インタビューシリーズ Neo Comic Scene 第2回
「新しい『同人』の形を探る」というテーマで始まった本連載。第1回のオンライン即売会「NEOKET」に続いて登場するのは、コミティア140会場内企画「季刊エス&スモールエス『SS学園祭』」として出展する季刊誌『スモールエス』編集部だ。同誌では現在、2020年よりスタートした読者参加型シェアードワールド企画「SS学園」が好評を博している。今回は同誌の編集部への取材を通じ、その盛り上がりに迫った。あわせて、コミティア140の会場内企画「SS学園祭」開催の経緯についても触れていく。
古き良き「イラスト投稿雑誌」というスタイルを取りつつも、常に新しい挑戦をし続けることで、若きクリエイター達を中心に支持を集め続ける特異な世界に注目したい。
(取材:吉田雄平)
「描くことに特化した」投稿雑誌として
——『季刊エス』(以下『エス』)が2003年に創刊。その「妹」雑誌にあたる『SS スモールエス』(以下『SS』)は2005年に創刊。『エス』でも人気の読者のイラスト投稿コーナーをフューチャーした雑誌という風に認識してます。まずは『SS』が誕生した経緯から聞かせていただけますか。
『エス』に投稿された読者イラストがきっかけです。創作意欲にあふれた新しい描き手がこんなにたくさんいることを知り、絵の魅力や楽しさををぎゅっと詰め込んだような雑誌を作りたいと思い、考えたのが『SS』の形でした。また、プロの作家さんたちも、投稿者たちの作品を素晴らしい、この人たちをもっと出すべきだ、と話しておられました。それまでにあったイラスト投稿雑誌は『ファンロード』や『FindOut』を始めとした、版権もののイラストや同人誌の情報がメインでしたので、メイキングも柱にした「描くことに特化した」投稿雑誌は作られていませんでした。だから商業誌として成立するかがわからず、執筆、デザイン、撮影もすべて編集部でおこない、自分たちの手作りで予算をかけずにスタートしました。投稿イラストだけで作る雑誌なので、創刊号にイラストが届くか不安はありましたが、『エス』に送ってくれる方から届いたり、2号目からは初めての方や海外からもたくさんのイラストが来て嬉しかったことを覚えています。ちなみに私たちの側から「オリジナル創作に限る」と、指定したことはありません。どんな絵を送るのかは読者たちが自分たちで様子を見ながら決めていったんです。
——そこから版元が変わったりもしてますけど、他の投稿系雑誌が、軒並み休刊していく中でずっと続けられてきているのは凄いなと思います。どんな体制で編集されてるんでしょうか?
スタッフは現在6人で、みんなが『エス』と『SS』の編集を兼任しています。その他にアルバイトやインターンで不定期に手伝ってくれるスタッフが5名くらい。担当する記事はそれぞれ違いますが、投稿イラストはみんなで見るので、その楽しさは創刊の頃から変わりません。メールや郵便を開封する瞬間が毎号とても楽しみなんです。
刊行を長く続けているなかで、最近驚いたのは近年、投稿者の平均年齢がどんどん若くなっていることです。絵を描くだけでなく、雑誌へ投稿をしようと思い始める時期が早くなっていると思います。送ってくるイラストも、自分の世界観や好きなものを表現していて魅力的なんです。そういった作品は年齢、ジャンルを問わず大きく載せたいので、小、中学生でも作品が大きく掲載されることもあるんですよ。SNSにいるとイラストがどんどん流れてくるので、昔よりも若いうちから良い刺激を受けているのだなと感じます。
それと、これだけデジタルの機材や画材が増えるなか、今でも『エス』や『SS』には郵送でアナログイラストの投稿がとても多く届きます。カラーイラストはデータ投稿も多くなってきましたが、モノクロイラストは今もほとんどが手描きですね。さきほどお話しした小、中学生からはアナログイラストが多く届きます。8歳とか9歳くらいの子たちも投稿してくれますよ。
——8歳! それはすごいですね。ペンネーム欄に年齢を出している方もいて「こんなに若いのに、こんな上手いの!?」って驚いたりします。
年齢は掲載・非掲載を読者側が選択する仕組みなのでわからない方も多いですが、年齢を掲載することで読者から「この子、同い年なのにすごい上手です」といった感想や反響がありますね。最近では13歳の時に初めて投稿した方がいて、すごく魅力的な作品を生み出していたので、イラストの描き下ろしをお願いしました。打ち合わせの時に学校生活の話になったのですが、「田舎で周りにイラストを描く人自体がいなかったけど、『SS』を見たら上手い人がたくさんいて、中には自分より若い人がいることに衝撃を受けました」と言っていて、とても印象に残っています。もちろん若い方だけでなく70歳代の投稿者さんもいて、すごく年齢の幅が広いです。
——ネットだと上手い人はすぐ見つかりますけど、年齢や画力の近い人を見つけるのは難しいですよね。
ネットは無限に情報が流れているので、探すのは大変ですよね。Twitterのタイムラインだと、自分の好みの情報以外が流れてきにくいですけど、雑誌に載っているイラストは幅広いものなので、普段は見ないタッチの作品や作家さんと出会えたり、新しい発見もあるんじゃないかと思います。アンケートはがきなどでは、載っているサイズに関係なく熱い感想が届きます。
——『エス』も『SS』もイラストの仕事自体が少ない時代からスタートしていて、凄い数の作家さんに影響を与え続けている、日本のイラスト界を影から牽引している存在だと思ってます。
だいぶ大きく言っていただいて恐縮です(笑)。でも、そう思っていただけるのはありがたいです。一緒にお仕事をする作家さんから、影響を受けた雑誌に『エス』だけでなく『SS』の名前も出してもらえることが増えてきているのは感慨深いですよね。確かに創刊当時はイラストの仕事が世の中にあまりなくて、投稿者さんは漫画家になる人が多かったです。投稿者さんたちが活躍していく姿を見守ってきましたが、私たちが大切にしているのは、「活動をした結果、有名になった人」に声をかけるのではなく、「活動をはじめたい人のスタートラインを応援すること」です。ネット上で人気を得る絵描きさんがたくさん登場して、メーカーがその人たちに依頼することで絵の仕事が増えたわけですが、私たちはそういった「結果」に注目するだけでなく、絵を描く「はじまり」に立ち会いたいと思っています。
誌面を飛び出した交流企画
——「SS学園」のような読者参加型企画というのは以前からあったのでしょうか。
『エス』では何度かおこなっていました。例えば「おひめさま」特集をした3号では、30人の投稿者さんに声をかけて古今東西のお姫様を描き下ろしてもらいました。その時はイラストの掲載のみでしたが、一緒に誌面を作る企画をやりたくて、「えす女学院」や「エス男子校」という創作したキャラクターをもとにした連載企画を実施したことがあります。設定を細かく考えたり、キャラクター達の繋がりも考えて、それをもとにストーリー漫画やイラストなどを描き下ろしてもらいました。
——そこからブランクが空いて2020年に「SS学園」が始まる訳ですけど、「えす女学院」のような企画をやってみようという発想だったのでしょうか?
交流企画が求められていると感じたのは『SS』で「うちのこ倶楽部」という投稿コーナーをはじめたことが大きかったです。2019年3月号からスタートした、「うちの子」とか「マイキャラ」みたいに呼ばれる、自分のオリジナルキャラクターを描いて投稿できる新設したコーナーなのですが、思っていた以上に読者の反響をいただきました。「うちのこ倶楽部」では他の人の「うちの子」(よその子)を描いて交流してもOKにしているのですが、同じ舞台でキャラクターを作れたら、より参加しやすくなって、さらに盛り上がるんじゃないかと思いました。そこから「SS学園」という舞台や世界観を作ってみようと考えたんです。
——今の読者が求めているものを突き詰めていった結果、生まれたものなんですね。反響も大きかったということなんですけど、どういう形で手応えを感じたんでしょうか?
『SS』には投稿コーナーがたくさんありますが、「SS学園」への投稿は目立って多く寄せられました。あとは企画に対するレスポンスの早さと熱量の高さに驚きました。「SS学園」の企画をはじめるにあたり、編集部から18名(現在は21名)の投稿者さんに声をかけて「選抜メンバー」という学生を創作していただきました。その学生たちを基軸にスタートしたのですが、雑誌が発売されてすぐにファンアートがTwitterで描かれ始めたんです。さらに「選抜メンバー」を担当した作家さん達もイラストや設定などをTwitterで発信してくださって、誌面を飛び出した盛り上がりを感じました。選抜メンバーを描く作家さんたちは、投稿者でもあり『SS』でイラストの仕事をよくしてくださっている方なので、「憧れの作家さんと企画を通して交流ができるかもしれない」という意気込みも投稿イラストから伝わってきます。選抜メンバーと友達になれるような共通点を考えたり、同じ学年の学生にしてみたり…。制服のアレンジなども面白くて、みなさんの創作意欲の強さを感じます。
選抜メンバーを担当する作家さんたちも、すごく愛着を持って関わってくださっています。ファンアートのハッシュタグや使用ルールを整理してくださったり、SNSで企画を知った人には雑誌や投稿を薦めてくれて。「SS学園」はSNSと一緒に盛り上がっている企画なので、掲載されたことを「入学できました!」と報告したり、未掲載の場合は「体験入学」と表現するなど、コミュニティーのなかで新しく生まれるものがあって、編集部も刺激を受けています。
実は「SS学園祭」も、コミティアさんから提案がある前に、作家さん側から「オンリーイベントをやって欲しいです!」という声をいただいていたんですよね。
——『エス』『SS』さんとは過去にも会場内企画をやっていただいているので、「最近やれてないけどまた何かやりたいね」って話は内部でしていたんですよ。そこで「SS学園」が盛り上がっているのを見てお声がけしてみたんです。
2016年と2017年に「イラストフェス」というイベントを2回主催したんですけど、その準備が本当に大変で、雑誌を作りながら続けていくのは厳しいと感じました。そこにコロナ禍の問題も加わって、リアルなイベントをやりたい気持ちはあるけれども私達だけでは難しい。どうしようかな…と悩んでいました。本当に良いタイミングでお声がけいただいて、こういう機会を作れたことが嬉しいです。
時期的にオフ会を開くことも難しかったので、選抜メンバーの作家さん全員で会う機会も作れてなかったんです。だから「SS学園祭」で、これまで描いたイラストや企画を見てもらえるのが楽しみです。物販やイベントの準備を進めていると、みんながやりたいと思うことを一つずつ叶えられている実感があります。作家さんもファンの人も、来て良かったと思えるものになるよう頑張ります! あとは『SS』を昔読んでた方、これまで知らなかった方にも立ち寄っていただけると嬉しいです。
——お聞きしながらコミティアと『SS』に共通する部分があるなと感じました。作品の販売だったり、投稿だったりがネット中心の中で、デジタルじゃないアナログなところにも替えのきかない楽しさがあるし、どちらも在ることで表現が豊かになっていくんだなと。「SS学園祭」当日の企画も楽しみにしています。ありがとうございました!
(ティアズマガジン140に収録)
SS学園公式Twitter
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