サークルインタビュー FrontView

ちょめ室外機室

地下図書館探検譚
A5/76P/1000円
職業…絵を描く人
趣味…読書
コミティア歴…コミティア110から
https://twitter.com/tyomevv2
ありきたりな図書館の地下に潜むもう一つの「図書館」に迷い込んだ主人公。そこには、一人一人の生き様を記録した本が収められていた——。『地下図書館探検譚』は、空間と常識を超越した異世界の、どこまでも続く緻密な作画にまず圧倒される作品だ。その一方で、自己の過去を省みる主人公に、読者が自身を重ねてしまう不思議な読後感も併せ持つ。「誰にでも訪れるかもしれない話が描きたいんです」との言葉通り、身近ながら「ありそうでなさそう」な世界観のバランスこそ、ちょめさんの作品の真骨頂だ。
昔から物作りが好きで、現在もイラスト制作の仕事を手がけるちょめさん。自身の創作の原点は、幼い頃に読んだファンタジー小説「コロボックル物語」シリーズの第1作『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる)だったと振り返る。「家に一人でいる時、たまたま手に取ったんです。読んだ後、『“だれも知らない小さな国”を私だけが知っているんだ』という高揚感と、『この気持ちを誰かに共有したい』という気持ちを覚えました」。こんな本を描いてみたい、その時に抱いた想いが、今の創作意欲にも繋がっているという。
学生時代はネット上でイラストを中心に発表していたちょめさんが、コミティアに初参加したのは14年。友人からの誘いだったが、その印象は強烈だった。「オリジナルで描いてる人の多さ、規模に圧倒されて。こんな世界もあるんだ、と思いました。今も参加する度にすごく創作の熱気にあてられて、そのまま次の回の申込も済ませてしまうほどです」。19年にはサークル名を「室外機室」と改め、『喫茶フロンテーラ』を発表。好きだった少年漫画のコマ割りやジブリ作品の背景を参考に、描き込みにはこだわった。「上京した時、地元の街並みとここまで表情が違うのか、と衝撃を受けたことがあります。私の作品の背景も、作品の空気そのものが伝わる描写を目指しています」。同作はP&Rに紹介され、以後の方向性を決める重要な作品となった。
その後も日々に疲れたOLの倦怠感を「海」の心象風景に投影した『錨を揚げる』など、積極的に作品を発表。一時コロナ禍で活動を中断していたが、22年には70P超にわたる『地下図書館探検譚』で久々に復帰した。「それまでは短編ばかり描いていたんですが、期間が空いたので少し長い作品に挑戦したかったんです」。また、11月には同人誌で発表した『21gの冒険』が「FEEL YOUNG」(祥伝社)に掲載され商業デビュー。同人以外にも活躍の場を広げている。
「自分が描きたいように描いたものを、面白いと思ってくれる読者さんがいてくれる。本当に有難いです」と、今後も漫画を描くこと自体を楽しんでいくちょめさん。「自分自身、時代も立場も全然違う人の本を読んで共感できる部分があるととても嬉しくなるんです。願わくば、自分が死んで長い時間が経った後も、私の作品を好きでいてくれる人がいれば、これ以上の幸せはないですね」。その言葉も、単なる夢物語には終わらないはずだ。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン144に収録

古川ちほ群青通東入ル

稀有の海より はじまりの冬・めぐりの夏
A5/172P/1800円
職業…美術館職員
趣味…映画鑑賞、コーヒー屋巡り
コミティア歴…コミティア131より
https://twitter.com/_BLEND105_
舞台は、現世と常世の狭間にある離島。港近くの古民家カフェの店主・イトは、死んだことを拒む「ホツレ」と呼ばれる者たちを一晩だけ迎え入れ、生前の後悔や未練を紐解きながら、穏やかな最期を迎えられるよう優しく寄り添う──。20年からスタートし、現在3巻まで刊行中の『稀有の海より』は、ホツレたちの魂の救済を描くオムニバスシリーズだ。作者である古川ちほさんのコーヒー愛を感じさせる細密な描写や、死を描きながら、その中に一筋の希望を見出そうとする暖かな語り口。そして、人に対する深い愛情を感じさせるこの物語は、読者に安息のひと時をもたらしてくれる。
古川さんは四国出身。瀬戸内海に面した街で生まれ育ち、現在も地元で美術館の事務職員として働く。物心ついた頃から趣味で絵を続けていたが、漫画は『稀有の海より』まで本格的に取り組んだことはなかったという。描くきっかけとなったのは、約8年前の旅行中の体験だった。「渋谷駅で人生初の人身事故に遭遇したのですが、乗客の中に舌打ちして怒っている人がいて、死の受け止め方の違いにショックを受けたんです。その時、自分なりの『死』というテーマを、漫画で表現してみたいと思いました」
知人が参加していたコミティアへの出展を目標に、仕事の合間に、本やpixivなどを参考に漫画を勉強。また、古川さん自身の趣味でもあるコーヒーを〝苦味〟の象徴として作中に取り入れようと、実際に喫茶店の取材も行ったそうだ。そして、約2年かけて『稀有の海より』の第1巻を執筆し、コミティア131に初参加した。同作の内容は高く評価され、早くも翌132のティアズマガジンで紹介される。その後は、コロナ禍の影響で約2年間エアコミティアを中心に活動。並行してSNSでも『稀有の海より』を公開すると反響を呼び、22年には「WEBザテレビジョン」に『稀有の海より』の特集記事も掲載された。
「『稀有の海より』は正解のない物語です」と古川さんは語る。「ホツレたちの最後の願いは、叶わないまま終わる場合がほとんどです。ただ、可能な範囲で生前のやり残しに区切りをつけ、穏やかに死を受け入れることが、せめてもの救いになれば良いなと思います」。作品の中心人物であるイト自身については、依然ベールに包まれた部分が多いが、作中で順次語られる予定とのこと。今後、どのようなホツレに出会い、彼自身がどのような運命を辿るのか、続巻の展開にも注目したい。
今年は「コミックビーム」(KADOKAWA)に初商業作品『泡に溶けた梅の約束』が掲載され、そちらも活躍が期待される。だが、今は全6巻予定の『稀有の海より』を完結させることが最優先だと意気込む。「読者に『この作品を読んで良かった』と感じてもらえるよう、私自身も納得できる形で締めくくりたいです」。人類の永遠のテーマである「死」に取り組み、日々研鑽を続ける古川さん。その漫画家としての挑戦は、まだ始まったばかりだ。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン144に収録

山素タクシーのグミ

ピザウィッチ
A5/38P/500円
職業…グミを食べること
趣味…グミを食べること
コミティア歴…5年(コミティア126から)
https://twitter.com/5670000000LDK
山素さんが漫画を描き始めたのはこの数年。これまで発行した同人誌は4冊のみだが、どれもが抜群に面白く、その技術や構成力の高さに驚かされる。コミカルなキャラ、地に足のついたSF要素も素晴らしい。
2冊目となる『時間跳躍式完全無劣化転送装置』(以下、『時間跳躍式〜』)はティアズマガジン137のアンケート投票トップを獲得し、講談社『モーニング』月例新人賞で佳作となり商業デビュー。この才能は一体どこから来たのか?
「実は描く前から、『読みやすい漫画がなぜ読みやすいか』には関心がありました。私は漫画を読むのが下手な方で、周りのみんなが普通に読めてる作品でも読みづらいと感じることがよくあったんです。それで漫画に赤ペンで書き込んだりしながら、フキダシや要素の配列、構図の意図とかを考えてみたりして」
特に参考になったのは『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)、『星のカービィ』(ひかわ博一)といった幼少期から親しんでいたような漫画や『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)といった人気漫画。「読みやすい漫画には大量に工夫が詰まってて、それをパズルみたいに読み解くのが楽しかったんです」
そのうち「いい加減自分でも描いてみたくなった」のは18年。ネットの知人の誘いでコミティアに参加し、1冊目の『ワタリガラスの柱』を発行した。「当時は周りに漫画を描いている人がいなかったので、コミティアでパワーと勇気をもらえました」
その後なかなか描く時間が取れず、2冊目の『時間跳躍式〜』は21年の発行。当該作は冒頭で書いたような多大な評価には嬉しい反面、上手く受け止めきれなかったという。「ずーっと『自分の漫画は面白くない』と思い込んでいたんです。『時間跳躍式〜』も今でこそ気に入ってますが、描いた直後は『ひどい漫画だ。こんなの世に出す価値がない!』って入稿をキャンセルしかけました。新人賞には購入してくれた編集さんから勧められるまま出したんです。正直、そんなレベルのものじゃないと思ってたので不安でしたが、思いのほか良い賞を頂けてびっくりしました」
当時の過剰な自己評価の低さは、精神的に不安定だったことも理由だったようだ。そんな山素さんにとってコミティアは安心して参加できる場所だ。「なんでも否定せずに受け入れてくれる雰囲気が好きです。コミティアが無かったら漫画を描いてないし、親みたいな存在ですね」
プロに憧れつつ自分とのギャップに苦しんだ5年間。最近は周囲の応援にも後押しされ、プロとしての仕事をこなし始めた。「ようやく自信が無いなりにやっていく覚悟ができました。今は手をとにかく動かして、描くたびに前よりちょっと良くなった作品と、自分を感じたいです。しつこく諦めずにずっと描き続けます!」。漫画研究の成果を武器に、そう力強く意気込む才能に注目だ。

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン144に収録