サークルインタビュー FrontView

さと原住民族

腐女子百合
B5/72P/500円
職業…マンガ家
趣味…マンガ
コミティア歴…コミティア120から
https://www.pixiv.net/member.php?id=6610146
二次創作BLの人気絵師としてネットで活躍する地方住み女子高生・ミスミ、彼女を神と崇める大ファンで東京在住のアラサーOL・アイ。そんな2人のピュアで不器用、遠距離で年の差な恋愛模様を描く『腐女子百合』は「オタクあるある」に笑いつつ、互いを思う描写に愛しさが溢れている。WEBとコミティアで発表された同作はSNSで話題を呼び、「神絵師JKとOL腐女子」と改題し、18年末より『ふらっとヒーローズ』で連載も始まった。
作者・さとさんがマンガを描き始めたのは5、6歳の頃。「コミュニケーションが不得意な自分にとって、マンガを見せて喜ばれることが人と繋がる手段だったんです。その頃からマンガ家になることが夢でした」 その夢は思いのほか早く叶うことになる。WEBで発表したマンガ『いわせてみてえもんだ』が編集者の目に留まり、大学在学中の06年に連載デビューを果たしたのだ。
デビュー後は若さゆえの経験値の低さにも苦しみながら、無我夢中で仕事をしていった。「描き方は我流のまま。実力も分からず、自分を世に知らしめたい気持ちが先走っていました」 特に10年から『週刊少年チャンピオン』で連載した「りびんぐでっど!」では、週刊ペースでマンガを描き続けるハードルの高さを痛感。様々な作品を生み出していく中、16年頃に商業連載が途切れたことがコミティアに参加するきっかけになった。
初参加のコミティア120で発表した『天使とストーカー』は、天使のような外見と性格の直子と、常軌を逸した行動に走る彼女のストーカー・桃子の奇妙な愛を描く百合マンガだ。同作にも顕著だが、創作する上で「人とは違う新しいネタやアイデア、奇抜な設定や物語で勝負したい」気持ちが強かったそうだ。しかし「単純に魅力的な人々を見たい読者も多いのでは」という気付きから、キャラクターを大切にすることをコンセプトにした『腐女子百合』が生まれた。
「読んでいて気持ち良いように人が嫌がることは描かないよう心がけています」という言葉の通り、ミスミとアイの友人たちは2人のオープンなオタクっぷりや、障壁の多い2人の想いを否定しない。そんな優しい世界を描いたからこそ、大きな共感を呼んだのだろう。その反応から、これまでにない手応えを感じている。「デビューして10数年経ちますが、ようやくマンガの描き方が分かった気がします」
今後の目標を伺うと「マンガで世界を変えたい」と大きな答えが返ってきた。その言葉の意味を、はにかみながらも静かな口調で「自分のマンガは、周囲とのギャップで生き辛さを抱えていた昔の自分や、今おなじ気持ちで生きている人に向けて描いています。そんな生き辛さを感じている人を、マンガで肯定したいんです。自分の性格や性分を否定せずにいられる人たちを増やせれば、生きやすい世界になっていくと思っています」と語ってくれた。ミスミとアイの今後はもちろん、さとさんが生み出す暖かな物語が広く手に取られる未来を楽しみに待ちたい。

TEXT /KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン127に収録

上野キミコサブマリンサンドイッチ

ネベルゲンの昔話
A5/76P/600円
職業…会社員
趣味…映画
コミティア歴…2007年から
https://pixiv.me/uenokimico
夜の帳をおろす女神が、朝陽を呼び込む女神と出逢う——。上野キミコさんはかわいらしい絵柄とやさしい筆致で、神話と人々を繋ぐ物語をつむいでいく。
小学生の頃は漫画家になりたかった。中高大と美術部に所属したが、漫画はほとんど描いてこなかったという。「友達とイラスト交換をしたり、オリジナルキャラの設定を考えたりしてました」。大学では哲学を専攻した。「知識を覚えるというより考え方を知る学問。この時に学んだことは作風に影響しているかも」
コミティアに初参加したのは社会人になった07年。「就職して絵を発表する場所がなくなってしまって、仕事以外の生きがいが欲しかったんです」と振り返る。少年が主人公の少し物悲しい短編漫画を収めた初めての同人誌は「当時好きだった萩尾望都先生の『トーマの心臓』にすごく影響されました」とのこと。以来、多忙な会社勤めのかたわら、ほぼ毎回サークル参加し新刊を発行し続けている。「年4回のコミティアを生きる目標にしてる感じです。イベント当日を最高な状態で迎えるためには、有給を使ってでも頑張って新刊を出さねば!」と快活に笑う。
最新作『夜の帳』や「森の物語シリーズ」など、上野さんの作品には “神様”がよく登場する。「中学生の頃、北欧神話をモチーフにした『ヴァルキリープロファイル』というRPGにハマって、神話に興味を持つようになりました。超自然的、超人間的な概念が面白いんです」。 “神様”を初めて描いたのは、11年8月発行の『アオイ神社花祭り』だ。花神楽の奏者に選ばれた少年が神様に願い事をするというお話は、上野さんにとって大きなターニングポイントになった。「同人をやめようかとも思っていたんです。イラストとか絵本とか色々出してみたものの、自分には何が向いているのかよく分からなくなって…。でも諦める前に一回はオフセットでちゃんと本にしようと、すごく力を入れて描きました」。同作は初めてティアズマガジンのP&Rで紹介され、かつてない手応えを感じた。「私には『漫画』なんだとわかって、迷いが無くなりました」。作品は読者からの反響を生み、反響はまた作家に影響を与えていく。
18年12月に『夜の帳』をTwitterで全頁公開したところ、合計2万1千RTを超えて拡散された。商業の話も水面下で進んでいるという。「これまでも何度かチャンスはあったんですが、連載まではなかなか…。今回は形にしたいですね」。夢だった漫画家が、目標としてやっとハッキリ見えてきた。
「描きたいものはまだまだ沢山あるし、表現する精度も上がっている気がしています」。コミティア初参加から12年、今が一番楽しいという。「希望がある終わり方が好きで、時々『作品を読んで救われた』という感想を貰います。漫画を描くことで自分自身が救われているので嬉しい驚きです」。様々な経験と想いを結びつけながら、上野さんが織り上げる世界はさらに大きく拡がっていくだろう。

TEXT /NANA ITOU ティアズマガジン127に収録

ちほちほ月刊滋養

ちほちほ、二週間で退職する
A5/28P/300円
職業…無職
趣味…コミティア専門YouTuberをやること
コミティア歴…コミティア86から
http://twitter.com/chihochiho7228
不器用な漫画だなあ、と思う。いや違う。登場する作者本人が不器用なのだ。作者のちほちほさんは岩手県宮古市に住み、うつ病で公務員を退職し、悩みながら漫画を描き、片道6時間をかけて東京のコミティアに参加する。ありのままの彼の日常が作品の形となっている。寂れた風景描写はリアルで、人間関係はベタつく。そんな田舎暮らしの哀感が淡々と描かれ、読者の胸に迫る。
漫画を描き始めたのは小学校の頃。「藤子不二雄物語 ハムサラダくん」(コロコロコミック)という子供向け「まんが道」にはまり、「オレも漫画家になる!」と道具一式を揃えた。中高生で大友克洋やつげ義春、滝田ゆうなどに夢中になるが、影響が強すぎて逆に描けなくなった。その後アニメ「天空の城ラピュタ」に衝撃を受け、再びプロの道を意識する。モラトリアムのつもりで岩手大学に入学し、同大の漫研「ちほうじん」でやっと本格的に漫画を描き始めた。
ところが卒業して地元で就職すると、スランプで描けなくなる。仲間から「抜け殻」呼ばわりされ、総決算のつもりで5年ぶりに描いた、犬型兵器による未来の戦争を描く「未来三国志レッツ・ゴー」で復活を果たす。
前後して漫研OBを集めた『月刊滋養』として地元で同人誌活動を始め、勧められて東京のコミティアに参加したのは'08年11月。「地平線が見える」ような規模の大きさに圧倒され、本も5冊しか売れず、うなだれて帰るが、後日ティアズマガジンで紹介されることになり再チャレンジ。そこから完全に沼(?)にはまり、以降は個人誌でコミティアに参加し続けている。
大学時代の不条理なナンセンス路線から、日常エッセイに転向したのは、「普通」の面白さに気づいたから。身近な人物を自分なりの視点で描くことで個性を出そうと考えた。大切にするのは読みやすさ。エッセイコミックは会話が主体で、画面が単調になりがち。それを避けて、主人公の視点で構図を変化させたり、大ゴマで風景を入れたり、読むものを飽きさせない工夫を凝らす。
転機はやはり'11年の東日本大震災。ちほちほさんの目の前で、津波は宮古の街を根こそぎさらっていった。現実を受け止め切れず、まるでフィクションの映像を観るように、不謹慎だが「漫画のネタが出来た」とすら考えたという。それでも自分の見たものを描くと決めて、形にするには半年かかった。
当事者の眼で見た震災を描いた同作は話題にもなり、何度か商業出版のオファーも来たが、話が折り合わず流れてしまった。今となっては、自分は商業誌には縁がないと言う。それよりは同人誌で気兼ねなく描いて本にし、自分の手で販売するコミティアでの活動を大切にする。
「ここまで来たら描くのを止められない」とちほちほさんは言う。コミティアに出られる限り、行き倒れるまで描き続けたい。その言葉を聞いて、老いてもなお描き続ける彼の姿を想像した。「人生を描く」とはそういうことなのか。誰にも出来なかったことを、彼はやろうとしているのかもしれない。

TEXT /KIMIHIKO NAKAMURA ティアズマガジン127に収録

遠藤マイル親戚一同

マジオチくんR
B5/36P/500円
職業…おもに4コマ漫画家
趣味…旅行・買い物
コミティア歴…コミティア93から
http://emds.blog71.fc2.com/
掟破り、破天荒…。遠藤さんの代表作『マジオチくん』はそんな言葉が似合う、4コマでは収まりきらない4コマ作品だ。「武器は『怒涛のオチ』です。オチてなくても無理やりオチと言い張ります!」
幼稚園の時に『オバケのQ太郎』を読んだ瞬間、漫画家になると決めた。「模写ばかりしてました」という子供時代を経て中高では美術部に所属。卒業後は専門学校でも漫画を描き、そのまま夢へ一直線…とはいかなかった。よく読んでいた少年誌の出版社へ卒業制作のラブコメバトル漫画を持ち込み、突然現実を突きつけられる。「自信はありましたが、『絵が雑』と言われて」。以後は持ち込みに行くことなく、友人にネームを見せたりはしていたものの、6、7年後には一度漫画家になる夢を完全に諦めてしまう。
そんな遠藤さんの転機は、祖母が亡くなったことだった。「ショックでしたが、限りある人生ならやりたいことをやらないと!と、思い切ってまた絵を描き始めたんです」Pixivやデザインフェスタでイラストを発表するなか、気休めに描いた4コマ漫画が仲間内で思わぬ評判になる。子供の頃読んだ『伝染るんです。』のシュールさと、友人が描いた「4コマあるのに2コマしか描かない」漫画に影響された、4コマ漫画の定義に挑戦するような作品。それが『激オチくん』(後に『マジオチくん』に改題)だった。
コミティア94で発表した同作は、「笑いながら、サイコーだと思って描きました」と自画自賛する会心の出来に。「手に取ってくれた人からも「『バカじゃないの!?』と好評でした(笑)」。1ヶ月後にはリブレ出版のWEBサイト『クロフネ』で連載が決定。「昔はストーリー漫画でプロになるんだ、と思い込んでいたけれど、この時自分に4コマ漫画が向いているんだと知りました」と振り返るように、意外なジャンルで念願だった漫画家デビューを果たした。
その後『マジオチくん』では単行本を2冊出せたものの、やがて慣れない商業連載の壁にぶち当たる。「絵を描くのは早いですが、ネタはひらめき待ちで、あまり連載には向かないタイプ」と話す通り、〆切に苦しみ、さらには出版社の事情にも翻弄される日々が続く。しかし、その逆境を作品に活かす根性も身につけた。「ネタが無いことをネタにしよう」と開き直り、自分の人生をエッセイ漫画にしたのが昨年発表した『まんが横道』だ。「お金が欲しかったので(笑)、赤裸々に描いてます」と笑いながら語るが、読者をより意識した作品づくりを目指す姿は、作家としての成長が窺える。次いで自らの統合失調症との付き合いを描く『これ、病気なのかな?』を発表。重い題材ながら、誰でも気軽に読める作品に仕上げた。
「同人でも商業でも作品を出し続けて、上手いこと食べて暮らせれば」と話す遠藤さんの「まんが横道」は、これからも途切れることなく続く。「世界最高齢のギャグ漫画家になりたいですね。100歳すぎたら枠線描くだけでウケるはずなので頑張りたいです!」

TEXT /HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン127に収録

藤咲ゆうねこかんロマンス

ノンシュガーフレンド
A5/84P/1000円
職業…会社員
趣味…ゲーム、映画鑑賞
コミティア歴…コミティア104から
https://www.pixiv.net/member.php?id=1399807
学校でいじめの標的にされているスクールカースト底辺系女子と、周囲と表面上は上手く付き合いつつも無価値だと思っているイケメン男子、学校生活に言い知れぬ息苦しさを感じて苦しむ二人の、少し歪でピュアな恋愛を描いたティーンズラブ(以下TL)マンガ『シュノーケルはいらない』をコミティアで発表。その後、同作で商業電子コミックデビューした作者の藤咲ゆうさんは、会社員と作家の二足の草鞋を履きながら、意欲的にマンガ制作に励んでいる。「子供の頃は『カードキャプターさくら』や『フルーツバスケット』がお気に入りでした。私の作品の根底には、主人公が友だちと友情を深めたり、気持ちのすれ違いのようなハードルを乗り越えて、ストーリーと共に恋愛が展開する少女マンガの影響があると思います」
マンガは小学生の頃から描いていたものの、画力に自信が持てず、プロを目指すよりも趣味として続けようと考えていた。しかし、大学で漫研に入部したことで状況が変化する。周囲の部員たちが同人活動を始めたのに刺激され、友人と一緒にコミティアに参加。また、オリジナルと並行して、成人向けPCゲームの二次創作でも活動をスタートさせた。そこで、「既にある題材でいかに内容を膨らませるか」や「限られたページでいかに作品を面白く見せるか」を意識しながらマンガを描くようになった。
二次創作での経験はオリジナル作品にも活きている。「マンガや映画を見て、好きなキャラ同士をカップリングさせて妄想をしていたせいか、描きたいキャラとその関係性をイメージできれば作品を描けるようになりました。これまで触れてきたものをアレンジして、自分なりの作品を作っていく私のやり方は、二次創作的なのかも知れません」
コミティア125からスタートしたTL『ノンシュガーフレンド』シリーズ(電子書籍版では『恋になるまであたためて』に改題)は、知り合ってから7年間、友達以上恋人未満の関係を続けていた大学生の京介と真知が、恋敵の登場を機に一線を越え、心の葛藤を経て恋人としての絆を深めていく物語だ。「TLなので性的表現はソフトにして、作中の言葉やキャラの表情でエロさを演出できるよう工夫しています。女の子だけでなく、男の子も可愛いなと思ってもらえたら嬉しいです」と話す。何気なく思える男女の会話や、相手に触れる仕草の中に込められたキャラクターたちの感情に注目しながら、濃厚な恋愛ドラマを堪能して欲しいと思う。
電子コミックで初の商業連載を経験して、「多くのサイトで作品を配信してもらえる反面、競争が激しいので簡単に埋もれますし、本にしてもらうまでのハードルがすごく高いんです」とメディア独自の難しさを挙げる。藤咲さんも、自作の単行本化の夢はまだ実現できていないが、新たな連載獲得に向けて、構想を練る日々を送っている。「10年先も読み続けてもらえる面白いマンガを描くのが目標。そのために、なるべく早く専業作家になりたいです」。元号が変わる記念すべき1年に、大願が叶うよう期待したい。

TEXT /KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン127に収録