サークルインタビュー FrontView

古林けやき ふるいほう

ツノ贈りの鹿、大陸を知る5
A5/118P/800円
職業…フリーター
趣味…音楽鑑賞
コミティア歴…コミティア118から
https://www.pixiv.net/users/1072186
レトロフューチャーなロボットが行き交う未来都市。願いを叶えるツノ贈りの鹿の伝説が語られるファンタジー世界。シンプルで可愛らしいキャラクターのデザインも相まって、古林さんの作品には一見、牧歌的な雰囲気が漂う。だが読み進めるとそこに描かれているのは人間の欲望や欺瞞、孤独、そして死…徹底してシリアスなテーマだ。
小さい頃から絵を描くのが好きだった古林さんが、初めてコミティアに参加したのは16年。大学卒業を機に漫画サークルで発表していた短編をまとめた同人誌を発行した。卒業後も作品を発表できる場として、年4回開催のコミティアは恰好の場所だったそうだ。
そこからの活動は非常に活発だ。就職して、たまに二次創作も描きつつ、ほぼコミティア開催毎に100ページ近い新作を発表している。そのほとんどが読切で、内容はSFから現代もの、ファンタジーまで多岐に渡る。
これほどの筆の速さとジャンルの幅広さを支えるのは、10代の頃からの膨大なアイデアリスト。「ネタを毎日頭の中の引き出しにストックして、本を描くたびにそこから組み合わせてテーマを決めます」。そのアイデアをプロットにまとめる作業が何よりも楽しいという。例えば睡眠不足の時には、睡眠を他人に肩代わりさせる装置が開発された未来を描くSF『代眠機』が生まれ、「漫画の価値とは何だろう」という疑問から、世間の評価とのずれに対する芸術家の苦悩に始まる群像劇『うつろなヒーロー』を執筆した。
これらの作中では社会に馴染めない人々の内面を掘り下げるが、「普段自分が疑問や不満に思うことをキャラクターに落とし込んで、それと相対するキャラクターとの対立構造から発想することが多いです」とのこと。そのためか、古林さんの漫画はありきたりな勧善懲悪や露悪に偏ることなく、人間の在り方について鋭く疑問を投げかける。
精力的に活動を続ける古林さんだがコロナ禍によるコミティア開催中止や環境の変化を受け、筆が止まった時期もあった。それでも描き続ける原動力は、やはり「キャラは私が描くことによって生きていくので、もっと描いて動かしたい」という思いだ。
現在挑んでいる初長編『ツノ贈りの鹿、大陸を知る』は、独自の文明を持つ3つの大陸を舞台に人の願いを叶える力を持つ「ツノ贈りの鹿」の目線から人間の欲望や業を描くシリーズ。好きなアーティストの曲からイメージが湧いたという本作だが、当初のプロットに沿って描いていた登場人物が作者の想定を超えて動き始め、それに刺激を受けてさらに創作意欲に火が付いた。話を練り直した結果、完結予定だった第5巻で物語は新たな展開を見せ、尚も続刊中だ。
「漫画は自己表現の手段なので、自分の表現したいことがある限りは描き続けたい」とこれからの活動への意気込みを語る古林さん。湧き上がるネタと魅力的なキャラクターを武器に、自らの道を切り拓いていくだろう。

TEXT / RYO SHIOTA ティアズマガジン138に収録

キャシー chichans

死の島5
昼のため息、夜の嘘
B5/64P/800円
職業…画業
趣味…一般教養としての富野由悠季
コミティア歴…コミティア120から
http://chichann.jugem.jp/
「天使の島」と呼ばれる裕福な紳士のための少年娼館に、棺を乗せた小舟が着くシーンから物語の幕は開く─。『死の島』は現在まで5冊刊行されている長篇BLシリーズだ。瑞々しい美少年達の恋と成長、そして淫靡な夜の姿態が時に甘やかに、時に残酷に展開される。緻密に描かれた建物や調度品、衣装の隅々にまで行き渡るキャシーさんの美意識が、世界観に奥行と説得力を与えている。
家の教育方針で7才までテレビが無く、代わりに大量の絵本や画集や図鑑に囲まれて育った。卒園時の将来の夢は「絵描き屋さん」。小さい頃から「女の子にキャーキャー言われたくて」何重ものフリルのドレスや、小学校ではエッチな漫画を黒板に描いたことも。美術デザイン科のある高校に入学し、自作イラストを月イチペースで折本にしては、10人位の同級生に配っていた。この頃から友人に誘われ地元の即売会に参加し始めたが「ストーリーを上手くまとめられなくて、起承転結がない漫画ばかり描いてました」と振り返る。
20代に入ってからは二次創作をしつつ、漫画家のアシスタントをしていたが、デビューしたいという意識は無かった。「描きたいものが無かったんですよね。でも、いざ商業で言われるがまま描いてみたら、自分でも読みたくない漫画が出来てしまって…」一時は何も描けなくなってしまったという。しかし、アシスタントを続け、プロの漫画家達の作品に対する覚悟や姿勢を見ている内に「一生に一回くらい『これが私の好きなBLだ』と言えるものを描いておきたい」という、今までに無かった想いが芽生えた。
そうして『死の島』に辿り着くまで時間はかかったが、プロットを描き始めると止まらなかった。二次創作でも描いていた「娼館」という題材は、20歳頃に衝撃を受けたガルシア=マルケスの『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』の影響がある。12歳の娼婦を描く過酷だが幻想的な中篇小説だ。また、江戸吉原から取り入れた設定も多いという。「こんな倫理観の無い事はあっちゃいけないと思うんですけど、恐怖と魅力に同時に襲われるんです」
17年1月、約一年半かけて描いた1冊目が完成する。「高校生の時の私が読みたかったBLでした。あの頃、仕上げられなかった大量のネームにも、同じようなものを描いていたのを思い出したりしました」。当初は電子配信のみを考えていたが、読んだ友人からの「絶対、紙の本にしてコミティアに出た方がいい」というアドバイスを受け、同年5月のコミティア120からサークル参加を続けている。
シリーズ本編は次巻で完結予定。「80ページ超になりそうで、そんなに描いた事が無いから怖いです」と笑う。「描き終わったらもう漫画を描かない覚悟で始めた」そうだが、この世界観で描きたい物語はまだ尽きないというから、読者にとっては嬉しい誤算だ。「漫画って、作者が終わらせるしかないんですよね。自分の代わりに描いてくれる奇特な人なんて、この世に誰もいないんですから」

TEXT / AI AKITA ティアズマガジン138に収録

ピエール手塚 七妖会

暴力太郎 -増補版-
A5/36P/400円
職業…会社員
趣味…漫画を読むこと
コミティア歴…コミティア117から
https://mgkkk.hatenablog.com/
作風を一言で言うなら「破天荒」。無法で無鉄砲な展開の末に、刺すように本音を迫られる。そんな通り魔のような作品に、思わずこちらも手に汗を握る。描かれるのはヤクザや半グレ、暴力や犯罪をテーマにしたケレン味溢れる物語。修羅場と愁嘆場で、彼らは譲れない押し問答をぶつけ、白黒をつける。
ピエール手塚さんが漫画を初めて完成させたのは実に34歳の時。大学では漫研に所属したが作品は描き切れないままだった。社会人になり10数年がたち、知人の文章系の同人誌に誘われたのをきっかけに再挑戦を決意する。まずコミティアにサークル参加の申込をして退路を断った。ところがネームが進まず、無為に日が過ぎるばかり。業を煮やしてぶっつけ本番で作画を始め、気合いで〆切に間に合わせた。
それ以来、ネームを作らずに原稿に向かうスタイルが定着する。手順はこうだ。最初に方向性がブレない様にタイトルかテーマのどちらかを決めておく。そして1エピソード2~4ページを描いては読み返し、これから起きることを想像しながら、次のシーンに描きつないで話を広げてゆく。結末に至るまでがこの繰り返し。そろそろページが増え過ぎたことに気づき、残り10ページくらいで終わらせるように〆にかかる。
そのため、描き終えて「こんな話だったのか」と驚くこともあるらしい。本人は「いきあたりばったり」と言うが、主人公たちの葛藤をギリギリまで脳内で闘わせ、ダイレクトに読者に伝える作風が生まれた由来でもあるだろう。
ピエールさんの作品は、人の生き様を問いかけるような問答シーンが印象的だ。これは作品テーマを「問い」に設定することが多いからと言う。
例えば架空の反社組織「七妖会」シリーズのテーマは「人間は自分の人生を自由に選択できるのか?」というもの。理由もなく人を殺せるヤクザ達だからこそ、銃口を突きつけながらも生きることの本質を問う彼らの言葉は重い。
ピエールさん自身も生きる上で「やらなければならないこと」と「やりたいこと」のバランスはまだ答えを出せておらず、描く度にシチュエーションを変えながら、考え続けている。「明確な答えがない問いも、描きながら自分なりの答えを見つけられたらと思っています」
30代で本格的に描き始めて、まだ5年。自称「初心者」ながら、描く度にスキルアップを出来たのが嬉しいという。「これまでの再生産になると意味がないけれど、まだ描いたことのない物がたくさんあるので、しばらくは大丈夫そうです」という言葉も頼もしい。 コミティアで毎回新刊を出しつつ、商業誌の仕事も本格的に始まった。遅咲きの実力者の前途は広がるばかりだ。

TEXT / RYOKO SUGAYA ティアズマガジン138に収録

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