サークルインタビュー FrontView

加藤旅人クロッカ!

星霜筆の旅人 ep.5
‐レイチェル・オールドウィンター‐
B5/32P/1000円
職業…イラストレーター・漫画家とか
趣味…ゲームの設定画を眺める
コミティア歴…コミティア78から
https://www.pixiv.net/users/37778
「見た瞬間に、『この世界行ってみたい、このキャラクター生きてる!』って思わせるようなものを描きたいんです」。その言葉通り加藤旅人さんの作品の中では、壮大で色彩豊かな街並みが広がり、表情豊かな住人が縦横無尽に駆け巡る。
異世界ファンタジーを思わせる作風の源流は、小学生の時好きだった「チョコボの不思議なダンジョン」まで遡る。「キャラクターデザイナーの板鼻利幸さんが描くデフォルメされた造形が可愛すぎて、模写ばかりしてました」。中学では引き続きスクウェアのゲームに傾倒しつつ、イラストレーターの帝国少年さんの作品に大きな影響を受ける。「昭和レトロ風に細かく描かれた風景に、『絵で世界そのものを創ることができるんだ』ってハッと気付いたんです」。その後は細緻な絵やキャラクターを描くことに夢中になった。
作品を初めて世に出したのは、地元の美大在学時の06年。友人と合同で参加したコミティアだった。「芦奈野ひとしさんの『ヨコハマ買い出し紀行』が好きで、夕焼けの美しさなどの描写に憧れていたんです。それもあってせっかくサークル参加するなら、漫画で自分の世界観を伝えてみようと思いました」と、未到の空へ旅立つ飛行機を作る少年少女を描いた『ぼくらの世界録』を発表。後に「クロッカ」という加藤さんオリジナルの世界へと発展する原点の作品で、30部が完売した。「実際に手に取ってもらったり感想を頂いたりして、自分が好きなものにちゃんと反応を返してくれる場があることに感動しました」
09年より『クロッカ!』としてサークル参加。だがこの時はまだ「ふんわりとした世界のイメージ」しかなかったと振り返る。それを本格的に掘り下げたのが15年より刊行中の、空想の力を操る少女の冒険と出会いを描く「星霜筆の旅人」シリーズだ。「RPGのように、街中を探索する場面と、話が進む場面の切り替えを意識しています」とフルカラーの漫画・イラストとテキストを柔軟に織り交ぜて描いた作品で、現在エピソード5まで発表されている。独自の職種・不思議な習慣を持つ人々から、『空想使い』が生み出す世界の法則に至るまでまるごと作りこまれた想像力に圧倒されるが、その発想は『日常にあるワクワク感』から生まれるという。「町で喫煙関連のポスターを見たとき、『煙』の漢字を『炎』にしたら語感が面白いな、とふと思ったんです。それが『声の代わりに炎で会話する民族』に発展しました。普段誰も気に留めないものを自分の解釈で噛み砕いて、思いも寄らない魅力的な形に落とし込む。それが自分の考えるファンタジーです」
最近ではVTuber企画・ASKにデザイン担当として参加。他分野とのコラボにも意欲的な加藤さんだが、自身の同人活動については「描き続けます。まず自分が読者として読んでいきたいんです」と抱負を語る。十余年が経ち、ライフワークと言える存在となった「クロッカ」。加藤さんの想像は止まらない。この世界はどこまでも広がりそうだ。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン137に収録

武田登竜門人よ

その時がきたら
A5/88P/1000円
職業…主婦
趣味…お菓子作り、読書
コミティア歴…コミティア127から
https://twitter.com/ToryumonT
不意の出来事から全てを失った男・モーガン。失意の彼に「泥棒」を持ち掛けた女・リサ。2人が奪った鞄の中には…?
奇妙な男女の逃亡と戦いを描いた『BADDUCKS』は、全6巻、合計1000ページ近い大作でありながら、一度ページを捲ればその手を止められない。SF、アクション、サスペンス、ミステリー、人間ドラマ…あらゆる要素を詰め込んだ本作は、作者の武田さんにとって、オリジナル第1作目というから驚きだ。
「転機は結婚かもしれない」と語る武田さん。主婦になって時間が出来て、本格的にマンガを描き出した。「昔から児童文学などを読むのは好きでしたが、自分でマンガを描くのは無理と思っていました。大人になってゲームのファンアートや二次創作を描いたら、周りから褒められて、調子に乗りました」
落書きの中で生まれたキャラクターたちを主人公に、18年11月からWEB上で『BADDUCKS』の執筆・公開を開始。手探りながら、頭の中にある物語を形にする一次創作は、「初めて遊ぶおもちゃ」のように楽しく、寝食を忘れて執筆にのめり込んだ。おかげで無理がたたって入院。それでも病室に原稿用紙を届けてもらい、描き続けたというのだから恐れ入る。「とにかく描くのが楽しくて…。今まで生きてきた中で、溜まっていたものを出し切ることに没頭しました」と語る創作の日々は、足掛け2年に及び、20年9月に大団円を迎える。
初めての一次創作、初めての長編執筆に無我夢中で向き合った経験は、「脳がフル回転して、一歩一歩が綱渡りをするような、自分との戦いだった」と振り返る。巻を重ねるごとに目標を定め、絵も演出も目に見えて上達したが、それでも完結後は、「あくまで1作目を描き終えただけ」という思いで、すぐに次作の執筆へと取り掛かった。
現代日本を舞台にした『10分後に警察は来た』や、おとぎ話のような世界観で描かれる『その時がきたら』といった短編・中編を発表。息つく間もなく繰り広げられる展開にビターな心情が沁みる物語だ。
これまでの作品のジャンルや舞台は多彩だが、本格的に描きたいのはファンタジーだと語る。「ファンタジーの長所は、読者の年齢や環境を問わず、同じ入り口で読めることだと思います。その上で自分のマンガも、道徳を説く教科書ではなく、あくまで娯楽として楽しんで、読み終えたらスッキリしてもらいたい。自分はその読後感を売っている、という気持ちで描いています」
そんな精力的な活動と、魅力的な作品を出版社も当然放っておかない。『BADDUCKS』は双葉社から近日WEBでの配信・商業単行本化が決定。他にも様々なオファーが舞い込んでいるが、今はとにかく自分が描きたいマンガを伸び伸びと描きたいと語る。
マンガへの情熱に加え、作品を重ねるごとに着実に技量を高める武田さん。新たな物語を手に取る日が今から待ちきれない。

TEXT / KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン137に収録

みなはむンキッャヒ

白いシャツ
A5/76P/1500円
職業…絵描き
趣味…雑貨集め、メダカの睡蓮鉢を眺める
コミティア歴…10年
http://minami-no-shima.tumblr.com/
日常にある少年少女のふとした私的な瞬間。その瑞々しさを、草いきれや海鳴りの中にいるような臨場感と共に切り取るみなはむさんの絵は、胸の奥にしまい込んでしまった感情を、やさしく呼び起こしてくれる。
幼い頃から絵が一番好きだった。「種村有菜さんの作品や『魔法陣グルグル』『カードキャプターさくら』を一生懸命真似してました」。小学校高学年あたりからお絵かき掲示板など、インターネット上で絵の交流を楽しむようになった。中学生の時に始まったpixivには衝撃を受けたという。「二次創作の即売会にはもう遊びに行ってたんですけど、隠れてやるものだと思い込んでたので、色んなジャンルのファンアートが堂々と発表されている、開けた感じが新鮮でした」。自らも投稿しつつ、上手い人の絵を夢中で見ていたそうだ。高校2年の時、友達に誘われ初めてイラストの合同誌を作り、コミティアにサークル参加を始めた。
高校ではデザインを学んだが、本格的に絵に取り組みたいと、美大の日本画学科に進学する。「課題がとにかく辛かった。自分の絵と向き合う期間になりました」。日本画らしさに倣うべきか、イラストのような自分らしさを追求し融合させるべきか葛藤した。「コミティアが逃避先でしたね。授業の合間に描きためたイラストを、アルバムみたいにまとめては本にしてました。本当にやりたい表現を出せる場があることが、心の支えでした」。本人曰く「開き直って弾けた」大学3年頃には、漫画的な人物を入れたり、日本画の技法や画材に縛られない作品を制作出来るようになった。
みなはむさんは日々、絵が閃いた時にスケッチや考えていたことを描き留め、気になった景色をスマホに撮り溜めている。「思いついた絵を何が何でも忘れないように、より良い形にすることが使命だと感じます。失くしてしまいそうな一瞬の心の動き、うまく言葉にできないような気持ちの大切さを、絵にして人に伝えたい」と語る。絵には綺麗だったものを記録したり、自分自身と対話する日記のような役割もあるという。「描かないでいると、たまに自分が消えているような気がするんです。描いている間は不思議と、自分の内面についての発見がたくさんありますね」
大学卒業後は、絵を描いて暮らしている。コミティアへの参加は今年で10年目、発行した同人誌は30冊を超えた。書籍の装画・挿絵、画材のPR、グループ展への参加など幅広く活躍中だ。「絵を描くことが将来に結びつけばいいなと思ってたので嬉しいです」。学生時代から行っていた個展は、東京・大阪だけでなく昨年は台北でも開催された。
やりたかったことは一つずつ叶えられて来た一方、目の前の仕事に追われ、なかなか「これからの夢」を考える余裕が無いと苦笑する。しかし、現在の心境は力強い。「理想の完成図に囚われすぎると、何も出来なくなってしまう。自分から遠いものは描けないんです。現実を受け入れて、とにかく筆を動かして、『今の自分の絵』を生み出せばいいんだと思います」

TEXT / AI AKITA ティアズマガジン137に収録