サークルインタビュー FrontView

東385東に385歩

死後同人誌のゆくえどうする!?
A5/36P/400円
職業…絵や漫画を描く人
趣味…お笑いを見る
コミティア歴…コミティア108から
https://www.pixiv.net/users/114341
東385さんの作品では「かわいい」キャラクター達が、容赦なくギャグの餌食となっていきます。異世界のエルフは洗濯機から顔を出し、女の子は歯茎を丸出しにして泣き顔で詰め寄ってくる…。「なるべくかわいく描いてあげたいんですけど、ただかわいいだけのキャラじゃないって見て欲しい」。その言葉通り、メリハリを付けた展開と、くるくる変わる豊かな表情でキャラの魅力を最大限に引き出しています。
小学生の頃から、少年誌から青年誌まで幅広いジャンルのマンガを読むのが好きだったという東385さん。描き手としては、当初はお絵かき掲示板への投稿や「VOCALOID」のファンアートといった、主にイラストの分野で活動をスタートします。ですが14年のコミティアに友人と合同サークルで初参加した際、思い切って90ページのマンガに挑戦。「描いてる途中、これ本当に面白いのか?と何度も不安になりました」とのことですが、持ち込んだ30部が見事完売します。「私の作品を購入するために来ました、と言ってくださる方がいて本当に嬉しかったです」。その後も続けて参加するうちに、編集者からも声がかかるようになりました。16年には『ガンガンpixiv』において、思春期の悩める男女を題材にした「不完全な人の為に」でデビュー。漫画家としての活動を始めました。
ところがこの連載が終了したところで行き詰まってしまいます。次の連載に向けて準備を進めたいのに、半年くらいアイデアを出せず悩む日々。そんな中、ふと思い付きでSNSに載せたマンガが転機となります。生徒と上手く話が出来ない新人の先生が、なぜか生徒にアイドルのように応援される…。これが『コミック電撃だいおうじ』に連載されたドタバタコメディ「推させて! Myティーチャー」に結び付き、コミティアで番外編を出すほど思い入れのある作品となりました。「非日常的なシチュエーションに翻弄される主人公を描く」という作風は、現在『WEBコミックガンマぷらす』で連載中のコミカライズ「猫耳少女は森でスローライフを送りたい」(原作:yocco)でも活かされています。
現在は連載で多忙な日々が続く一方、「商業では溜め込んだネタを練っていくんですが、同人の場合は描けそうなネタを思いついたらすぐに描き始めています」と、肩の力を抜いた発表の場として同人誌を制作しています。昨年発表された『死後同人誌のゆくえどうする!?』は、まさにご自身のマンガ読みとしての発想が活かされた作品。若くして亡くなり幽霊となった女の子が、生前買った同人誌を親から隠し通そうと奮闘するギャグマンガですが、遺された親の言葉にしんみりする主人公のシリアスな姿も印象に残ります。
「発表した本を積み重ねると、身長を超える高さになるほどには描き続けたい」と、将来についても力強く語ってくれた東385さん。かわいいキャラクター達のいろいろな顔を、果たしてどれくらい見せてくれるのでしょうか。今後も楽しみでなりません。

TEXT / TAKEMASA AOKI ティアズマガジン149に収録

真田つづるサテライト37

同人女の感情2
A5/178P/1200円
職業…マンガ家
趣味…散歩
コミティア歴…コミティア125から
https://www.pixiv.net/users/32130471
「私も作ってみたい…誰かの宝物になるような同人誌を…!」推しジャンルの「神」作家・綾城の小説に感銘を受けた七瀬は、自分もそんな同人誌を描きたいとペンを執る。『同人女の感情』は、そんな七瀬をはじめとする「同人女」の尊敬と嫉妬、そして溢れ出る愛の物語だ。彼女たちの「クソデカ感情」に、読者は時に共感し、時に圧倒され惹き込まれる。そこには「表現したい気持ちは何よりも尊く、価値がある」と訴える真田つづるさんが注ぎ込んだ想いが溢れている。
幼い頃からマンガを描くことが大好きだったが、「高校の文化祭でマンガを描いたら、『面白かった』と褒めてもらった」ことがきっかけで、本格的に漫画家を目指した。だが、出版社に原稿を持ち込んだところ、全く相手にされなかった。「無謀だった。私はプロにはなれないと思い知りました」。再びマンガを描こうとペンを手にしてはみたが、怖くて丸も線も描けなくなっていた。
失意のまま迎えた大学での新生活。そこで新しい友人と世界に出会う。「当時流行っていた作品の同人小説を読むのにハマリました」。自身も携帯サイトで小説を書き始め、同人誌即売会にも参加するように。初サークル参加は緊張で胸が張り裂けそうだったが、いつも読んでくれる読者が来てくれた。「帰りの夜行バスで一日を思い返したら、感情が溢れて泣いちゃったんですよね」。それから数年間小説を書き続けるうちに、マンガも描きたいと思うようになった。ずっと止まっていたペンが、また走り始めた。
コミティアに参加したのは、社会人になった後の18年。「友人から誘われたんです。それまで二次創作だけで活動してきたので、オリジナルでも私のマンガがほしいと来る人がいることに感動しました」。この頃から「やっぱり、自分は漫画家として生きていきたい」という気持ちが再燃したと語る。
だがCOVID-19の流行により、数年間イベント参加が難しくなってしまう。やむを得ず、彼女は創作活動の場をSNSに切り替えた。その作品のひとつが20年に発表した『同人女の感情』の第一話となる「秀才字書きと天才字書きの話」だった。「自分の価値観が一変するほどの大きな感情が湧きだす物語を描きたい。そのとき、同人の世界が浮かんだ」。同作は瞬く間にpixivで100万閲覧数を突破し、商業でも単行本化。現在もネット上で続く代表作となった。昨年より発行している同人誌版も「コミティアだと老若男女いろんな方が買ってくれるので嬉しいですね」と、あらゆる世代に人気を博している。
21年には『週刊少年チャンピオン』で「彼女の音色は生きている」を短期連載するなど活躍の幅を広げるが、原点の「同人活動」に傾ける熱意は衰えていない。「感情の赴くまま汗と涙を流して描いて、一人でも共感してくれたら報われる。だから同人は最高なんです」。今まで本を作ったことがない人も、まずは真田さんの作品に触れて「創作沼の熱量」を感じてみてほしい。

TEXT / HIROYA IWASAKI ティアズマガジン149に収録

スマ見スマブラ見てる奴

スマブラ見てる奴⑥
A6/104P/500円
職業…会社員
趣味…散歩
コミティア歴…5年
https://x.com/miteruyatsu
「無意味なモノの面白さを能動的に見つけて第一人者だと主張したいんです」と語るスマ見さん。日常の細かすぎる『あるある』を題材にしたマンガはX(旧Twitter)やウェブメディア『オモコロ』でファンの強い共感を得ている。商業単行本『散歩する女の子』(講談社)でも『全てのものに「命」を与える散歩』など、ありそうでなかったヒラメキを見せてくれる。
北海道に生まれ、幼い頃からテレビゲームばかりして育つ。小学生の頃はネットの面白フラッシュでお笑いのラーメンズを知り、「ビデオ屋で全部借りるほどハマった」そうだ。
絵を描くことも好きで絵画教室に通い、中学からは絵を仕事にする夢を持ってデッサンを学ぶ。高校では美大予備校に入り、ラーメンズも在学した東京の多摩美を目指し、めでたく合格した。「勉強は人並みだったので、芸術を革命の道具だと思って努力しました」
晴れて上京し、大学生活が始まったが「当時の作品はカッコつけで面白くない。ネットでバズる同級生に憧れてたんですが、僕は何を発表したらいいのか分からなかった」と、自分の表現を見つけられず曇っていった。
そんな後ろ向きな気持ちのまま就職。最初に勤めた映像制作系の会社では、クライアントの要望に必死で応える日々が続いた。そこから湧いてきたのは「自分が作りたい作品を発表したい」という前向きな創作意欲だった。
「人生で一回はウケたかった。自分の考える面白さが世間に伝わるのか証明したかった」と、19年にTwitterを開始。ゲームや日常のネタ画像を投稿し始め、次第に人気を集めていき、半年も経つ頃には1万リツイートを得るものが出てきた。コミティアを知ったのもこの時期だった。
「リアルな場所で発信したい」とツイートまとめ本を引っ提げてコミティア130(19年11月)に初参加。「目の前で面白いと言っていただけることは何にも変えがたいです。これがしたかったんだ!という手ごたえがありました」
「発見や叙情の表現は短歌から影響を受けました。特に同年代の歌人である、くどうれいんさんや芸人でもある鈴木ジェロニモさんが好きです。短い言葉に落とし込まれた発見に、勝手にシンパシーを覚えたり嫉妬したりしてます」
得意とする4コマも短歌に通じるところがある。「ギャグとして見ていただきやすい形式ですし、外れてても最後は面白オブラートに包めるんです。その安心感に寄っかかって、恥ずかしげもなくのびのびと描いてます」
今も会社員として働きつつ、仕事とのバランスを取って活動しているという。「生活が忙しくなると無意味なものを面白がれなくなっちゃうので、余裕は大事にしていきたいです。僕にしかできない発見を強みにして、楽しく発表し続けたいです」と語るマイペースさが、狭く深く刺さる作風の源なのだろう。次はどんなオモシロを見せてくれるのか。ワクワクしながら待ちたい。

TEXT / TAKASHI MENJO ティアズマガジン149に収録