サークルインタビュー FrontView

四方井ぬい よもぱらもよよ

探鉱ドワーフめしをくう。
A5/24P/500円
職業…絵と漫画を描く人
趣味…散歩
コミティア歴…コミティア126から
https://twitter.com/yomoi__
環境に馴染めずパパ活で生計を立てる少女が、同じ孤独感を持つ女性と偶然出会い食卓を囲むことで安らぎを得る『まぶしい世界の暗がりに。』。四方井さんの作品では、ありふれた日常で暮らす主人公が、程度の違いはあれど悩みを抱えた状態で物語がスタートすることが多い。根本的な解決では無くとも、ささやかな幸せを通して明日への希望を抱いていく主人公の等身大の姿勢は、暖かさを感じさせる素朴な絵柄も相まって、微かな癒しを与えてくれる。
小さい頃から創作活動に親しんできた四方井さん。「小学5年くらいの時に、同級生全員を動物化して漫画を描いてたりしました」。中高生の時には一度は創作から距離を置くものの、Twitterで幼少期に親しんだ作家たちの作品を目にしたことで創作意欲が再熱。「オリジナルや二次創作のイラストとか、1ページの漫画をピクシブに上げていました」。その中で15年に投稿した作品が編集者の目に止まる。「漫画を作るにあたり、それまであまり考えなかった『他者に読まれること』を重視するようになりました」と、作家としての在り方に大きな影響を受けた。
コミティアへ初参加したのは18年。当初はイラスト集を発表していたが、21年のエアコミティア135で発表した『タオルケットの友達がいる女の子のお話』がSNSで好評を得てからは、短編の漫画作品に軸足を移した。日々の生活の中で感じるストレスから解放される居場所を描いた『タオルケット~』を始めとした初期の作品を描くきっかけは「自分自身のストレス」だったと語る。「描いている自分が現実世界で辛い状態にあっても、物語のキャラクターなら少しだけ救うことができる。それが自分の救いにもなってたんじゃないか、と思います」
一方で「娯楽として楽しんで読んでもらいたい」と、読者に寄り添う姿勢も忘れない。141で発表した『ラーの油を見に行く!!』は、ごく普通のラー油に隠された秘密を探るコメディ。「同時に発表した『まぶしい世界の暗がりに。』が全体的に暗めの雰囲気だったので、良いバランスが取れました」と話す通り、明るく楽しい作風を開拓した。また、最新作『探鉱ドワーフめしをくう。』では、「キャラクターをしっかり作る」ことを意識し、過酷な探鉱で働く金髪のドワーフを主人公に据えた異世界ものに挑戦。貧困からの脱却を夢見て休むことなく働きつつ、美味しいご飯から活力を得る姿を、ドワーフ目線からファンタジー風味に描いた。「最後に報われる瞬間を描きたかったので、主人公は厳しい境遇に置きました。けれど、それをあまり悩まない、辛さを気にしない性格にしました」と語るように、前向きな読後感が爽やかな作品だ。
現在は同人誌とともに、商業での活動を目標として漫画の執筆を続ける日々を送る。「漫画家としてはまだ30点くらい」と自己評価する四方井さんは、今後どのような作品を紡ぎ、共感を呼んでくれるのか。期待とともに、成長と変化を楽しみに待ちたい。

TEXT / MEI AMAMIYA ティアズマガジン145に収録

瀬田せた ヴォイテク

イマジナリーおねえさん
A5/46P/500円
職業…会社員
趣味…ゲーム・スポーツ観戦・旅行
コミティア歴…コミティア121から
https://twitter.com/seta_koke
チャットアプリ「イマジナリーお姉さん」で憧れの成見先輩のAIモデルに日々癒やされる会社員・飯島の元に、ある日アプリより実物の「お姉さん」が届けられる。「きたでぇ」と現れたのはお姉さんと言うよりむしろ…! 瀬田さんの最新刊『イマジナリーおねえさん』はそんなクスリとさせるギャグを挟みながら、テンポが良く分かりやすい構図の中、気になる美人二人の甘酸っぱい展開にドキドキニヤニヤしてしまう。そんな百合の初心者にも優しい読みやすさが魅力だ。
初めてマンガを描いたのは中学生の頃。ゲーム機購入のため、新人マンガ賞の賞金目当てだった。「他のマンガ家さんを研究して、1Pに顔のアップと引きをバランスよく入れるとか、画面の作り方をめちゃくちゃ意識しました。ここはこう評価をされるだろう、みたいなセルフ講評の予想までしていたんです。いま思うと自作を俯瞰して見れて勉強になりました」。自信作のつもりだったが、返ってきた評価はボコボコ。ただ、ネームセンスだけは褒められたという。その後、2作目で入賞して担当が付くが、中学生で人生経験も乏しいままプロデビューすることに不安を感じ、一旦は描くことからも離れた。
しばらく後、再びマンガに戻ってきたのは社会人になり仕事も落ち着いた頃。「限りある人生、好きなものを描こう」と選んだのは創作百合。理由は「いろんなタイプの女性を描くのが好きだから」
当初はWEBで作品を発表していたが、次第に読んでくれた人たちと直接会ってみたくなり、同人誌即売会にも参加するようになる。コミティアに参加する面白さを訊くと「学生時代の文化祭のドタバタ感に近くて若返る感じがします」とのこと。最近は知り合いも増えてオフ会の場としても楽しんでいるようだ。
世の多くの百合作品はキャラクター性や心理描写がポイントで、読みながら主人公たちの世界に没入する楽しさがあるが、自身の作品については「キャラに感情移入するのが苦手で客観視タイプ」「コンセプト重視の一方、型にはまりがち」と自己分析する。そこで弱点?を克服すべく、目指したのは「百合初心者にも読みやすい入門書的マンガ」。この辺りはセルフプロデュースに長けた瀬田さんならではの戦略だろう。
このスタンスを突き詰めた作品に「ゆりかべ」(電子配信中)がある。主人公の設定はなんと百合カップルが住むマンションの「壁」! 百合愛の深い「壁」視点から、カップルのすったもんだを愛でたりやきもきしたり(ちょっと手を出したり)をコミカルに描く。客観視点をそのまま作品構造に落とし込んだ巧みさが光る。この作家の個性を知るのに最適の作品としてお薦めしたい。
百合属性のある人もない人も、まずはぜひ瀬田さんの描く百合入門書の効能を試して欲しい。ユニークなアイデアに惹き込まれ、クスリと笑いつつ、百合世界の魅力に触れられるだろう。そこからはきっと新しい世界が広がっているはずだ。

TEXT / KOTARO HASHIMOTO ティアズマガジン145に収録

おかだきりん 鳩殴り本舗

ぼくらは事件簿のなか
B6/50P/800円
職業…漫画家
趣味…料理・生活
コミティア歴…コミティア129から
https://twitter.com/kirin_no_obake
「道を歩くまぼろしの猫」の謎を探るSF、巨大な幽霊の女の子と人間の少女の交流を描く幻想掌編、ギャルが都市伝説対策と称しライターを持ち歩くシュールなギャグ──。ユニークな発想と、次に何が飛び出すか読めない展開。「自分がまだ描いたことがないものを探し続けているんです」と様々なジャンルに挑戦するスタイルこそ、縦横無尽なおかだきりん作品の個性であり魅力だ。
小さい頃、絵を描いて周囲に褒められた時の「嬉しい」という想いが創作の原体験だという。美術系の学校への進学を希望していたものの、家庭の事情もあり美術とは関わりのない大学に入り、一旦就職する道を選ぶ。転機は約4年前。焼肉を食べている時に、急に「ネームが切れる気がする」と直感を抱き、初めて漫画を作り上げた。その作品をSNSにアップしたところ好評で、同人活動をしていた知人たちに漫画を描きコミティアに出ることを勧められた。そうして短編集『桃と犬と海』をコミティア129で頒布したところ、初参加でなんと350部も売れた。「こんなに私の漫画読んでくれるんですか?と驚きました」。それ以降は同人誌を制作し、コミティアに参加することにのめり込むようになる。
作品を作る際は一発ネタや描きたいシーンをまず着想し、そこからストーリーを肉付けしていくことが多い。例えば、20年に同人誌で発表し商業連載化も果たした『進め!オカルト研究部』は、オカルト研究部の個性的な面々が都市伝説の解明に取り組んだり、他校の生徒と切磋琢磨する部活コメディだ。「大抵フィクションの中のどうしようもない部として出てくるオカルト部が、本気でやる全国大会があったらめちゃくちゃ面白いなという発想一本で思いついた作品です」。また、エアコミティア132で発表した『賞与のある喫茶店』でも、友人の「バイトしていたらやけに外が静かで、世界なくなったんかと思った」といったツイートから、主人公の勤める喫茶店以外の世界が滅亡する短編が出来上がった。
同人誌を描く時には事前に決めたプロットに敢えてこだわらない、本人曰く「ライブ感」を重視している。作画のタイミングでもより良いアイデアが思いつけばアドリブ的に修正を加えていく。「こういうシーンがあると嬉しい。ビルより大きい女の子を描けると嬉しい。さらにそれをみんな読んでくれると嬉しい。そういう純粋な気持ちで描いています」。自由に描き過ぎるあまり、執筆後不安になることもしばしばだが「ある意味ザルさが残る作品も発表できる、コミティアという場があるのが本当にありがたいです」と語る。
「以前は自分がどういう漫画に向いているかを見極めたくて、まるで焼畑農業のように手あたり次第に色々な種類の作品を描いていました。ただ最近は、ジャンルを絞らなくても自分の芯みたいなものが出せるんだろうな、と思い始めています」と、作家としての強みを見出しつつある。「私のどんな作品にも表れるだろう、そんな『おかだきりん味』を描きたいし、読んでみたいですね」

TEXT / RYO WAKABAYASHI ティアズマガジン145に収録

夜なのに朝日 夜なのに朝日

SPEAK
A5/124P/1000円
職業…漫画家
趣味…お笑いバックス、ひくねとチャンネル、ゲーム
コミティア歴…コミティア138から
https://note.com/iisashimi/
遊び心溢れるポップな絵柄と目まぐるしく変わるカメラアングルで、コミカルに繰り出される会話劇。夜なのに朝日さんの描く他愛の無いおしゃべりには、物事を受け取り、考え、伝えることの面白さが溢れている。
静岡の田舎育ちの目立ちたがりな子供だった。遊びで作った漫画雑誌に「絵が上手いね」と言われその気になったけれど、自分より上手い子がいて頑張れなかった。注目されたいと藻掻いた高校時代は赤点だらけ。「絵で褒められた記憶」にすがって名古屋の専門学校に進んだが、周囲とのギャップに苦しみまた絵を諦めてしまう。地元に戻りバイトを2年、工場勤め3年。「音楽やってたら何とかなるかな」と続けたバンド活動は、結局何にもならなかった。無力感に襲われた朝日さんは、以前観光地で言われた「『誰でも出来る仕事ですよ』という言葉を鵜呑みにして」似顔絵師として働くために上京する。「サブカルとか色んな世界を知って、憧れの先輩や話せる同僚も出来ました」。それまでの空白を埋めるように、あらゆる時間を費やして絵を猛練習した。しかし2、3年経って「似顔絵を描くだけでは満たされない」ことにはたと気付いてしまう。
退職し、自分の内面を見つめ直すための漫画を描き始める事にした。「文字だけよりも理解が深まるかなと。千枚描けば上達すると聞いたので、とにかく沢山描きました」。漫画家を目指してみたが、持込は上手くいかず活動は停滞。生活の為に似顔絵師に復帰したもののコロナ禍で失業してしまう。「世の中の時間が止まってしまったようでした」。後悔しないように、と再び漫画に取り組み始め、21年5月に完成した『絵が上手くならない問題』は、絵に対する自意識との葛藤に正面から向き合った力作だ。「投稿した出版社から反応は無く、もう漫画は辞めようと思っていました」
最後に「僕がここにいたよ、という証を残したくて」21年9月のエアコミティア137に参加。『ニホンオオカミの最後』(山と渓谷社)という本について対話する短編『読書して内容を伝えようとするもうまくいかない人』に、1万以上もの「いいね」が集まった。「沢山の知らない誰かに『漫画を続けていいよ』って言って貰えたようでした」。勢いのまま次のコミティア138ではリアルイベントへの初サークル参加を果たす。「当日の朝は緊張して帰りたかった(笑)。1冊目が売れた時にここを居場所にしようと決めました」。22年11月には「くらげバンチ同人誌大賞」(新潮社)にて『絵が上手くならない問題』が奨励賞を受賞。また同月『BRUTUS』公式WEBサイト(マガジンハウス)で「ゆる書評まんが『読み漫』」の不定期連載も始まった。今年9月からは『くらげバンチ』で短期連載が始まる。
漫画を描き始めた当初は内省の為だったという朝日さんだが、心境の変化を感じているそうだ。「人にウケたい、笑って貰いたいって気持ちが増えて来ました。笑いって人生の肯定なんですよね。僕の中にあった『ウケたい』っていうのは『生きたい』ってことだったんだろうなって、今は思えます」

TEXT / AI AKITA ティアズマガジン145に収録