えたい。「大声」の漫画は読み応えがあって面白いですよ、と。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン116に収録

ドングリブラック・クラッシャー

『栗とリス』
B5/20P/300円/ギャグ
生年月日…11月6日
職業…漫画家
趣味…スケベな妄想
コミティア歴…コミティア98から
https://twitter.com/donguri_BC
 有名ラベルの缶飲料が愛憎劇を繰り広げる『姦飲料』。ふっくらしたパンが無理やり犯される『パン犯(ぱん)』。ドングリさんの「無機物シリーズ」は、物を物の姿のままドロドロの恋愛ドラマや凌辱劇を描く、クレイジーでオンリーワンの作品群だ。取材中も物の妄想は欠かさない。傍らのぎゅう詰めな本棚を見て「本を破らないように慎重に取り出そうとすると、本棚が焦らされるように感じて悶える姿が見えます——」
小さい頃からお絵描きと物語の空想が好きだったドングリさん。無機物シリーズに至る原体験は小学生の時に見たテレビドラマだった。浜辺の空き缶と空きビンが流れ着いた運命を人間さながらに語り合う場面を見て、些細な出来事でも物語をつけると物が生き生きと見える、と目から鱗だったそうだ。そこに自身の好きなスケベ要素を加えて生まれたのがシリーズ最初の作品『姦飲料』だ。以来、ネットを含む読者の評判を逃さず捉え、新作の度に新たな趣向を凝らし、シリーズは現在20冊以上を重ねている。さらにプロとしてウェブコミックサイト『BL☆美少年ブック』(KADOKAWA)や『マンガにしてみた。』(ブックテーブル)で執筆するにまで至る。
ドングリさんの作品は日常的な物が性的な姿を見せるというギャップが面白い。代表作『パン犯』では、バターロールが怪しい手つきで切り込みを入れられ、白い身体に油っこい具材を詰められ、射出音とともにマヨネーズをかけられる。ロールサンド作りが婦女暴行と化すのだ。それでも人の姿での性的描写がない故に成人指定はしない。「健全のエロなので未成年が買っても大丈夫」とは、いわば〝非擬人化〟だからこその売りだろう。
そんなドングリさんは妄想をよりリアルに描きたいと語る。昨年11月に発表した『栗とリス』は文字通り栗とリスがまぐわう一冊だ。タイトルや栗の造型も相まって、女性器を責める男性を想起させる。この作品では苦手だった動物の写実的な描写に挑んだ。現存感のあるリスによって、こういう妄想の世界が本当に存在するかもしれない、と読者に思わせたかったとのことだ。リスを飼う読者からは苦笑まじりに、もうまともな目でペットを見られない、と「褒め言葉」を頂いたそうだ。
「苦手なら挑戦、得意なら極めろ」が座右の銘というドングリさん。全ては笑顔のためだと語る。「読者が私のマンガで笑ってくれると自分も笑顔になれる。それだけで私はずっとマンガを描いていける」。幼い日に芽吹いた妄想の世界は笑顔を糧にしてさらに大きく広がろうとしている。

TEXT / TAKASHI MENJO ティアズマガジン116に収録

三上ミカアクアドロップ

『おはようせっくす』
B5/42P/600円/アダルト
生年月日…10月9日
職業…漫画家
趣味…漫画を描くこと
コミティア歴…2008年くらいから
http://aquadrop.chu.jp/
 つながることが許されない禁断の関係。寝たふりまでして、大好きな兄と結ばれたい妹、背徳感を抱きつつ、同様に深いところで繋がりたい兄。「おやすみせっくす」シリーズは、両者の視点を織り交ぜ、言葉や心理的な駆け引きの中で結ばれていく兄妹の物語である。
作者の三上さんは物心ついたときから絵を描き始め、中学生の時に同人の世界へ入り、一旦は地元で就職した後にCGの勉強をしたいと専門学校へと進学した。卒業後はゲーム会社やパチンコ会社に就職し、CGやデザイン制作、進行管理など現場で様々なことを経験したそうだ。作家としてのデビューは2011年、かたわらで続けていた同人活動をきっかけに、4コマ『まんがぱれっとOnline』(一迅社)で『えろげや×シスター』を連載。仕事との両立は多忙を極めたが、漫画を描く基礎を学んだという。この時に感じた「ゆっくり時間をかけて物語を描きたい」という気持ちが、ストーリー漫画に本格的に取り組むきっかけになった。
最初は成年向ジャンルに対して嫌悪感を抱いていたという彼女の考え方が一変したのは、純愛物を得意とするベテラン作家・田中ユタカ氏の作品に触れたこと。「出会っていなかったら作風は違っていたかもしれない」という程にページがボロボロになるまで代表作『初夜』や『愛人[AI-REN]』を読み倒し、それまでの人生観すら変わったそうだ。
三上さんのこだわりポイントは「言葉」だ。「売れなくても良い、自分の描きたいものを描こう」と、言い回しや語呂の良さを気遣い、納得行くまで直し続ける。「台詞とネームが第一」と考え、1作のネームを練り続けることに2ヶ月かかることもあるそうだ。表紙には、タイトルと、〝純愛である〟〝兄妹ものである〟といった中身を伝えるキャッチコピー的な言葉を必ず添える。表紙だけで判断されることが多い同人誌ならではのこだわりだろう。「言葉」のこだわりの原点は、高校時代に所属していた文芸部、詩作で県大会の最優秀賞を獲ったこともある感性の鋭さが活きる。
「兄妹は普通の男女より距離の近い関係なのだから、一線越えてからの話を描きたい」と『おやすみせっくす』をはじめ、商業では制約がつくことの多い近親相姦をテーマに性描写も含めて濃厚に描く。「エロ漫画はいかにして自分のフェチを晒して煮詰めて描くか」が大事と説く彼女。次に魅せてくれるフェチズムは一体何か——、期待して待ちたい。

TEXT / HIDEO SATO ティアズマガジン116に収録

ネルノダイスキニダンカイダン

『てんてん』
B5/16P/300円/SF
生年月日…6月27日
職業…大学勤務
趣味…散歩
コミティア歴…コミティア103から
http://nerunodaisuki.petit.cc/
 まず飾りっ気の無い、ほぼ真っ白な表紙に目を惹かれる。ページをめくると、シンプルな造形をしたネコのキャラクターと、それと対比するかのように細密に描き込まれた背景。そしてどこか奇妙でシュールな物語。何だ?このマンガは。そう思った時、あなたはもうネルノダイスキの世界に迷い込んでいる。
グラフィックデザイナーに憧れて美術系の大学に入学し、卒業後は映像製作関連の仕事に就いた。その後、大学で非常勤講師などの仕事をする傍ら、元々やりたかった絵画や立体物などの表現活動を始め、ギャラリーで作品を発表してきた。
そんな中、友人からマンガ合同誌への参加を誘われ、初めて一本のマンガを描いた。単体の芸術作品を作ってきた彼にとって、ストーリーのあるマンガを描くことそのものに新たな発見があったようだ。「マンガは時間軸を自分で作りコントロールできるというところが一番衝撃的であり、嬉しい。一枚絵とは全然違う感触があって、自分で描いていて驚きがありました」。芸術家ならではの独特な視点に、マンガ表現の奥深さを再認識させられる。
合同誌の刊行が遅れ、結果的にそのマンガは、自身のサークルで個人誌として発行。その後は毎回コミティアに参加し、必ず新作を発表してきた。そのバイタリティは、芸術家としての表現活動への飽くなき探究心と、それに呼応する読者の反応があったからこそだった。「最初の頃はビジュアルから入っている話が多かったのですが、最近は雰囲気とか見せ方とか、いろんなマンガの文法を試しながら描いてみようって決めてます。コミティアの読者さんはすごく幅が広く受入れてくれるので、作品ごとに感想を伝えてくれるのが新鮮で嬉しい」
コミティア110で発行した『エソラゴト』は、それまでにコミティアで発表したマンガをまとめた総集編。これを機に、同作品集を文化庁メディア芸術祭に応募してみた。結果は見事マンガ部門の新人賞を獲得する。この受賞がきっかけとなり、新作マンガが『ITAN』(講談社)に掲載されるなど、発表の場が広がりつつある。
現在は創作活動のほとんどの時間をマンガ制作に充てている様子。「多くの人に見て貰えるのはすごく嬉しいこと。それは別にアート作品だのマンガだの、自分の中では区別は無いので」。ネルノダイスキさんの不思議で幻想的な世界が、今じわじわとマンガ界を浸食する。

TEXT / KOUHEI SAKUMA ティアズマガジン116に収録