COMITIA151 ごあいさつ

永遠に「未完成」の場所

昨年のコミティア40周年にはお陰様で沢山の方にご参加いただきました。ありがとうございました。そして、その余韻も冷めやらぬ中で迎えた25年最初のコミティアにようこそ。

今回の参加サークル数4433は2月に開催するコミティアとしては過去最多。史上最多の申込数だった150から、力強く新しい一歩を踏み出すことができました。これでようやくコロナ禍で大きく減ってしまったサークル数を取り戻せたとはっきり言えます。

コロナ禍から5年。「回復した」と言うよりは、新しい形に「進化した」というのが正直な感覚です。社会全体を見ても目まぐるしい変化があり、この数年で多くの常識や慣習が塗り替わったような印象があります。

そんな中で、コミティアの参加者を元の数まで増やすため、様々なアプローチを模索し続けてきました。まず考えたのは「コミティアの魅力とは何か」「その魅力をどうアピールするか」です。「コミティアらしさ」を見失わないことを大前提に、より多くの人に求められる、今の時代にあわせた形は何か。そもそもとして、インターネットを介して気軽に世界中の人々に作品を届けられ、交流できるのが当たり前になった時代に、コミティアが果たすべき役割はあるのか。事あるごとに自問してきました。

その一つの鍵は「人と人、あるいは人と作品が繋がること」かもしれません。「繋がる」とは、作品を手に取るまでの状況や実際に手に入れた時に感じる手触り、直接的には作家や読み手が会話を交わすことで生まれる交流です。会話があまりなかったとしても「こんなシチュエーションでこの作品に出会った」という記憶は強く心に残ります。個々人がその作品を手に入れるまでの物語は、大きな価値を持っているように思います。さらにその作品の感想や反応を、人に伝えることによって他の人と「繋がる」ことができます。コミティアではこれを「描き手と読み手の、あるいは描き手同士の作品を介して魂と魂が握手するような出会い」と表現しています。

このコミティアの楽しさは、参加さえして貰えれば間違いなく感じられるはず。根本的な問題はその前の段階である「知って、興味を感じて、参加してもらう」までのハードルの高さだと試行錯誤しているうちに気が付きました。

コミティアは長い間「他の同人誌即売会に参加した経験があり、なんとなく仕組みを分かっている人」を参加者の前提に考えていた部分がありました。そこから何となく生まれている「敷居の高さ」をどれだけ下げることができるかを、この数年の課題の一つにしています。公式サイトや『ティアズマガジン』に初心者向けの内容が増えていることに気がついた方もいるでしょう。全く同人誌即売会の知識がない方がコミティアのことを調べた時に「気軽に参加できそう」と安心して貰えることが目標です。サークル数の「回復」はこうした取り組みの芽が出てきたものと思っています。とはいえ「何が分からないか分からない」ことも多く、至らないところもあるでしょう。引き続き案内を増やしていくつもりです。SNSは一時的な情報の拡散や告知には役立つ一方で、情報の蓄積には向いていないため、WEBでは公式サイトの充実に注力しています。

「魅力」の向上の一環として、カタログ『ティアズマガジン』の記事充実も図っています。もともと他の同人誌即売会のカタログと比較すると十分に読み応えのある内容だと自負していました。

ただ「カタログ」ではなく「雑誌」というメディアとして考えた時、一般的な商業誌と比べて見ると、まだまだやれることがあるのではないかと思い、この2年ほどで多くの連載をスタートさせました。144より始まった『創作の中のコミティア』を皮切りに、『人生思考囲い コミティア出張版』、『造本見聞録』、『ときめき夢特急』、『スペースおくのほそ道:ソラの旅日記』、『ユニーク本のススメ』…。せっかく紙の「雑誌」を発行するなら、買って嬉しい満足度の高いものに拘りたいです。さらに楽しい誌面を目指していきますのでご期待ください。

作品を求める受け手側の役割もコミティアでは重要です。この会場で出会える作品は、ここだけでしか出会えないものばかりです。描き手の想いが詰まった作品を手に取り、その世界に触れる。さらにその魅力を描き手、あるいは誰かに向けて発信する…。そこまでで初めてその作品が「完成」されるとも言えるでしょう。受け手の存在は描き手にとって非常に大切なのです。

コミティアを一つの作品として考えた時、「完成」を迎える時は永遠にないように思います。あるとすれば、その歩みを止める時ですが、それはあってはならないと思います。未完成であることを自覚し、進化し続けること。それこそが創作の本質であり、コミティアが持つ最大の強みです。それは新しい挑戦を受け入れ、新しい作品を生み出す余白とも言えます。

ということで本日は、この永遠に「未完成」の場所で、特別な時間を存分に楽しんでください。ずっと理想を目指し続けるからこそ、創作には無限の可能性があるのではないでしょうか。

2025年2月16日
コミティア実行委員会代表 吉田雄平