サークルインタビュー FrontView

馬かのこ・酉村ダイオウイカ

魔王族姉弟の夜は長い
B5/32P/500円
THAT'S LIFE
A5/80P/600円
<馬かのこ>
職業…漫画家
趣味…姉弟作品、ゲーム、スライム
コミティア歴…6年
https://www.pixiv.net/users/1406861
<酉村>
職業…漫画家
趣味…どうぶつの森
コミティア歴…6年
https://www.pixiv.net/users/7021470
「お互いに狂わせ合ってる」とは、二人組サークル「ダイオウイカ」のマンガ家コンビ、酉村さんと馬かのこさんが自身たちを評した言葉だ。そこには長年の親友でライバルであると同時に、互いに「先生」と呼んで敬意を払う、強い信頼関係が垣間見える。
自らを「ビビり」という酉村さんは理論派のストーリーテラー。十八番は仄暗いファンタジーだ。怪奇や悪意をスパイスに、読者の背筋を震わせる物語を紡ぐ。商業誌では「狼の子ソラは戦場にいる」(くらげバンチ)を連載している。
一方の馬かのこさんは天才肌の直感派で、王道のドタバタ劇が得意。小粋で素っ頓狂なキャラたちのバトルやラブを明るくキャッチーに描く。現在は「ダイガクちゃん×はいすくーる!」(ドラゴンエイジ)を連載中だ。
出会いは高校時代。同級生で美術部同士、互いにタイプの違いを感じて惹かれ合っていった。部活の顧問の先生や先輩の影響を受け、卒業後はそれぞれに大学へ進学し、芸術系の学部で学んだ。
それまでマンガを描いていなかった二人がマンガに目覚めたきっかけはコミティアだ。大学在学中の13年、酉村さんが馬かのこさんを誘い、ファンだった二人組サークル「0丁目」をお目当てに一般参加する。その時の会場に満ちた創作の熱が「マンガを描きたい」という刺激になり、自身たちもコンビでサークルを結成して翌年に初参加した。参加を続けるうち、マンガを描く楽しさに夢中になっていく。気がつけばどちらともなくマンガ家になると決意していた。その原動力のひとつになったのが出張編集部だ。
馬かのこさんは初参加時から出張編集部に積極的に持ち込み、17年に「魔王立中ボス養成アカデミア」(コミックアース・スター)で商業デビュー。「酉村先生が考えてくれた『ばかのこ』のペンネームのように身の程知らずに突き進んだ」という。
一方の酉村さんも馬かのこさんに強く勧められ、気後れしながらも出張編集部に挑戦。先にデビューした馬かのこさんに対して「死ぬほど悔しかった」という思いを抱きつつ、画風の刷新から研究を重ね、19年には『くらげバンチ』での連載を勝ち取った。
自身たちの作風と活動を、酉村さんは「違う作風で、互いの作品に口を出さない方が長続きすると思ってました。馬かのこ先生は昔から絵が上手くて勝てない。コミティアで通りすがりの人は先生の表紙を見てやってくるんです」と話す。馬かのこさんは「逆に私は感覚や雰囲気しか読み取れないので、酉村先生のセンスと教養には勝てない。読者から貰った感想を頼りに、自分の強みをつかんできました」と語る。
「馬かのこ先生は永遠のライバルで師匠」、「酉村先生は元からの才能に満足せずに努力していて憧れる」と認め合う今日に至るまで、思いもよらない影響を与えあってきた二人。「狂わせ合い」の先にはこれからも、想像を超える未来を見せてくれるはずだ。

TEXT / TAKASHI MENJO ティアズマガジン134に収録

トキワセイイチトキワセイイチ制作室

きつねとたぬきと
いいなずけ VOL.4
A5/76P/700円
職業…漫画家
趣味…軽登山
コミティア歴…コミティア124から
https://twitter.com/seiichitokiwa
トキワセイイチさんの漫画の魅力は、何と言ってもかわいらしくデフォルメされたキャラクターたちだ。ユルさが持ち味のコメディタッチの作風だが、彼らをとおして描かれる出会いや成長の物語は、まさに群像劇。しかし、この作風にいたる道のりは決して平坦ではなかった。
漫画の原体験は小学生の頃。「帰省先で退屈しのぎに偶然、手にした漫画に時間を忘れて夢中になりました。自分でもこんな漫画を描きたいと思ったんです」と回想する。
大学在学中、初めての投稿作品が賞を取り雑誌に掲載。持ち込み作品がプロの漫画家の目にとまり、卒業後は青年誌での連載を目指し、アシスタントとなる。順風満帆かと思われたが、「仕事に追われ、徐々に自分が描きたいものを見失っていきました」。また、描きたいテーマがあっても、絵の技術が追いつかず、「これでプロの漫画家になれると思ってるのか?」 と思い悩む日々が続いた。
転機が訪れたのはアシスタントを始めてから十三年後。読切作品が掲載されることはあっても、編集者から与えられた課題に応えているだけの状態が続き、連載デビューには程遠い。アシスタントもいつまで続けられるものかと迷った末、夢に見切りをつけることを決めた。「せめて最後は、自分のために作品を描き残そう」と開き直り、それまで青年誌向けに培ってきた劇画風の絵柄やテーマを捨て、一から表現方法を見直した。「苦にならず描ける方法を模索しました。自分を変える意味でペンネームも変えました」
そうして18年の元旦に心機一転、「トキワセイイチ」として発表した作品が、『きつねとたぬきといいなずけ』だ。「かわいいキャラクターを描くのが妙にあってました。自分が描きやすい絵柄を見つけて、漫画を描くことはこんなに楽しかったんだと思い出しました。これなら描き続けられるという手応えを感じたんです。思えば楽しんで、笑いながら描くことから随分、遠ざかっていました」
発表の場に選んだのはメディアプラットフォームの『note』。「創作漫画の投稿は珍しかったのか、早くから反響がありました」。高校の親友とのエピソードをもとにした短編『それはまるで呪いのよう』も話題となった。
「作品を紙の本で残しておきたい」と同年5月のコミティア124からサークル活動を開始。それは子供時代に出会った漫画のように、「時間を超え、見知らぬ誰かが見つけてくれ、その人にとってのひとときの楽しみになって欲しい」という気持ちからだ。
「漫画を楽しめるようになり、自然とアイデアも浮かぶようになりました。今は描きたいことがあふれています」と話すトキワさんは、かつて夢見た商業にも活躍の場を広げている。19年にWEBサイト『マネー現代』で『3時のとらちゃん』を連載。今年の6月からは、『月刊コミックガーデン』で『きつねとたぬきといいなずけ』の商業版連載を始めた。遅咲きの才が、まさに開花の時を迎えつつある。

TEXT / JUNYA AIDA ティアズマガジン134に収録

もぐこんもぐこん

まんだらけで待ち合わせ
A5/P52/500円
職業…よくわかりません
趣味…模型づくり
コミティア歴…コミティア80から
https://twitter.com/mogra16
現代を描きつつもどこか懐かしい、無骨だが暖かな優しさや、得体の知れない迫力を感じる画が、もぐこん作品の特徴だ。アナログの紙原稿に拘り、誌面には人の息遣いが沸き立つ。「生まれた時代を間違えた気がしてます。好きになるのはだいたい古いもので、小津安二郎の映画、マンガなら楳図かずおとか、手描きの凄さを感じる作品です」
生まれも育ちもずっと愛知。子供の頃からマンガやゲームが好きで、マンガの絵の模写をよくしていたそうだ。高校の進路相談でゲーム会社で絵の仕事がしたいと話したところ、美術予備校へ行くことに。さらに塾の講師からは「デザインではなく油絵向き」と勧められ、美大の油絵科を受験して合格。その道を「人に流されるままだった」と振り返る。
自らの意思でマンガを選んだのは大学3年の時。初の個展を終えた後「油絵になんとなく満足してしまって、違う事もやってみたい」と別の表現を探った。小説を書いてみたが上手くいかず、次に挑戦したのがマンガ。なぜか完成してしまい、次の作品、また次の作品と夢中になった。コミティアへのサークル初参加は大学院1年目、07年のコミティア80。初参加で30冊完売と結果も上々で、参加を続けていった。
油絵も止めた訳ではなく、別名義で画家としても活動を続けている。「油絵とマンガはどちらもやりたいことで、表現として考えていることも同じ」だそうだ。マンガ家としては15年に読切で『Dモーニング』にデビュー。その後、17年にイオンモールの建築物としての魅力を描く「イオンにみせられて」が『モーニング』に掲載。テーマの特殊さが注目を集めた。
19年「まんだらけで待ちあわせ」がリイド社「第1回トーチ漫画賞」に入賞。「自分の評価と、出版社の評価がようやく一致した」会心の出来だ。さらに同年、新潮社『くらげバンチ』に掲載された「裸のマオ」は貧困と百合という題材がSNSで大きな話題になり、同誌最速で10万PVを達成。想像以上の反響に戸惑いつつも、大きな自信となった。今年5月掲載の次作「きしむ家」も同様に好評で、連載デビューの予感もあるが…。「その期待は感じていて、今ちょっと気負ってます」
作品内での一番の拘りは背景。「物語ではなくて背景を描きたい。人の気配が背景で描けるんです。例えば空いてるペットボトルがあるだけで飲んだ人が想像できる。映画のセットを一から作る意識で、キャラクターが家に住んでいる感じを描きたいです」
自身の技術に劣等感を抱きつつ、それ自体を武器に出来ないかを考えるのも楽しみの一つ。「最近、不本意なことに自分の絵が上手くなってきていて。上手くなり過ぎないようにしたいです。今くらいが一番良い。震えている線も、プライドを持って描いていて、慣れた作業にはしたくない」
何もかもがセオリーへの逆張り。それでも成立して面白い。それこそ氏が貫く手仕事の本質、絶妙な魅力の根源なのだ。

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン134に収録

ユリriri

little sweet
A5/28P/300円
職業…自営業
趣味…音楽鑑賞
コミティア歴…5年目
https://twitter.com/tanimano_yuri/
ユリさんの描くヒロインのやわらかさ、温かさにやられる。ベッドからランジェリー姿で起き上がる彼女の、あどけない笑顔。心拍数が上がり、天使を見た、とまで思う。そんな福音を感じさせるヒロインだ。
サークル「riri」に注目するようになったのはコールガールが主人公の作品『tiny』からだ。社交デビューしたての青年が道端でコールガールのマリリンを拾うお話。彼はマリリンの破天荒で無防備な行動に呆れ、突き放そうとするが、逆に自らの素の感情が露になってしまう。かき回されて、嫌じゃない。そんな甘酸っぱい関係を描く。
ユリさんは、小学生の頃から落書きの発展形で漫画を描き始め、13年に二次創作で初めて同人誌を作る。2年後にオリジナルにチャレンジしようとコミティアに初参加したところ、本は見事に完売。さらに見本誌を見て本を買いに来た人が感想を伝えてくれるなど、嬉しいことが重なり、以降、定期的に参加するようになる。
さらに編集者の声がかかり商業デビュー。コミックス化もした連載作『リネンの春』(講談社/コミックDAYS)は、天使の輪を拾った青年・ゆいちとそれを取り返したい天使・うたの物語。天使があまりにかわい過ぎて、ゆいちは意地悪をしてなかなか輪を返さない。純粋無垢なうたはそのためにいろいろ奉仕せねばならない羽目になる。さらにうたの親友・サキュバスのみかまで絡んで…という甘美な三角関係を描く。
同人誌でも商業誌でも、描くスタンスはそれほど違わない。いつも少女漫画を描いていると思っている。「男性向けに見えるなら、そう見えるように担当さんがうまく誘導してくれてますね」。あらためてヒロインの魅力の源を訊ねると「あえて言うなら、愛情を注いで描いていることでしょうか。描きながらこの子たちはなんて可愛いのだろう、と思ってます」
それにしても同人作品に多く登場するコールガールのモチーフは何処からだろう。「きっかけは、毎晩のように友人と2人で、コールガールの女の子の物語を取り留めなく話していたことです。そこから漏れ出た設定や話を紡いで構想が膨らみました」。納得の反面、性にまつわる職業を描く難しさも気になる。「セックスは基本的に愛を育む行為であってほしい。性の仕事に携わる女の子たちは傷つく場面も多いだろうから、作品では、快感や相手の体温や自分に触れる手から、幸せを感じてくれることが、私にとって多分大切なことなんだと思います」。セックスを肯定するヒロインの聖母的な気高さはこの作者の姿勢に裏打ちされているのだろう。そして彼女たちの幸せを読者の私たちも願いたいと思う。
今後も気ままにサークル参加したいというユリさん。時にはなめらかな素肌のままで、時には天使の羽の娘さんが笑顔で抱きしめてくれる、夢のようなもてなしをぜひ味わってほしい。

TEXT / RYOKO SUGAYA ティアズマガジン134に収録