サークルインタビュー FrontView

とよ田みのるFUNUKE LABEL

最近の娘さん ペチャクチャ編
A5/P48/500円
職業…漫画家
趣味…映画鑑賞
コミティア歴…2011から
http://poo1007.blog.fc2.com/
仕事場の本棚にはマンガがぎっしり。インタビュー中もありとあらゆるマンガの話を楽しそうに語る漫画家・とよ田みのるさん。17年より『ゲッサン』で連載中の「金剛寺さんは面倒臭い」は単行本第1集の発売後、大きな話題となり一週間で重版が決定。これまでのキャリアの中でも会心のヒット作になる予感がある。現在15年目のプロ生活で見えてきた境地とは。
出身は伊豆大島。変わり者のご両親の元、4人姉弟の末っ子として育った。絵を意識的に描き始めたのは中学生の頃。「マンガを描こうしたら絵が下手すぎて、まずは絵の練習をしよう」と美術部に入る。その後美大に進学し在学中に『週刊少年サンデー』に投稿するものの箸にも棒にもかからなかった。卒業後も芽が出ず、何年もフリーター状態が続く中、友人が『アフタヌーン』のマンガ賞を取ったことに触発されて、投稿先を同誌に変更。それまでの少年マンガから一転、自分に向いている作風を探るため、様々なジャンルに挑戦していく。突破口となったのは友人とのネームを交換して描く遊びからだった。「苦手なラブコメものを渡されて。でも友達に笑って貰おうって気楽にやってみたら楽しく描けたんです」 それが02年に『アフタヌーン』四季大賞を取るデビュー作『ラブロマ』に繋がった。
「FUNUKE LABEL」としてコミティアに初参加したのは11年5月。「デジタルの練習で同人誌を出したんです。震災の直後だったので、売上は全部義援金にしました。続けるとかは考えてなかったんですけど、参加してみたら読者さんと直接お話できて凄い楽しかったんですよね」
「ウエルメイドな王道を目指した」という連載作『友達100人できるかな』、『タケヲちゃん物怪録』が商業的にあまり成功せず、方向性に悩む中で光明になったのが、14年からTwitterで発表している子育てエッセイマンガ「最近の赤さん」だ。自分の娘があまりにも可愛すぎて「娘へのラブレターのつもりで」描いたという同作は大きな共感を呼び、新たなファンを獲得した。その経験により「もっと自分の感情をダダもれにしても良いんじゃないか」と思えたことが『金剛寺さんは面倒臭い』に至るきっかけになった。
「『金剛寺さん』はバトル物の方法論で恋愛を描いたら面白いんじゃないかって着想で、ものすごい変なマンガを描いたつもりなんです(笑)。本筋はストレートですけど、普通の起承転結じゃなかったり、マンガを沢山読んでないと分からない表現を多用していて、わざとカオスにしてます」という言葉の通り、島本和彦、石川賢、永井豪、板垣恵介、山口貴由…と大好きなマンガから受け継いだパッションをムチャクチャに詰め込み、怒涛のように展開していく様は、マンガ表現の新たな可能性すら感じさせる。「正直、分かってもらえるか不安だったんですけど普通に読まれていて。マンガってもっと自由で良かったんだなって思いました。じゃあもっと暴れますよって気持ちです(笑)」

TEXT /YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン124に収録

ガレットワークス

ガレットNo.5
B5/292P/1500円
寄田みゆき(そそう支部)
袴田めら(ミャオギレ刑事)
百乃モト(少女思考)

コミティア歴…コミティア119年から
http://galetteweb.com/
自主制作百合コミック誌『ガレット』の誕生は、17年の同人界の事件だった。百合ジャンルで活躍する錚々たる作家陣の完全新作、商業レベルの装丁、そしてクラウドファンディングを用いた運営方法。同人誌だけでなく、出版の新しい道を示しているようだった。
創刊一周年を迎え、益々勢いを増す『ガレット』について、立ち上げから関わり、創刊号より連載を続ける寄田みゆきさん・袴田めらさん・百乃モトさんにお話を聞いた。
「構想自体は2、3年前から話してました。百合を自由に描きたい・読みたいという需要はあるけれど、供給が追い付いていなかった」と三人は振り返る。「お茶したりご飯を食べたり、みんなで集まると自然に編集会議が始まってました。じゃあ、そういう場所を自分たちで作るしかないよね」と、百合好きの作家が中心になって『ガレット』は生まれた。
当初から『ガレット』の主な目的は「継続すること」だった。「継続しないと意味がないんですよ。安心して百合を描ける・読める場があり続ける為には、人が集まることがすごく大事だと思います」(百乃さん)。
「Fantia」「Enty」というクラウドファンディングの登場も、始めるきっかけの一つだったという。サポーターからの支援は運営費・作家へと還元されている。「売れてないんじゃないか、って心配してくれたり、一緒に喜んだり悲しんだりしてくれます」。サポーターの存在は『ガレット』を生み出す大きな力だ。「ネット通販も簡単に出来るようになったし、Twitterで告知も出来る。個人で本を売れる環境が整ったと思います」(寄田さん)。
編集・事務・WEB更新等、多岐にわたる作業は分担して行っている。。作品の内容については、各々全く自由に描いているそうだ。「同人誌なので楽しめることだけ、好きにやりたいんです」。様々な掲載作家がいる『雑誌』であることが、互いに良い刺激になっている。「周りがちゃんと描いてるから、私も真剣にやらなくちゃって」(袴田さん)。
一周年を記念して書泉ブックタワーでのサイン会が開催されたり、書店からの応援も熱い。サポーターは日本国内に留まらず、中国・台湾の有志スタッフによる中国語版も発行された。国をも越えて、『ガレット』が繋ぐ百合の輪は拡がりつつある。
2月からは『ガレットONLINE』がスタートした。「WEB上に百合好きが交流できる場所があったら面白いと思って」。今夏には新しく電子向けの少しセクシーな『ガレットmeets』の発行を準備中だ。「イベントもやりたいよね」「やっぱりリアル店舗が欲しい」「いつかは『ガレット村』を作りたい」…みんなで集まると、どんどん夢が大きくなっていく、と笑う三人。
まさしく、機は熟した。百合が好きな作家と読者の切望が、一つの形になったのかもしれない。百合を愛する多くの人々の想いを集めた『ガレット』は、これからもより大きく成長して、みんなを満たしてくれるだろう。

TEXT /AI AKITA ティアズマガジン124に収録

ぶきやまいちこねむい

彼女につける惚れ薬
A5/60P/700円
職業…漫画描き
趣味…寝ること
コミティア歴…コミティア103から
https://sleeeepy.wixsite.com/site
海底に棲むダイオウグソクムシとそれが人間の美少女に見える学生の純愛を描く『深海ランデブー』や、気高くも孤独な魔女の継母と名家の少女が心を交わす『お義母様は魔女』等、現実とファンタジーが溶け合いながら繊細な感情描写が印象に残る物語の数々。白昼夢を見たかのような不思議な読後感が、ぶきやまいちこさんの作品の魅力だ。
小学1年の頃から、描いた絵をホッチキスで留めて冊子を作っていた。自身を「見せたがりの自信家」と評するように、当時から周囲の反応を見るのが好きだったという。その気質が高じ、ネットで創作発表を始めたのは中学時代のこと。「ネット上や学校で絵が上手い人に圧倒されましたが、彼らに食いつきたくて」と自分なりの画風を磨いていった。高校では学内合同誌にも寄稿し、本の形での発表にも力を注ぐ。「本を作ると『自分だけの物』になった感じがします。作った物をどんどん紙の形でファイリングしたいんです」。この思いが、ぶきやまさんが作品を生み出す原動力となっている。
創作活動をさらに深めようと、コミティアへの初参加を果たしたのは13年。「せっかくコミティアに出るんだったら漫画が描きたい」と、初めてきちんと仕上げたストーリー漫画である『深海ランデブー』を発表した。本作は早々に編集者の目に留まり15年には『となりのヤングジャンプ』(集英社)でリメイク版を連載する。これを機に、子供の頃から漠然と夢見ていた『漫画家』になることを決めた。「漫画家としてやっていけたら、と思ってます。一度足を踏み入れたのなら逃げたくないんです」。
自分の作品について「何度でもリメイクしたくなります。上書きして昇華させられると、こんなに成長したんだと思えるのが嬉しい」と話すように、完成度への強いこだわりを持つぶきやまさん。また、「今よりもっと多くの人に読んでもらいたい」と、現在の評価からのさらなるステップアップも目指している。
最近では、初見の読者にも一目で分かり易い話作りを心掛けている。表紙のキャッチ—さにも気を配った最新作『彼女につける惚れ薬』は、他人に興味を持たなかった雇われ助手の美女が、傲慢な変人学者に惚れてしまった場面から始まる三つ巴のラブコメディ。紆余曲折の末、本当の気持ちを見出す温かいラストが心に沁みる。「登場人物各々の役割を明確にするのが難しかったです」と振り返るが、反響は過去の作品で一番大きかったそう。「自分が描きたいものを描きながら、読者層も拡げられたのではないかと思います」。彼女の自己満足の追求が新たな成果を生んだ。
同人活動については「自由に描けて、息抜きにもなり楽しいです。今後も続けたい」と話す一方で、商業誌での連載獲得も大きな目標であり続けている。「商業で納得のいく単行本が数冊出せた時、初めて『自分は漫画家だ』と言えるのかもしれません」と冷静だが力強く語ったぶきやまさん。若き才能が大きく羽ばたく瞬間を、心待ちにしたい。

TEXT /HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン124に収録

牧田翠でいひま

『エロマンガ統計1990s』
B5/P76/800円
職業…会社員
趣味…自転車とか女児アニメとか
コミティア歴…2011年5月〜(7年)
https://twitter.com/MiDrill
統計学の観点からエロマンガを分析するというユニークな同人誌「エロマンガ統計」シリーズを発行、今年活動11年目を迎える牧田翠さん。昨年は活動10年目の節目として、これまでに発表した10年分の各種統計データを分かりやすくまとめた『13歳でもわかるエロマンガ統計』、87年から06年までのエロマンガを分析した『エロマンガ統計1990s』と労作を立て続けに発表。地道な手作業で集めた膨大なデータを縦横無尽に使い、真実を分かりやすく明らかにする両作は氏が標榜する「統計エンターテイメント」の一つの到達点と言える。
活動を始めたきっかけは、大学時代に受講したジェンダー学との出会いだ。「自分は生物学的には男だし、女の子が好きなんですけど『男らしく』みたいな言葉に嫌悪感があって、興味を持ったんです」。大学院では社会心理学ゼミでジェンダー研究に取り組み始める。そこでデータ収集の対象として選んだのが「エロマンガ」だった。「それまでは積極的に読んでいなかったんですが、マンガは実写よりも制約が少なくてストレートな願望が出やすいので、データを取るのにちょうど良かったんです」
研究成果を修士論文として学会で発表するものの、先鋭すぎた故か反応は芳しくなかった。その論文を同人誌としてまとめ直したものが07年に初めて出した同人誌『エロマンガ統計』だ。コミケで発表した同作はキャッチーな組み合わせが受け、初参加にも関わらず完売。趣味の研究として続けることを決意した氏は、仕事の傍らひたすらデータ集計を行い、統計同人誌をストイックに発表していった。
これまで発行した統計本は26冊。「エロマンガ」をベースにしつつも「エロアニメ」「エロゲー」、「BL」「TL」といった女性向け、「艦これ」「アイマス」「刀剣乱舞」のような人気作品と広範囲にフォローしている。「ジェンダー研究なので、男性向けエロマンガに限らず『多様性』を知った方が俯瞰的に見ることが出来ると思っています。例えばBLを読んでいて『相手に対して褒め言葉が多いな』と気がついて、男性向けで褒め言葉・けなし言葉の数を集計してみたら特徴のあるデータが取れたりしました」
氏の統計データはマンガ研究の中でも貴重な資料だ。例えばステレオタイプな「男性向けのエロマンガは強姦が多い」という偏見には、大量のデータから導き出した「和姦8割、強姦2割」という答えで否定を行う。「10年続けてると積み重なったデータで殴れるみたいなところはあります」
14〜15年に『ニコニコ学会β』ポスターセッションで3連続で大賞を獲ったことを契機に、近年はテレビ出演や、朝日新聞でのインタビュー、研究会の講演にゲストとして呼ばれたり、その地道で偉大な研究の成果は結実しつつある。「一時期は何でこんなことやってるんだろうと思うこともありましたが、この3、4年で自分の研究が社会的に意義があることだと思えてきました。続けてきて本当に良かったです」

TEXT / YOU AIDA ティアズマガジン124に収録