サークルインタビュー FrontView

西義之ナイーブタ

『Magic Low Diary 2』
B5/50P/1000円/少年
生年月日…1976年12月27日
職業…マンガ家
趣味…らくがき・お料理
コミティア歴…コミティア115から
https://twitter.com/nishiyoshiyuki
「まさにこの言葉の通り、コミティアは夢の舞台でした」マンガ家・西義之さんは、イラストを担当したコミティア120のチラシに添えられたコピー『貴方もここで魔法に出逢う。』を見ながらそう語る——。
幼い頃から5才上のお兄さんと一緒にPCゲーム「ザ・ブラックオニキス」や海外小説「ドラゴンランス戦記」といったファンタジー作品にどっぷり浸かって過ごし、将来の夢は「魔法使いかマンガ家」だったそう。小学2年生の時、そのお兄さんが描いたファンタジーマンガに衝撃を受け、自身もマンガを描き始めた。
美術大学の在学中に担当編集が付き、卒業2年後の2004年には『週刊少年ジャンプ』で「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」を連載開始、人気を博した。しかし5年に及んだ「ムヒョ」完結後、スランプに陥ってしまった。「ジャンプ作家として王道で、売れるマンガを描かなきゃ」という「呪い」の元、連載の短期打ち切りが続き何年も苦しんだ。渦中の2014年、「ムヒョ」の感覚を取り戻して描いた自信作「魔物鑑定士バビロ」を再起を賭けて連載。しかし結果は出ず、第1巻発売直後に連載終了を通告されてしまう。「先の見えない真っ暗闇」な状況に打ちひしがれた。
光明となったのは「バビロ」宣伝のために始めたTwitter。新しいマンガを描いて公開すれば、まだ喜んでくれるファンが沢山いることに勇気を得た。「バビロ」の続きを同人誌でしか発表できない状況も、躊躇があった同人活動の後押しになった。まずは2015年10月に書店委託のみで同人誌を発行。初めてのサークル参加は翌年1月のコミティア115。「夢のような場所でした。作品が発表できて、人と交流ができる。待ち望んでた人に手渡して、ニコニコ買ってゆく姿を見れる。いるだけでMPが全快します」
約1年強で出した同人誌はなんと9冊。「水を得た魚というか。今まで水槽にいたって感じです。気まぐれで飽きっぽいので、色んな作品を並行して描けるのがすごく楽しい」この短期間で苦しかった状況は劇的に変わった。現在、『ヤングジャンプ』で「ライカンスロープ冒険保険」を連載、『モーニング・ツー』でも「エルフ湯つからば」を不定期掲載中。どちらも同人活動がなければ実現しなかったはずだ。
「これまで『マンガを描かなきゃ』ってプレッシャーで描いてたんです。でも同人誌のおかげでそれが無くても描けることに気づいて、解き放たれました。やっとマンガ家人生が始まった気分です」

TEXT /YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン120に収録

丸紅丸紅アパートメンツプレス

『map03 仮面の街の昼と夜』
A5/68P/700円/旅行記
生年月日…5月15日
職業…会社員
趣味…漫画、旅行
コミティア歴…コミティア116から
http://malbeni.web.fc2.com/
ぺンネームの「丸紅」は、本名に因んだ愛称が由来。沖縄で生まれ育ち、小学生の頃には、ノート十数冊もの変身ヒロイン漫画などを描いては、友達に見せて回っていたという。学生時代は漫画から離れていたが、社会人になってから創作意欲が再燃。ネットで公開していた作品を見た編集者にスカウトされたこともあった。しかし思うようにいかず、数年間は漫画も絵も描かない日々を過ごすことになる。「生真面目に思い悩んで、『面白さとは何か…』みたいな迷宮に入り込んでしまったんです(笑)」
その状況を打ち破るきっかけは旅先や仕事の中にあった。「規格外の行動原理を持った人たちと出会い、自分だけの世界で必死になっていたことがバカバカしくなって。『適当でいいんだな。適当に面白そうなことをやろう』と思うようになりました」。一昨年にツイッターに復帰し、生活感溢れる団地の風景にファンタジー要素を織り交ぜたイラストを発表し人気を博す。昨年には漫画執筆の再開と、念願だったコミティアへの参加も実現。
3冊目の個人誌『map03 仮面の街の昼と夜』は、実際の旅行をもとに描かれた。出発の2日前に突然思い立ち、計画や準備もそこそこに単身、冬のヴェネツィアへと旅立った「私」。憧れの場所に到着した高揚感も束の間、早々に迷子になり、安宿でカルチャーショックを受け、おまけに財布を失くすなど、数々のトラブルに見舞われる。しかし、言葉の壁さえも乗り越え、異国を満喫し無事の帰国を果たす。山あり谷ありの体験記としての面白さだけでなく、世界屈指の観光地で「私」が感じ取った旅愁や、心に訪れた変化をも克明に描き出した濃密な一冊だ。「見慣れない風景の中にも生活感を見付けるのが好きなので、建物や空間もひっくるめた〝シーン〟としてそれを描き残せるのが旅行記の魅力だと思います」。既刊の沖縄離島への旅行記『map01 南の海から』や、団地に生きる人々と不思議を描いた情景集『map02 団地のひみつ』も併せてぜひご覧いただきたい。
今は、描きたいものが次第に見えてきている段階という丸紅さん。「時間をかけて完璧に作り込んだものじゃないと、他人にお出しできないと思っていた。でも、例えば野菜炒めのような有り合わせの材料で作った料理も悪くない。同人誌を出してみて、独りで作り込むタイプではないと気がついた。沢山作って、食べてくれる人の顔を見ながら、自分の味を固めていきたいです」。まさに幕が開けようとしている漫画描きとしての第二章、ここからが腕の見せ所だ。

TEXT /KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン120に収録

中村朝13月2日

『アップルピエタ』
B5/62P/400円/SF
生年月日…12月3日
職業…今は一応漫画を描く人
趣味…ミステリーゲーム全般
コミティア歴…コミティア114から
http://13gatu2ka.wixsite.com/hitodemoisidemonai
コミティア初参加で出した『足長ギイの帰還』は、人型迎撃用兵器・ギイが大気圏の上で淡々と日々を送る、寂しいような温かいような宇宙生活日誌。会話の相手は、定期交信してくるダメンズ管制官と、世話焼きなウサギ型メンテナンス生物・ガートルードだけ。作者の中村朝さんは「足がメチャメチャ長い生き物がいたら面白いな」と思い、ギイを描いたという。「ギイは感情への認識設定をされずに作られたので、最初は不幸ではないのですが、管制官に人間扱いされて、人と同じように孤独を感じるようになります。『無』から『不幸と幸せがある状態』となった彼は、心を持って幸せになったとも、逆に不幸だとも言えますね」
孤独を認識しないはずのギイに心が芽生えた時、流れないはずの涙が流れるシーンが愛おしい。ハードな状況に寄り添う不思議な作風だと思う。既刊3冊が全てSF寄りのテイストなのは、作者がジュブナイルやSF小説を好きで、理系出身なのもあるようだが、懐かしさと新しさを醸していていい。
最新刊の『アップルピエタ』(ピンクマン名義)は、殺人衝動をテーマにした衝撃作だ。商業誌用のネームだったが、表現内容に問題があるなどで掲載されず、同人誌で出したという経緯を持つ。平穏に生きたいと願う凶悪犯の息子・柊と、製造者の自殺により反応を止めた戦争用少女型クローン兵器・インク。殺したくなくても殺すものと、殺したくても殺せないものが、それぞれの曲折を経て出会う。爽快で物騒で、彼らのその後が気になる。
「『足長ギイ』は主人公を感情的に描いた話で、『アップルピエタ』は主人公が冷静に判断された話です。善に価値が置かれる世界で、邪悪なのは才能ではなくハンデなので、それを抱えながらも柊が自分の居場所を見つける話。悪人が悪を我慢しても称賛されることはないよな、と思い描きました」
現在はWEB雑誌『ガンガンONLINE』で「僕達の魔王は普通」を更新中。コミカル路線に暗黒成分(?)がいい塩梅に主人公・魔王の中2感へと翻訳され、やはり同じ作者の気配を感じる。台詞一つにも、悩める青年期を送った者特有の鋭角的パンチが利いており、いい味だ。
さて、今後の抱負は。「200ページくらいの話のネームがあるので、それをコミティアで出せればと。あと人のためだけじゃなくて自分のためのマンガを描きたい。みっともなくてつまらない内容かもしれないけど描きたいです」怖いようで優しいようでもある煩悶の世界を、もっと紐解いて欲しいと思う。

TEXT /RYOKO SUGAYA ティアズマガジン120に収録

えきあ梅皿テクニカー

『そのとき、キミの顔が』
A5/28P/300円/少年
生年月日…10月12日
職業…フリーター
趣味…音楽を聴きながら絵を描くこと
コミティア歴…コミティア102から
http://umetech.ko-me.com/
擬人化的な発想から生み出される、パワフルなキャラによるギャグや、男女のしっとりとした恋模様。そんな作風のえきあさんは「いろんな人に導かれてここまで来ました」と今日に至るまでの迷い道を話す。
幼少期から絵を描くのが大好きで、小学生の頃の夢はマンガ家。当時描いていたのはクラスメイトを動物キャラ化したマンガだ。既に現在の擬人化的な想像力がうかがえる。マンガやアニメ、ゲームに触れにくい家庭環境で育ったため、友人経由で教えてもらった作品にハマることが多かった。中でも影響を受けたのは『デ・ジ・キャラット』だ。「こげどんぼ*先生の可愛いのにぶっ飛んだキャラに衝撃を受け」、ギャグ作品のお手本的存在となった。音ゲー『ポップンミュージック』は、同人誌を出すくらいハマった。音楽映像制作にも興味を持ち映像科のある高校を選んだほど。一方で、作品をあまり知らないことに自信を無くし、中学生の頃にはマンガ家を諦めイラストレーターを目指すようになった。
進学した美術系の専門学校では技術や画力が磨かれたが、絵柄も描きたいものも定まらないまま卒業。プロの間口が狭いイラストの世界で全く芽が出ないまま、気づけば3年が過ぎていた。「もう諦めて趣味にしてしまおう」と同人活動を再開し、コミティアに参加し始めたとき、転機が訪れる。同人誌を見せたバイト先の先輩からマンガ誌への投稿・持込を勧められたのだ。手探りだが、かつて諦めたマンガ家への道が目の前に見え始めた。
「マンガ・持込み」検索トップだったマンガ誌に初めて持ち込んだ作品が、後にコミティア107で改作が発表された『冷ごはんが温まるまで』だ。レンチンご飯から着想を得た、生活苦の女子(冷ご飯)が優しい男(電子レンジ)に出会って幸せになる恋物語。モノからキャラや話を膨らませる手法がえきあさんのスタンダードになった。予想以上の評価を受けた同作はマンガ家を目指す自信につながったそうだ。擬人化の発想にギャグと毒を加えた『ぎじんか速報2』はダラけ生活を謳歌するお嬢様・ましろの厚顔さが痛快だ。「読者にどう感じてほしいかを考えることが好きなので、ギャグで笑わせるという明確な目的にやりがいを感じます」同作は『まんがライフ』(竹書房)にて『ファーストクラスニートましろ』として掲載された読切が好評を博し、この5月からは初の連載作品としてスタートする。
「結局、マンガが自分に一番合っていたのかもしれません」。迷い道を経てついに描きたいものを見つけたえきあさん。夢の出発点に立った彼女に惜しみない声援を送りたい。

TEXT /TAKASHI MENJO ティアズマガジン120に収録

にくまん子骨と肉

『考えるアシコ』
A5/36P/400円/青年
生年月日…平成元年
職業…自営業
趣味…筋トレ/お酒を飲む
コミティア歴…コミティア96から
https://twitter.com/oic_oniku
生々しい男女のやり取りと性欲の在り方、激情と鬱々をそのまま紙に落とし込んだような画面。にくまん子さんの漫画には、読む者の一番やわらかく脆い部分を引き摺り出す力がある。
幼稚園の頃からお絵かきが上手だね、と大人に褒められるのが嬉しくて、絵を描く事が好きになった。高校は美術学校に入学。美大に進学し油絵を専攻した。油彩漬けの日々の中、何か他にも表現を吐き出せる場所を探していた大学2年の時、人から薦められコミティアに初参加。同人活動も全くの初めてだった。「当初は学校の友達と二人サークルだったんですけど、お互いに描きたいものを描き尽くして活動は一旦休止しました」次にふと描き始めたのが『自分の話』だった。「今まで思っていた事を、キャラクターに言わせてみたら意外に面白くて。まだ描きたいものはあるなと」
煮え切らない男性への感情を抱えたまま、知らない星に留学する女性を描いた『とおくとおくとおくのほしきみはしらないしらないわたしのはなし』は、にくまん子さんの実体験を元に作られた。「北欧への短期留学がきっかけで、当時好きだった人との関係に踏ん切りが付きました。その時に見た北欧の景色は本当に美しかった。この漫画は記憶の墓標のようなものなんです」一方で実際に起こった出来事をそのまま描きたい訳では無いと言う。「誰かに見て貰うなら礼儀はあるし、私には描く術も言葉を選べる権利もある。こんな形でも思考して研ぎ澄ませたものだから、伝わって欲しい所がちゃんと伝わって欲しい」
普段からスケッチブックに沢山のイラストや言葉を描き留めている。「私にとって生きている証なんです。腹が立つ事も嬉しかった事も、全部描いて残しておきたい。痕跡というか記録でしょうか。自分のことを客観的に眺められるように」Twitterでのイラストや短い漫画の発表も多いが、「心をえぐられて息が出来ないような事は、ワンシーンで終わらせず絶対ちゃんと漫画にします」と答えてくれた。「もやもやしてた点と点が繋がった瞬間に漫画になるんです」
「気持がわかる」という感想が多いそうだ。「自分が吐き出した断片に対して、共感してくれる人がこんなにいるなんて」と驚く。「知らない誰かの感情の原動力になれたらいいですね」多くの読者が心を強く揺り動かされるのは、にくまん子さんの『生き様』に共鳴しているに違いない。

TEXT /AI AKITA ティアズマガジン120に収録

澤部渡カチュカサウンズ

『The First Waltz Award』
CD/1500円/音楽
生年月日…12月6日
職業…シンガーソングライター
趣味…マンガを読むこと
コミティア歴…コミティア99から
http://skirtskirtskirt.com/
ポップバンド「スカート」を率いる澤部渡さんは、2010年代の日本のインディーロックシーンを代表する音楽家の1人だ。その親しみやすくも陰があり、熱情に溢れた音楽は静かに注目を集めている。シンガーソングライターとして作詞作曲ボーカルを務めるのみならず、ドラム、サックス、果ては口笛など、プロとして多才な楽器をこなす。様々なミュージシャンのサポートとしても活躍し、アイドル、CM、ドラマへの楽曲提供など、活動の幅も広がっている。
澤部さんが本格的に音楽にのめり込んでいったのは高校時代。コピーバンドではなく自分の作りたい音楽を模索して始めた多重録音でのレコーディングは、現在のスタイルの原型だ。そんな多感な時期に影響を与えたのがマンガの世界。表紙に惹かれて『神戸在住』(木村紺)を読み、作家の感性が溢れる青年漫画の世界に衝撃を受けた。以来、「マンガの自我」に目覚め、様々な作品を耽読。作曲のインスピレーションとして、澤部さんの音楽とマンガは切っても切り離せない関係となる。
「マンガ家になりたくて、でも絵が描けなかったから音楽という手段を選んだとも言えます。昔からコマ割りのようにコードが変わる曲が書きたいという理想があって。マンガは視点の切り替えが自由で、自分にも他者にもなれたり、音楽にない全てがあります。マンガみたいな曲を作りたいんですよ」
コミティアに足を踏み入れた契機は、ドラマーとして参加する「トーベヤンソン・ニューヨーク」のメンバー・西村ツチカ氏のサークルを訪れた時。「マンガ好きが集まり、面白そうなマンガが沢山あり、CDを出しても良いなら飛び込むしかない」とすぐにサークル参加。これまでデモ音源を収録したCDやコードブックを出品してきた。「プロとしてやれるかまだ不安定だった時期、とにかく曲を書くことを自らに課したのもコミティアという場所でした」
自分が作りたい音楽を一人突き詰め、起承転結よりも暗示された物語や感情を重んじる澤部さん。「心惹かれるマンガにはどこかざらついた手触りがあるように感じます」と語るように、作家の感性が直接出る創作同人誌の世界は、澤部さんの創作への向かい方と共通するものを感じる。「これまでどうにか音楽を続けてこれましたが、今後は自分にないものを求められる時が来ると思います。追い詰められた時に何が出せるのか、プレッシャーでもあり楽しみです」

TEXT /KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン120に収録