サークルインタビュー FrontView

あみだむく懐古電線

『めしぬま。』
B5/32P/400円/青年
生年月日…2月25日
職業…新人漫画家
趣味…日本の原風景や和風建築を眺める。
コミティア歴…コミティア106から
http://kaikodensen.blog.fc2.com/
一コマの表情が物語を色鮮やかに発光させ、読む人を不意打ちする。『とかげの夢』の主人公の内気な小説家・戸影は、動揺すると身の回りに植物がわさわさ繁茂したり、不可思議な現象が発生する特異体質。その彼と意中の彼女のじれったい文通に業を煮やした悪友のおせっかいで、またも動揺した彼は…。「イメージが具現化するのは、作家ってもやもや考えていると頭の中の妄想がいっぱいになって、外に溢れてしまいそう、というアイデアでした。自分自身の創造や妄想に苦しめられることはよくあるので、それを視覚化したいと思ったんです」と作者のあみださんは語る。クライマックスで戸影が彼女を抱きとめた瞬間、季節を超えて花々が咲き乱れる。その時の彼の鼻水ズビズバの笑顔を読者の私たちは至近距離で目撃する。シャイな男の思わぬ破顔の映像ですよ? 「悶絶」の勢いで照れる…。
断じてしまうと、あみださんはこの作品で何かを「掴んだ」ように思う。「それまでは恥じらいが強くて、明るくコミカルな作品を目指して、あまり自分の感情を表に出した漫画は描けていませんでした。『とかげの夢』はそれを克服しようとして描いたんです。花が咲くシーンは、内にこもった感情が一気に吐き出される解放感をイメージして、描いていても楽しかったです」
この一作で、感情溢れる表情を武器として手に入れたあみださんは、次作の『めしぬま。』でその技を存分に発揮する。冴えない男・飯沼が飯を食べるという単純明快な話だが、飯沼の官能的な表情がキモ。とろりと蕩けて、一心にハフハフとするものだから、釘づけになった周囲がドギマギする。表情勝負の飯テロ漫画だ。その武器は一段と進化している。
あみださんは商業誌デビューしてから同人活動を始め、コミティアに参加した経緯がある。そのチャレンジが転機となり、新しい作風を確立した。結果として「めしぬま。」は『コミックゼノン』で月刊連載となり、来年からは『ヤングアニマル嵐』でも連載が始まる。
商業誌の仕事で忙しい日々を送るあみださんだが、これからさらに描きたい方向を伺った。「時代物も好きで、激動の中で生きている人々の生き様は、血なまぐささの中に生命の強さを感じて、自分の血も騒ぎます。でも何より描くのが好きなのは、人間の表情とその内に秘めている感情の部分なので、そこを生かしながら、今後はまた新しいジャンルにも挑戦したいと思っています」
丹念な絵と表情の破壊力がどう発揮されるのか、さらなる進化を楽しみにしたい。

TEXT /RYOKO SUGAYA ティアズマガジン118に収録

ばったんまばたき星雲

『青春彷徨ポートレイト』
A5/42P/300円/青年
生年月日…2月17日
職業…読書、写真
趣味…プリキュア
コミティア歴…コミティア109から
http://www.pixiv.net/member.php?id=3482042
「死ぬまで思春期!」をモットーに、思春期の少女達の時に甘酸っぱい青春を、どうしようもないモヤモヤを、大人になる瞬間の切なさを描いてきたばったんさん。そんな少女達の魅力的でリアルな喜怒哀楽の表情には心を揺さぶられる。
その原動力について「大人なら鼻で笑えるような出来事も、思春期の女の子達にとっては大事件。彼女達は大きな感情の渦に溺れそうになったり、流れを楽しんだりして生きている。その数年間のキラキラしたものを、何歳になっても絶対に忘れたくない! 思春期でいたい!」という気持ちだと語る。
コミティア115発行『青春彷徨ポートレイト』は、恋を知らない/恋する高校生達が、「好きな人」をテーマにした写真展に向けて奔走する姿を描いた群像劇。「恋」を認識した瞬間、羞恥心で猫のように毛が逆立つ山田を始めとし、先輩カップルなど、様々な青春をアルバムのように収めた一冊だ。
そんな彼女の漫画歴は3年と、まだ日が浅い。きっかけは「世界一大好きで尊敬する」母親の死だという。当時の「どうにもならない気持ち」を表現しようと閃いたそう。「器を残し、母親という中身はどこへ行ってしまったのか」という葛藤をそのままにぶつけ、主人公が母親の「死」に悩み、向き合っていく様を描いた作品『夏の葬列』を完成させた。「描いた後も、自分なりの答えはまだ見つからず、とても悔しかったのを覚えています。同時に人の死について納得できる物が描けるまで漫画を続けよう」と決心し、今に至る。その決意をさせた母親について「死んじゃうって分からないくらい最期まで明るく、楽しそうに生きていて。その強さが大好きです!つらいことがあっても、なんでも笑って生きていけたら素敵」と熱く語ってくれた。
そんなただならぬ作品の熱量にも伝わるものがあったのだろう。活動早々に編集者から声がかかり、『ヤングマガジンサード』でデビュー。今年5月には、〈下着〉をモチーフに田舎の女子高生達の青春をオムニバス形式で描いた初単行本『にじいろコンプレックス』が発売。自分のために描いている同人誌と比べると、手応えの薄い商業には戸惑いもあったようだが「最近は自分がめっちゃ楽しんで描いたら読んでる人にも伝わるんじゃないか」と描いているそう。
現在は旦那さんの都合でなんとドイツに在住中。Twitterを通して、慣れない土地でも楽しく生活している様子が垣間見える。日本を離れ異国の空気を堪能し、再び新作を携えてやって来た彼女の動向に注目だ。

TEXT / JUNKI TERAMOTO ティアズマガジン118に収録

雨宮もえメープル兄弟

『少年、少女ハート(上)』
A5/36P/400円/青年
生年月日…1月18日
職業…漫画家
趣味…クリアファイル集め
コミティア歴…コミティア96から
http://0-ameya.tumblr.com/
親からの虐待が原因で心を閉ざした少年と、家庭内で孤立する少女、二人の小学生の交流を情感豊かに綴った『小松田くんは謝らない』をコミティア98で発表後、『BE・LOVE』(講談社)でプロデビュー。その後も、家族の問題に巻き込まれ、心に「痛み」を負った若者たちの葛藤を描いてきた雨宮もえさん。「意味もなく他人に合わせるのが苦痛だったり、周囲に依存しないと生きられないことへの恐怖心が大きかったです」。人間のデリケートな内面にスポットを当てた作品群には、学校に全く馴染めなかったり、生きる意味に苦悩した、雨宮さん自身の幼少期の体験が反映されていたという。「でも、ネットのお絵かき掲示板と、冨樫義博先生の『HUNTER×HUNTER』に救われて、頑張って生きようと思いました」。苦しみの最中に出会ったものが、彼女の漫画家人生の原点なのだそうだ。
興味深いのは、昨年から新たに、雨宮さんの漫画に人間の「輝き」を描いた作品が登場し始めたことだ。その作風の変化のきっかけを、「これまでの描き続けてきた作品の中で心の中の毒を出し切って、自分の過去を整理できるようになった気がします。お陰で、漫画を描く意味を無理に追求しなくなりました」と語る。最新作『少年、少女ハート』シリーズでは、直情型でアクティブな女の子・朱里(あかり)の一途な恋が物語られる。彼女は、年上の幼馴染みで、自身の通う中学校の教諭・忍に想いを寄せているが、年齢や立場の問題もあり、本気で相手にしてもらえず悩んでいる。しかし、同じような立場のクラスメイト・優空(ゆたか)との出会いを機に自分の感情を再確認し、様々なハードルにもめげず、気持ちを貫こうともがき続ける。その姿は無鉄砲ではあるが、同時に、キラキラと輝いて見える。また、朱里の繊細な内面を追う視線には、子どもを見守る親のような優しさが感じ取れるが、雨宮さん自身の精神的な成長が、新たなカラーの作品を生み出す源泉になっているのだろう。
今は日々、漫画の執筆に新たな喜びを見出している、と話す雨宮さん。特にキャラクターに手応えを感じているそうだ。「人物を描いていると、友達が沢山居るような感覚になります。キャラクターの意外性を発見するのが最近、楽しくて仕方がないです」。来たる11月には、同人誌と商業誌で発表した読切作品を収録した短編集『小松田くんは謝らない』が講談社より発売予定だ。これまでの作品を読み比べて、作家としての成長を貴方にも感じ取ってもらいたい。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン118に収録

不貞寝あとづけ

『おじさん』
A5/32P/200円/青年
生年月日…11月12日
職業…会社員
趣味…1人旅
コミティア歴…コミティア89から
http://www.pixiv.net/member.php?id=43649
シンプルな造形の可愛いキャラクター達。スコシフシギで、ちょっとシュールな物語。その2つを武器に、ワンアイデアの面白さを追求する不貞寝さんのマンガは、良質なショートショートを思わせる。
子供時代からゲームが大好き。中でも一番のお気に入りは糸井重里が手がけた名作『MOTHER2』だ。中学生の彼は、剣も魔法もない、ほのぼのなのにダークで不思議な世界観に「ゲームの価値観すべてが逆転するような衝撃」を受けた。今も糸井氏の大ファンで、創作する上でも大きな存在だという。
初めてマンガを描いたのは高校生時代の2005年。「2ちゃんねる」発の投稿Webマンガ雑誌『週刊少年ワロス』を知ったのがきっかけだ。「見てみたら落書きみたいな適当な絵のマンガばっかりで『これなら自分でも描ける』」と、マウスで描いたマンガを投稿。すると「『ワロタwww』みたいなコメントがついて嬉しくて」それからは毎日のようにマンガに熱中した。「2年程で30作、一番長いものは100ページ」もの作品を発表。その後『新都社』や『pixiv』へ場を移す中で、好きな作家が参加するコミティアの存在を知り、2009年のコミティア88に一般で、次の89からはサークル参加。以後は休みなくサークル参加し続け、今に至っている。
「何を考えてるか分からない表情や、記号的な表現が好き」という彼が絵柄を模索する中、ヒントになったのはミッフィーで知られるディック・ブルーナだ。氏の「シンプルに描けば、見る人がイマジネーションを膨らませる」という言葉に目から鱗が落ちた。
発表してきた同人誌は全て短編。手塚治虫、藤子不二雄の短編読切へのリスペクトもある。話作りは「こういう価値観は面白いんじゃないかとか、自分しか思いついてないんじゃないかという自惚れを原動力」にしている。近年は社会人になったせいか「働くこと」をテーマにした話が増えた。「昔は飼い猫を見て空想して、喋る猫を登場させたりしてたんですけど、今は自分の中のファンタジーが『会社から抜け出して、旅に出たい』みたいな(笑)」
理想形のマンガは芸術作品のような「確かな技術で表現される、作者の心の豊かさを感じるもの」だ。それには「技術が足りない」というが、簡単ではない目標だからこそ長く、何度もマンガに挑戦し続けられているのだろう。究極を求め、まだまだ進化を遂げてくれるはず。今後も楽しみに追い続けたい!

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン118に収録

玉置豊私的標本

『趣味の製麺 05号』
A4/68P/1000円/評論
生年月日…9月25日
職業…ライター
趣味…食料調達と調理
コミティア歴…コミティア109から
http://www.hyouhon.com
時は昭和、一部地方には日常生活の中でうどんを打って食べる文化があった時代。鋳物で作られた家庭用製麺機が登場しました。ハンドルをくるくる回せば捏ね、延し、そして麺切りといった作業が半自動でスイスイと出来てしまう画期的な道具でした。そんな今は失われた製麺機の魅力を伝えていくのがこの『趣味の製麺』シリーズ。カッコイイ製麺機のグラビア写真から始まり、製造していた企業への取材記事や、「二郎」や「天一」といった有名ラーメン店の再現レシピの挑戦記事や、製麺会をやってみた体験記、20メートルのうどんづくりに挑戦、シュレッダーが代用になるか試したり、果てはぬいぐるみやペーパークラフトに至るまで、「製麺」をテーマに遊びまくる同人雑誌です。
記事と編集を手がけるのは玉置豊さん。ライターとして各種Web媒体で活動しながらも、紙の本を作ることへの憧れがありました。とはいえ、ニッチなテーマのため商業誌から声がかかることもなく、だったら自分でやってみようと同人誌を作り始めたそうです。
「雑誌形式にして色々な人が関わることで、多様性が出てきたのが良かった」と言う通り、知らないうちに委託先書店のスタッフ同士で行われた製麺対決のレポートが届いたり、冗談から始まった小説が連載になったり。自分が考えてもいない方向へ企画が転がっていくのが楽しいと、毎号の編集の様子を語ってくれました。
玉置さんは製麺機に出会う前にも、ライターとしてさまざまなチャレンジをしてきました。「興味がわいたら、まずは一回やってみる」という言葉の通り、東京の川でもウナギが捕れると聞けば釣りに行き、海にクラゲがいるのを見かければ加工して食べ、ホンオフェという韓国の臭いエイ料理があると知ればエイを釣って発酵させる。どれも知識として知ってはいても、経験した人はほとんどいないもの。そんな記録は同人誌『捕まえて食べる話』にまとめられており、Web上でもご自身のサイトのほか「デイリーポータルZ」などのニュースサイトで読むことができます。初めてに挑戦するワクワクを、読者と共有できる記事をぜひ読んでみてください。
次号では地方における麺文化の再現レシピや、リクエストが多いパスタの製麺などが予告されており、まだまだ玉置さんの製麺機愛は尽きない様子。「レシピとして完成させたい欲はあまりなくて、一回やった経験を形にしたら、すぐに次のことにチャレンジしたくなる」と言う通り、これからも「製麺」の新しい世界を見せてくれることでしょう。

TEXT / TAKEMASA AOKI ティアズマガジン118に収録