サークルインタビュー FrontView

鷹行静つらんとんてん玉子に目鼻

『帰る』
A5/38P/400円/青年
生年月日…12月23日
職業…図書館司書
趣味…漫画、料理、旅行
コミティア歴…コミティア104から
https://pixiv.me/siztakayuki
他に類を見ない珍しいサークル名は、百人一首所収の文屋朝康の歌の下の句を覚えるために祖父から教わった語呂合わせと、「玉のようにキラリと光るものを目指したい」との気持ちを掛け合わせたもの。
高校、大学と学生時代は演劇少女だったという鷹行静さん。読者として漫画には親しんでいたものの、社会人になってから自身で執筆を始めたのは、十代の頃に『ポーの一族』を読んで特に感銘を受けたことと、就職活動で行き詰まっていた時のあるひらめきがきっかけだった。「演劇ではできなかったことが、漫画でならできるかもって思ったんです」
就職後、舞台用だったシナリオを元に、試行錯誤を繰り返しながら初めて完成させた読切「帰る」で、10年に『月刊アフタヌーン』の四季賞準入選を受賞。本格的にプロを目指すために退職し、アシスタントをしながら漫画修業を続けたが、読切が一本掲載されて以降、努力が実を結ばず活動を一時断念。そんな時に、作品発表の場を求めてコミティアへの参加を決めた。「『このままでは漫画を描かなくなってしまう』という危機感がありましたし、家で眠っていた商業誌の没ネームをきちんと形にして、人に読んでもらうことで供養したかったんです」。同人誌では、地下鉄構内に店を構える沖縄物産展で働く女性と、その周囲を行き交う人々の群像劇『地下鉄に花と花唄』や、ベテランOLのベールに包まれた半生を後輩の新人の視線で描く『児玉さん』など、“普通の大人たち”が、日常の中で人生について深く想いを巡らせるドラマを発表し続けている。
コミティア120発行の『帰る』は四季賞受賞作で、東京で働く主人公・加代が夜行バスで新潟の実家に帰省するまでを描いた物語。旅の途中途中で、彼女自身や家族、同僚、偶然居合わせた他人など、取り巻く人々の人生のワンシーンが走馬燈のように浮かび上がっては消えていく。「日常の中で主人公の気持ちが動く瞬間を追体験できる作品が目標」と語る鷹行さん。実家から足が遠のいていた加代の今現在の状況や、何を思い急な帰省を決めたのかを読み解く面白さがある作品だ。
今の第一目標は、コンスタントに作品を完成させ発表を続けること。「ふと立ち止まってしまった人がもう一度歩き出して、物語から出てゆく後姿を描き続けたいです」。もがき悩んだ時期を抜け出し、表現者として新たな道へと歩み出しつつある鷹行さんが、そのペンで今後、人生の第二幕をどのように切り拓いていくのか、観客席からじっくり見守りたい。

TEXT /KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン122に収録

藤沢誠Caramel Crunch

『すきのいと1と2』
A5/76P/700円/百合
生年月日…3月9日
趣味…旅先のおいしいものチェック
コミティア歴…コミティア86から
http://yuzu.moo.jp/cc/
可愛らしく爽やかな絵柄。しかしその内面では、本心が伝わらない寂しさや愛が裏返る哀しさなど、様々な感情が絡み合う女の子たち。百花繚乱の百合ジャンルで、コンスタントに独自の作品を発表し続けているのが、「Caramel Crunch」の藤沢誠さんだ。
小学生の頃から友達とキャラクターを作り、マンガを一緒に描き始めた。中学生で同人誌の存在を知り、アニメやマンガのBL二次創作で同人誌を描いてきた。しかし、活動を続ける内にそのジャンルの中で、自分の好きなカップリングを描き続けるのは、藤沢さんオンリーワンの状態に。「これはいっそ創作でやった方が良いかなと。二次創作では男子を描いてきたので、一次創作では女の子、百合を描きたい!と思って、友達に教えて貰ったのがコミティアでした」。
先生に恋する女の子と、彼女の想いを受け止めきれない先生。最新作『すきのいと』シリーズは、先生と生徒の恋愛が実を結ぶまでを描く。何度断られても諦めずに食い下がる生徒と、頑なに断り続ける先生。時間の流れに伴う関係性や思いの変化、秘められていた感情が明かされた時の切なさが魅力的だ。やり切れない哀しい想いを描く中でも、特に意識しているのはハッピーエンドであること。「作品を描く際には、どうすれば登場人物が、幸せな結末を迎えられるのかを意識しています。キャラクターが抱えていたり思っていることが多少重くても、話の方向は明るい感じにしたいです。弱くてもいいけど、強くあろうとする子が好きなんだと思います」。
商業誌にも作品が掲載され、コミックス『秘密のカケラ』(一迅社)も発売されたが、特に『ひらり、』(新書館)での経験は大きな転機になった。「手にとって貰える人が分かりやすく増えたことは勿論ですが、これまで誰かにネームを見てもらうこともなかったので、基本的なことから担当さんにアドバイスして頂きました。ずっと読んでくれていた友人からも『上手くなったね』って言ってもらえたりしました」。
「会話を考えるのが好きで、キャラクターがどんなことを喋るんだろうといつも考えています」と語る藤沢さん。百合作品は勿論のこと、現在も続けるBL創作のジャンルでも、作品のアイデアや描きたいキャラクターはまだまだあるという。「イベントに出た時に感想を貰えると、嬉しくて次も出したくなるんです」という語り口からは、描き手と読み手が作り上げる創作の理想的な関係が見える。これからも魅力的な新作は、まだまだ尽きることはなさそうだ。

TEXT /KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン122に収録

薬師寺ヨシハルよつは薬局

『よつは薬局総集編2』
A5/146P/1000円/ファンタジー
生年月日…7月9日
趣味…工作
コミティア歴…コミティア84から
http://yoshihal.sakura.ne.jp/
竜が人々の身近に暮らすファンタジー世界で、郵便屋や医師が仕事に勤しみ、子供たちは少しづつ成長を重ねながら日々を過ごす。本毎に登場する種族や舞台は異なるが、共通しているのはキャラクターの日常を見つめる優しい視点だ。薬師寺ヨシハルさんが創作マンガを描き始めて、今年で10年になる。その間、一貫して素朴でほっとする日常の物語を描き続けてきた。
初めて作った同人誌は、友人とのゲーム系二次創作ギャグの合同誌。しかし自分のマンガへの反響は小さく、「ギャグは向いてないなあ、と心底思いました」。その後もポストカードやらくがき本を作るが、一念発起して創作ジャンルでマンガ本を発行。ギャグから離れ、素直な目線で子供たちの小さな冒険と成長を描いた。これらを初参加の関西コミティアに持ち込んだ所、たくさんの人に手に取ってもらえたことで、「こういうマンガでもいいんだ!」と創作意欲に火がつく。その後も東京コミティアをはじめ、各地のイベントに出るようになった。
遠方の人たちにも知ってほしいとの思いから、委託・直接合わせて、北海道から九州まで各地のコミティアに積極的に参加しており、その活発さは際立っている。多い時には年に5冊以上同人誌を発行するが、読切作品が中心なので、初めて読む人でもわかりやすく、柔らかい絵柄とほのぼのとしたストーリーは安心して読める。「キャラの日常の中のちょっとした一日を切り出せればと思って描いています。見方によってはどうでもいいような話ばかりかもしれないけれど、そのキャラにとっては特別な一日かもしれないし、転換点なのかもしれません」
ありふれた“日常”の中に新鮮な発見を見出し、“転換点”へ繋げていくのがヨシハルさんの得意技の一つ。例えば、『雪の日』では疎遠になってしまった兄妹が打ち解けるきっかけを、『ネコとさかな』では引っ込み思案な女の子が他人に意思を伝える勇気を持つ一歩を、雪合戦や魚捕りと言ったそれぞれの日常の一幕に描き出している。いずれも他人から見ればごくありふれた普通の一日の出来事だが、本人にとっては「大切な一日」であり、それがしっかりとキャラクターの変化や成長につながっているのが見所だ。
“創作マンガを描き始める”という転換点を経て、暖かい作風を磨き続けてきたヨシハルさん。今後も旺盛にイベント活動を展開したいと意欲を燃やす。キャラクターに寄り添った視線を次はどんな方向から見せてくれるのか、楽しみでならない。

TEXT /RYO SHIOTA ティアズマガジン122に収録

杉村啓醤油をこぼすと染みになる

『醤油手帖 たまごかけご飯醤油百科』
新書/195P/1000円/評論・情報
生年月日…1976年
職業…ライター・醤油研究家
趣味…醤油・お酒・グルメ漫画・京都観光
コミティア歴…コミティアX-Ⅲ
http://shouyutechou.hatenablog.com/
全国各地から収集した醤油をテーマ毎に紹介する『醤油手帖』シリーズ。豊富な知識に裏打ちされたユニークな視点が受け、テレビでも紹介されるほど大きな注目を集めた。作者のむむ先生こと杉村啓さんは同作をきっかけに醤油、お酒を始めとする研究家として名を馳せているプロのライターだ。
小学生の頃より「ミスター味っ子」を始めとした多くのグルメ漫画を読み、自然と食に興味を持つようになった。最初に収集し始めた調味料は塩。醤油にハマったきっかけは、日本三大魚醤として『いかなご』が記載されていたこと。いかなごの釘煮には親しんでいたが、魚醤は聞いたことがない。調べてみると『いかなご魚醤』は、戦後に生産が途絶えてほぼ消滅していた。「以来ずっと気になっていたのですが、ある時に旅先で売られているのを見つけたんです。お店の人から近年になって勉強会で復活させたという話を聞いて、もう買うしか」と購入し、その美味しさに感動。醤油の味の幅広さに塩以上の奥深さを見出して、収集を始めた。
学生時代から同人活動を楽しんでいた氏だが、需要が見えない醤油をネタに同人誌にしようとは思いもしなかった。その考えが変わったのは以前からの研究分野である日本酒を扱った同人誌『日本酒酩酊ガールズ』に触発されたことと、その作者アザミユウコさんの「それだけ好きなら、醤油の同人誌を出した方がいい」という言葉。第1作となる『醤油手帖 Vol.1 〜たまごかけご飯専用醤油編〜』は「醤油に興味を持ってもらうために、キャッチーな醤油を紹介しようと考えてテーマを決めました。たまごかけご飯専用醤油が沢山あることを知ったらびっくりする人が多いのでは」と発行。その狙いは見事にハマり大好評。後に商業誌化も果たした。
「『醤油手帖』で重視しているのは醤油の物語性、自分で味わった感想です。『おいしさ:★★★★★』『香り:★★★★☆』のような数値化はわかりやすいのですが、味覚は人それぞれですし、好みの味も異なるので避けています」
今年の8月には『グルメ漫画50年史』を星海社新書から発行。自由大学での日本酒学講師、ラジオ出演に読売新聞日曜版でのコラム連載…多忙な日々でもその探究心は衰えない。最近はお酢について研究中だそう。「さらに深く掘っていくという姿勢は忘れずに、新しいジャンルは何であれ積極的に興味を持ちたいです」。今後むむ先生が何を教えてくれるか、楽しみにしたい!

TEXT / TOMOAKI IKEDA ティアズマガジン122に収録