COMITIA121 ごあいさつ

コミティアがボランティア組織で運営されている、ということ。

突然ですが昔話をしたくなりました。「コミティアってどうやって始めたんだっけ?」という、33年前の話です。

当時の仲間内に「創作同人誌を全国から委託で集めた即売会を東京でやりたい」と言い出した奴がいて、コミティアは始まりました。最初のスタッフメンバーは30人くらい。サークルの仲間や大学の友人など、ともかくマンガ好きの知り合いを片っ端から巻き込みました。けれど立ち上げの熱気が去り、言い出しっぺの初代代表が仕事の都合で抜けると、スタッフも大きく入れ替わります。それでも現代表の私(中村)が引き継ぎ、ガタガタ騒ぎながら続ける内に新しいスタッフ希望者も現われ、だんだんと集団の形が見えてきました。…これはコミティアの歴史の話を始めたのではありません。始まりの頃と現在と、変わったことと変わらないことの話をしたいのです。

変わったところは、開催規模がとても大きくなったこと(総来場者が大体100倍くらい)。変わらないところは、ずっとボランティア組織で運営され続けていること。

他の多くの同人誌即売会がそうであるように、コミティアの運営母体もボランティア組織です。現在の登録スタッフは約110人。もう30年来の付き合いもいれば、今年入ったばかりの大学生もいます。スタッフ希望者とは必ず最初に代表の私が面談して、互いの意思を確認してから入ってもらうのがずっと続くルールです。年齢は下は20歳前後から上は50代までと幅広く、職業も性別もバラバラの人間が集います。

続けていて思うのは、この不思議で多様多彩な人間の集合体はとても稀有なものだということ。自宅と職場という日常の場とは別に、参加するコミュニティを「サード・プレイス」と呼び、そこでの社会的あるいは創造的な交流が人生を豊かにする、という考え方があります。同人活動とはまさにそういうものであり、同人誌即売会のスタッフもまたそういう側面を持っています。

スタッフはみな無償ボランティアなので基本的に別の職業を持ち、その仕事の休みに時間を捻出して、コミティア当日に向けて様々な準備や打合せを行います。彼らはけしてイベントの専門家では無い代わりに、本業のノウハウがそこに生かされることもあります。ある意味で素人の集団が、多い時には来場者が3万人にもなるイベントを仕切っているのですから、冷静に考えると(もちろん冷静に考えないでも)凄いことです。

何故それが可能かと言えば、33年という長い月日の試行錯誤の上に運営システムが徐々に形作られ、スタッフだけでなく参加者の多くに、それが「身体的に」共有されているからでしょう。限られた人数のスタッフではフォローしきれない事柄にも、サークル同士、一般参加者同士で教え合い助け合う文化があるのが、コミティアに限らない同人誌即売会がその歴史の最初から持つ素晴らしさです。

これだけ参加者が増えると、その一部からいわゆる企業的なサービスを求められたりします。けれどコミティアはそれに応えられないことも多いです。「出来る人が出来ることをやる」のがボランティア組織の基本ですが、無理をし過ぎないことも長続きの秘訣。新しいアイデアや気付かないミスの指摘は歓迎ですが、「何かを求める」のならまず自分から行動して欲しい。「みんなで作るコミティア」とはそういうものだと思います。

無償ボランティアの報酬とは詰まるところ、みんなで力を合わせて一つのイベントを完遂した、という達成感です。参加サークルなら、作品を出して読者に手渡せたか。一般参加者なら、お気に入りの作品を見つけ手に入れられたか。それぞれの立場での達成感があるでしょう。それらが一種の共犯幻想のように参加者の間で共有されることが、「祭り」としての同人イベントの魅力なのかもしれません。そしてそれを求め続ける連続性こそが、コミティアの歴史そのものだと思うのです。

さて、何故あらたまってこんな話をするのかと言うと、実は次回11月23日のコミティア122が早朝設営をすることになったからです。ビッグサイト3ホールの規模の朝設営は初めてのこと。とてもスタッフだけでは追いつかず、ハッキリ言って緊急事態です。もし当日早朝に参加可能な方はどうぞご協力ください。詳細はコミティア公式サイトの案内をご覧ください。歴史を止めないためにも、ぜひたくさんの参加をお待ちしています。

最後になりましたが本日は3544のサークル・個人の方が参加しています。

いつもコミティア前夜の会場設営が終わって、主の居ないスペースの机だけが並んだ会場を後にする時、「本当に明日ここにたくさんの人が集まってくれるのかな?」というおかしな不安に襲われます。そんな時は「参加者のみんなも明日を楽しみにドキドキしているんだ」と思い直します(物理的に原稿に追われてドキドキしている人もいるかもしれません)。

ということで会場に着いて、参加者みんなのドキドキがワクワクに変わりますように。今日という日にたくさんの人と作品と出会えることを楽しみにしてます。

2017年8月20日 コミティア実行委員会代表 中村公彦