サークルインタビュー FrontView

くのいちかずひと非在人事部

八十九番
A5/48P/800円
職業…漫画家・イラストレーター
趣味…創作・自炊
コミティア歴…コミティア127から
https://scrapbox.io/kunoichikazuhito/
文芸に一家言持つクラスメイトの少女。何かと世話を焼きたがる姉みたいな先輩警官。一見親しみやすい彼女らは、その内面に人間的な深みや強い意志を隠している。主人公がその謎に近付こうとしても関係は空回るばかり…。くのいちかずひとさんの描く作品に登場するヒロインたちは、可愛いだけでなく見る者を惹き込む魔性を秘めている。
創作の世界に入ったのは高校生の時。昔からイラストを描く事が好きだったが、それが高じSNSに絵を載せ続ける内に、作業通話グループを通じてコミティアに参加する作家たちと交流するようになる。彼らに勧められ、19年には自身もコミティアに参加し始めた。特殊能力に目覚めた少女たちが戦うSFアクション『コントブルー交差点』をコミティア138で発表。一年後にはキャラの内面やドラマ性も重視した『ラブパイ』で好評を博し、ティアズマガジンのP&Rに掲載された。同人活動と並行して商業雑誌の新人漫画賞への応募も行い、22年には中学女子二人が学校生活への鬱屈した感情をぶつけ合う青春劇「飛んで回らない」で講談社『月刊アフタヌーン』四季賞準入選を受賞した。
作風も様々だが、その根底にあるのはキャラクターへの愛だと言う。「ヒロインの魅力を引き立たせる方法として、一番自分に合っていたのが漫画だったんです」。そうして描かれるヒロインたちは皆、主人公にとっても読者にとっても一筋縄ではいかない存在だ。例えば23年発表の『八十九番』では、創作者志望で美術に深い関心を持つ少女を軸に、彼女に恋してしまった少年の妄動と失敗を描く。「思想や目標を持っていて、その芯を通す生き方をしている少女が好き。そういう少女たちの大人びた価値観に左右される主人公を描いているうちに、いつのまにか物語や教訓が生まれる」と言う通りの作品に仕上がった。
漫画家として実績を積みながら、視線は新しい分野にも向けられる。その姿勢は、「漫画に留まらない、存在しないキャラクターの創作全般を扱う組織」を目指した『非在人事部』というサークル名にも表れている。例えば『八十九番』のヒロインは仮想の存在でありながらSNSに独自のアカウントを持ち、彼女の名義で漫画執筆の依頼を受けるなど、メディアを横断した深みのある人物像を演出した。「最近はVTuberに目を向けています。『演者』とキャラクターが相互作用した新しい表現が続々と生まれているんです」と話すくのいちさんにとって、コミティアは重要であり続けている。「装丁やデザインにこだわった紙の本ならではの表現と、VTuberを始めとする仮想空間を利用した表現の融合を探る場所として活用していきたいですね」
今後も漫画を中心に活動する一方で、「漫画家というより広い意味で『創作者』になりたい。誰も見たことのないキャラクターコンテンツを創り出したい」と抱負を語る。「これからも新しい時代に意識を向けながら、理想の作品を生み出すための表現を追求していきます」

TEXT / RYO SHIOTA ティアズマガジン147に収録

つのさめつのさめ

TSUNOSAME PENGA 4
B5/76P/1000円
職業…漫画家、イラストレーター
趣味…ねこすけを愛でる
コミティア歴…コミティア134から
https://twitter.com/tsunosame
悪夢続きで睡眠不足に悩む女の子。夢の中で思い通りに行動する方法を知り、快眠を取り戻すために化物退治に挑む──。『明晰夢』(21年)は、ホラー然とした不気味さを内包しながらも、予想もつかない展開とコミカルな描写で爽やかな読後感を醸し出す作品だ。「気の毒な目に遭ったり、不穏な状況に放り込まれたりするキャラが好き。でもパターンにハマらない、ちょっとズレた方向に物語が進む作品を描きたい」と話すつのさめさん。シンプルで可愛らしいキャラクターと、日常の中に非日常を巧みに織り交ぜる独自の作風で読者を魅了し続けている。
子供の頃、従姉妹の家にあった少年漫画を読むようになってから自然と漫画家に漠然とした憧れを持つようになった。絵を職業にしたいという夢を叶え、学校の卒業後はアニメ関連会社に就職。また、在職中の16年にTwitter(現X)などWEB上でイラストの発表を始めた。
同人誌を初めて発行したのは翌年の17年。『バーナード嬢曰く。』の二次創作で初めて漫画を執筆したという。その後「オリジナル作品でコミティアに出たい」との気持ちが芽生え、19年の関西コミティア56に友人らと出展。また、翌年にはサークル「バンサイアコウ」名義でコミティア134に参加を果たす。その後、コロナ禍で思うようにイベントに出られない期間が続いたが、地道に作品の制作を続け、『明晰夢』で第29回電撃大賞・電撃コミック大賞部門で銀賞を獲得。また、22年7月から、WEBコミック誌『コミックカルラ』で「一二三四キョンシーちゃん」の連載を開始。プロデビューを果たした。
漫画と並行して、21年6月からはSNSでペン画の発表を習慣としている。「絵の練習も兼ねてクロッキをアップしたら、国内だけでなく、海外からも反響があったので続けられています」。当初は100枚が目標だったが、着実に枚数を重ね、約2年半で450枚に到達。ハイライトのない黒目と、後頭部から髪が左右に突き出たヘアスタイルが特徴のオリジナルキャラ「ちえさん」を中心とした、キャラたちの日常を柔らかな線で描いている。「ちえさんは創作で初めて描いた漫画のキャラです。漫画では普通の女の子でしたが、クロッキでは性別や年齢を変えてみたり、複数人を同時に登場させたり自由に描いています。不思議な雰囲気が出せるので面白いですね」と、遊び心も満載だ。発表したイラストは定期的に同人誌としても発表しており、最新刊『TSUNOSAME PENGA 4』には80点近い最新のスケッチを収録。キャラクターのみならず風景や構図のバリエーションも豊かで、物語を感じさせる作品が多いのにも注目だ。
自分の感性を大事に創作を行うつのさめさん。「続けているうちに、いつか自分で最高と思える一作を作れたらいいなと思います」と今後の抱負を語る。想像力を働かせて楽しめる、日常と隣合わせのワンダーランド…。そんな世界を、これからも我々に見せてくれるはずだ。

TEXT / KENJI NAKAYAMA ティアズマガジン147に収録

からめるぷりんはるまき

天使とアクマ
A5/14P/200円
職業…動画クリエイター
趣味…音ゲー
コミティア歴…コミティア126よりサークル参加
https://twitter.com/purinharumaki
「無限にウケ続けたい。とにかく皆に面白がって欲しくて。『よし、ウケた!』って快感だけが目的なんです。たぶん死ぬまでこうですよ」
そう語る動画クリエイター・からめるさん。現在YouTubeのチャンネル登録者数は247万人、総再生回数は10億超え。白い猫を始めとしたシンプルで可愛いキャラがハイテンションで暴れる、シュールで中毒性のあるギャグを得意としている。
長野県出身の98年生まれ。物心つく前から絵を描くことが好きで、幼稚園児の頃から見ていたFlash動画で絵を動かすことに特に興味を持った。小中高と育っていく中、教科書のパラパラマンガ、ニンテンドーDSの「うごくメモ帳」、手書きマウス&フリーソフトのgif動画と自作も進化していった。中学から始めたネット投稿は全く見て貰えない時期が続いたが、16年末、高校3年の冬に転機が訪れる。Twitter(現X)に初めて投稿した動画がバズったのだ。
「それまで作った動画と大差ない出来だったので運もありました。当時の自分を褒めたいのは、そこで満足しないですぐに新しい動画を作りまくったことです。大学受験もある中、睡眠時間まで削ってたのでキツかったんですけど、今がチャンスだと」
その努力は見事に報われ、フォロワー数は2週間で5千人、1ヶ月で6万人に。17年4月に発売したLINEのクリエイターズスタンプが売上ランク1位になるほどの人気者になり、仕事が次々と舞い込んだ。以降、プライズグッズ化、ゲームやアーティストのMV、海上保安庁のCM、『星のカービィ』公式絵本の挿絵など活動の幅は広がり続けている。
コミティアは、友人のサークル参加をきっかけに知った。「自分の内臓を見せびらかすような」と例える自由な同人誌の表現に衝撃を受け、18年よりサークル参加を開始。発表しているギャグマンガは『コロコロコミック』の連載デビューにも繋がった。そのサークルスペースは老若男女問わないファンで賑わい、時に海外のファンも訪れる。
現在の、作品でお金が稼げているという状況はあくまで結果であり、目的と考えたことは一度もない。「感覚が壊れちゃってるんですけど、ただの自己顕示欲です」と冗談めかして言うが、そのウケるためなら何でもしかねない一種の狂気が、年齢や言語の壁を超えて人を惹きつけるのだろう。
「天邪鬼なので、予想を外すような奇をてらった、嫌がらせみたいな笑いが好きなんです。一時期、爆発オチを多用してたら爆発を期待をされるようになったんですけど、そうなるとやりたくなくなるんですよ(笑)。最近は実写とか音楽でも面白いことをやってみたいと思ってます」
果たして「面白い」とは一体何か。ポップでキャッチーな作風の裏には、そう考えさせる深淵が、確実にある。

TEXT / YUHEI YOSHIDA ティアズマガジン147に収録