サークルインタビュー FrontView

紫のあ murasakino

メイク・ア・マーク
A5/84P/1000円
職業…自営業
趣味…バラエティ番組視聴
コミティア歴…コミティア126から
https://twitter.com/sinoa_ster
紫のあさんの初の同人誌『来週、雨が降ったら』(18年発行)は、彼氏と婚約中の女性が、小悪魔的な魅力を放つ同性との出会いに心揺れるさまを情感豊かに描いた印象深い作品だった。サークル「murasakino」として約4年の活動で計7冊の個人誌を発表。うち5冊がティアズマガジンのP&Rで紹介されており、近年のコミティアの百合ジャンルを語る上で欠かせないサークルの1つだ。登場人物たちが繰り広げる恋物語を、繊細なタッチと丁寧な心理描写で描き多くの読者を魅了し続けている。
イラスト、漫画ともに、18年当初から類稀な作風を確立していたが、驚いたことにいずれも独学だという。「学業の息抜きに絵を描いてネットのイラスト掲示板に投稿していたら、それを見ていた人たちに褒めてもらったのが自信になりました」。18年3月からTwitterを開始し、2カ月後にイラストと漫画のコンビネーション作品「お妃様と人魚姫」を公開すると大きな反響を呼んだ。「それまで漫画を描いた経験は全くなかったのですが、イラストを描いたらストーリーが浮かんだので、『私にも描けるかも!?』って調子に乗りました。当時は怖いもの知らずでしたね(笑)」。その勢いで同年11月のコミティア126から同人活動をスタート。翌19年には「季刊エス」にインタビュー記事が掲載されたり、他サークルやWEB漫画誌に寄稿するなど、Twitterでの作品公開が活動のフィールドを広げるきっかけになった。
「同い年か、数歳差のカップリングが好み」と語る紫のあさんが、一貫して女性2人の物語を描き続ける背景には、学生時代に愛好していたとあるグループの中の2人の存在があるという。「彼女たちが可愛くて大好きだったので、解散した時はすごくショックでした。もう新しい活動は見られませんが、彼女たちをモデルに作り出した〝私自身が見たい理想の2人〟をテーマにして作品を描いています」
コミティア140発行の最新作『メイク・ア・マーク』は、付き合う相手を頻繁に替える大学生の先輩と、彼女に心を奪われながら恋愛対象として見てもらえずに悩む地味系の後輩、両者の関係の変化が見所だ。「私の作品の主人公は、一途だったり辛抱強い性格が多いんですが、難しい立場や我慢が必要な展開を乗り越えて、ヒロインなりのハッピーエンドにたどり着く物語を描き続けたいです」
4年余りコミティアを中心に活動してきた紫のあさんは、2月10日から「COMIC it」(KADOKAWA)で初の商業連載『この恋を星には願わない』を始める予定だ。「10代の頃は、自分が漫画家になるとは思ってもみませんでした。同人活動を始めた時は作品を見てもらうだけで満足でしたが、今は自分の漫画の課題を知りたいし、これまで描いたことのないジャンルやカップリングの百合にも挑戦したいです」。商業漫画という新たなステージで彼女がどんな輝きを見せてくれるのか、とても楽しみだ。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン143に収録

こきあいりん 藍色劇場

少女とガール
A5/46P/500円
職業…漫画家
趣味…日記をかくこと、よそさまの犬を愛でる
コミティア歴…コミティア39より
https://twitter.com/kokiairin
コミティアサークル参加歴26年、漫画を描き続けてほぼ半世紀。コミカルかつ豊かな感情表現が魅力的な少女漫画家。最近では長年の漫画家経験を心温まる筆致で描いたエッセイ漫画でも注目されている。
大阪府で生まれ、姉の影響で漫画を描くようになったこきあいりんさん。9歳の頃には将来、漫画家になると決めた。10歳から高校卒業まで通信型の漫画教育講座も受け、「どれだけかかってもいいから完成するまで描きなさい」と教えられたとおり、粘り強く投稿し続けた。大学の頃には各出版社に持ち込むようになり、同じ頃コミティアとも出会う。この舞台は、彼女にとって志を同じくするライバルとの切磋琢磨の場であり、仲間との出会いの場でもあった。
ほどなくして商業誌デビューを飾る。プロとしての区切りをつけるため、コミティアから離れた。しかし商業漫画家としての日々は、順風満帆とはいかなかった。コミカライズを担当した連載漫画は結果を残せず、筆の幅を広げるため、異なるジャンルの漫画も描いた。がむしゃらに描き続けるうちに肉体的にも精神的にも疲れ、自分が本当に描きたいのは何なのか見失っていった。けれどそれでも描くことはやめなかった。ただ漫画以外の世界も知りたいと、派遣バイトをはじめ様々な仕事や社会に触れた。時を同じくして、コミティアにも帰ってきた。そこは彼女が知っていた漫画家志望仲間が集う場所から、多彩な漫画好きが集まるイベントへと変わっていた。「けれど、何かあっても私にはここがある…。そう感じさせてくれた」
こうして描き始めた物語が『ひきこもり修道女日記』。ポンコツ修道女のふらんが、降りかかる困難にもめげずに明るく笑顔で振る舞う様が微笑ましい。「まず自分が楽しくなる漫画を描きたかった」と彼女は語る。また同人誌では珍しくシリーズで10年以上も続く。「この漫画は私がここにいる証。だからコミティアに参加する限り、描き続けたい」
21年から、今までは描こうと思わなかったエッセイ漫画を始めた。それが『コミティアに20年間出続けたらお姫様に出会えるってホントですか?』。きっかけは、かつて同じ雑誌で描いた作家さんと、偶然コミティアで隣のスペースになったこと。二人がそれぞれに描いた「初めましての再会」のエッセイ漫画はSNSで反響を呼ぶ。続編も含め、彼女が漫画家を続けてきたからこそ描けたエピソードがここにつまっている。
この新しい試みは飛躍のきっかけともなった。メディアから取材を受け、新しい読者も増えた。ずっと挑戦している商業漫画でも進展があり、23年からは女性誌『オフィスユー』で読切シリーズ連載、KADOKAWAでも初のタテスク漫画の連載が始まる。デビューから苦節25年、それでも漫画家として挑み続ける。「いばらの道を歩んだなと思う。けれどポンコツでも誰かが見ていてくれたから、描き続けてここまで来れた」。逆境を越えた先で彼女がこれから描く新世界が楽しみでならない。

TEXT / HIROYA IWASAKI ティアズマガジン143に収録

藤想 抱っこなどのふれあい

除肉階の娘
B5/60P/700円
職業…会社員(クリエイティブ系)
趣味…映画、おもちゃ、雑談
コミティア歴…8年(コミティア109から)
https://twitter.com/kanon_pic
巨人の討伐を依頼され困惑する、ケモノの姿をした夫人。21年10月にツイッターでブームを巻き起こした『ケモ夫人』は、作者である藤想さんの名を一躍轟かせた。粗削りな絵柄で描かれる奇想天外な世界とキャラクター。そこにはこれまで培ってきた創作のアイデアが込められている。
幼い頃は『不思議のダンジョン』シリーズといったテレビゲームや『遊戯王』などのカードゲームに夢中になった。ルールの中でプレイヤーに委ねられた戦略性や自由さなど、ゲームを作り上げる「システム」に惹かれ、世界観や構築することに興味を持ち始めていく。
学生時代はニコニコ動画やpixivといったインターネット文化に浸り、当時知る人ぞ知る存在であった漫画家・模造クリスタルの作品に出会った。同志を求めて足を踏み入れたオフ会で出来た友人に誘われ、14年8月のコミティア109に初参加。「15部だけ個人誌を出したら買ってくれる人がいて心底嬉しかったです」。一度は意欲が尽きたが、次第にモチベーションが収まらなくなり、翌年8月のコミティア113以降はほぼ毎回参加、新作を発表し続けている。
溢れるアイデアと自らのスキルの中で選んだのが「絵を捨てる」という手段。「絵が上手い人は幾らでもいるので、物語で勝負しようと。いつかマンガ原作に携われたらという考えもありました」。18年頃からは毎回1冊200ページにも及ぶ作品を執筆。それに留まらず、短編や合同誌を含め新刊を2、3冊は出す旺盛な活動を続けた。「キャラクターを意識したり、王道の少年マンガに挑んだり。一作ごとに読者に刺さる仕組みを試行錯誤することが楽しかったんです」
そんな中で『ケモ夫人』がバズったのは予想外だったが、試行錯誤が実を結んだとも言える。結果として同作で『月刊アフタヌーン』(講談社)商業デビューをいきなり掴んだ。「60歳くらいまでコミティアに出続ける気持ちでいたのでヒットは早かったかも(笑)。ただ、バズったおかげで編集さんに声を掛けてもらえたし、毎日投稿したのは執筆の訓練になりました」。単行本の刊行は惜しくも4巻までで打ち切りとなったが、新人のデビュー作としては快挙であろう。『月刊アフタヌーン』23年3月号では読み切りで原作者としてもデビュー。活動の幅を広げつつ、『ケモ夫人』は同人誌での完結を目指す。
活動の中で創作への姿勢も変わった。「最初は好き勝手に活動していたけれど、読者が見て面白いものを作りたいなと。ポケモンのように、人間だったら老若男女問わず誰に対しても突き刺さる『貫通力』を得たいです」。今後の目標の1つはこれまでの経験を共有すること。「真面目に創作をやっている人が評価されて欲しい。そのために自分が得たノウハウを、何らかの形で他の人にも受け継ぎたいんです」
藤想さんのアイデアが広まった時に一体何が起こるのか。まったく予想もつかないが、これほど痛快なことはないはずだ。

TEXT / KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン143に収録