サークルインタビュー FrontView

さわの森行モロヘイ屋

45 総集編2
A5/138P/500円
職業…介護福祉士
趣味…Tシャツの制作
コミティア歴…2003年ごろから
https://x.com/sawanomori
第二次世界大戦末期の1945年、死神様の使いである魔女と、死の宣告を受けた飛行機乗りを描く『45』シリーズ。オムニバス形式の同作をコミティアでほぼ15年間、コンスタントに発表し続けているのがさわの森行さんだ。ブレずに積み上げた冊数、実に33冊。コミティアへの参加歴も20年以上を誇る。「気負わず自分のペースで創作を楽しんでいるのが、長く続けられている理由です」
子供の頃から戦闘機の絵を描いていた。「父親によく自衛隊基地に連れていってもらっていた影響が大きく、自然と描き始めていました」。またもう一つ大きな影響を受けたのは、小学生の時に出会った、松本零士による第二次世界大戦をベースにしたアニメ作品『ザ・コクピット』。「テレビでたまたま観て『こんなすごい作品があるのか!?』って衝撃を受けました」。あまりマンガに触れてこなかったというさわのさんが、原作の単行本を買い揃えた数少ない作品の一つだという。
高校まではマンガを描く機会がなかった。それが変わるきっかけは『芸術部』という大学のサークルへの参加だった。「ずっと野球部で文化系に強い憧れがあって、大学デビューを機に思い切ったんです」。先輩に勧められ、流れでマンガに挑戦することに。「初めはペンの使い方やネームの切り方など全然わからなくて。一から描き方を教わりました」。この時、部誌内で割り当てられた「16ページ」という枠を、今に至るまで作品発表のスタイルとしている。「良い塩梅の読後感を出せるよう、試行錯誤できるページ数としてちょうど良かったと思います」。その後先輩に誘われ、コミティアに参加。最初の売上はわずか2冊だったが、「続き物を描いてしまったから、買ってくれた人に続編を届けなければ」と参加を続けた。
戦闘機をテーマとしたマンガを中心に執筆するなかで、『45』が生まれたのは08年。戦記ものに「魔女」というファンタジーの要素を加えた作品だ。「45年は特攻・原爆・終戦と、人の命が簡単に消える、本当に人間の嫌な部分や業が詰まった年。そんな状況にいる無名の兵士一人ひとりにも光を当てたかったんです」と、お気に入りの戦闘機を描きつつも、戦時を生きる人間ドラマを取り入れる作風を確立した。「続編を描きやすい一話完結にしたのも自分の性格に合っていましたね」。「日本編」「欧州戦線編」などと舞台を変え、さまざまな国と地域の「1945年」、そして「避けられない『死後(45)』を迎える人々」を描き続けている。
一つの作品をこれだけ長く続けている作家は、コミティアでも稀な存在だ。淡々と創作と向き合う姿は職人のようでもあるが、その一方「常に新しい読者にも作品を届けたい」と笑顔で話す。「総集編を除き100円で頒布しているのも、読んでもらいやすくするための当初からのこだわりです。まだまだ『45』は続きますので、ぜひ手に取ってもらいたいです」。さわのさんが一つ一つ積み重ね、広げていく世界を今後も見つめていきたい。

TEXT / RYOHEI NAKAYAMA ティアズマガジン151に収録

あらばきクソライダー

gEToN ゲトン 決闘 血統
B5/24P/500円
職業…謎
趣味…謎
コミティア歴…10年以上
https://x.com/arabaki
クソライダーは謎多きサークルだ。不定形な複数名作家・テーマによる合同誌の体裁を取っており、参加告知は直前。少部数頒布のコピー誌であることも多く、ファンは毎回ヤキモキさせられている。主宰・あらばきさんは、コミティア参加歴約15年。自身のサークルを「良くも悪くもプリミティブな原液みたいなところ」と評する。
幼少期から少年漫画やアニメにどっぷり親しんできた東京生まれ。学生時代のバイト先で、年上の先輩からサブカル系全般の薫陶を受けるが、最初は何が面白いのか理解できなかった。だが、「だからこそちゃんと考えてみよう」と向き合うことで、なんでも面白がること、言語化が少しずつ得意になっていった。
結果として「アニメやエンタメ全部のオタク」になったあらばきさんが同人活動を始めたのは二十歳過ぎ。コミケを皮切りに中小の即売会にも精力的にサークル参加し、次第にコミティアが活動の中心になっていった。そして、自身と併せて〝クソライダーのツインボーカル〟と称する位置原光Zさんや、WEBラジオ「人生思考囲い」の中野でいちさん、ピエール手塚さんといった作家たちとの出会いへ繋がっていく。
クソライダーに多様で魅力的な執筆陣が集まる理由を「普段は積極性がない人間ですが、自分的に大事だと思ったことにだけは積極性を発揮できるからです」と説明する。プロでも漫画の執筆経験ゼロでも関係なく、「漫画を描いて欲しい」と思った人に原稿を依頼する。コピー本になりがちなのは、ギリギリまで待てば上がるかもしれない原稿を待つためだ。内容には常に「無編集・無修正感」を求めており、そんな表現を許容される雰囲気がコミティアの魅力でもあると語る。
その創作のルーツとして『燃える!お兄さん』などのアナーキーなギャグ漫画を挙げる。『やさしくない奴全員殺す』で商業誌デビューしたペルさんや、位置原光Zさんの作品にもそんなスラップスティックさを感じて依頼しているそうだ。「ちゃんとした人が倫理観のラインを分かった上で攻めた漫画を描くのが好きなんです」
理想の同人誌像は、以前プレイしたフリーゲームの中に登場したという〝今はもう手に入らない伝説のゲーム〟なる存在だ。「コミティアで似たような感じの『今は手に入らない伝説のコピー本』みたいなものを創れたらめちゃくちゃ面白いなって。実際に読んでみると内容はまあまあ…くらいの(笑)」。そんな感覚がクソライダーの活動の源なのだ。
「自分が楽しいと思うものを描いたら、そこで満足しちゃうんですよね」と、サークル参加前に満足してしまうことも多いそう。だがそれでも「コミティアには友達がいる」から、時には遅刻してまで粘って作った本を手に会場に向かう。まるで授業中に友達が描くノート漫画のようなワクワク感を共有したい人は、ぜひともその動向に注目してほしい。

TEXT / TAKUYA SAKAMOTO ティアズマガジン151に収録