サークルインタビュー FrontView

藤沢カミヤMAGNET HILL

ふわちゃん
A5/28P/400円
職業…漫画家、イラストレーター
趣味…喫茶店に行くこと、食器・家具を見ること
コミティア歴…東京は3年くらい
http://www.kami8.com/
働き者過ぎる宇宙ウサギやセーラー服を着た猫…キュートで表情豊かなキャラ達が繰り広げる、非日常なほのぼの日常ギャグ。藤沢カミヤさんの漫画は、魅力的な可愛い絵柄とシュールなボケに加えて、ちょっぴりの毒気のバランス感覚が絶妙だ。
物心ついた時から当たり前のように漫画家になりたかった。「小4の頃にはノートにヒトデ人間のギャグ漫画を描きまくってました」。中学から同人活動を始め、高校からはゲームコミックアンソロジーの仕事もしていたが、オリジナル作品は編集者からことごとくダメ出しをされ、自分には才能が無いんだと思っていた。専門学校時代には関西コミティアに初参加し、商業を意識せず自由に描いた漫画を発表していたという。キャラクターデザインを学びゲーム会社に就職したものの、日々の激務とイラストに対する「下手だ」という社内の声に、心身ともに弱り果て「もう絵を描くのはやめよう」と退職してしまう。
辞めてはみたものの他にやりたい事も無く、藤沢さんはすぐに絵を発表し始めた。「描いてなかったのはほんの数日間だったけど、すごく長く感じました。友達やWEB上の感想のおかげで生き返れました。好きな絵を描いて良い反応を貰える事が『もっと上手くなりたい!』という先に向かう気持ちに繋がる。だから描けてたんだと気付きました」
フリーランスで絵の仕事を始め、小さなイラスト仕事でも何でもとにかく受けた。漫画の持込はなかなか上手くいかず、漫画家になるのを諦めかけていたが、13年2月のコミティア103で講談社が開催した「モーツー×ITAN即日新人賞第1回」にて、SF作家と女の子の姿をした猫の暮らしを描いた『ねこのこはな』が優秀賞を受賞する。「応募を強く勧めてくれた友達に感謝です。自信が無くて当日会場に行かなかった事を、今でも悔やんでます」。同年7月より『モーニング・ツー』で同作が初の商業連載となる。「連載決定が絵を描き続けてきた中で一番嬉しかった瞬間でした。反省点も多いですが、後の仕事に自分を導いてくれた思い出深い作品です」
現在は複数の商業誌で連載をしながら、イラストやキャラクターデザインの仕事もしている。17年8月から『ウルトラジャンプ』で連載中の『ウサギ目社畜科』は、労働が至上の喜びの社畜ウサギ達が人間を翻弄するブラックコメディだ。「キャラを可愛く見せる事はあまり意識してなくて、どうすれば飽きずに笑ってもらえるかを考え続けてます」
自身の作品のセールスポイントを「頭を使わず読めるところ」という藤沢さん。今年の3月から竹書房のWEB漫画雑誌で始まる新連載は、よりリラックスした漫画になりそうだ。「息抜きに描いた何も起こらないようなゆるい漫画が担当さんに好評で、次は日常を切り抜いたような物語にしようかなと。いざ描いてみるとかなり難しくて、結局頭をひねってます(笑)」。これからもたくさんの読者の声を糧にして、みんなが笑顔になれる漫画を描き続けてくれる事だろう。

TEXT /AI AKITA ティアズマガジン131に収録

丸岡九蔵丸岡九蔵長屋

陋巷酒家4
A5/76P/800円
職業…漫画・イラスト・似顔絵業
趣味…落語と酒
コミティア歴…コミティア119から
https://maruoroka.wordpress.com/
荒んだ近未来の猥雑な街を、逞しく生きる人々を愉快に描く、アクションあり人情ありのごった煮サイバーパンク。昭和を彷彿とさせる丸岡九蔵さんのSF漫画は、闇鍋のような面白さが醸し出されている。
親の仕事の都合で幼少期は香港で暮らした。漫画との出会いは藤子不二雄や手塚治虫から。一人で漫画を読んだり描いたりするのが好きな子供だった。「『週刊少年ジャンプ』を読む前に藤子・手塚を読んでいたので、同年代と比べて好きな漫画が古風でした」
中学からは漫研に入り、本格的に漫画を描き始めた。古い漫画や先輩部員との交流からサブカル全般に傾倒し、「大槻ケンヂには多大な影響を受けました。椎名誠のSF小説の『荒廃した未来の世界観』も好きで、中3の頃の漫画はほぼそのまんま。恐ろしいほど今と作風が変わらない」
プロの漫画家を目指し、漫研目当てで早稲田大学に進学したものの、部誌に描いたのは一年生の時だけ。「人気のある商業漫画のリアルで密度の高い絵や物語と、自分が描けるものとのギャップが苦しかった。勝手にプロのレベル設定をどんどん上げてしまって、頑張れなくなっちゃった。とにかく酒ばかり飲んでました」。丸岡さんは夢を諦めてしまう。
卒業後は書店アルバイトを経て、出版社で編集業務に携わるが「自分には向いていない」と退職し、雑誌イラストや似顔絵描きのフリーランスに。編集経験のせいか、「使いやすいイラストを作らなければ」という思い込みがあったが、個性を殺す事にすっかり疲弊した丸岡さんは、半ばやけくそになって自分好みの漫画を描き始めた。
「10年以上ブランクがあったけど、すんなり描けました。速水螺旋人さんや史群アル仙さんの漫画を知って、今なら線の太い絵柄や昭和っぽい作風も受け入れられるのではと」。コミティア114から早大漫研OBのサークル「ラスコー」に加わり、2か月で100頁超の長編を描き上げるほど執筆にのめり込んだ。
現在、6冊発行されている同人誌『陋巷酒家』シリーズは、18年5月にTwitterで発表した4頁漫画がきっかけだ。「気軽な気持ちで投稿したら、かつて無いくらい反響があったんで、Twitter連載する事にしました」。大きな戦争で環境や生態系も変わってしまった後の世界というハードな設定ながら、描かれるのは庶民的な立ち飲み屋に通う、普通の人々の悲喜こもごもだ。「読者の感想やリアクションは本当に励みになりますね。望まれている実感があるから続けられます」
代表作と言える『陋巷酒家』を出せた事で、描きたいものが明確になったという。「若い頃は尖った表現に憧れましたけど、ウェルメイドなエンタメを、ちょっと変わった絵と文法で描くのが自分にはちょうど良いみたいです」。10数年の空白を埋めるかのごとく、創作意欲が益々高まっている丸岡さん。「今は漫画を描けるようになった事が嬉しいから描いてます。いい年をして『漫画を描くのが楽しい!』ってどうなんでしょうね(笑)」

TEXT /AI AKITA ティアズマガジン131に収録

伊咲ウタハチワレ堂

峰くんはノンセクシャル
A5/46P/500円
職業…漫画家、講師
趣味…猫、漫画を読む、ゲーム
コミティア歴…2年
https://twitter.com/uta_isaki
一見、舞台は現代の日本。その実、稀に三百年を超える寿命を持つ子供が生まれていたり、人魚が化粧品のボトルに潜んでいたりする。普通じゃない彼らがそれぞれ悩んだり苦しんだりする姿は等身大で、我々と違う所はどこにもない。伊咲ウタさんが描く漫画には奇想天外な設定の中に人間の孤独や葛藤に寄り添う視線がある。
「小さいころから漫画家になりたいと思ってました」と語る伊咲さん。いったん就職した後、改めて目標を果たすため投稿を重ね08年にデビュー、それ以来商業誌で活躍を続けている。現代日本に住む魔女たちの群像劇『現代魔女図鑑』(一迅社)や、クズ男と美少女アンドロイドのシュールな同居生活を描く『ブキミの谷のロボ子さん』(KADOKAWA)など、キャラクターの魅力を活かしたSFやファンタジーが得意だ。「飽き性なせいか、どんどん新しいキャラや魔法を楽しく考えられました」。一方で商業誌で連載する以上、「多くの読者に共通の感情を想起させる作品」が求められる。結論を読む人に委ねるような、読後にもやもやする話はアイデアがあっても中々発表できないでいた。
こうしたネタの発表媒体として選んだのが同人誌だ。常人と比べ成長する速度が極端に遅い子供の生い立ちを描いた『ウルウ』など、単行本に載せられなかった作品を収録した短編集をイベントで出した所、好評を得た。コミティア128では最初から同人誌で発表する目的で描いた『マーメイドインザボトル』を刊行。謎を残す結末が受け入れられるか不安だったが、そのラストを含めて寓話的な雰囲気を評価する反応が多く、「こういう作品でも同人誌だったら深読みしてくれる読者がいるのか」と気づいた。
デビュー当時から一貫して描いているのが「異なる者の間のコミュニケーション」の問題。前述の『ウルウ』においても、物語の中心となるのは体感時間が異なる主人公と周囲の人々との対話だ。「他者を完全に理解するのは無理だけど、わかろうとする努力は必要なのではないかなと」。このテーマを突き詰めた最新作『峰くんはノンセクシャル』はSFでもファンタジーでもなく、現実世界を舞台にセクシャリティが異なるカップルを描いた恋愛漫画。作者自身リアルな会話劇は苦手だというが「非現実的設定や漫画的な誇張でごまかしてはセクシャリティの悩みは伝わらないので、リアルな演出で頑張りました」。 その狙い通り、切ない物語に感動しつつ、主人公たちの苦悩と決断について「考えさせられた」という読者の声が上がっている。
漫画業と並行して学校で絵の講師も務める。漫画家志望の若い人に向けては「デビューできる要素は才能のあるなしではなく、何が何でもデビューするという意志の強さ」とアドバイスする。奇抜なアイデアを生み出す想像力を武器に、「漫画家になりたい」という意志を貫いた後も、伊咲さんの新しい表現への挑戦は果敢に続いている。

TEXT /RYO SHIOTA ティアズマガジン131に収録

ひみつひみつせらぴー

大学ではじめて恋人が
できた人の話vol.4
B5/44P/500円
職業…漫画家
趣味…同人活動、ご飯を食べに行くこと
コミティア歴…9年
https://www.pixiv.net/fanbox/creator/265720
告白してOKをもらった大学生カップルの翌日からを描く『大学ではじめて恋人ができた人の話』。主人公の二人にかかると日常の何気ないことも過剰に甘酸っぱく、身悶えさせるエピソード満載だ。彼らが並んで「ぷっしゅう〜」と顔を赤らめるのに、読者も一緒になって照れたりするのが楽しい。「こんなこと考えてるって思われたら、描いてるこっちも読んでるそっちも恥ずかしい、そんな『刺さる感覚』が漫画には大切だと思うんです」と作者のひみつさんは語る。
中高生時代はイラストレーターを目指し、美大に進学した。卒業後は地元でバイトをしながら、ネット経由でイラストの仕事を始める。一方でイラスト同人誌を関西コミティアに出してみたら、4コマ誌の編集者に声をかけられ、漫画に挑戦することに。「執念深く見せて見せて見せて、根性でやっと載った感じですね」と1年半かけてデビュー。しかし編集者と打合せを重ねても、なかなか連載には結び付かない。転機となったのは『ぺたがーる』(KADOKAWA)。ふと思いついた貧乳女子のアイデアをコミティアの出張編集部に持ち込み、見事に連載をゲット。4巻まで続く代表作になった。「無理に作り込まず、シンプルに描きたい気持ちを優先したのが良かった」と本人は言う。
とは言え、商業連載は単行本になるまで最終的な読者の反応が分からず、4コマ・ショート系の単行本は1年に1冊くらいしか出せない。フィードバックに時間がかかり、そこからの軌道修正も難しい。そこで出版社の了解を得て、SNSで自作品の公開を始めたら、反応がダイレクトに返ってくるようになった。
現在はTwitterやpixiv FANBOX、ニコニコ静画等のSNS媒体での発表を前提にした同人活動も行う。「それぞれのSNSに別のファン層がいるので、もらえる反応が全然違います」と同時並行での発表を大切にする。同じ作品でも感想や弾幕に流れる言葉の傾向は異なるし、バズる作品も違うのだそうだ。
1年以上続けて面白いことも分かった。ネットで発表した漫画をそのまま同人誌にするが、無料でも読めるのにきちんと売れてゆく。「中身がよく分からない物にお金を出すのを嫌がる人が多くて、それより自分の望んだものがちゃんと載ってる方がお得だと考える心理の人が増えたようです」そうした時代の潮目も感じとり、「自分の創作をしたいという気持ち+どう売るかを自分で自由にできるのはすごく楽しい」と現在のスタンスを語る。
商業誌の連載が完結した現在、しばらくは自分のペースで作れる同人活動で創作を続けたいという。『大学生ではじめて〜』については、「ある程度恋人らしいところに行くまで丁寧に描きたい」とネット上で今後の構想を発表するなど、読者とのコミュニケーションも活発だ。新しい時代の漫画家モデルとなるかもしれないひみつさんの今後の活動は皆さんがアクセスしやすい媒体で要チェックだ。

TEXT /HIDEO SATO ティアズマガジン131に収録

tamikopaseri

理想の死に方
A5/196P/1300円
趣味…怖い話を読むこと
コミティア歴…5年
https://www.pixiv.net/users/6481249
「悪意」、自作を評するtamikoさんの言葉だ。「後味の悪いモヤモヤする読後感を、自分と同じ感性の人に気づいて欲しい」そうだ。シリアスな長編では、そんな毒のような違和感を、ピュアで歪なキャラクター達が奏でる。オリジナルこそ少なめだが、二次創作を含めた同人活動歴は10年以上、これまで発表してきた同人誌は100冊を優に超える。その硬軟織り交ぜた作風は底知れないが、生粋のストーリーテラーであることは疑いようがない。
子供の頃からマンガを読むのは大好きだったが、絵を描くこと自体は好きではなかったそうだ。美術の授業では課題に途中で飽き、描くのを止めてしまうことが常だった。マンガを描き、同人活動を始めたのは高校時代から。飽きずに取り組めたのは、二次創作の面白さに加えて、本作りの楽しさの魅力だった。「本を作りたいんです。マンガを描かずに本が完成できるなら描きたくないくらい(笑)」とも言うほど。その言葉を裏付けるように、装丁やデザインに拘りを感じる造本も魅力の1つだ。
社会に出た後もその熱が冷めることはなく、むしろタガが外れたかのように夢中になっていく。「自分の辛い想いをぶつけるのにちょうど良かったんですよね」
初のオリジナル作品『トイレオペラ』を描き、コミティアに参加したのは15年。「一番量を描けていた」というこの年に発表した同人誌は合計1000ページ以上。しかしオリジナルからは同年に2作目を発表した後、ひとまず満足して遠のいた。
再び戻ってきたのは19年だ。『奇病図鑑』『こんな心臓いらない』『理想の死に方』と150ページ超の長編を立て続けにリリース。その理由を言葉少なに「オリジナルは日常の怒りをモチベーションに描くことが多いんですけど、ここ数年の状況がちょっと酷くて…」と、こぼした。
最新作『理想の死に方』は、不死身の肉体を持つ男が、生きることに失望し、自身の身体をバラして細胞の移植提供を行ったという設定の物語。不死身のパーツを手に入れ、人生が狂っていくキャラクター達の群像劇をドラマティックに描く。ラストは男の「真の死」と共に人類の大半が無常に死に絶える。
「私にとっての『理想の死に方』、いっそ全員道連れにして死にたいという醜い破壊願望を描きました。自分の願望や欲望を初めて取り繕うことなく形に出来たと思っています。最後の不死身の男の人生に対する『それが一体何だったというのだろうか』という言葉は私の人生への投げかけでもあります」 
日々の生きにくさを創作の糧とする一方、その辛さに筆を折ることを何度も考える。しかし、今後も苦しみながら描き続けるのだろう。描かずにはいられないはずだ。願わくば、その痛みが次なる傑作に昇華されますように。そして、作品に込められた「悪意」が出来るだけ多くの人の感情を抉りますように。ファンとして祈りたい。

TEXT /YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン131に収録