自分のために描くのか、人のために描くのか。
今回は3年ぶりに4000サークルを超える規模の開催となりました。この数はコロナ禍が始まる前に近く、本格的なアフターコロナの始まりを感じています。多数の申し込みがあったことは嬉しい反面、3500サークル程度の数を想定していたため、当初の計画のままでは多数の落選が出てしまいます。そこで計画を一から見直すことにし、東京ビッグサイトと相談の上で会場を急きょ予定していた東4・5・6ホールから、東1・2・3・8ホールに変更。サークルスペースの机と机の間に空けていた距離を詰め、見本誌コーナーを東8ホールに移動させ、落選をかなり少なくすることができました。ご不便をおかけする形ではありますが、より多くの方が参加できることを優先したものですので、どうかご理解いただければ幸いです。
イベント開催のガイドラインも緩和傾向が続いており、直近では3月よりマスクの着用が必須ではなくなりました。これを受け本日のコミティアもマスク着用は推奨という形となっています。東8ホールにはキッチンカーが久しぶりに出展し、参加者から人気のあるオムそばも販売される予定です。色々な面からコロナ前の賑わいを本格的に取り戻す回になるかもしれません。
さて、コミティアにとっても嬉しいニュースがあります。コミティアに長くサークル参加もされている漫画家・とよ田みのるさんが『ゲッサン』(小学館)で連載している最新作「これ描いて死ね」で『マンガ大賞2023』を受賞されました。『マンガ大賞』とは、2008年から続く書店員を中心とした有志による選考員・実行委員が決める、その年で一番フレッシュで面白い漫画を決める賞。それを記念して、とよ田さんにロングインタビューを行っています。
なぜこの受賞がコミティアにとっても嬉しいのかといえば、「これ描いて死ね」にコミティアが大々的に登場するからです。物語の主人公は東京の離島・伊豆王島に住む、漫画が大好きな女子高校生・安海相。彼女はある日、大好きな漫画家で長年音沙汰の無かった☆野0がコミティアで新作を発表することを知り、1人コミティアへ向かいます。彼女はコミティア会場で沢山の人が参加し、創作していることを知り、自分で漫画を描くことに目覚めます。安海はその後、仲間たちと一緒に漫画を描き、コミティアにも参加しながら成長していきます。物語には、とよ田さんの実体験が存分に活かされ、漫画が好きな人や、創作をしている人が共感できる要素が盛りだくさん。純粋に創作に取り組む主人公たちの姿に胸を打たれます。コミティアが登場することを差し引いても、コミティアに参加する方へお勧めしたい作品です。
今回とよ田さんに取材する中で印象的だったのは、漫画を「自分のために描くのか、人のために描くのか」というバランスの取り方。とよ田さんは読者に喜んで貰える作品を描いてこそプロだけど、自分にとって描いていて楽しい作品であることも大事だと言います。作中でもこうした創作の真髄に触れるような描写が多く、読んでいると居ても立っても居られないような不思議な感情が生まれます。
そんな作品にコミティアが登場するだけでも嬉しいのですが、何よりありがたいのは「これ描いて死ね」を読んでコミティアを知り、参加してくれる方が実際にいること。コミティアを続けるために必要な新しい参加者をどう増やすかというのは、始まった当初からの継続的な課題だと思っています。そのために必要なことは、まずコミティアという名前を知ってもらうこと。しかし、世間的にコミティアの知名度はまだ低く、その名前を知ってもらうのも簡単ではありません。そうした中で今回のように漫画からコミティアを知ってもらう形は理想に近いと思っています。
そんな考えもあり、今号のティアズマガジンでは「創作の中のコミティア」という新連載がスタートしました。この記事は、作中にコミティアが登場する商業作品を紹介し、そこでどのようにコミティアが描かれているかを分析していくもの。企画意図には前述したような広報的な側面もあります。第1回は当然のように「これ描いて死ね」になるのですが、『マンガ大賞』の結果が発表される以前から進めていて、たまたまタイミングの良い始まりとなりました。今後、新旧交えた作品を紹介していきますのでご期待ください。
最後になりましたが本日は4353サークルが参加しています。私たちがコミティアを開催する理由の一つは、この場で生まれる新たな作品との出会いが楽しいからに他なりません。それは自分たちのためでもあり、参加する全ての方のためでもあります。そして、どのような経緯で生まれたものであれ、当日それぞれのスペースに並んでいる全ての作品は、貴方に届く可能性を信じて待っています。そんな一期一会の出会いを逃さないよう、ゆっくりお楽しみください。
2023年5月5日
コミティア実行委員会代表 吉田雄平