昨年来の長期化したコロナ禍は、エンターテイメントの世界に正負の両面で大きな影響を及ぼしました。巣ごもり需要に対応できた電子配信(書籍やゲームなど)の分野は業績を大きく伸ばす一方、観客を集めるタイプのライブエンターテイメントは感染症予防による開催中止や入場者数制限により甚大な被害を受けています。
それ自体は致し方ないとは言え、ダメージを受けた業界体制の維持と回復は大きな問題です。多くのライブ関係者の言う「一度失った技術を元に戻すには膨大な労力と時間がかかる」との言葉はまさに真実です。職人技に頼る部分が大きいこのジャンルでは、ノウハウの継承は元より大きなテーマですし、それを一から組み立て直すのは大きな困難を伴なうでしょう。
最近、個人的に小劇場熱が再燃していてそんな危機感を強く持ちました。20代の頃から芝居を観るのは好きでしたが、昨年は公演中止が続き、今年やっと劇場に行けるようになりました。仕事柄、舞台上だけではなく、感染症対策や客席への導線などつい余計なことも気になってしまいます。そうして劇場のイスに座っていると、いま観客として共有するこの空間を作り上げる、劇団の不断の努力に深い感動を覚えます。元より潤沢ではない予算の中で、感染症予防に手間と経費をかけ、関係者に一人でも感染者が出たら公演を中止せねばならない過酷な条件下で、身を削るように芝居を続ける彼らにただ感謝の念しかありません。
それでも決然と舞台に立つ役者と彼らを支えるスタッフたち。客席から無声で熱く応援する観客。この強い求心力はどこから生まれるのか。我が身を振り返るならば、「その芝居と出会って人生が変わった」という経験があるかないかだと思いました。
幾つもの鮮烈なシーンが脳裏に焼き付き、過去に観た芝居の何本かは、確かに自分の人生の方向を変えました。それを観たからこそ私はいま此処にいる、と思える経験があります。凡そ何かの表現に夢中になる、というのはその経験の有無によるのでしょう。
昨年実施したクラウドファンディング『「続けコミティア」開催継続支援プロジェクト』で支援者の皆さんからいただいたメッセージにも、「コミティアと出会って人生が変わりました」という言葉がたくさんありました。「だからこそ無くさないでほしい」という強い気持ちが形になったのだと思います。
自分達の表現を「不要不急」とは思わず、けして無くすまいと奮闘する人たちがいて、やっと守れる場所があるのだと、深く納得します。彼らの劇場も、私たちの会場も、いや全ての表現の場がこの苦境を乗り越えられるか、最後はそこにかける人たちの気持ちの強さによるのでしょう。そしていま、それが試されているのだと思います。私たちはただ、「負けない」と誓うのみです。
さて、コミティアも再三お伝えしているように、それぞれの事情でまだ現場復帰できないスタッフも多く、運営面でも苦しんでいます(切実にスタッフ募集中!)。今回も協力イベント団体のJガーデンや地方コミティアのスタッフ、そしてこのカタログの印刷をお願いしている緑陽社の社員の皆さんが応援に来てくれて何とか開催できています。ご厚意に心から御礼を申し上げます。
そんなコミティアの窮状に、架空の創作キャラ達が応援に駆けつける設定で今回のカタログ表紙を描いてくれたのは、サークル「13月2日」の中村朝さん。創作キャラと現実のコミティアスタッフが力を合わせて開催準備をする様を活写してくれました。実は背景の会場写真もスタッフが記録用に撮影したもので、うれしい合作です。「表紙の主役はイベントそのものです」と書いてくれた中村さんのコメント(カタログ奥付「表紙イラストの言葉」より)に思わず目頭が熱くなりました。オリンピック・パラリンピック対応のために仮設で作られたこの東京ビッグサイト青海展示棟も利用期間が終わり、同人誌即売会としての利用は今回のコミティアが最後。「サヨナラ青海」に良い記念となりました。
さて、ここで一つお知らせすることがあります。新型コロナ感染症対応の長期化等に伴う運営経費の増大や、外注のオンライン申込システム(circle.ms)利用料の値上げに対応して、次回来年2月のコミティア139より、サークル参加費とカタログの当日会場価格をそれぞれ500円値上げすることにしました(カタログの書店前売価格は今のまま据え置きますので、なるべく事前に購入の上、来場をお願いします)。
参加者の方にこうした負担をおかけするのは心苦しいです。コロナ禍で厳しい経済状況になっている方も少なからずおられると思います。悩んだのですが、開催にかかるコストは増える一方で、サークル出展数やカタログの売上は以前の半分以下となっており、回復の兆しがなかなか見えません。努力や工夫では埋めようのない、毎回大きな赤字が出ている厳しい現実があります。どうかご理解とご協力をいただければ幸いです。それでも運営を続けられていること、最小限の値上げに留められたことは、クラウドファンディングのおかげとしか言いようがありません。コミティアをより良い場にしていくことで、参加者の皆さんに還元してゆきたいと思っています。
最後になりましたが、本日は1907のサークル・個人の方が参加しています。何をどう言葉を尽くしても、そこで「人生を変える作品」と出会えるかで、コミティアの価値は決まるのだと思います。今日という日にそんな作品との出会いがあることを心から願っています。
2021年11月21日 コミティア実行委員会代表 中村公彦