サークルインタビュー FrontView

るぅ1mm 町内福引犬

怪獣くん
B5/206P/1200円
※同人誌版
職業…マンガや絵を描いたりデザインをする人
趣味…マンガや絵を描いたりデザインをすること
コミティア歴…5年(6回)
http://fukubikiken.web.fc2.com/
「マンガは小さい頃から一番楽しくて得意な遊びです」と語る、るぅ1mmさん。今年大学を卒業したばかりだが、在学中にプロデビューを果たし、多忙な日々を過ごしている。そんな彼女のこれまでの半生はマンガ一筋だ。
幼い頃から暇さえあれば絵を描き、幼稚園の頃にはマンガの真似事をしていたそうだ。小学生ではクラスで「マンガ係」を自主的に作り、定期的に4コマを発表。中学時代には「カゲロウプロジェクト」の二次創作にハマり、同作品のオンリーイベントで同人デビューした。この頃にはすでに「将来はマンガ家になるんだろうなって、根拠のない確信」があったそうだ。当時から使っているPNの「1mm」には「1日1mmずつでも良いから成長したい」という願いを込めた。高校は漫画研究会がある学校を第一条件に選んだ。そこで美大進学を目指すことになり、1年浪人した後に武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科に入学を果たす。
コミティアを知ったのはその前後だ。「二次創作のイベントしか知らなかったので、これは出なきゃと思いました。0から創作する人たちが並んでいる会場を見て感動しました」。サークル初参加は18年5月のコミティア124。購入待ち列が出来る人気に驚かされた。「以前から見てくれていた人が多かったのかもしれません。お祭りがすごい好きなので、またコミティアに出たいと思いました」。20年7月、KADOKAWAよりコミックス『バースデイ』で商業デビュー。それまで同人誌で発表した作品含む短編集で、プロとして活躍していくきっかけにもなる。
代表作『怪獣くん』は、22年1月に卒業制作として発表したもの。中学校を舞台に、怪獣と人間のハーフの少女・このみと、過去の暴力事件をきっかけにクラスで孤立する少年・しんたろうの交流を描く。「初めて自分自身に向けた作品を作った」と言い、いじめについても考えさせられる意欲作だ。大きな話題を呼んだ同作は、9月には双葉社から商業版が発売された。
『怪獣くん』に限らず、描かれるキャラクター達は変だけれども純粋で、読んでいて〈「変」と思った自分が変なのでは…〉とハッとさせられる瞬間がある。そんなキャラクターや作品の根幹として「クオリア」というキーワードが挙げられた。脳科学や心理学用語で、例えば「赤」を見た時に、他者が全く同じ「赤」と感じているとは限らない…という概念のことだ。「作品内で感覚の壁をどこまで詰められるかに興味があります」。そこには大学でデザインを学ぶ中で感じた「私が作品で言いたいことの100%は読者に伝わらない」という気付きがある。だからこそ「自分の感覚や言いたいことが少しでも共有できたら嬉しい」と想いを込めて描く。
プロとしての人生は始まったばかり、創作意欲もやりたいことも膨大だ。「いま体があと20個ぐらい欲しい。半分は昼寝したり猫と遊んでたりすると思うんですけど(笑)」

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン142に収録

シュウ 京葉Rapid

バスドライバー3
B5/94P/1000円
職業…会社員
趣味…漫画を描くこと
コミティア歴…10年(コミティア100より)
https://twitter.com/se_syu
とある路線バス会社で働く運転士・美穂。「ドラミ」とあだ名で呼ばれ、持ち前の明るさで業務に励む彼女が、時に上司や知事にまで啖呵を切り、人知れずアクロバティックに通常運行の危機を救う『バスドライバー』。作者のシュウさんは、マニアックにバス運営のリアルを描くことにこだわりつつ、話の展開には大胆にフィクションを織り交ぜる絶妙なバランス感覚の持ち主だ。
子どもの頃から趣味を突き詰めるタイプだった。中学時代に絵を本格的に描き始めたが、きっかけは「90年代後半、20万円ほどの自作パソコンを持っている友人に『Photoshop』でのCG制作を教えてもらったことでした」と語る。「高校の時は自分でもパソコンを組んで、発売されたばかりの『ComicStudio』を使って絵を描いてました。友人と合同誌を作って、同人誌即売会に参加したのもこの頃です」。また、幼少期から今に至るまでハマっているのが鉄道模型だ。「一時期、自分の部屋を全部使ってジオラマを作っていたほどです。将来の夢も、鉄道や公共交通機関に関する職業に就くことでした」
高校卒業後も同人活動を細々と続けていたが、それを本格的に再開したのが就職後の08年・冬コミ。この時初めて、作品のテーマに『交通業界』を選んだ。「全然関係ない業種に就職したので、捨てきれなかった憧れを作品に昇華したかったんです」。10年には『サムネイルホイホイ』シリーズを発表し、念願叶い駅員となった女性の奮闘を描いた。サークル名も鉄道路線にちなんだ「京葉Rapid」とし、12年にはコミティア100に参加する。そこで『サムネイルホイホイ4』が次号のプッシュ&レビューに紹介されたのが、コミティアに継続して参加する契機となった。「舞い上がるような思いでした。そのレビューを書いた方がスペースに来てくれて、ガッチリ握手を交わしたのをよく覚えています」
しかし「業界の内部は知らないので、次第に行き詰まりました」と、一マニアという立場で描ける内容の限界も感じ始めていた。そこに、強烈な出会いが訪れる。「バス会社で働いた経験があって、企業に提言もしている『都市交通アドバイズ』のジマさんという方が作品を読んでくれて。それで『今度は路線バスをテーマに描いてみませんか』と提案してくれたんです」。意気投合し、バスの撮影や運転士へのインタビューなど取材に取材を重ねた。そして、約2年の準備期間を掛けて18年にスタートしたのが『バスドライバー』シリーズだ。「プロットから作画の段階に至るまで、ジマさんと日々LINEでやり取りしています」と細部までリアリティを追求しつつ、一番力を入れているのは「起伏のあるストーリー作り」。「細かい蘊蓄を見せるというよりは、バス業界の人々が活躍するのを読者に見てほしい、という思いで描いてます」
「交通業界に携わる人たちが大好きです」と力強く話すシュウさん。この愛情が尽きない限り、広く読者を惹き付けてやまない作品が今後も生み出されることだろう。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン142に収録