サークルインタビュー FrontView

たみふるしっとりオブラート

付き合ってあげましょうか
B6/128P/1000円
職業…漫画家
趣味…ゲーム
コミティア歴…コミティア117から
https://twitter.com/_tmfly_
キュートな表情の裏側にある、密やかな欲望。それは悪戯心か、言葉にできない想いか。たみふるさんが描くキャラクターは、等身大の人間らしさに溢れている。
小学生で「周りが知らない昔のアニメ好き」というオタク心が芽生え、『らんま1/2』『うる星やつら』に夢中になった。お絵かきが好きで漫画家に憧れたが、「絵も話も全て自分でやるのは大変で断念しました」。中学は帰宅部で、友達とイラスト交換や二次創作サイトに親しむも、絵を発表する発想はなかった。高校大学は「もっと学生生活を楽しもう」と課外活動に励み、音楽や舞台、学園祭実行委員会など大勢で一つのものを作る活動に熱中。「ただ、皆で円満に済ますために妥協することに段々疲れて…。全て自分の理想通りに出来る漫画に惹かれていきました」
就活に意欲を持てなかった大学三年次に、pixivでアニメの百合パロディに出会い、本格的に漫画を描き始めた。「男女ものやBLはハマらなかったけれど、昔から見たかった女の子同士がありだと知って、嬉しくて自分もやってみようと」
同人誌即売会の存在を知り、初投稿からわずか三ヶ月で一冊目の同人誌を制作して初参加。「ネットで褒められて、調子に乗っちゃいました(笑)」。次々と作品を発表し、絵や漫画で生計を立てている周囲に刺激され、漫画家への道を意識し始めた。同人誌を契機に14年に商業デビューも果たしたが、「編集部や雑誌に合わせ過ぎて自分を出せていない」と痛感。活動初期から交流のある「モノフォビア」のユニさんに誘われ、鬱屈を晴らすべくコミティア117に初参加。「編集会議に出したら絶対ボツになる作品」を試みた『空気人形と妹』は、『となりのヤングジャンプ』(集英社)での連載に繋がった。ギャグは高く評価されるものの、全二巻で連載は終了してしまう。
たみふるさんが改めて「本当に描きたいもの」に向き合った作品が、18年に発表した『付き合ってあげてもいいかな』だ。「百合って二人が結ばれるまでの話が多いから、逆に別れる話を描いてみたかった」。商業化は考えていなかったが、編集者の熱意に動かされ『裏サンデー』『マンガワン』(小学館)で同年連載開始。同人誌は六冊、単行本は二巻まで出版されている。「これまで以上に女性読者の反響が多いです。女の子の性欲など生々しい話も描いているので、そこに共感して貰えていて嬉しい」。作品はキャラクターへの想いは勿論、たみふるさんの観察眼が活かされている。「プロットまでは神目線ですが、ネームはキャラクターを自分に憑依させないと描けません。学生時代に何気ないことから友達の裏事情を洞察していたことが活きているのかも」
創作のモチベーションは「とにかく可愛い女の子を沢山描きたい! それに、百合にはまだまだ描く余地があると思う。自分が読みたい漫画が存在しないなら、私が描かなきゃ」。今は連載作を最後まで描き切りたいと語るたみふるさん。彼女たちの行く末を一読者として見守りたい。

TEXT /KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン130に収録

ユニモノフォビア

上司と同棲しています
A5/P28/400円
職業…漫画家兼大学院生
趣味…ドライブ
コミティア歴…コミティア114から
https://twitter.com/y_un_i
働く大人の女性同士の百合、いわゆる「社会人百合」という言葉も認知されてきた。コミティアでその社会人百合を一貫して描き続けてきたのが、サークル「モノフォビア」のユニさんだ。これまでも、百合女子の同僚との妙な連帯感を描いた『私たちにはおかまいなく』や、身体を使って顧客を籠絡する営業部のエースと新人女子のエピソード『私の秘密を教えてあげる』など、様々な形のオトナな百合を発表している。
ユニさんが本格的に百合漫画を描き始めたのは「ラブライブ!」の二次創作から。しかしオリジナルでは最初から社会人百合を描きたかったと言う。自分が働くようになってから働くお姉さんの魅力に気付いたけれど、その頃の百合は学生物が中心。読みたければ自分で描くしかない。それが気に入られたら、きっと他にも描く人が増えるはず。そんな目論見もあって社会人百合を描き始めた。
漫画を描き出した時から人を巻き込むのが好きだった。小学生の頃は自分で描いた漫画を本にして妹に読ませ、自分が読みたいからと妹にも描かせていた。中学に進学する頃に同人誌の存在を知り、級友を誘って地元の同人誌即売会に参加したりと、周りを巻き込んで創作の輪を広げていたそうだ。
「学生同士の百合を描いていると、二人がこの先どういう人生を歩むかを描きたくなるんです。もちろん大人になってからの人生の方が長いし、現実的な問題にも直面するでしょう。でも、それが話のきっかけになったり、葛藤が生まれたりする。社会人設定の方がドラマになりやすいと思います」。生き方や価値観そのものに関わる社会人百合の醍醐味を彼女はそう語ってくれた。そのせいか彼女の読者は女性の比率が高いのだそうだ。同性として感情移入して読める魅力があるのだろう。
商業単行本化された『憎らしいほど愛してる』(KADOKAWA)でもその魅力が存分に発揮されている。バリバリ働き、伴侶もいるキャリアウーマンと、彼女に憧れる部下の女性との不倫関係。ユニさんは、結婚が出来ない女性同士の不倫でも咎められるのか?という疑問からこの作品を描いた。また、男女のケースなら噂のタネになるが、女同士で頻繁に会っていてもスルーされるように、世間に有りがちな展開を逆手に取った描写も上手い。
「プロデュースするのが好きなのかもしれません」とは本人の弁。イベント合わせの同人誌とWEBの同日配信や、単行本発売に合わせて既刊同人誌を無料配信するなど、多くの人に読んでもらうアイデアとそのための努力を惜しまない。『おっさんずラブ』のヒットなど、エンタメ業界の新しいコンテンツの潮流の話題になり、ユニさんは女性の社会進出の流れと相まって、女性同士の社会人物が受け入れられるようになるのではないか、それに先駆けて社会人百合の土壌を作りたい、と力強く語った。この人がこれから切り拓くだろう、まだ見ぬ新しい百合漫画の地平が楽しみでならない。

TEXT /SATOSHI OKAMOTO ティアズマガジン130に収録

梵辛即席魔王

くちべた食堂
B5/36P/500円
趣味…小鳥(インコ)と遊ぶこと
コミティア歴…コミティア93から
https://twitter.com/sokusekimaou
「即席魔王」という独特なサークル名は、某アニメの敵役「混世魔王」に由来。10年以上にわたり二次創作で精力的に活動を続けながら、オリジナルでも「面白くて癒しのある漫画」をモットーに、読切の短編コメディを多数発表している梵辛さん。女の子をストーリーの中心に据えながら、キャラクター同士の微妙にズレたコミュニケーションを明るく愉快に描く作風が特徴の一つだ。
同人活動を始めたのは高校時代。人づてに同人誌即売会を知り、一般参加したのがきっかけだ。「学校や親戚以外の人と接する場所が初めてで、目に映る全てが輝いて見えました」。その数ヶ月後にはサークル活動を開始。以来、同人の世界にどっぷり浸かっている。これまで活動した主なジャンルは、TYPE-MOON作品や『東方Project』『魔法少女まどか☆マギカ』『ガールズ&パンツァー』など。「二次創作ではキャラクターの魅力を描くことに専念します」という言葉の通り、時に原作以上にキャラをコミカルかつ生き生きと描く見事な手腕にはファンも多い。
多彩な活動の軸は「その瞬間に自分が一番関心がある事柄」だ。コミティアへは、活動の幅を広げるために10年に初参加。当初はオリジナルの描き方が分からず戸惑ったが、試行錯誤を繰り返しながら創作スタイルを確立していった。その境地を「変わった題材のものを描きたいという欲を捨て、飾りのない自分の興味や関心を素直に漫画にするのが一番読みやすい」と話す。コミティア122発行の『女の子は服を着ることにした』は、読者モデルたちが服の魅力を再発見する爽やかな物語だが、テーマを掘り下げるために、実際にモデルとして活動する友人に取材した上で描かれている。「ビジュアルを売り物にするような、漫画描きとは対局的な生き方をしているモデルさんの人生観などを聞いて、自分に理解のできる事柄に置き換えていく作業は強い刺激になりました」
食堂で出会った客と店員の不器用なコミュニケーションを描いた短編集『くちべた食堂』も、梵辛さんの身近な興味がヒントになった。「飲食店に限らず、自分が好きで通っているお店の経営は大丈夫なのか、閉店してしまわないかという心配や不安をコメディにすれば共感を得られやすいと思いました」。ツイッターで公開された第1話は大きな反響を呼び、現在までに19万超の〈いいね〉を獲得。目標として掲げる「読者に娯楽として楽しんでもらいつつ、癒される要素のある作品」の一つの形と言える。
「創作活動はすべてコミュニケーション」と語る梵辛さん。「笑い」を描くからこそだろうか、その姿勢は真摯だ。目指す作風は好き嫌いが分かれる個性的なものではなく、広く万人に受け入れられるエンターテイメント。「『他人を理解したい』とか『自分のことを分かってほしい』という気持ちを形にし続けながら、自分に関心を持ってくれる人を増やしていきたいです」。楽しい漫画を描くための不断の努力は今日も続いている。

TEXT /KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン130に収録

焚火焚き火

Hello hello 未満なボクら2
A5/P44/500円
趣味…写真撮影、スポーツ観戦、機械工作、編み物、料理
コミティア歴…コミティア124から
https://twitter.com/takibi_cicada/
「焚き火は観ていて安らぐし、飽きません。そんな漫画を描きたくて」とペンネームとサークル名の由来を語る焚火さん。初めての創作漫画『my home town』は、幼馴染三人の友情と絆を軸にした優しい物語。確かにこの作品には、他人のことを自分のことのように思いやれる人物が多く登場し、読者にとっても彼らの関係は羨ましくなるほど心地よい。
幼い頃から絵を描くことが好きだったが、同人活動は大人になってから。きっかけはiPadを手に入れたこと。ペイントソフトで落描きをしているうちに遊び半分で20ページくらいの漫画を描けた。 SNSに上げたら反響があり嬉しかったという。
初めて描いた同人誌は二次創作だった。その頃から『my home town』の構想はあったが、登場人物や世界観を一から考えなければいけない創作漫画を当時は描く勇気がなかった。そんな自身を「話を考えることはできない」「絵を描くことは好きだけど、思うように描けないし不向きだ」とやる前から諦めているタイプだったと分析する。
けれど、コミティアに一般参加したことを機会にたくさんの創作漫画と出会い、小さくても自分の世界を構築したいという想いが再燃。とにかくやってみようと奮起し、原稿に向かってみたところ意外となんとかなったという。
焚火さんは現在、『未満なボクら』というBL作品を手がける。この作品は肉体関係未満の二人の性行為に対する気持ちのズレがテーマ。「どんな関係でも慣習や嗜好など様々な違いがある。時に言い合いになっても相手を理解し、より良い関係を構築し絆を深めていくのが人間的な心の活動。 SEXは本能的な欲求なので、なかなか譲れない(理性的になりにくい)部分。そこにどう向き合うのか、心の揺らぎを描きたかった」と真正面から難しいテーマに向き合おうという意気込みを感じる。同性愛の設定についても、「社会的にも肉体的にもつながりを持たない二人の拠り所は心のつながり。でもきれい事だけでやっていけるとは思わない。そこは描きたかったことのひとつ」と語る。親密な関係を描きつつ、二人の感情が揺れ動くさまも丁寧に拾い上げる描写に読者も共感を覚えるはずだ。
その物語を描写する作画についても触れておきたい。描き始めのきっかけはiPadだったが、現在の作画はアナログが中心。制作スタイルを模索した結果、アナログの方がイメージどおりに描けることに気づいたという。「描いていて楽しいです。完成した原稿は綺麗だなと思います」という言葉には、確固たる自信がうかがえる。
漫画で描きたいのはひとの関わりや生き方という焚火さん。創作に対する葛藤を乗り越え、試行錯誤の末に手に入れた作画スタイルと心の機微を丁寧に描写する作風で、これから「未満な二人」と私たちをどのような物語に導いてくれるのだろうか。

TEXT /JUNYA AIDA ティアズマガジン130に収録

V林田フライング東上

麻雀漫画50年史 70年代編
A5/44P/500円
職業…兼業ライター
趣味…鉄道・SF、アイドルマスターシンデレラガールズ
コミティア歴…コミティア100から
https://twitter.com/vhysd
麻雀漫画、というものが生まれて今年で50年だそうだ。漫画界の中ではニッチな一ジャンルではあるものの、そこには連綿と続いてきた歴史、そして麻雀という一つの娯楽と一体化した立派な文化体系があるのだ。
そんな世界に焦点を当て、これまで22巻を数える情報同人誌が『麻雀漫画研究』シリーズ。生まれては消えていった数々の麻雀漫画雑誌やレーベルを紹介する他、圧巻は毎号恒例の関係者インタビュー。かわぐちかいじ・片山まさゆきといったビッグネームから、竹書房の元名物編集長・ウサパパこと宇佐美和徳、そして一線を退いて久しい劇画作家・原作者たちまで、麻雀漫画に携わってきた人々に話を聞くというもの。普通の漫画メディアにはまず載らないであろう、ここでしか読めない貴重な証言に触れる事ができる。
きっかけは美少女麻雀漫画『咲-Saki-』。WEB日記でSFや漫画の話を綴るうち知り合いができ同人誌に呼ばれ始め、やがて自ら『咲』の同人誌を出す事に。そこでオマケ的読み物として書いた麻雀漫画史が原点という。
「調べだしたらあまりにも判らない所が多すぎて。歴史がまとまった資料もなかったので、じゃあもう自分で調べるかって」
それにしても、ここまで多数の業界人にコンタクトを取れている以上素人の仕事とは思えない、著者は何らかの形で業界に関わっている人間なのでは、と思っていたのだが…。
「一素人ですね。麻雀と麻雀漫画に関しては基本的に一切伝手はなかったです」
まずストレートに用件を伝えて出版社へ問い合わせる。作家に確認を取ってくれる丁寧な所もあれば、いきなり電話番号を教えてくれてしまう所まで様々。時には、電話連絡は取れなくなっているが昔の住所なら分かるという事で教えてもらい、手紙で連絡を取った事も。
「当時の事は思い出したくないって断られる事もありましたし、そもそも連絡が付かない方も多いですけど、とりあえず聞くだけ聞いてみて何とか細く繋がって助かっている感じですね。酔狂な事をやっていると思って皆さん親切にしてくれているんでしょう」
データベースとなる実際の出版物はネットオークションで収集し、単行本は全時代全タイトル全巻のうち9割は揃っていると言う。それでも手に入らない雑誌は国会図書館や米沢嘉博記念図書館などを駆使。そうして続けて8年、これまで存在した雑誌・レーベルの調査にほぼ目途が立ち、原点のオマケ的麻雀漫画史から始まった研究の集大成として『麻雀漫画50年史』の制作に取り掛かっている。
「ここまで来たら50年分をまとめないと気が済まないし、お話を伺った方にせっかくなら50年史をお渡ししたいなあと。もう何人か鬼籍に入られてお渡しできなくなってしまった方がいるので、時間はかけたくないですね」
50年とはそういう時間なのだ。漫画史の中ではニッチな世界かも知れない、だがそれ故に個人の力で半世紀の歴史全てに手が届く世界でもあるのだろう。一人の素人漫画史家による前人未到の大事業が、もうすぐ完成する。

TEXT /TERUO MIZUNO ティアズマガジン130に収録